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神代 〜人類滅殺之儀〜   作者: かみしろ
10/10

消滅/エピローグ




全く、興ざめもいいところだ。あの女が消えて以来何もやる気が起きなくなってしまった。それだけじゃない、今の俺の状況は間違いなく劣化していると言わざる終えない。東京を殲滅し、埼玉まではなんとか順調に滅ぼせたが、千葉に向った辺りから『糸』の精度に陰りが見え始めている。今までなら確実に狙えば当たったはずなのに、予想した地点から少しズレる事が多々あった。そして、その威力も以前ならば一瞬にして更地に出来たはずなのに今は精々自分のいる上空の真下付近の数十メートルを吹き飛ばす程度が限界になりつつある・・・。



一体、この変化はどういう事なのだ。


自分の心境の変化なのだろうか?

それとも・・・・?



壊しそびれた建物にあったテレビを見ながら思考を巡らせる。あの『増税元首』は今は大阪へ避難し、そこで臨時国会を開いている。飾りだけの同盟国には見放され、今や出来るだけ多くの日本人をどの方法で国外へ避難させる事に議論が集中している様子だった。地位や金のある人間は、旅客機、もしくは軍用機でアメリカやカナダ、そうでない一般市民などは大型船で東南アジアや中国などに遅れられると、ニュースは報道していた。その中でもう俺については何処も報道さえしなくなっていた。



つまり、もう関東、いや俺が行く全ての都市は見放されているのだ。



現に、埼玉や千葉では全くと言っていい程抵抗は無かった。各国の軍は勿論の事、自衛隊や警察さえ俺に対して何らかの反撃をしてくる素振りも無かった。連中はただただ、俺が殺しそこねた人間どもの救助活動を必死にやっているだけ。殺されれば諦め、そうでなければ必死に生き延びようとする。そのひたむきさに思わず涙ぐむ面も感じたがそれも容赦無く殺して行く。結局人間も踏みつぶせば蟻と一緒、血を流して動かなくなるだけだ。




・・・それにしても、やはりあの女は惜しかった。何度も言うが俺は別に人を殺したくて殺しているのではない。仮にも元は人間だ、人が愛おしくないわけがないのだ。だが、神も俺もそんな人間に見切りをつけ、終わりを告げただけに過ぎない。だが、あの女のように、人間がこの短期間で更なる進化を遂げたと言うのならまた話は変わっていく。そもそも、人間がこのように醜く、自分の生きている星を食い潰しているのはその生き方にある。人一人の「質」が低いからこそ、人間は鼠のように多くの子を量産しようとする。俺はこの進化こそが最低の失敗作だと考えている。本来、美しく、それでいて強くあるべき生き物は皆共通して少数で留まり続けている。例を挙げるならライオンなどがそうだろう。縄張りを重視し、それ以外の同族は認めず、その領域を犯すのであれば力を持って制す。人間も本来はそうあるべきだったのだ。それが多種多様に無増築に増え、無味乾燥な思考が蔓延し、無駄な命を増やし、その無駄な命が今度は横暴な主張を繰り返している。この醜さに気づかない事もまた滑稽であり、嘆き悲しむ事でもあるのだ。



もし、俺が多くのゴミのような命を奪った事であの女が生まれたのなら、やはり俺の考えは正しかったという事になる。あの女が何を考えていようがいまいが、もし生存し、あのような力を持った人間がもっと増えれば、人間は質を重視した少数衛生を伴ってこの美しい星とより上手く共生出来るはずだ。俺はそれこそが神の望む所だと・・・



いや、何かがおかしい。



では、何故神はあの時、危険信号(シグナル)を鳴らしたのだ??



本当にあの女は殺すべき存在だったのだろうか?



そもそも俺のこの力、この『糸』は一体何なのだ?



『神』とは一体、何なのだ・・・。




---------------------------



・・・・日に日に力が無くなっていく・・・。



東北、北関東、甲信越は完全に破壊した。



次は中部、関西・・・し、こく、そして・・・ちゅうご、く・・・・


最後がふくおか・・・か。




さいしょに滅ぼそうとしたふくおかが最後になるなんて、

なんともひにくなはなしだ。




そこまでいけばもう日本じんなんてものはすうひゃくまんものこってはいまい。おれのやくめはそこでおわるだろう。疲れがなかなかきえない。いままでこんなにつかれたことなんてなかったのに・・・。



--------------------------




・・・はぁはぁ。


お、俺はようやく持っている鈍器で死にぞこないの老婆を撲殺した。最後の砦だった大都会福岡での事だ。もうかつてのような力も無く、皮膚は樹皮のようにボロボロになり、美しかった青い髪も弱弱しい白髪に変化してしまった・・・。『糸』はもう使えない、あれだけが俺が持つ唯一の力だったのに、一体何故だ?



まぁよい。



『糸』を使えば使う度に俺は急激に呂律が回らなくなるほど思考が低下していたからな。だけど、これではもう日本殲滅どころじゃないだろう。幸い、日本の防衛構造は片っ端から破壊し尽くした事もあり、今や俺が何をした所で不意な反撃を食らう事もない。それに今の体じゃ女おろか、子供ですら殺せるかどうか怪しい。だから俺は身を潜めながら一人で居る老人を狙ってその使命を全うし続けていた・・・・・・。




違う。



俺は、もう考える事から逃げているだけだった。


自分の犯した業から逃げたかった。


だから今もこうして神の名を語って・・・全部『神』のせいにして・・・。



クソっ!!!!



何が『神』だ!!!


クソが、クソったれが・・・!!!


もう何もかも遅い、だけど俺はあえて断言する。



あれはけして『神』などでは無かったのだ。



今まで何度も前兆(ヒント)はあったのだ、だが驕り高ぶる俺の傲慢な誇りがその真実を不透明に・・・その結果、前代未聞に至る未曽有の大虐殺を犯すハメになった。



その最もたる証拠はこの朽ち果てた体にある。最初こそその圧倒的な破壊力を秘め、大都市をまたたくまに更地へ変える程の力だったのが、都市を破壊する度に、人を殺める度に徐々にその力を失っていく・・・・。



あああああああ!!!俺の、俺のこの力の源も・・・



人間(みんな)のエネルギーだったのだ!!!



なのに、俺は勝手に『神』から授かったのだとばかり・・・・・・。

目から涙が溢れ出てくる、ああ悔しい、我は我はくやしけりくやしけりぃ!



我は・・・我は神の名を語る不届きものめに謀られたのだ!

最早取り返しのつかぬ程に、命を殺め続けた。



もう歩く事さえ儘ならぬ・・・だが、最後の望みを賭けたい思いに駆られる。



人の居なくなった真の自然、真の日の出をこの目で拝む事である。

謀られたとは言え、人が自然を汚したのは事実、ならば、我が殺した分だけ、きっと自然も息を吹き返すはず、それで我はその罪を帳消しするつもりだった・・・それで消えるつもりだった。




そして・・・ついに我は東より上る美しき『神』を見た。




「あっ・・・・あああっ・・・・ああああ!!!」



それは、それはただの太陽の光、何時もと変わらない清んだ空気を差すあの朝日だった。思わず周りを見る。静寂に響く鳥の囀り、小風が揺らす葉の音、雄大に広がる山、森・・・それは何もかもが以前と全く同じのままであった。




嗚咽が止まらぬまま、全身の力が抜けたように我はその場に立ち尽くした。そして、そのまま地面に伏す。もうこのまま消滅するつもりだ。あの朝日を浴び続ければ、我の体はきっと消滅するだろう。我は踊らされたのだ、神とは程遠い、我を欺けた、人を見事なまでに効率的に滅ぼした忌まわしき力に・・・。もう笑う奴さえもいないかもしれない、我は消えゆく意識の中で、おぼろげにこの斬撃の黒幕が一体誰なのかを考えた。そして、遠くの方で誰かが叫ぶ声が聞こえ、それらが我の前まで来た時、頭に強い衝撃を感じた所で意識は・・・。



                                

-------------------------------





20xx年11月16日


多国籍調査団は、未確認重大脅威としてその動向を随時監視していた『X』の消滅を確認。Xの破壊的殲滅活動により、旧日本国の人口は1257億から53万にまで減少する。その間、ライフライン、政治機構、防衛機構は全て壊滅的に破壊された為、生存者は各国への移住を余儀なくされる。その後各国において日本国を分割統治するという会談も設けられたが、最終的な議論の結果、日本国は消滅したとし、その跡地である日本列島は永久無主地として定め同時に世界遺産、または自然保護区として隔離され、完全にその永住権を破棄した。


現在は同盟国、及び友好国から贈られた死没者の碑が静かに佇むだけとなっている・・・。



                               おわり






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