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オルザランドクロニクル 破滅の章  作者: サイコパスおっさん
破滅の章
4/25

その肆

「アリーシャはどこに居るの?」


帝都、クレムリア宮殿、皇帝執務室。


机の後ろで、カインが淡々と皇帝の業務をこなしている。その姿を腕を組んでいるアンジェリカに睨まれていた。


カインの後ろに立っていた黒髪銀目の女性は、何も関心がないように無表情を貫いている。


御四家の他三家の中に、ゼノタイルとシュナイディオはもうアシュサイファを支持する意向を明らかにした。皇帝ゼオスにいい印象をまったく抱いていなかった帝都の民に至っては、もう皇帝をカインに継がれても異論はないほど支持の声が高まっていた。


しかしカインは頑として摂政の位置だけ納めていた。それで支持の声は更に熱狂的になった。


サリット家はほどんとの当主業務は娘のアンジェリカに継がれているので、未だに明確な立場を取っていない。娘に当主を継がれるのは、長男のベックが次期当主の継承権を自ら放棄し、勘当に近い形で家に追い出されたから。


当主のサリット公爵は随分と前に不治の病に冒され、もうベッドから起きることさえ望めなくなった。今やアンジェリカは実質上の当主であり、それでも激務に追われた合間を縫って、帝都まで訪れた。


友人の安否と、もう一人の友人の疑いを晴らすために。


「それは私にも知らないさ」


視線を合わせるのも無く、カインはただ有るか無きかの微笑みを浮かべた。


アンジェリカは力一杯机を叩いた。


「巫山戯ないで!貴方は知っているのでしょう?アシュサイファ家の葬式の日から、誰にもアリーシャを見た事が無かったのよ!」


「それで私の関与を断定するには、些か見込みは薄いとは思わないか」


「貴方が動いていなかったからよ。アリーシャが失踪したというのに」


「……」


「それとおかしかったの、貴方がクーデターを引き起こす前の陛下の動向は。まるで誰かが唆していたように、ね」


カインの手が止まった。


「もう一度言おう。私はアリーシャの行方を知らない」


「それを信じろと?」


「信じるも信じないも、君次第だ。私にはこれ以上の言うことはないさ」


机に乗った手を引いた。


「アリーシャに何があったら、ただでは済まさないわよ」


「ご自由に。外す前に一つ聞かせろ」


「何よ」


「サリット家の意向は?」


アンジェリカは一際大きな息を飲んだ。


「中立よ。貴方が疑いを晴らせる前に、支持なんてしないわ」


「そうか」


アンジェリカは執務室を後にした。




「──ノア」


暫くして、カインが後ろにいる女性に声を掛けた。


「はっ」


「サシャと手分けして、アリーシャを探せ。当てがあったら、直ちに私に報せろ」


「畏まりました」








幾つかの依頼をこなして、パーティーとともにアシュサイファ領を出た。


どうやらこいつらも帝都を目指しているらしい。


「いやあ、別に大公領での生活に不満があったわけじゃないけどさあ。でも帝都だぞ?冒険者なら一度くらいは行かないとな!伝説の冒険者達に会えるかも!」


珍しくチャラ男節が潜めて、キラキラ輝く年相応の少年の目をしたノラン。不覚にも可愛く見えた。


「もう、ノランったら」


女子二人は見慣れたように、慈愛溢れた視線で見守っている。


こいつ、母性もそそられるのか。


「伝説の冒険者ですか。先輩は誰に一番会いたいのですか?」


「そりゃもちろん、金色の鷹──サシャさんだな!絶対美人に違いないしさ!」


「……ぶれないですね、先輩」


溜め息を心の中に留めた。


サシャという人は……まあ、知っている。


大陸で七人しかいない最上位冒険者の一人で、大剣使い。七人の中でも一二を争うほどの強さを持っている。


カインとはまったく別方向に強くて、私の体術の師匠でもある。


髪色だけ見ると王族の血を引いていないかすら疑われるが、出身に関しては全てが霧中で、誰も知らない。


あだ名の金色の鷹はホロベンノの家紋であって、一説では先代皇帝から授かった称号だとか、或いは彼女の血統を示唆する隠し意味だとか、謎は深まるばかり。


正直、彼女は苦手だ。


いつも目を覆う黒いゴーグルを着けていて、素顔を知る人はほとんどいない。露出した下半部の顔からすると十代二十代ぐらいの若い女性に見えるが、その威圧感はドラゴンのババァにも引けを取らないほど強い。


カインと何かの条件で協力関係を結んでいるそうで、多分カインに続いて、今私が一番会いたくない人。


帝都に入る前に何とか逃げよう。


私が居なくてもこいつらは大丈夫だ。


「そう言えば、昇格試験の依頼を受けたぞ」


「え」


「いつの間に……って、どんな依頼なのかしら」


「トロール討伐って」


「トロールか……」


うーんと唸って、アニタは悩む顔をした。


「今のままで勝てるのか?アタシたち」


「クックック、我に策あり」


「気持ち悪いのですけれど、先輩」


「何かしら、その自信」


「トロールの弱点ぐらい、もう把握済みだぜ」


「弱点?どんな」


ほう、事前準備をしていたのか。見間違えたよノラン。


「トロールは肌が固い、物理も魔法も通り難いがね、炎に弱いんだそうだ」


ん?


「そしてあの図体にしては、意外と打たれ弱い。気絶さえさせればこっちのもんだぜ」


何、そのエセ情報。


「あの、先輩」


「なになに?ついに僕に惚れたかシャル」


「寝言は寝ている時だけにしてください。その情報、誰に教わったの?」


「あっちの親切なお兄さん」


「あの金髪褐色肌爽やかな笑顔で、如何にも寝取りの達人って顔に書いてある人?」


「言い得て妙なんだが、その人」


貴方、女の尻に付き纏う以外の才能はないのか。


「騙されてますよ、先輩。その情報に基づいて準備して挑んだら、全員あの世行きですよ」


「「「え」」」


貴方たちなのだが。


或いはあの人にトロールを倒せる手段があって、ノランがくたばった後に大怪我して動けなくなる女子たちの回収が狙いだったのか。


「良いですか?トロールに正攻法なんて力比べでしかない自殺行為ですよ。炎にも弱くない、むしろ強い方です。というか皮膚ぐらい焼かれても、その脅威的な再生能力で掠り傷にすらなり得ませんよ」


「マジか」


「そしてトロールは打たれ弱いなんて五歳児ぐらいしか騙されない嘘です。見れば分かるじゃないですか。あの図体で自分の同類に殴られても気絶するかどうかは分かりませんよ」


「……僕、五歳児以下なんだ」


「アタシたち、危うく死ぬところだったのか」


「死ななくても、酷い目に遭うのは間違いないのでしょうね」


「くそ、騙しやがって……」


「落ち着いて先輩。認識票、見えました?」


「──レベル三か」


「少なくとも、私たちよりベテランの冒険者です。その戦闘経験も人脈も、こんな初心者から何歩かだけ前進したばかりのパーティーにとって、厄介でしかありませんよ」


ノランは溜め息をついた。


「我慢しかないのか」


「そうですね。騙された件は別として、向こうがちょっかい出して来ない限り、無視する方が得策です」


「それはいいんだが、トロールはどうするんだ」


「トロールの弱点は……強いていえば目玉とか、口の中とか、鼻の穴ぐらいしかないのです。一番効率的なのは首を切断するのですが、今のあな……私たちにとっては現実味がありませんので論外としましよう」


「やはり難しいのかしら」


「そうとも限りませんよ。トロールに対して、とびっきりの罠があります」




「にしてもシャル、えらく詳しいな」


「そうだわ。まるで討伐したことあるみたい」


実際殺した事はあるのだが。


「……私の師匠は、ベテラン冒険者なのですから」


「「「へぇ」」」


嘘は言っていないよ。






「やあ、マントの嬢ちゃん」


あれ。


帽子を被っているのに何故。


「何か用ですか?レベル三の先輩」


「うんうん、声から既にかわいい。君があの三人で一番かわいいだと、俺の勘がそう言っている」


「ありがとうございます。用件が無ければ、私はこれで」


「待て待て」


壁ドンされて行く道を塞がれて、もう一方の手に遠慮なく帽子を掲げられた。


「ヒュー、これは大当たりだな!どうだ?あのヒョロガリ野郎なんて捨てて、俺のパーティーに入らないか?キャリーしてやるからさ」


「遠慮します」


首筋に触れようとする手を避けた。


「そこを退いてくれませんか?用事がありますので」


「おお。いいのか?」


止められてないのだが、何かを言い様な口振りで足止めされた。


「どういう意味ですか」


「いやなに。君は用事をしに行くのは止めないが、俺が手ぶらで帰れば、俺のパーティーがヒョロガリ野郎と女の子二人に何をしても、分からないんだがね」


「……」


「いい取り引きだと思うぞ?君一人だけ俺たちと一晩過ごせば、君のパーティーは何事もなく昇格試験へ向けれるさ。零時まで待ってるから、考え直したら三○五室にノックしてね?──マントの中身、靴以外全部外してから」


耳元に粘り着く声を残して、男は去って行った。


面倒な事になったな。


あのパーティーを全員殺すのは難しく無さそうだが、それで問題が解決するとは思えない。


ノランたちに相談しても解決策は思い浮かばないだろう。


ギルドに報告──は辞めて置こう。こんな奴らは裏でごそごそ報復するのが得意そうだから、下手をすればノランたちが潰されるかも知れない。


はあ。


この顔、本当に厄介事しか持ち込まないのだが。




「ふぅ……ううん──!」


これ、何回目なのだろう。


蕩けた顔を晒した。


無様に腰を浮かべて、潮を吹いた。自分の体はそんなに水分を出せるのかと驚いたが。


足が言うことを聞かなくなった。ただ子鹿のようにぷるぷる震えて、閉まる事すらできない。


とはいえ変化を保つだけで精一杯で、余計な事を考える暇なんてなかった。ここで変化が解けたら流石にとんでもない事になる。


男たちはかなり女に慣れている。


どうやって女性に更に無様を晒させるのかを良く知っている。


本当に、やりたいのならさっさとやって欲しいのだが。


また別人の指が入って来た。


膜を破らないように気を遣っていて、クリトリスを揉まれて、体中一番敏感なところを擦れられて、数秒足らずに再び透明の体液が噴き出した。


「シャルちゃん、敏感だね」


「こんなに弄り甲斐のある女は久し振りだぜ」


男たちの戯れ言を聞き流して、息を整える。


股間が痺れているのに、性器だけが異様に敏感になっていた。熱く腫れていて、風に当たるだけで腰が弾む。


どれぐらい弄られていたのかは分からなくなる。


次の男は執拗に乳首だけ弄っていた。もう一人が太股の間に顔を埋めて、肛門まで舐め始めた。


頭がおかしくなりそう。


人生初めて漏らした時、ようやく一人の男が男性器を突き立てて来た。


レベル三の先輩だ。


何か『俺が呼んだんだから、処女は勿論俺がもらうんじゃね?』とかの理由で他の男たちに言い聞かせた。


ノランより大きそう。少し柔らかい先っぽに、体を抉じ開けられる感じがした。


ああ。


これが、私のはじめ──




部屋の扉が弾き飛ばされた。


木片とリベットが飛び散って、埃が舞い被る入り口に、コツコツと足音が響いた。


黒いゴーグルを着ける女が無造作に踏み入れて、呆けた顔をしたレベル三の先輩を蹴り飛ばす。


「コハッ……!テメエ、何をしやが……る……」


全裸で倒れ込んだレベル三は言葉を詰まらせた。


黒ずくめの女の首元にぶら下げた認識票はレベル五──大陸で七人しか持たないものだった。


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