書籍3巻 発売記念SS 風邪
『姉のことが好きな筆頭魔術師様に身代わりで嫁いだら、なぜか私が溺愛されました!? ~無能令嬢は国一番の結界魔術師に開花する~3』(電子専売)が発売されました(*´∀`)♡
レーベルはMノベルスf様!(双葉社)
全編書き下ろしになっております!
是非お手にとってくださると嬉しいです……!
よろしくお願いします!
肌寒い風が吹くその日、テティスは替えの水を乗せたトレーを持ち、ノアの部屋の部屋に訪れていた。
「ノア様、失礼しますね」
「えっ、テティス、どうして……ゴホゴホッ」
「ノア様!」
咳き込むノアのもとにテティスは急いで駆け寄る。
ベッドサイドにあるテーブルにトレーを置くと、ゆるりと上半身を起こしたノアの背中を優しく擦った。
「起き上がってはだめです。熱があるんですから」
「大丈夫だよ。昨日ほど熱は高くないし、咳が少し残っているだけだから」
ノアはそう言うが、平常時と比べて頬が赤い。
夜着から覗く身体はしっとりと汗ばんでおり、目もトロンとしているようだ。
「それでもだめです! さ、横になりましょうね」
「……はは。そんな心配そうな顔で言われたら、従わないわけにはいかないね」
ノアは困ったように笑いながら再びベッドへと体を戻す。
テティスがホッと胸を撫で下ろしてコップに水を注ぎノアに手渡すと、彼はそれをコクリと飲んでから口を開いた。
「……ところでテティス、どうして俺のところに来たの? 風邪が治るまでは会いに来ちゃダメだよって伝えてあったよね?」
確かに、ノアが熱を出した二日前に、ヴァンサンを通じて見舞いには来ないよう言われていた。
テティスが結界魔術師という稀有な存在であるからというのもあるが、何より愛する婚約者に風邪を移したくないからだと理由を添えて。
「それは……」
ノアはわりと体が頑丈で、普段からそう風邪を引かない。
少し体調を崩すことがあってもだいたい一日休めば全快していた。
その経験から、テティスはヴァンサンからの伝言に従い、昨日はノアのもとを訪れなかったのだが、今回はいつもとは違ったのだ。
「申し訳ありません……熱が二日も続くなんて心配で……。皆さんにも止められたのですが、どうしても傍にいたくて」
「……大切な女性にそんなふうに言ってもらえるなんて男冥利に尽きるけどね。……でも」
ノアはテティスの手をそっと掴む。
彼の熱い指先に、相当辛い状態なのだろうと改めてテティスは悟った。
「テティスのことを苦しませたくないから、今日はもう自分の部屋に戻るように」
「はい……」
「それと、ちゃんと手を洗ってね。それと暖かい格好して、しっかりご飯も食べてから早めに寝ること。いいかい?」
ノアの言葉に、テティスはふふっと笑みをこぼした。
「ノア様がお風邪を引いてるのに、私の心配ですか?」
「そりゃあね。テティス以上に大切なものはないから」
「……っ」
「ほら、早く行くんだ。また風邪が治ってから、沢山話そう」
テティスはコクリと頷くと、お大事にしてくださいとだけ告げて扉へと向かう。
「テティス」
「はい」
部屋を出ようとしたところで声をかけられたテティスはくるりと振り向き、きょとんとした顔でノアを見つめた。
「……あと、風邪が治ったから沢山しようね、キス」
「!?」
「真っ赤な顔。可愛い」
「〜〜っ、ノ、ノア様……!」
「……はは、おやすみ、テティス」
甘い言葉を吐くだけ吐いて、ノアはゆっくりと目を瞑る。
テティスは熱を冷ますように自分の頬を軽く手で仰いでから、部屋を出て静かに扉を閉めた。
「おやすみなさい、ノア様。……早く良くなりますように」
読了ありがとうございました!
↓にリンクも貼ってありますので、書籍版もどうぞよろしくお願いいたします……!