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神代 〜人類滅殺之儀〜   作者: かみしろ
8/10

神宴




なんだか馬鹿共が北海道に攻撃したおかげで吹っ切れた気分になる。だから俺はすぐには東京へは行かず、念入りに準備をする為に埼玉で潜伏する事にした。潜伏と言ってもなんてことは無い。適当なマンションに入ってそこに居る住人を全員殺し、テレビを見たり、スマホを頂戴した程度だ。情報が無いのが鬱陶しく思っていたのにも関わらず、何故今までこの方法を実行しなかったのが不思議ですらある。今や日本にある殆どの軍事力はほぼ壊滅させた。今さら警察が怖いなんて事も無い。ましてや、地球に寄生するゴミのような人間を殺す事さえ微塵の呵責も感じない。テレビでは相変わらず日本の国家元首が律儀に例の国会議事堂に出席して、冷静になる為だけの議会に参加している。そこで俺はこの馬鹿を生中継中に襲撃をする計画を考える。ついでに貰ったスマホの中にお気に入りのゲームBGMもいくつか選んでプレイリストを構成する。内容は専ら自分が好きだったRPGのボス戦闘曲だ。久々にテンションが上がり、これから始まる宴に心が高ぶっていく。



やっぱりスマホは必須アイテムだな。


仮にまたGPSを追跡されたとしても、もう俺の器に攻撃を当てる事なんか出来やしないのだ。今や俺の神気は神の目の前に届く程に研ぎ澄まされている。



・・・そう言えば神気はあれから少し性質が変わった気がした。



より洗練され、人間一人なら確実に狙って殺せる程技術は向上しているが、同時に局地的な大規模爆発を行なおうとすると、明らかにその規模が縮小していたのだ。原因はよく分からないが、こうなってしまった以上、今まで通り『糸』を建築物に垂らして破壊的な爆発を生みだす事は叶わない。



でも別にこれはこれでいい。



俺は今、神気を精密に練り、一つの美しい刀を形成する事に成功している。名づけるならば神気刀(シキとう)とでも言おうか、自ら作り上げた俺でさえもその美しさに見惚れる程だ。東京ではコイツで暴れてやろうと考えていた。今までが仕事なら、今回は盛大な宴になるだろう。この世にあるどれほどの神楽よりも美しい舞を踊ってやろうぞ・・・ククク。




あと苛立ちが心に燻っているせいか『僕』で統合した青少年の思考が若干成長した『俺』へとなっていた。『俺』という存在は『僕』よりも遥かに荒れていた時期だ。だから冷静を保つ上であえて『僕』を選んでいたと言うのにこの心変わりは一体何であろうか?まぁいい、どちらにせよ宴は完璧に仕上げるつもりだ。



-----------------------




埼玉から東京にある千代田区は一瞬で移動出来た。俺は上空から国会議事堂の壁を突き抜けて、即座に目に付けいた抜け殻の権威で構成された日本のトップの首根っこを掴み、高々に首事持ち上げた。現場は一時騒然となるが、意外にもそれ以上の抵抗は無かった。まぁ俺が今しがた持っているこの無能が良い感じに人質になっているからだろう。



世間から『増税元首』なんて言われていたな。


間近で見る日本のトップは何故今自分が襲われたのかさっぱり理解出来ないような顔をしていた。それでコイツが国を背負って生きる資格が無い人間だというのが一目で理解できる。このバカメガネは誰かの言いなりか、その信念を自分のものだと勘違いしたただの勘違いサラリーマンそのものだった。



俺も人間だった頃はコイツに散々苦しめられた。


志望大学に落ち、仕方なく入った自衛隊もすぐに辞め、派遣で苦労した金は全部クソみたいな税金に持っていかれた。コイツだけが悪いんじゃない。ここに居る連中、いや、税金を吸い続けている吸虫のような連中が何も考えずに税金を膨らました結果だ。それでもコイツが何とかしてくれたなら、俺もこんな形で日本を滅ぼそうだなど考えなかったかもしれない。



そして今、俺の所業は全国テレビで生中継されている。



憂さ晴らしでも今コイツを殺してしまおうかと考える。

恐らく、コイツに苦しめられた大勢の人間もそれを望んでいるに違いない。




殺セ    

      殺セ


殺セ

       殺セ!!!



目に見えない増悪な殺意が俺の持つ男へ向けられている。




それを知った上で俺は男を放り投げるように捨てた。



どうせコイツはトカゲの尻尾だ。

コイツを殺しても日本は何も変わらない。

無能が無能にすり替えられて終わるだけだ。



それに俺にはやる事がある。



コイツに殺意を向けた、自分自身は何も悪くないと信じて疑わない本当の無能な民を無に帰す事である。



「そう!お前らの事だ!!!」



俺は目を見開き、カメラのレンズに向って笑いながらそう吠える。

次の瞬間、俺は中心地である新宿区のビルに降り立つ。



あの有名な新宿駅も良く見える場所だ。相変わらず無数の蟻のように人が往来している。俺は昔からこの殺伐とした光景が好きだった。どれだけ人が死のうが、ここに居る人間だけは「自分は関係ない」って面をしている。改めてこの馬鹿共は生きる為に仕事をしているのでは無く、仕事をする為に生まれてきたロボットだと言えた。その証拠にスクランブル交差点を歩く人の顔は皆能面のように無表情だ。きっと自分に『顔』が付いていることさえ忘れてしまったのだろう。



俺は神気刀を取りだし、イヤホンの音量を最大値にし、最もお気に入りである某有名RPG10作目のボス戦BGMをスタートさせる。小刻みな電子音の後、盛大なコーラス、そして脈を打つような裏打ち。この殺風景な終末にこれでも無いかと言うぐらいににその曲はマッチしていた。



最早瞬間移動などお手の物だ。

次の瞬間、俺は丁度青信号に切り替わるスクランブル交差点の中心にいた。



一瞬の静寂(アナンジュ・パッス)』を起こすよう、持ってる神気刀を水平に360度の円を描く。


人も、車も、建築物さえも、その瞬間、確かに静寂は訪れた。



そして、神気刀が鞘に収まる時と同時に、時は動き出す。

描いた起動はいびつになる事も無く、奇麗に軌道上の全てを斬り捨てた。


大勢の肉塊が地面に落ちる音、ゴポゴポとあふれ出す血の噴水、それを耳を劈くような異常な金属音がかき消し、そして、さらにそれよりもゴゴゴゴゴ・・・と、巨大な衝撃が襲ってくる勢いの轟音が鳴り響き、周りにあるビル群が砂塵を巻き起こして崩壊していく。




「60点と言ったところか」



静寂中は最高傑作だったが、その後の展開は全てマイナスだ。人だけを斬っていればもっと美しい芸術がそこで完成したのだろうが、相変わらずこの化け物のような力では調整が難しい。



ビル群が崩壊し、一瞬にして新宿の街は瓦礫で覆い尽くされる。とはいえ、これはほんの一部だ。さっそく事態を察知して逃げ惑う人の群れを見る。もうこなってしまえば後は泥仕合だ。逃げる人ゴミの進行方向に移動し、無造作に人間を切り捨てていく。どうせ建造物ごとぶった切れるのだから加減もしない。ただ、この状況で悪くないのが、温感識別型(サーモグラフティ)で克明に人の生存を見分けられる事と、そして・・・・




この直前になってまで自分の死を疑わないでいる

人間の最後の顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔



東京という日本の中心を我が物顔で憮然に歩く人間の尊厳(プライド)をズタズタにして殺すのはまぁまぁ気持ちが良かった。前の自分なら己を叱咤するところだが、今回は多めに見ておいとこう。なにせ今日は神の宴、そう、神宴(しんえん)なのだから。



あれから数時間程経過する。



ビルに籠る者はビル事崩壊させ、地下に籠る者は地面を割る様に大地を押しつぶして下敷きにし、泣き叫ぶだけの者はその場で適当に真っ二つにしていく。こんな最終最悪の事態でもマスコミは駆け付けるらしく、今回はあえてその模様を詳細に放送して貰う事にした。この惨劇が克明に記録されるよう、わざわざ砂塵や煙の類を風で上空に逃がしてあげた周到だ。そして、頃合いを見てそいつ等も奇麗に片づけてやった。




あれから数日経過する。




今では密集してる場所は殆どが生存者ゼロになりつつあり、俺は市街地から住宅地へ場所を移動する。ふふふ、ガキは勇ましいな。高校や中学、そして小学校など人の多い場所にも足を運ぶが、血気盛んなガキが必死の抵抗を仕掛けてくる様も、これまた面白かった。まぁ大抵は俺に触れる事すら叶わず汚い血飛沫をまき散らして蒸発していくだけだが。女は殆ど動かず岩のようにじっとしている。俺はそれをまるで草でも刈る様に警戒に真っ二つにしていく。しかし、中には俺に賛辞を述べて自らの死を喜んで差し出すような奇人も存在した。そこで分かったがどうやら人間共は俺の事を『白』と呼んでいるらしい。



そう言えばガキと言えば、面倒なのが親だ。



一言で言うと親の断末魔程煩いものはない。


たかだか、まだ生まれて何年も経ってない子供を殺される程度で何故あんだけ喚き散らすのやら。その点子供は優秀だ。確かに鳴き声こそ煩いが、大抵は何が起きたか理解できないまま黙って死んでくれる。だから俺は子持ちや一族郎党は必ず、親から殺す事にしていた。命乞いなどという茶番はもううんざりだ。

そう考えるとまた苛立った。何故俺はこんなチマチマしたやり方をしているのだろう。こんなペースじゃいつまでたっても日本殲滅など遥か先だ。



そして、俺はまた従来通り『糸』を上空から放して都市群を爆破する破壊行動へと行動を切り替えようとしたその時だった。




風圧を感じたのだ。



いや、これは威圧か?



空気の密度が明らかに変わる、辺りの湿気が急激に上がっていくのが分かった。



そして、空間が焦げる臭いと共に、獣が骨を砕くような音が

バリバリとけたたましい音を立てて響く。




俺は上空に上りつつも、地上で何が起きたのか、それを見下した。



そこには、自らの体を稲妻で発光させ、この世の者にあらず

存在が俺を見つめていたのだ。




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