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オルザランドクロニクル 破滅の章  作者: サイコパスおっさん
破滅の章
5/25

その伍

「頭がはっきりしたか?」


「何でここにいるのですか師匠」


「貴様の処女を救いに来た、とでも言えばどうだ」


「求めていないのにいった」


殴られた。


火照った体を鎮めるには丁度良いのだが、痛い。手加減しないのね師匠め。


「あんなか弱い男どもに言いようにされる弟子を育てた覚えはないが」


「こっちは師匠と違って駆け出しの冒険者ですけれど」


「もっと賢いやり方はあるだろ、貴様なら」


「私は別に何でも上手くできる天才じゃないのですよ。普通に満足させれば良いだけじゃないですか、減るものは無いですし」


「肉片一つ減りそうだが」


「所詮肉片でしょう?」


師匠は愉快そうに笑った。


「カインの小僧は発狂しそうね」


「どうしてここであいつが出てくるのですか。あいつとは関係無いでしょう?」


目元は見えないから分かり難いが、師匠に呆れた顔を向けられた。


「まだ気付いて無いのか」


「何がですか」


「……いや、良い。余が口を出す事では無い」


「はあ」


体が涼しくなってきた。


「……私を連れ戻しに来たのですか、師匠」


「何処へだ」


「いや、カインの手下じゃないですか、師匠は」


「協力者だ、馬鹿弟子が。余は自分の為に動くだけで、小僧に命令される筋合いは無い。従えてるように見えたのは、単に利害が一致する時の事だ」


「……そんなに違いないと思いますが」


「やはり連れて帰ろうか」


「ごめんなさい」


やっぱり苦手だ、師匠は。




師匠に半殺しにされた全裸のレベル三たちは街の治安官に連行された。罪名は強姦未遂だそうだ。


私がされた事は明らかにされていない。罪名が決まったのは師匠の摘発だけで済んだ。レベル五って凄い。私が部屋に居ないのを、師匠に急に呼び出された事にした。ついでにノランたちに師匠を紹介した。


ノランは一分ぐらい固まった。


「僕と、僕とデートしてください!」


「何だこの小僧。頭沸いてるのか」


「いつもの事です、師匠」


「しし……へ?ししょう?」


ノランが壊れた録画みたいにオウムした。


「えっと、はい。私の師匠です」


「お前すげえなシャル」


シャル?と眉毛を揚がった師匠は見なかった事にする。


「じゃあ、僕も鍛えてください、師匠!」


「貴様の師匠になった覚えはないが、無理だ。貧弱過ぎて訓練に耐えられずに死ぬ」


「えっ。訓練だけで死ぬのか、僕」


「死ぬさ」


ノランが真っ白になった。


が、一秒足らずに復活した。


「じゃあやっぱりデートしてください」


「おお。恐れ知らずにグイグイ来るな、小僧」


「粘り強さが取り柄なんで、僕は」


「良かろう」


アニタとルミエラの目が飛び出した。


「いいんっすか!?」


「良い。元々明日まで滞在する予定だからな、余興があって丁度良い。夕刻になったらギルド前で待ち合わせをしよう。エスコートは任せたぞ」


「任せてくださいっす!」


驚き過ぎて固まったアニタとルミエラ、そして舞い上がったノラン。


うん。


三人とも、強く生きてね。




翌日、艶々になった師匠が発った後に残されたのは、搾られ過ぎてマミーになりかけたノランだった。


三日目で回復はしていても、ノランは腰を痛めて一週間ほど立てなくなったので、昇格試験は延期された。








「ねえねえ。シャルはいつになったら、僕に抱かれるんだ?」


「考えて置きます」


「ん?んん?なんか返事が変わったね!つまり前よりも希望はあるってこと?」


「考えて置きます、と言っただけですよ、先輩。今の先輩はまだ私が身を捧げるほど魅力的じゃないのです」


「でも、前よりは魅力的になったんだよね」


「……まあ、そう言ってもあながち間違っていないのですが」


「よっしゃあ!しゃあこれからもっと攻めれば、いつかシャルは抱かせるんだな!」


「あまり期待しない方がお勧めですけれどね」


「ちなみにおっぱいぐらいは触らせてくれない?」


「ん?あ……」


少しだけ考える。


自分でするのと、他人にされるのとはやはり異なるそうだ。それについては、興味がある。


「触るだけなら、別に構いませんよ──胸にだけでなく、どこにも」


「イヤッホー!」


飛び上がったノランを横目に、アニタとルミエラは心配そうに私を覗き込んだ。


「シャル、大丈夫?熱でもあったの?」


「ノランを甘やかし過ぎるのは駄目だわよ、シャル」


「え、二人が言う事ですか」


「「……」」


女子二人は顔を真っ赤にして目を逸らした。




「先輩」


「なにー?」


「触って良いとは言ってましたが、依頼中ぐらいは控えてください。ただでさえ体を洗うのもままなりませんのに」


「……ごめん」


しゅんとなったノラン、不覚にも可愛く思った。


最近のこいつに対するイメージは段々チャラ男と掛け離れて、大きな犬になり始めた。


ただしこんなめっちゃ熱い野営中に体中をどろどろ濡らされるのは勘弁して欲しい。ズボンも臭くなるし。


水場があればなんとかなるが、無い時には本当にテントみたいな密閉空間なんて入りたくない。


たまに小川を見つけて野営する時、言い方は悪いのだが、傍から見ると完全にノランのハーレムにしか見えない。


女子三人と一緒に川風呂をするとか。


夜な夜な淫靡な声を上げるとか。


四六時中裸になるかされるか。至るところでセックスするとか。更にもっと自由にやれるように、ルミエラが避妊の魔法を学んでノランに掛ける始末。


正直気にしないと言うのなら嘘になる。


三人を正せるとかではなく、思春期特有の『セックスを試したい』という気持ちだった。


入らせる時はどんな感じなのか。中に出されるのは本当に気持ち良いのか。


ノランとしても構わない考えが頭に過る時もあったが、いつも何かに後ろ髪を引かれる。


素股という性器の擦り付け合うまで許したので、うっかり滑り入らせたらしょうがないと思っても良いのだが、約束に対しては意外と律儀なノランはそうしなかった。




罠でトロールを嵌める練習が功を奏して、パーティー全員の昇格試験は無事にクリアした。


初めてトロールを討伐した時の三人の興奮具合は筆舌尽くしがたい。


三人は順調にレベル三に昇格し、私はレベル二になって、中堅冒険者の行列を踏み入れた。


平均レベル三のパーティーになると、比較的に報酬のいい依頼はこっちにも回るようになった。勿論危険性もそれなりに増したが、三人とも事前準備と装備の点検、新調などの重要性を確実に理解できるようになったから、予想外の事態に遭う時も慌てること無く着実な対応ができる。


路銀も滞りなく貯まってて、遂に帝都に一番近い街まで入る日に、少し異様な雰囲気を感じ取った。


街中の空気が重い。


まるで何かと戦争をしている最中みたいにピリピリする。


ギルドに入ると、中では職員たちが慌ただしく依頼を回ったり、依頼達成の報告を受けたりしている。何組の帰還したばかりのパーティーが入り口の近くで休んでいて、報告の順番を待っていた。酒場は相変わらず騒がしい。


僅かな錆びた鉄の匂いが漂っていた。


ここにいる冒険者たちはほぼ、重かったり軽かったりな傷を負っていた。街の司祭たちまでギルドに出張しに来るのを見る限り、ここら辺は既にかなり厳しい状況になっていたらしい。


カウンターは暫く近付けないと分かって、掲示板を覗き込んだ。


「これは……」


普段なら軽く冗談を飛ばしたノランすら重い面持ちになった。


「不味そうだわ」


「今はここに来ていいタイミングじゃなさそうね」


掲示板に積み込まれた大量の依頼書。


オークとかトロールとかはまだ受けられた痕跡は残っているのだが、ゴブリンの討伐依頼はもう二ヶ月前のものまで詰まっていた。


「ゴブリン、人気ないのですね」


「まあ、報酬は普通にうまくないから。あとゴブリンの耳ををいくら上げても、冒険者の名声にならないってね」


「呑気だわね。巣窟を放置したら不味いことになり得るのに」


「ゴブリンは弱いって印象だから。その二ヶ月前の依頼、多分もう村ごと滅ぼされたよ」


「依頼の出所はほぼ近隣のようです。もうかなり大きな群れになってもおかしくありませんね」


私の言葉を聞いてノランは頭を抱えた。


「もうジェネラルが居ても驚かないぜ……これ以上放置したら大進行になる」


「ロードが発生したらレベル五案件で、私たちは手も足も出ません。一気に達成すれば報酬もかなりの額になりますが、受けるのですか?」


「危ないのだけれど。もう一人、できればヒーラーが欲しいところだわ」




「すみません」


後ろから声を掛けられた。


振り返ると、そこはワソウという極東の島国『ヤマト』の民族衣装を身に付けて、白木製の鞘に納めた単刃武器『カタナ』を持っている黒髪黒目の美人が立っていた。


「盗み聞きするつもりでは御座いませんが、皆様の話をうっかり耳にしまして。どうも皆様、ひぃらぁをご所望致しますのでしょうか?」


全員黙り込んだ。


ノランは如何にも入らせて欲しい顔をしているのだが、流石に躊躇はするようだ。


この女、どう見てもヒーラーじゃないから。






「本物だわ」


酒場の隅の席に移った。


神殿の紹介状を彼女に返し、ルミエラは肩を竦める。


「この子、正真正銘のヒーラーなのよ」


「宜しければ、お試ししても構いませんので」


「大丈夫だ、とりあえずその得物を下ろしてくれ」


同じ剣使いの勘が働いたのか、アニタは慌てて何かを斬ろうとする彼女を宥めた。


「自己紹介しようか。僕はノラン、一応パーティーのリーダーだけど、うちの方針は話し合いで事を決めるから、肩書きはあまり気にしなくていいよ」


「アタシはアニタ、パーティーの前衛担当で、騎士なんだ。よろしくね」


「魔法使いのルミエラよ」


「前衛も兼ねて、普段は斥候を務めるシャルです」


女性は礼儀正しそうに頭を下げた。


「ひぃらぁの風華、冒険者のレベルは三で御座います。御覧の通りヤマトの出身で、剣に関しても少しだけ心得が御座いますので、いざという時には前衛を補う事もできます」


「活躍、期待していいよね。ちなみに彼氏とかいる?」


フウカは思わずキョトンして、アニタとルミエラは目を覆った。


「……交際相手か、ですか?御座いませんが」


「やった。じゃあ、スキンシップとかは大丈夫の方?それとも触れ合いが嫌い?」


握られた両手を少し見て、フウカは困ったように苦笑した。


「あまり度が過ぎなければ、触れ合いは構いません」


ノランは嬉しそうにフウカの隣の席に変わって、手とか肩とかベタベタ触り始めた。


そうか。私が入った時、アニタとルミエラはこういう気持ちなのか。


別に嫉妬とかじゃないが、少しだけ寂しい感じがする。




新メンバーを迎え入れ、私たちは数件のゴブリン討伐の依頼を整理してやっと空いたカウンターへ向かった。


その数件を同一、一定規模のゴブリンの群れだと仮定し、それを確定にするための調査をギルドに委任発注して、その調査依頼を引き受ける事にした。


仮定が当たった場合は即座に討伐依頼に切り替える事ができ、当たらずとも数件平行に遂行する事ができる。ただし後者の場合は他のパーティーに先を越されるリスクがあって、前者なら危険過ぎてやむ無く撤退する可能性も充分あり得る。


だからこそ、こんな一見無茶な注文は通される。


加えて、近頃は何故か魔物の活発が顕著になって、さらに上位クラスの変異種も頻発に現れ、ギルドは今や猫の手も借りたいほど大忙しな状況に陥ったから、詰まった依頼が解決できればと話も通し易い。


全部師匠の受け売りだがね。


狭いところに適した装備に換装し、応急用の解毒や治癒のポーションを一通り揃える。一応、群れの規模が想像以上に大きかったら、村が占拠されるのも想定して中型の武器を予備として携わって、最後は借りれる荷馬車と馬を確保。


私がそれらをこなしている間、アニタは皆の装備の点検をして、ルミエラは使えそうな魔法を記憶する。フウカはもう記憶済みだそうで、普通に暇なノランに付き纏わされた。


ただ、フウカは見掛け寄らずに男に慣れていたようで、ノランもあまり手応えは得られなかった。




「皆様は全員、ああいう関係なのでしょうか」


翌日、出発後の荷馬車で、フウカは物珍しそうに寄り添う三人に問い掛けた。


私は馭者番なので荷台にいない。


「そうだよ。皆は僕の大事な恋人たちなんだ。よろしかったらフウカも入らないか?」


「つまり……所謂はぁれむ、で御座いましょうか」


「さあ……二人はどう思う?」


「思っても思わなくてもハーレムよ。これぐらいの覚悟もしてなかったら、逃げられても泣かないでね」


「アタシはまあ……もう自分で納得したよ」


ノランは嬉しそうに二人を抱き締めた。


「ふむふむ。では、シャル様は違いますのでしょうか?」


「シャルは攻略中。ちなみにフウカもね」


「ほう。ということは、お二方のような関係にはあと一歩及ばないどころでしょうか」


「うん。シャルはまだ僕に心を許していない。これから頑張って落とすつもりだよ」


「でも、こうして私に構え過ぎますと、シャル様は逆に落とされなくなりませんか?」


「それも頑張って繋ぎ止めて見せるんだ」


「大した自信、で御座いますね」


「僕の愛は広いから」


「はあ」


フウカは呆れたように苦笑した。


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