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学校の怪談・改

 世の中は非常に面倒な話題が多い。太平洋の対岸の国家で地震が発生しただとか、一家を狙った殺人事件が起きて、母親以外が重傷であるとか。こうした話題は、基本的に私の活動とは逆に不幸せをばらまきまくるのだ。それを見ると私は非常に不愉快に感じるわけだ。


 とはいえそんなものはともかく、私が目下目の敵にしているのは私を抑えて月末の話題をかっさらっている新しい「学校の怪談」であった。


 せっかく、学校中の面倒くさいやつらを集めて蠱毒を作り、かれらに奉仕活動をやらせることで好感度の上昇と学生ボランティアという実績を同時に達成させようとしていたというのに、今日も花壇で草取りをしているところで歓談する一年生の話が聞こえてきた。


「最近流行ってるのあるらしいよ」

「なになに、それ」

「リンフォンっていうの」


 は?

 まただ。この怪談とやらは、定期的にブームを発生させ新型の化け物を次々生み出す。精神的に善なるところは全くないくせに、なぜかめちゃくちゃ人気を得るのだ。精神型の劇辛料理と言えば納得できるが、それをなぜ人に勧めたがる。人に流行らせる。

 

「それよりさ、音楽室の話知ってる?」

「なにそれ」


「最近音楽室で勝手に楽器が鳴るんだってさ。夜」


 最も身近なところで、怪談の発生源があるらしい。

 とりあえず流行して、私の慈善活動の噂以上に有名にならないように退治しなければ。


 認知度が高くなければ、面白くないじゃないか。


                《*》


「と言う理由で、幽霊狩りをすることになった」


 先輩は、また変な理由をつけて、部室に飛び込んできた。


「今度は何にあてられたんですか」


 長岡さんが、面倒臭そうに訊く。


「リンフォンですか、八尺様ですか、あ、でも八尺様は最近無害化してきてるか、同人のせいで」


 三十木が都市伝説を羅列すると、食い気味に田中さん改め、イムちゃんが話を被せた。


 「イム」というのは、この安全部の結成記念ということで、2回目の集合時にSNSでグループを作成したのだが、田中さんのアイコンが見知らぬ褐色マッチョであったためである。

 彼女がその名前を「イムホテップ様」と恍惚した表情で言ったので、彼女のことはイムちゃんと呼ばれる運びになった。


「八尺様男体化とかありますよねえ、でへへ」


「いや、それ知らねえし」


「しょんなあ」


 イムちゃんは顔を伏して、その流れで自然にスマホを触り始めた。


「にしても、どうしてですか」


「君らが、思っていた以上に地味すぎて、話題性がなさ過ぎるからだ。一つの怪談にすら負けてしまう、そんな存在だったのか、君らは」


 三十木が苦笑する。


「いや、俺たちに言われてもですね」


「あんだけ大変な思いして、君らを連れてきたのになあ」


 学校で浮きまくる存在である彼らを先輩が確保し、一つの教室内に押し込めて蠱毒にすると言う作戦は、あの後、彼らの尋常でない帰巣本能の強さにより一見失敗したように見えたが、先輩のしつこい家庭訪問によりご家族、保護者の信頼を勝ち取り、彼らはしかたなしに居座った。

 結果、それなりに定着し、この「安全部」を居場所にしてくれるに至ったのである。


 先輩は「やはり、三顧の礼だよ。故事成語はやはり役に立つねえ」などとしみじみしていた。


「京香先輩が玄関前に何時間もいつづけるからでしょうが」


「それは古来中国から直訴する方法として宮殿の前に居座るという方法が」


 悪徳セールスの起源を古代中国に求める京香先輩はともかく、それよりも重大なことが起きていた。


 先輩の話を遮るようにして、子鉄くんが素っ頓狂な声を上げる。それは示現流の猿叫のごとく教室内にこだましたが、その目線の先を見ると、衝撃の光景が広がっていた。


「増えてる」


 なんと、部屋の隅に固まっている四津角くんの周辺(サイド)に見慣れない男子が二人、増殖していた。あまりにも存在感がなさ過ぎて、本当に突如現れたように見えた彼らは、揃ってお辞儀をした。


「自己分裂できるのか、彼」


「違いますよ」


「ええっ」


 先輩はさらに驚く。どこから入ってきたのだろう。時代が時代なら、彼らはよい暗殺者か忍びとして、一躍名を馳せていたに違いないだろう。しかしここは現在である。彼らの優れたスニーキングスキルも、一銭の稼ぎにすらならない。悪事など働くなら別かもしれない、と考えたところで京香先輩の悪い顔が思い浮かんだ。


(絶対、やばいこと考えるな、この人)


「潜入させよう」


 京香先輩は表情一つ変えずに、言い放った。


「え」


「学校だよ、学校。深夜の音楽室から、誰もいないはずなのに、って流れだろ」


「絶対、見つかりますって」


 長岡さんが必死に止める。


 仮にも警備会社と契約しているのだ。赤外線センサーなどをくぐり抜けて、目的の教室まで校内を誰にも見つからないで歩いて行く、なんてことを一般人ができるものか。


 だが気になったことをやらずにはいられない性質の京香先輩は、三十木と長岡さんによる必死の抗弁を、一切聞く気がないらしい。


「なんとか、違法じゃない範囲でできるようにしてみませんか」


 長岡さんの言葉に頷き、あーうー言って抵抗する先輩をなだめながら、私は事務室の電話番号につなげた。


「五月なんですが、合宿の予定って入ってます?」


「サッカー部と、ラグビー部が使ってて、満員だね」


 返答は残念なものだった。


「ダメらしいです」


 元気を取り戻した先輩が、子鉄くんの拘束をふりほどく。


「それならこの子たちの番じゃないか」


 隣に座っている四津角は素通りされ、すっかり尖兵と化した蠱毒の面々に、四津角ジュニアたちは引っ張り出される。彼らは体全体を使い、全力で拒否していた。


「君ら、名前は」


 尋問する前の刑務官の目線で、先輩が見下ろす。


明井(あけい)です」

村山(むらやま)です」


「ほう、明井に村山、君たちは、どうする。ここで追い出されるか、リア充として生きるか」


「そんなこと、今時僕たちが決めることじゃないんですか」


「は?」


 口答えした明井の目に恐怖が映った。


「村山は、どうする。君はどうなんだ、明井と同じかい」


 2秒ほど逡巡したのち、村山は、京香先輩の威圧感の前に屈服した。


「やります」


「よろしい、君には金一封としてお菓子を購入する権利を贈呈する」


 そうして、京香先輩は村山にだけ250円を渡した。それを見た明井は、かわいそうなうめき声をあげたのち、京香先輩に恭順した。


「僕にも、やらせてください」


「よろしい」


 京香先輩は、彼にも250円を手渡した。


「これで君らの好きなお菓子でも買ってきなさい」


 この瞬間、彼らは自分の一人称のごとく京香先輩のしもべと化したのである。


「悪いことしますね、先輩、あなた主犯ですよ」


「違うね、彼らが「自主的にやったこと」だ。この部活動を先生方はなんだと思っておられる?そう、「ボランティア」だからな」


 子鉄君は、若干震え上がっていた。


「それがしも、あのようなことを強要されるんでしょうか」


「それはないと思うぞ」と三十木。


「今回、勝手に部室に入ったの彼らですし」


 長岡さんが髪の毛を触りながら言うと、先輩は少し意地悪な顔をする。


「いんやあ、実は、登録は済ませてあるんだ。彼らには秘密だけどね」


「ええ」


 つまり、明井と村山はいわれなき強要をされ、そのまま校内に潜入させられようとしているのである。


「それはなんとも、不憫な」


「どうも彼らが集まってる時だけ、他に誰も関心を持てなくなるらしいんだが……」


 先輩が話を展開しようとした時であった。


「あったあ!!」


 イムちゃんが、久しぶりの大声を上げて三十木にスマホを見せつける。指紋で汚れているが、そこには何かしらの画像が表示されていた。


「これ、これですよぉ、八尺様男体化ぁ、でへ、でへへ」


 そこにあったのは紛れもなく小学生男子くらいの体格の男性と、白装束をはだけさせたマッチョが同衾しているやおい画像であった。


 一瞬なんともいえない空気が形成された。


「そうなんだ、はじめて見たわ」


 軽く一蹴して、三十木はそれ以上話題を広げなかった。


「しゅん」


 口頭で発話しながらアピールするイムちゃんを、京香先輩は誘った。


「イムちゃん、BLさせてみる?」


「え」


 彼女の目に光がともる。


「あの二人が帰ってきたら、新しく強要しようじゃないか」


 なんだか、しばらく着せ替え人形になりそうな彼らを思い、私は心の中で合掌した。


「あの、京香先輩、どうします」


 長岡さんは先輩の裏から、こちらに向かってきた。


「どうしましょうね」


 そう言いつつ、私は30センチ以内に入ることを避ける。なんとなく足を少しずつ、ずらしながら彼女の顔を見た。


「付き合いは長いんですけど、私じゃあの人をどうこうできる感じじゃないので、やっぱりついて行くしかできなくて」


「そんな気がしてました、入った時から」


 長岡さんはため息を吐いた。その息が臭い。

 深刻な場面のはずなのに意識しないようにと、私は口呼吸に切り替えた。


「ただいま戻りました」

「ました」


 しもべの二人が、あっという間に戻ってくる。


 二人は二人で一つのレジ袋を共有し、部室の中心に作られた「島」の上に中身を降らせた。お菓子は大きな袋に入ったやつが、飴とチョコレート、スナックと三つ用意されている。


「どうせなら皆さんと食べられるやつをと思って」


 示現流の猿叫が、再び聞こえた。


「そこ、そのビニール袋そのまま持っててください、でへひ」


 薄気味悪い引き笑いを悪化させるイムちゃんに、困惑しつつ従う明井と村山。目線で助けを求めているように見えるが、肝心のご主人様は、床に向かって指さす、ハンドサインをする。


「やれ」と。


「あけ×むらです?むら×あけです?どうします?うへ、うへへへ」


 空気は薄いが、彼らは気配りができる。どうしてクラス内で浮くのだろうか、と先輩に訊いた。


「違うんだ」


「半裸にするのはダメだって、ちょっと、その、ええ」


 背後の悲鳴を無視しながら、先輩は、指を左右に振る。


「どうやら彼らは、「浮く」んじゃなくて「沈む」んだと」


「「沈む」んですか」


 クラスで「沈む」って何だ、と思いながら、私が話を聞いていると何やら騒がしくなった。

 必死の抵抗を見せている二人の様子を遠巻きから見ながら、


「彼らにも何か、名前つけなきゃな」


 と、突如三十木が言い出したからだ。こういったことに関しては、一番抵抗がないのか、それともデリカシーがないのかわからないが、イムちゃんを名付けたのも、彼だった。


「え」


 イムちゃんによって妥協案のジャージで抱き合わされそうになっていた二人も、疑念に満ちた表情で彼を見た。


「どうして」


「なぜ」


 当然、めいめいに困惑した表情を浮かべる。しかしながら、彼らに共通する存在感のなさとどことなくモテなさそうと言う偏見から、女子多数で決定されたのが、

「非モテ三人衆」という名称だった。


 一方男子の推した「空気感トリオ」は却下された。


「多数決では、間違いなくこっちが勝っていたのに」と、悔しながらに袖を噛む村山。


「部長と会長票があるので、1ポイントずつ追加です」


 私が言うと、インチキだ、と言う声が集団から聞こえる。発したのは明井だ。


「はいそこ、やっちゃって」


 イムちゃんが嬉嬉とした表情で、彼に向かっていく。


「一人で2票持つとか、そんな事あるかよ」


「恨むなら選挙人制度というものを作った民主主義国家を恨め」


 京香先輩の理不尽極まりない責任転嫁に、うちは大統領制でやっておりましてですねえ、と長岡さんが入る。


「だって、その、そんな不名誉な名称ありますか」


 四津角がボリュームの低い声で喋った。


「そういうとこだ、非モテ三人衆」


「女子の言葉に口を挟むでない、ですよう、ぐへへ」


 あくどい微笑みを浮かべる少女たちに、当の「非モテ三人衆」たちは、悪魔だ、悪魔だ、と呟く。その顔色は中世の農民のごとき様と化している。


 不安げな顔をした子鉄くんが、訊いた。


「それがしは、その非モテとか、なんとか入っていないのでしょうか」


「君は既に濃口醤油くらい濃いからいらなくない」


 私がそういうと、長岡さんが笑う。


「というか、そもそも子鉄くんは子鉄自体がそれじゃ」


「あ、そうだ。忘れてました」


 照れ笑いを浮かべながら子鉄くんは頭を掻いた。


「あ、あの、うちはすきですよ、非モテ三人衆。カップリングみたいで。でへへへ」


 イムちゃんが少し気味の悪い引き笑いを浮かべて、四津角たち三人を励ました。その様子を見るに、非モテ三人衆の面々も、おのずと女子に肯定された経験が少なすぎたことも手伝ったのか、


「まあ、いっかあ」


 と納得したのだった。



「ところでだ」


 京香先輩が、両手を叩く。


「長々と駄弁っていたが、本題に入るとしよう。我々は生徒であるから校舎内に侵入すること自体は容易だが、問題はどうやって音楽室に忍び込むか、だ」


 我が校は、さっきも言ったとおり、


 普通の教室は用務員さんによる掃除、点検の後、マスターキーによって施錠される。つまり用務員の宿直室に強襲をしかけて強奪すればなんとかなる可能性がある。

 しかし、特別教室は鍵の種類が異なりそれぞれ別の鍵がかかっていて、職員室に保管されている。そして夜になれば職員室には警備会社の電子ロックがかかるので、まず職員室に無傷で入る方法から考えなければならない。


「なんとかして、夜中のロックを外せる人間を同伴させられないか、ってことですか」


「顧問の先生なら可能だと思いますが」


「顧問、顧問か」


 噛みしめるように先輩が言う。


 このふざけた部活動だが、仮にも部活を冠しているならばそれがいかに名ばかりなものでも、いちおう監督者を据える必要がある。

 その置き物の代表者を探すため、私と京香先輩は楽して実績を作るのが大好きな人間を選び取って、顧問の椅子に座らせることにした。業務に関係することはこなすが、ある程度放任してくれ、行動に特に口出ししなそうな人間を、だ。

 そして先輩の経験とあまたの生徒に対するヒヤリングの末に候補に挙がったのが、倫理の川谷、数学の西田、地学の大久保だった。ちなみにこれは部員全員に公開した情報である。

 

 川谷は、性格がヘラヘラしており、先輩は受け付けなかったらしい。

 大久保は、確かにその辺りはさっぱりとしているが、いろいろとトラブルを起こした時の怒り方が非常にねっとりしており、しかも何度も餅をついたように蒸し返してくるところがある。

 消去法的に、選ばれたのはワークライフバランスを重視する、丸投げ帰宅の西田であった。


「こんな時にこそ折角任命した顧問の先生が、活躍してほしいのだがなあ」


「それが」


 困り眉を作った子鉄くんが口を開いた。そういえば彼は西田のクラスであった。


「何か問題があったか」


「それがしが聞いた話では西田先生、どうもゴールデンウィークは、家族と旅行に行くらしいです」


 彼は有益な情報提供してくれたが、それによって合法的な選択は手詰まりとなった。


「なんということだ」


「常識はあるのに、顧問・センスはないということでありましょうなあ」


 沈黙が続き、一気に空気が白くなる。調子にのった子鉄くんは、まるで説教をくらったように縮み上がる。


「まあ、科目選択で倫理を取った人間しか分からないと思うからね、それ」


 私は子鉄くんに助言した。


「真剣なアドバイス、ありがとうございますです」


「ってか、マジかあ」


 制服の襟のところを弄りながら、三十木がぼやいた。


「俺たちは連休こんなくだらないことするのに、アイツは楽しく家族旅行ですか。ああ、素晴らしい父親ですねえ」


 私は倫理で思い出した。川谷はどうだろうか。


「川谷先生は、何か都合が悪かったりしない」


「ああ、それなら、聞いてますよ、でへ」


 イムちゃんがほらあ、と言って見せたのはまたも携帯の画面だった。ダークモードに設定されたSNSの画像では、川谷が何やら女性と共にホテルに入っていこうとする画像が表示されている。しかもよく見たところ、どうやら他校の生徒らしかった。


「うっわあ」


「コレは、ナシだな」


 先輩が言い放った。


「買春している人間ほど、信用に値しないものはない。それこそ顧問・センスがないといったところだろうか」


 京香先輩がそういうと、子鉄くんに視線が向いた。彼はハリネズミよろしく小さくなっている。


「もう、言いませんから」


「じゃ、じゃあ」


 聞こえるかわからない声をあげたのは四津角だった。


「大久保先生は、だめかな」


 大久保ならばついてくるのではないかと。彼はその陰湿な怒り方からか、未だに独身生活を謳歌している。


「やっぱり、嫌ですけど」


 長岡さんが私の言葉を代弁した。大久保という三文字を聞いた瞬間、京香先輩は、露骨に嫌な顔をする。


「接触しないという前提で考えた候補だぞ、あいつは」


 教師をあいつ呼ばわりした先輩に、部室の面々は苦笑した。

 一応、顧問とはならなかったが、設立の際に保証人になってもらった二人のうちのかたわれである。もしかすれば協力が得られるかもしれない。


「20年近くも独身生活をしているのだから、さしもの大久保でも、女子生徒の誘いには載ってくるんじゃないすか」


 三十木が冗談めかしていう。


「え、それなら普通にキモくない、無理」


 脱線して、大久保先生は顧問としてありかなしかという話題に変わっていきそうな時である。


 唐突に鳴り始めた電話が、会議に水を差した。私が受話器を取ると、はつらつとしたおっさんの声が、ノイズ混じりに聞こえてきた。内容は、こうだ。


「どうやら、確認をとったところハンドボール部が使っていた部屋が一部屋開いたらしいです。選手が風邪で」


「どうします」と問うと、


「使うに決まってるだろう」


 先輩が即決した。他の皆も、それに追随する。


「寝られるだけでいいですし」


「合法的に突撃できるじゃないか」


 にわかに沸き立つ教室。それは、肯定でもあり、否定でもあった。


 そう、使うなら「大久保先生」が同伴することになるのである。


「でも、大久保か」

 

 部員の中でにわかに広がる大久保へのネガティヴイメージ。だが、あくまでこれは先輩が自分の体験と伝聞を元に語っているだけであるから、個人の偏見が大いに含まれていることは間違いない。

 なにせ、先輩はこの学園内で語るに尽きないほどの悪事をやらかしまくっているのだから、そもそも先生のイメージが悪化して当然だ。


「ほかにあてはあるんですか」


 私がいうと、蠱毒の面々は沈黙した。コミュニケーション能力に難のある彼らは、身内にしか話を振ることができない。かくいう私も苦手だけれども、彼らは先生と直接話をすることを避けていた。

 先生のあてなど、はなから先輩の人脈以外に存在していない。


 顧問やる暇がありそうな教師といえば、何人かいるが、それでも大抵は他の活動や家庭の事情などがある。これ以上ぴったりな人選はなかった。性格以外は。


「まあ、我慢すればいいんだろう」


 不平たっぷりの声で、先輩は投げやりに私を見る。


「あとは予定ですね」


 そういった所で、今週の活動日の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

 そそくさと帰りの準備を進める生徒たちに、先輩は蕩々とした声で言う。


「予定は、SNS「ピクシィ」でアンケートをとるから、回答すること!それから、決行内容や計画は前日配布の資料を読んでくれ、では皆、解散!」


「おつかれしたー」


 教室の引き戸の音を気だるげに鳴らして、蠱毒の面々は帰路についた。

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