竜が転生した双子貴公子 2
天空で揺れていた星がふたつに割れて香久山のもとに墜ちた。
宰相の邸に双子が生まれた夜に起こったその異変は、たちまち宮廷に広まった。これは吉兆か?神の怒りか?
天が示した徴は当然、宰相の息子たちの誕生に結びつけられて噂された。産まれたのが双子であることも、宰相が隠すより速く宮廷中に広まった。何より星がふたつに分かれたことが双子を象徴していると、迷信深いもの達は騒いだ。
帝国を平らげたばかりの磐王はため息を吐いた。
「これが、取るに足らない家臣のことならどれほど良かったか」と。いま、建国の右腕とも左腕とも頼む宰相を、世迷いごとのような話で手放すわけにはいかない。
磐王は、最近召し抱えたばかりの天文博士という者を呼んで、事の吉兆を問うことにした。
古参の占師に訊ねればどう答えるかは聞く前からわかっている。日向の小国の王子であった頃より仕えている奴等は誰もが宰相のことをよく思っていない。
このヤマトの地を治めていた彼らが最終的に和睦に応じ、そればかりか王位をあけ渡したからこそ、こんなにも少ない犠牲で建国出来たのだ。それに。
「貴様を王にしてやる。我ら一族の地と民を護るためにな。命にかけて貴様と貴様の末裔を護ってやる。だから貴様はこの国の王として永遠にこの地に仕えろ。それが滅ぶ国へのただひとつの誓いだ。その約束が破られる時、貴様の一族の未来はないと思え」
脳裏には当時、戦いの大使としてやってきた敵国皇太子の志麻児の言葉が浮かんでいた。
滅ぶ、という時、志麻児の声が少し震えた。磐王の心の臓も一瞬きり、と痛みが走った。
強大で無双、見るもの恐ろしい敵であった。あぁ。思い出しても毛穴が逆立つ。あの顔、あの男は滅ぶことを選んだ。民の血と引き換えに己の命を差し出したのか。
磐王が誓いを破れば、あの男は黄泉の国からがこの地を取り戻しに来
る、と志麻児はそう言った。磐王は王として君臨する限り志麻児の子孫を傍に置くことを誓った。
こうして両国の和睦後、志麻児は宰相の地位に落ち着いた。
日向からひたすら東へ進み、この中央を平らげ、建国の王となった磐王は、この出来たばかりの国の礎が幼子の皮膚のように柔らかく傷つきやすいものと知っていた。
とにかく。
いまは手を打つのだ。志麻児の産まれたばかりの双子を護ることが先決だ、と王は顔をあげた。そして侍従に命じた。
「天文博士、を呼べ。いや、忌部の者ではない。天文博士だ。外の国からやって来たというあの者を呼んでくるのだ」