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オルザランドクロニクル 破滅の章  作者: サイコパスおっさん
破滅の章
1/25

その壱

原作者ではなく、本人の許可を取って代わりに投稿してます。

復讐は虚しいとは知ってる。


あの人を殺しても、大事な人たちは戻って来ない。


それでも。


それでも──








プロムデール帝国、帝都ホロベンノ。


都外には幅300m、長さ2kmの四本の連絡橋としか繋がらない、広大な湖の中に鎮座する人工島。


橋の向こう側は四つの守りだけ固めた防衛領、謂わば規模の大きい関門みたいなもの。出入りには厳たる審査を受ける必要があり、違反が起きる場合、軽くと数時間渡る尋問にかかり、重くと問答無用に牢屋にぶちこまれる事も珍しくはない。


帝都の方には、対で連絡橋を挟む四つの高い塔がある。


建築自体はかなり古いが、今まで崩落とか風化とかもなく、ただ年季の痕に刻まれながら、静かにそこに立っている。


四体のドラゴンは、各々の塔の上に居座っていた。


それは帝都ホロベンノの最終防衛ライン──古の盟約に従って、王家ホロベンノを守るドラゴン族の若き戦士達。


今やただのシンボル、半ば観光名所化したから、百数年しか生きていない、人形に化ける事すらできない若者の派遣仕事になったが、それでも単体だけで一軍に匹敵する戦闘力を持っているドラゴンだ。


しかし、それは十年前までの話だった。




十年前、王妃シャルロット•イレーネ•ホロベンノは死ぬ際に、皇女アリーシャを出産した。


伝説では、王家は先祖代々ドラゴンの血を引いている。時々、先祖返りでドラゴンの特徴を持つ子が産まれる。その子は必ずしも偉業を成す賢王、あるいは非業をやらかす暴君になる。


皇女アリーシャ•シャルロット•ホロベンノは、今まで一番濃いドラゴンの特徴を持って産み落とされた。


背中全体から四肢を覆う黒い鱗。


小さな手から伸び出す鋭い爪。


ドラゴンのように歪んで変形した足。


顔の両側、まるで頬骨が伸びて突き出したような角。


そして、黄金色の、縦長の瞳孔が付いた目。


アリーシャの生誕祝いに参った四人の若きドラゴン戦士は彼女の貌を驚き、すぐさまにドラゴンの帝に報告した。


そしたら千年ぶりに、ドラゴンの帝が十二人の近衛を連れて帝都に来訪、国中が大騒ぎになった。


赤ん坊はドラゴンの帝から祝福を受け、その日から四つの塔の護衛はベテランの大戦士に変えられて、しばらくして帝子の教育係も帝都に住み着き、皇女の教育を務め始めた。


そのせいで元々貴族達に無能、浪費、女たらしの烙印を押し付けられて、国民からも酷評ばかり受けられた皇帝ゼオス•ルイス•ホロベンノもかなり控えになった。


ドラゴン族に無能認定されると、自分は帝位から引き摺り下ろされかねない事を危惧しているから。


実際、ドラゴン族はそれに対して一切関心を示さなかった。


彼らが気にかかるのは、その特別な皇女だけ。もう一人それなりに濃い王家の血を引いた、アリーシャの十歳上の兄であるバレス•ルイス•ホロベンノ皇太子には言葉を交わす気すらなかった。








記憶のある時から初めて、自分は他人とは違う事を知った。


貌の違い。


知能の違い。


身分の違い。


「貴女が望むなら、この国の姫でなく、ドラゴン族の姫になるのも可能なのでしょう」


ドラゴンのババァが言った。


集中が切れて、変化(トランス)も中途半端なところで留まった私は彼女を見た。


「私、まだ五歳ですよ」


「今すぐでなくても。貴女がこの国の皇帝に継ぎ、子を成し、その子を育てて皇帝に継がせてから考えても、さほど変わりませんよ、若き姫君」


「あなたたちにとって、でしょう」


「貴女にとっても、です」


それってつまり、私の寿命もドラゴン並みの可能性があると。


ババァは返事して来なかった。


ちなみにババァって言っても、別に彼女は老いぼれの妖怪ババァみたいに見えるからじゃない。どちらかと言うとうら若き銀髪の美人の方が正しい。ただその貫禄とか、ドラゴン特有の威圧とか、並外れの知識量とか、この全てを合わせて、ババァと呼ぶことにした。


本人はあまり気にしなさそうだけれど。




気になることじゃなく、ただの気付いたこと。


他人からの目線は、実に多種多様。


ババァからのはドラゴン族の姫を見る、それた相応しい姿に教育しようとしているそれ。正直逃げたい。


父上のは、怯え、羨望、嫉妬、時折化け物を見る目にも絡み付く複雑なもの。


その他。


この国の姫として、何とか縋ってみたい目がその大半。


子供じみた欲情の目。


嫉妬の目。


化け物を恐れる目。


まったく気にしないわけじゃないんだけれど、ただそれほど気にすることじゃないと解っただけ。どうやら他人の目線に関しては、私はかなりドライらしい。


一つだけ、気持ちを安らげられるものがある。


兄上の目。


十歳上の兄上はとくに王族教育から卒業した身で、作法も行いも完璧としか言い様がないほど、次期皇帝の呼声も高い。


それなりに王家の血を濃く継がせているのだが、ババァは挨拶以外に目もくれなかった。差別だ。


その兄上と会って、気兼ねせず話し合うのは、私にとっては得難く気を抜ける時間だと分かっていた。


私を「私」だけで見られたい、というコンプレックスなど大層なものじゃない。


ただそんな人がいると、自然と気楽になれるだけのこと。


兄上に会うと、無性に甘えたくなるのもそのせいかも。兄上も兄上で私を甘やかされたいからウィンウィン。


「いつもより疲れたそうね、兄上」


「まあ……今日の父上の無茶振りはいつも以上に不味いだからな」


「今度は何」


「大通りの広場の噴水を撤去させようとして、金のシルビア様の像を建設すると言い出した」


「それ、ババァに見せられても意味のない愚行だと言い切られるだけよ」


「何度も断られたからな、父上は。今度は閣下達と口裏を合わせて有耶無耶にしたが、次はどうするかを考えている最中だ」


「いっそう、議会から放逐すれば?」


兄上に驚きの目を向けられた。


「それは……可能、だがな」


「どうせ居てもただの声出しオブジェよ。逆に居ない方が楽なのかも」


「……」


「兄上。情けが成すべきことの邪魔をするなら、それを成し遂げる為にも、切り捨てる決断は重要だと思うよ」


「はは。アリーシャ、本当に五歳?」


「ピチピチの五歳よ」


頭が撫でられた。


「少し考える」


「……」


部屋の外にいる足音が遠ざかる。


そんな時間、あるといいな。








結果として、父上は私たちの思ったより頭が悪かったと思い知らされた。


いつもなら申し訳程度の羞恥心で使わなかった皇帝決策権を以て、十五歳の兄上を勘当して辺境まで飛ばした。貴族たちの反発を受けても、今回ばかりは譲れなかった。




「ごめんなさい」


「アリーシャ?」


荷物を纏める最中の兄上を抱き着いた。


「こうなるのを予想すべきだった」


「君はまだ五歳だよ、アリーシャ」


「五歳でも」


「……僕がいなくても、アリーシャは大丈夫だろう。いつも思うんだ、アリーシャは僕なんかより、ずっと皇帝に相応しいとな」


「そんなことないよ」


私は、兄上みたいに人を愛せないから。


「兄上」


「うん?」


やっとマスターした変化で、完璧な人間化を見せた。


「いってらっしゃい」


「……いってくる。凄く綺麗だよ、アリーシャ」






「御目にかかりまして光栄です、皇女殿下。宴の後の予定、伺いても?」


「捻り殺されたいのならそう言えば良かったのよ、ベック」


「ひぇ」


十歳になった。


ババァからドラゴン族の教育、他の先生から王族の礼儀作法を一通り学んで、お墨付きにされたら、滞りなく披露宴が行われた。


王族の姫、かつ現在唯一の帝位継承者の披露宴なので、国中の貴族たちはほぼ全員集まった。用事で来れない人たちでもどうにか息子や娘を送り込んで、何としても繋がりを持つようにする。


お馴染みの顔触れもいる。


帝国首席貴族と呼ばれ、国内最大かつ最も豊かな領地を持って、家族全員真白な髪と淡い青色の瞳を持つアシュサイファ大公家。


エリート魔法使い家系、燃え盛る炎のような赤い髪が特徴のサリット公爵家。


長年西の辺境防衛を担当する、家族共々巨体が特徴のシュナイディオ辺境伯。


そして北でクロガネの鉱脈採掘を一手で統括する、資源の分配と貿易流通を担う、ダークエルフの混血ながらも侯爵まで積み上げたゼノタイル家。


この通称御四家の子息たちは、六歳の頃からの顔馴染みだ。


同い年のアンジェリカ•サリットとは一番の仲良し。公爵令嬢というより、じゃじゃ馬令嬢の性格にも気が合う。二つ上の彼女の兄であるベック•サリットは顔がいいんだが少しチャラい。


皇女の私に対しても平然と口説いに来る度胸は認めるが、初対面では流石にどうかと思うのでアンジュと一緒にガッツリ締め上げた。


隣には十二歳時点で190cmを超えたルオン•シュナイディオ。しかし豪気な父とは違ってかなりの恥ずかしがり屋で、特に女性に話しかけられると真っ赤になって縮み込むのはよくあること。縮み込んでも充分大きいのだが。


それでも一生懸命アンジュに話しかけたり、彼女の為に何かをしようとしたりと傍から見れば明らかなアピールをしていたが、本人にはまったく気付かれてなかった。


もう一人は普通に人見知り、先祖返りで青黒い肌とプラチナの髪、さらに尖った耳を持つドミニク•ゼノタイル侯爵令嬢。


人見知りのは外見もおろか、家族事業の故に背中に成金貴族という陰口を叩かれたこともしばしばあるから。


それも私たちと親交を深めることで一応抑制されたけれど、今度は胡麻擂りとか、私と並べて化け物姫コンビとか呼ばれて、危うく引きこもりになりかねた。


そこから陰口を叩く人は私が洗い出し、ルオンとベックとアンジュに締め上げられ、仕舞いにゼノタイル侯爵に貿易通路全部断たされて、当の家族の当主が娘を連れて謝罪されたことで、この件は終息した。


実は、あいつもきっと一枚噛んでると確信しているよ、私。


最後の一人である、一番年上の二十歳、現王妃のラゼニアの弟のカイン•アシュサイファ。


腰回りまで伸びた白い髪、切れの長い青い目、ルオンと並べても小さく見えないほど長身の美青年。感情を抑えるのは慣れるそうで、目に向けられてもあまり読み取れなかった。


さっきが言った化け物姫コンビ事件は、初めて彼が感情を剥き出すのを見た。理由までは知らないが、事件の後にあの家族が目に見える勢いで没落したことは、恐らくカインの仕業に違いない。


「貴方も可愛いところがあるのね」


「何の話?」


帝国トップの家族に生まれ、大抵の女子が一目惚れになり得る美形で、武力は多分帝国でも五本指に入るほど強い。


この年で私の剣術指南役を務められるものね。




この五人に囲まれて、子爵以下の貴族たちが近寄れなかったが、伯爵以上なら面皮も厚い分、貴族の子息にも物しない権力を持っているから、やはり蝿のように群がって来た。


適当にあしらうのも限界があって、最初から胡麻擂り貴族たちと歓談している父上には元々頼るつもりはなかったので、カインを頼んで早々会場から退散することにした。


とくに成年して、大公家の勢力にも加えて、ほとんどの貴族に対しての抑止力はそれなりにあるから、こういう場合はとても便利。


お陰でいつの間にかカインと婚約を結ばれたことまで噂されたのだけれど。






披露宴での社交界デビューから、貴族たちからのパーティーの誘いも当然のように多くなってきた。父上が贔屓してる奴らは論外にしても、選別を必要とするほどの数は依然としてある。


御四家があるのなら普通に優先はするが、そうじゃない場合ならせめてアンジュやカインも出席する予定のパーティーだけに絞る。


それでもほぼ月に三回以上の頻度で飛空艇で国中に飛び回る羽目になるけれど。


兄上と連絡を交わしつつ、情勢の把握にもなるパーティーを出席して、あっという間に私が成年の日──十五歳の誕生日に迎えた。


台湾人ですぴょん

誤字、誤用があれば遠慮なく指摘して、あるいは無視して構いませんピョ


原作者より

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