コミック1巻 発売記念SS 〇〇しないと出られない部屋①
『姉のことが好きな筆頭魔術師様に身代わりで嫁いだら、なぜか私が溺愛されました!? ~無能令嬢は国一番の結界魔術師に開花する~①』
モンスターコミックスf様より2/26日(※電子のみ2/22日)に発売しました!ぜひお手に取ってくださいね♡
↓に表紙とコミックの公式様のリンクが貼ってあります!
【テティス&セドリック】
先日、一般市民から魔術省に連絡があった。
南の森で、人を異空間に取り込んでしまうという魔物が発生しているらしいのだ。
といってもそれは死を指してはいない。
話を聞いたところにると、魔物に取り込まれてから、最短約十秒、最長で三日ほどで異空間から現実世界に戻ってくるらしい。
そして、現在。
テティスはノア、セドリックとともに、その魔物の討伐のために南の森へと足を踏み入れたのだが──。
それは、一瞬の出来事だった。
新種の魔物と対峙し、ノアの戦闘による被害を森に与えないために結界を張ろうとした矢先、テティスはセドリックとともにその魔物に異空間に取り込まれてしまったのだった。
「ちょっと待ってよ……まさかここが異空間?」
「おそらくそのようです。被害者の方々の話では、異空間は真っ白で無機質な部屋だったとか。出口と思われる扉が一つありますが、力や魔術では一切開かず、条件をクリアしないと出られないそうです。まさにここがそうですね……」
「ハァ……何でこの僕がこんな場所に……しかもテティスと二人だなんて」
額に手を当ててため息をつくセドリックに、テティスは眉尻を下げて深く頭を下げた。
「申し訳ありません、セドリック様……私がもっとしっかりしていれば……」
「……いや、僕の言い方が悪かったよ。異空間に取り込まれたのはテティスのせいじゃないし、謝らなくて良い。僕はただ、テティスと二人きりになってるこの状況に危機感を覚えてるだけ」
「と言いますと?」
「……これだから鈍感は」
テティスに聞こえない程度の声でポツリと呟いたセドリックは、テティスの額に人差し指をぐりぐりと押し付けた。
「あのねぇ、考えてみなよ。自分の婚約者が異性と二人きりの状況なんて、あのノアが嫉妬で狂わないわけないでしょ」
「さ、さすがにそこまでではないんじゃ……ノア様はセドリック様のことを大変信用していらっしゃいますし」
「むしろ僕が一番危険なんだけどね……」
「え? 危険?」
「いや、何でもない。とりあえず現実世界に戻るために、さっさとアレを済ませなきゃいけない、んだけど……」
セドリックが言葉尻を小さくしながら、アレを指をさす。
アレとは、この無機質な部屋に唯一ある扉の上にあるプレートだ。
「“ハグしないと出られない部屋”ですか……」
「……全く、厄介な部屋──というか異空間に取り込まれたもんだよ」
やや顔を赤くしながら愚痴るセドリックをテティスは「まあまあ」と宥めた。
「傷つけ合ったり、条件を達成するのに時間がかかるものじゃなかっただけ良いじゃないですか! ね? もしかしたら、今頃現実世界にいるノア様がピンチに陥ってるかもしれませんし、急ぎましょう!」
テティスはバッと両腕を広げて、ジリジリとセドリックに近付いていく。
一方でセドリックは「ぐっ」と奥歯をかみしめながらジリジリと後退した。赤くなった顔は両手で上手に隠している。
「っ、テティスは恥ずかしくないの!?」
「もちろん恥ずかしいです! それにノア様に申し訳ない気持ちもあります! けれど、ここを出るためですから仕方がありません!」
そこでテティスは、ハッとした。
「……でも、セドリック様は嫌ですもんね。申し訳ありません、セドリック様のお気持ちを一切考えずに迫ってしまって」
「……っ」
セドリックは息を呑むと、指の隙間からテティスの表情を確認する。まるで捨てられた子犬のような顔だ。
なんだか、その顔を見ていると意地を張っているのが馬鹿らしくなってきた。
「……テティス」
セドリックは両手を下ろすと、真っ赤な顔をテティスの前に晒す。
そして、テティスを受け入れるために両腕を広げた。
「……嫌じゃ、ないよ。大丈夫だから」
「セドリック様──って、きゃぁっ!」
その瞬間、真っ白な異空間の外側からドカーン! という派手で大きな音が聞こえてくる。
白い壁にピキピキと割れ目ができ、次の瞬間には壁は木っ端微塵に壊れていた。
「テティス! 無事かい!?」
「ノア様!? どうやってここに……!?」
破壊された壁から入ってきたノアに抱き締められたテティスは、目を丸くしながら疑問を口にした。
「魔物を死の直前までいたぶ──追い込んだら、テティスたちがとりこまれただろう異空間の壁の一部が出現してね、魔術で破壊したらここに来られたんだ」
「そ、そうだったんですね」
「そんなことより、怪我はない? 辛い思いはしなかった? そもそもこの部屋から出る条件って──」
ノアが扉の上にあるプレートに視線を移すと、彼の額にはビキビキと青筋が立った。
「セドリック……お前、テティスとハグをしたのか?」
「その顔怖いって! まだしてないよ!」
「まだ? ということはするつもりだったのか?」
「言い出したのはテティスだし、それに緊急事態……って、急に攻撃してくるのマジでやめて! ほんとに!」
セドリックは自分の体を守るように結界を張りながら、ノアが入ってきた場所から外に逃げ出す。
ノアの暴挙が収まるまで、テティスの説得はかなりの時間を要したのだった。
お読みいただきありがとうございました!
↓に表紙や公式様のリンクが貼ってありますので、コミック1巻もよろしくお願い致します!




