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双竜伝説  作者: 秋喬水登
竜の転生した双子貴公子
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竜が転生した双子貴公子 1

このお話は古代日本史をモチーフに妄想した、ファンタジーです。

 夜空のなかでひときわ輝く星が瞬いた。いや、瞬くというには激しく、まるで身もだえして震えているようではないか。

 今夜まさに、ヤマト帝国の宰相の妻が命を生み出すという戦いに苦しんでいた、その夜のこと。

 遠く時空を隔てたもうひとつの帝国では、夜だというのに明々と照らされた空の下で一人の巫女が祈っていた。

 巫女の祈りはもう三刻も続いている。神殿に仕えていた家臣や侍女たちはすでに旅支度を調え、巫女の祈りが終わるのを待っている。

 そうこうしているうちに宮殿に押し寄せた敵の軍隊がこの神殿にもやってくるだろう。

 宮殿を焼く炎が闇を祓うように夜を照らす。どこに隠れることも許さぬというように。

 皆はじりじりと巫女を待っていた。帝国で最も神聖で護るべき者を。

 彼女を敵の手に渡すこと、それは即ち帝国の滅亡を意味するからだ。

 今たとえこの都市を手放したとしても、彼女さえいれば帝国はまた復活できる。人々はかたく信仰していた。

 そんな人々とは裏腹に、巫女は神殿の奥の庭、大樹の元でひたすらに祈っていた。戦いの怒号もここまでは届いていない。

 神殿の高い壁と樹木が手をつないで闇をつくり、巫女を護っているかのように。と、閉じられていた巫女の瞳が開き、夜空を仰いで手を広げた。


「ティグル」「ユフラ」巫女が呼びかけると闇の塊がふたつ、動いた。

 闇は揺ら揺らと震えながら塊り、やがて二頭の竜の姿を象った。

 「ここももう長くはもたない。神殿は敵が放った炎に崩れる。その前に私はこの都市を離れる」竜たちは巫女に頭をこすりつけるような仕草をした。別れを惜しんでいるのか。

 竜と巫女はいくつもの生まれ変わりを超えてともに過ごしてきた。そしてまたこの時が来た。しかし、次はどこで再会するのか。また会えるのか。それはどちらにもわからない。

 「永く民に豊かさを与えてくれたお前たち。だが、お前たちはもうここにいてはいけない。私がお前たちをふさわしい場所に飛ばしてあげる。さぁ、小さくおなり、ティグル!」

 ティグル、と呼ばれた竜は銀の鱗をふるる!と振るった。そして、丸くちいさく、剣のように光る玉になって巫女の掌に納まった。

 「お前は鉄を生み出して、わが帝国を最強にしてくれた、、、使い道を間違ったのは人間のほう。お前は悪くないよ・・・」

  巫女の掌の上で銀の玉は返事をするように光った。

 「次はユフラ、おいで」巫女は残ったもう一匹の竜を促した。

 ユフラ、と呼ばれた竜は、宝石のように青い目をしていた。

 「おまえは、いつも民に癒しを与えてくれた。ありがとう」

 巫女が手を差し出しても、竜はその手に乗ろうとはしなかった。

 「わかっているよ。私のことは心配ない。民を無事に新天地に導いたら、私もお前たちのところに行くから」ユフラは首をかしげて、巫女を見た。巫女は嘘じゃない、という代わりにもう一度手を差し出した。

 青い目の竜もまたうなづいて、小さな玉になり巫女の掌の上に乗った。

 「これからお前たちを遠い時の果てに飛ばしてあげる。そこで生きよ。私もすぐ行く!」

 巫女はそう言うと、両手を空に揚げ、ふたつの玉を高く投げた。

 玉は女の手が投げたとは思えぬ高さまで飛び、夜のなかに消えた。

 ティグルとユフラ。

 永きにわたりその地に豊穣をもたらしたふたつの大河の守り神は、その夜、帝国を見捨てた。

その時、長い陣痛に苦しんでいた宰相の妻は立派な嬰児を産み落とした。双子の。

 

 

 

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