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オルザランドクロニクル 破滅の章  作者: サイコパスおっさん
破滅の章
6/25

その陸

「このパーティー、いつもこういう感じなのでしょうか?」


夜の野営地。


揺れているテントからした喘ぎ声を聞きながら、私は頷いた。


「そうですよ。変えようとするのも無駄ですから、早めに慣れるか、パーティーを抜けるかをお勧めします」


「このパーティーは気に入りましたので、慣れるように尽力致します」


少し静かになって、今度はルミエラの抑え目な声がした。


「間違ったら許して欲しいのですが……シャル様は、とても高貴な出身だとお見受けしますが」


火を掻く動きが一瞬だけ固まった。


「……そう見えます?」


「ええ。私、ヤマトにいた時には『殿衛』を務めて頂いましたので」


「殿衛?」


「えっと。大陸で仰ると、宮殿の禁衛みたいな職務です。故に他人の教養を見分ける目についでは、少々自負が御座います」


「そうですか」


「ええ。アニタ様もルミエラ様もそれなりの出身ではありますが、シャル様だけは別格だと思っております。ひょっとしたら王族……あ」


顔が赤くなって、フウカはちょっと気まずそうに笑った。


「申し訳御座いせん。興味のある事ですので、つい熱くなりまして……詮索がお嫌いでしたなら、合わせなくても」


「構いませんよ。ただ、一応秘密にはしているから、他言無用でお願いします」


「解りました」


「そうですね……詳細は伏せますが、とある国の姫、と見なせば宜しいのです。その国は反乱によって滅びまして、私以外の王族は皆命を落とされました。あれからはずっと隠して逃げ回って、逃げる為に冒険者になって、あの三人に出会いました」


「私には推察しようもありません気持ちですが。復讐、とかは考えておりませんか?」


「さあ。今はただあいつに聞きたかった。何故あそこまでするのか……兄上にまで、手を下す必要はあったのか。復讐か、それ以外の何かか、答えを聞いてから決めるつもり──なのですよ」


「解りました。失礼な詮索まで付き合わせてもらって、申し訳御座いません」


「いいえ。私はやっと話せて、少し話せて楽になれましたよ。ありがとう、話し掛けてくれて」


「はい。お力になれたら、嬉しいです」




「シャルぅ、来ないかー?」


二人目と運動し終わって、頭だけテントに出したノランの声が聞こえた。


火掻く枝を投げ入れて、私は席に立った。


「あとはお願いしますね」


「お任せください」


「今は……」


「はい?」


テントに向けたまま、私は話を少しだけ続けた。


「暫くだけでも良い。今は、年相応に生きる事を楽しみたいのです」




テントに入ったシャルに目を追って、また揺れ始めた時に逸らした。


少しだけ戦慄を覚えた。


彼女が自覚しているかどうかは知る由もないが、あの話の最中に勘づける感情は、ただ彼女自身に対する迷いだけ。


家族に対しての悲しみとか、家族を害した相手に対する憎しみや怒りとかは──ほぼ無いに等しい。


王族教育を受けた姫君とはいえ、余りにも異質。


兄の話をした時だけ、彼女の人間らしさが少し表に出た。


あれほどの大物が、一介の庶民である毛が生えた程度の冒険者相手に花を散らすとは、世の中って不思議だな。








結果だけ言うと、もう手遅れだ。


来た道に一番近い村でもゴブリンだらけになった。ホブ種の姿は偵察地点からも少なくとも十体以上確認できて、通常種は見るだけで数えるのを辞めた。


粗悪だが、装備はほぼ整っている。統制の状況から推察すると、もうノランの言う通り、ジェネラルがいる可能性は概ね確信できた。


荷馬車のところに戻って、偵察の結果を皆に話した。


「もう前線基地ができていたのか……」


最悪だ、とノランが呻いた。


「あんな数があると、ここの五人だけではどうにもならないわ。癪だが、無駄足よ、もうギルドに戻って増援を頼むしかないわ」


「ルミエラに一票」


ルミエラに賛同したアニタを見て、私は少し考えた。


そんな人手、ギルドにあるのかな。


あの数なら私一人でも殲滅できるが、それはドラゴンの力を使う事が前提だ。身バレしたらどうなるかはまだ分からない状況で、無闇に使うのは得策ではない。


ずっと何かを考えているフウカは手を挙げた。


「私は反対で御座います」


「どういう事かしら」


「今すぐお引き取りになられても、ごぶりん達は大人しくあちらの村に居続ける確証は御座いませんので。ここは二手に分けて、最悪私だけでも残して、皆様はぎるどに戻って現状を伝いに、私はこちらでごぶりん達の動向を監視致しましょう」


「そんな、危険すぎるって」


「ごめんなさい、私もフウカに同意します。残るのなら私も」


「シャルまでなの!?」




視線はまだ意見を出していないノランに集まった。


いきなり注目される事にびっくりしたノランはかなり長い間に悩んで、一回深呼吸をした。


「……僕とシャルを残そう。パーティーで一番身軽なのは僕ら二人だ、何があっても逃げ切れる。アニタとルミエラだけ帰還するのはちょっと不安だが、ヒーラーのフウカと一緒なら大丈夫だ」


「でも……」


「安心して。僕はちゃんとシャルを守るから」


逆、とは言いたいが我慢しよう。


二人に心配されるのは理解できるが、実際私にもこの方が動きやすい。ノランの身ごなしなら私の助けがなくてもゴブリンの後れを取らないし、弓使いと斥候の組み合いも偵察に最適だった。


決して──多分、ノランと二人きりになりたい訳、じゃない──かも。


どういう感情だ、これは。


何で、アニタとルミエラと目が合うと気後れするのか。


「……もう、分かったわよ。ただしノランもシャルも、絶対無事でいてよね!」


「約束しようよ。これならアタシたちも安心できる」


「もちろんさ!」


「……はい。約束します」


少し心が痛い。


荷馬車に向かって数歩歩いたら、急にルミエラが振り返って私を掴んで、ほかの三人と離れたところに連れて行った。




「ルミエラ……う」


チョップされた。ちょっと意味が分からない。


「ノランを独占したいのは、別に悪くないわ」


「……」


「私の勘違いだったらごめんなさいね。でも余計な事を考えてもしょうがないわ。アニタだって私だって、ノランを独り占めしたいのよ」


「貴女たちも……ですか」


「そうよ。でもアニタも、今や貴女も、私にとってノランの同じ大事だわ」


これはちょっと嬉しい。


何故かルミエラに呆れた顔で笑われた。


「最初の貴女……いや今もだけど、あまり表情に出さないから何を考えているのか分からないけど、馴染んたら分かったわ。貴女の目、本当に感情豊かなのね」


「え」


「考える事までは知らないけど、今の貴女はどんな気持ちぐらいなら分かるつもりよ。だから余計な事は考えないで、機会が来ると独り占めすればいいのよ。私だってそうするわ。でもまあ、貴女とアニタなら、別に共有しても構わないよ」


「……」


何故か、心の痛みが消えた。


少し塞がった気持ちも、嘘みたいに楽になった。


だから思うがままに、ルミエラを抱きしめた。


「わ、い、いきなり何よ」


「ありがとう。私も、ルミエラが大好きです」


「……よくもストレートでこんな事を言えるわね。こっちが恥ずかしくなるわ」


「さっきルミエラの話した事と、同じですよ?」


「はいはい恥ずかしいセリフはここまで」




アニタも抱きしめた。


「うお、急にどうしたの」


「アニタも大好き。だから……フウカも、無事でいてね」


「あらあら」


「……それはこっちのセリフだけど、まあ、はい」


アニタに抱き返された。


「気を付けてな。あと、あまりノランを甘やかすなよ。すぐ調子に乗るから」


「僕にだけ厳しいな君達」








正直、セックスは嫌いじゃない。


寧ろ好き、と言っても良い。


ノランが優しくするのが原因の一つかも知れないが、実はあの日、レベル三たちに弄られた時でも、あまり嫌悪の感情は抱いてなかった。


気持ち良いのが好き。


あの時師匠が来なかったら、あのまま続けられてたらどうなるのか、と考えると下腹──多分子宮の辺りが疼くなる。


そうなると無性にノランの性器が欲しくなる。


言い方が固い、としばしば言われたが、他の言い方はどうしても慣れない。


ノランの言う事によると、私の体は女性の中ではかなり敏感な方らしい。満足し易いというか、イキ易いというか、他の女性に比べて、少なめの刺激だけで火が点く。


「ノラン」


「ふーん?」


「偵察中ぐらいは控えて」


「……ごめん」


私でも性感の信号を止められないから。


達した時は一瞬だけ意識を失い、その後少なくとも二秒ほど行動できなくなる。いつ突発状況が起きるのかが分からない場合、流石にそれは不味い。




ゴブリンの動きは未だに変わらない。


ホブの数は二十体ほど上方修正して、マジシャンまで数体確認できた。ジェネラル、というホブ種より一回り大きな個体は一度だけ見かけた。


「あれ、もうほぼオークじゃね?」


言いたい事は分かるが、あれはああ見えてもゴブリンとして分類されたのだから。


「何かを言ってそうだが……流石にここからは聞こえないか」


「ゴブリン語は解らないから、聞こえても意味はないよ」


「まあ、ゴブリン語の研究してるやつはそういないよねー」


言語は疎か、生態に詳しい冒険者なんてもほんの一握りでしかいない。こうやって誰もゴブリンを脅威として認識していないから。


一般的に、ゴブリン討伐は駆け出し冒険者の仕事だと認識されている。それはレベル三ほどの冒険者の中でも常識と言える。


そして討伐しに行った駆け出し冒険者は大体帰って来ない。運良く逃げ延びたとしても、事実を言うだけで他人に笑いの種にされる事がほとんどだ。


群れが大きくなって、繁殖期に入ったゴブリンは大きな動きがなくなる。あるとしても巣窟の近くに糧を獲りに行くだけだから、それも脅威だとされていなかった。


繁殖期が終わって、進化を遂げたロードに引率されて大進行を始まる途端に、国家レベルの脅威になり得る。


一足遅れただけで、伯爵領の一つが消えて無くなるほどの。


ゴブリンは弱い。が、それは通常種、加えて群れになっていないゴブリンに限定した事だ。


群れを結成したゴブリンは、レベル二の冒険者でも油断すれば死ぬか、捕まれて苗床にされる。


ホブ種やマジシャン単体なら、レベル三の冒険者で事足りるが、単体のゴブリンは普通に遭遇しない。数体の通常種だけでも隣にいると、レベル三の冒険者でも死ぬ。


ジェネラル種は稀にしか発生しないが、レベル四の五人パーティーでも太刀打ちできないぐらいに強い。単体の話ではなく、ジェネラルとやり合うとは一つのゴブリン軍団の相手をする、という事だ。


何せジェネラルは何処にでも群れを召喚できるから。そして知能が高い。


オークと雰囲気が近いから勝手にオークの強さだと判断するのは自殺行為だ。通常のオークが五体くらい束ねても単体のジェネラルに虐殺されるだけの事。トロールなら勝ち目はあるが、それでも群れの召喚をさせられたら終わりだ。


ロードについては、明らかにされた情報が少ないから、詳細は知らない。


一説ではレベル五の複数人で相手にする必要はあるが、そもそもレベル五冒険者の中でも強さの段差が激しいから、話もややこしくなる。


師匠なら一人で何とかなる気がするが。




ノランと交代で偵察して、交代の短い間だけセックスして、このまま数日が流れていた頃。


いつもより早いうちにノランが険しい顔で戻って来た。


「動きがあった。ロードらしいやつも」


大進行が始まった。


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