潜伏/救世主
迂闊。
神気のみとなった脆弱な精神力でそんな言葉を吐く。神気が生み出すあの破壊力も、その力の根源も、絶対人類には到達不可能と言う確信があった。何故なら、自分ですらこれが一体何であるのか理解できていないからだ。神が与えた力を疑うなど、絶対にあってはならない事だ。寧ろ考えた時点でこの神気の恩恵が消滅するのを恐れた。あり得る事だ、信仰心こそ奇跡を生むなんて言うしね。
じゃあ何故僕は爆撃されたのか。
その答えがあの落ちたスマホだった。
僕が攻撃されたんじゃない。対象はあのスマホ、正確にはあのスマホに搭載されたGPSが僕の居場所を常に的に知らせていたのである。
全くもって馬鹿な話だ。
考えれば誰でも分かる事だ。
・・・・・・認めよう。
今回は僕の負けだ。
潔く負けを認めてやろう。
どのみち器の復活には数日はかかる。
あと、これで連中に僕が死んだと思わせる手は有効な気がした。
今、僕に必要になのは反省する時間だ。
この失態でほぼ人類に僕の正体がバレてしまった。それおろかご丁寧に対向処置まで取られる始末。
僕は適度に距離を取り、森の中に入り込む。そこでまた眠りにつくように、器を形成するのだ。器の媒体は土に由来する。なのでその時点で器そのものの強化については諦めていた。それよりももっと神気について学ぶべきである。おそらくだけどきっと感知系統の能力にも応用が効くはずだ。それさえ出来ればあんな無様な醜態など....。
まぁいい。この神なる義にタイムリミットなど別に無いのだ。復活したらじっくり時間をかけて、人類の無力さ加減を味わらせてやろう。それまで今まで死を疑わずにして生きれた事を感謝すればいい...。
土中深くに僕の神気が入り込み、意識は朦朧としていた。目は竹藪を跨いだ夜の空を見ている。
じっとし意識が離れて行くのを待ちながら、僕は、僕を見事に狙って爆破してくれた人間について考えていた。
其奴だけは敬意を払って、感情の赴くままに、なぶり殺しにしてやろう。
しかし、そうすると特定が面倒だな。まぁ...言いや....もし覚えていたら.....考えよう......
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あの日、正確には前日の夜、そこにあった人類の痕跡は消滅した。
新聞に大きく載せられた写真は、出来の悪いCGのようにも見えた。
分かりやすく以前の写真を載せてなければ、その写真が一体何なのかすら分からなかったに違いない。
それは、何百、いや何千年と続いた人類の営みが整地されたように奇麗に消えていたのだ。
何が起こったかなんて、誰にも分からなかった。
それでも、テレビで沈黙し続ける訳にも行かず、聞いたことの無い名前の評論家達が様々な憶測を口に出している。政府からの公式発表も無い。そんな非現実的なものを見せられて、私の周りで起こった事は、これまでと変わりなく過ごしている、という事だった。
ねぇねぇ、昨日のニュース見た?
うん、なんだか凄かったよね
うん、一体あれってなんなのかなー?
さぁ、でもやっぱりさ、あそこにいた人達って
うん、ダメなんじゃないかな、怖いーなんでー??
そんな声が聞こえてくる。
まるで何処か関係の無い遠い国でショッキングな出来事が起こったような会話だ。あまりにも信じられない出来事が起こった時、人はその現実を直視出来なくなる。それが見事に再現されたようにも思えた。
それから二週間が経った。
さすがに、今では皆が重く押し黙り、口を堅く閉ざしている。一つの都市が消えただけならまだしも、その時にはもう九州にある殆どの都市が鹿児島市と同じように奇麗に更地と化していたからである。
それでも国は公式見解を述べて居ない。
さすがに恐怖と不安が張り詰めた声が国を非難していく。
そこまでしてようやく、いつもの憎たらしい国の代表が公式の
場で状況を説明し始めた。
『現在、我々は危機的状況にある、これはもはや紛れもない事実であるとしています。その危機を乗り越えるべく、現在は同盟国が一丸となってこの危機を乗り越える事が、我が日本国の・・・』
聞いてて思わず舌打ちする。
相変わらず、教えて欲しい事は何一つ言わない。
一体誰が、何の為に、何の目的で、皆が知りたいのはそれだけなのに・・・。
その日は過去最大にもなる大規模なデモ行進が起き、国会議事堂前で参加者の数人が火を放すなどの大混乱に見舞われた。いい気味だ、私はそのニュースを見てそう思った。
その時、臨時ニュースが流れる。
///臨時ニュース///
米国が日本における大規模破壊工作の主犯を発見、攻撃したと発表。主犯の容態については不明。
皮肉にもそれは、同盟国のアメリカの手によって全てが解決したとの朗報だった。
誰もが安堵した瞬間だった。
これでももう、謎の脅威に怯える日々が消えたのだ。
すぐに何故あんな事が起きたのか、犯人と思わしき人物も、その目的も解明されるだろう。でも、それで犠牲になった人達や培われた文明が戻る訳じゃ無い。
私は今になって急に涙が溢れてきたのだ。
私だけじゃない、皆もようやく現実に目を向ける事が出来るようになった。遠く離れている私でさえそう思うのだ。生き残った人達はきっともっと悲しいに違いない。どうして犯人はこんな馬鹿げた真似が平気で出来るのだろう?まるで、気が狂っているとしか思えない所業だった。
そしてその悲しみも止み、数週間も経てば皆、日常を取り戻し始める。現実逃避じゃない、確かな日常が始まろうとしていた。
そんな時だった。
九州で生き残った人たちが集まった難民キャンプが襲撃されたというニュースが流れたのは・・・。