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37話 花指輪【完結】

 

 ◇◇◇



 次の日の朝、『水神祭』を行なった広場の中心にいるクロエの姿を、テティスは心配げに見つめていた。


 実は昨日のうちに、マーレリア家から大切な話があるから、可能な限り集まって欲しいと領民に伝達しておいたのだ。集まった領民の数は数え切れないが、皆不思議そうな顔をしている。


 しかし、事前に準備しておいた小さな台の上にクロエが登り、水龍の祠に関することを赤裸々に話し、謝罪すると、皆の表情はみるみるうちに変わっていった。


「クロエ様がそんなお役目を毎日しているなんて、知らなかった……」

「毎日なんて大変だよな……。俺が同じ立場だったら、逃げ出しちまうよ」


 若い女性も、高齢の男性も、幼い子どももほとんどがクロエのこれまでの頑張りに感謝し、境遇に同情した。

 そのため、クロエに何故秘密にしていたんだと責め立てる者はほとんどいなかった。


「突然のことで申し訳ありません。しかし、水龍様にこれからもこの地を守っていただくため、何よりも領民の皆様の安全のために、土砂の除去や祠の修復、そしてこれからは皆で祠を管理し、守ってくださいませんか」


 そして、クロエのこの言葉と、真摯に頭を下げる姿に、領民たちの多くが賛同した。



 ◇◇◇



 翌日。マーレリア領に任務に訪れてから、はや一週間が経つ。


 帰還の日を迎えた今日、テティスとノアは屋敷の前にいた。クロエと最後の挨拶をするためだ。


 他の魔術師たちは、既に正門を出たところで、帰還の支度を整えている。

 深緑のドレスに身を包んだクロエが屋敷の正門から駆けてきた。


「ノア様、テティス様、お待たせして申し訳ありません。馬車はご覧になりましたか? 我が家では一番上等なものを用意させたのですが……」

「ああ、問題ないよ。厚意に感謝する」

「クロエ様、馬車を手配してくださってありがとうございます」


 今回、マーレリア領までは全員馬に乗ってきた。

 しかし、ノアは左肩を負傷し乗馬できず、テティスはとある理由から体がフラフラのため、馬車で帰ることになったのだ。

 ノアの愛馬とテティスの愛馬──ベリーは、仲間たちが王都まで連れてきてくれることになっている。


「お二人が……いえ、魔術師の皆様がしてくださったことに比べれば、これくらい当然ですわ。未だに信じられませんもの。たった一日で水龍様の祠の修復まで終わらせてしまうなんて」


 クロエはそう言って、水龍の祠がある方向に視線を移す。

 その目には嬉しさはもちろん、驚きが滲んでおり、テティスは共感を覚えた。


(そうよね。私も数日はかかると思っていたもの)


 実は昨日、クロエが領民たちに全てを打ち明け、協力を仰いだすぐ後のこと。早速クロエたちと領民、そしてノアを除いた魔術師たちで水龍の祠まで行き、土砂の除去を行い始めた。

 当初はこれに数日はかかると思われていたのだが、魔術師たちの魔法により、かなり時間が短縮された。

 極めつけはノアだ。絶対に休んでいてと伝えていたのに、少しくらいなら大丈夫だからと現場に現れ、持ち前の強力な魔法で力になってくれた。


 それからは領民たちの出番だ。

 祠は土砂の重みで半壊し、さらに酷く汚れてしまっていたが、これをできるだけ元通りにするために皆が一丸となって修復に当たった。


 そして、昨夜には祠の修復作業も完了し、今に至る。


「俺たちは少し手伝っただけさ。ほとんど領民たちのおかげだよ。ね、テティス」

「はい!」

「そんなことはありませんわ。テティス様なんて、今朝、今後水龍様の祠が土砂崩れの被害に遭わないように、周りの山々に結界を張ってくださったではありませんか」


 ──そう。テティスの体が今フラフラなのは、魔力を使いすぎたせいだった。


 今後また土砂崩れが起きないとは限らないため、祠の周辺の山々に独立式の結界を張っておいたのである。

 この結界がいつまでもつかは、テティスにもはっきりとは分からない。しかし、ここに来てから何度も試してみた所感では、軽く数年は持つのではないかと感じていた。


「私も、私にできることをしただけですから。もし結界が歪んでいたり、壊れるようなことがあったらすぐにご連絡ください。可能な限り早く対応いたしますから」

「テティス様……。改めて、本当にありがとうございました。領主の娘として、お二人に、魔術師の皆様に心からの感謝を。それと、お別れの前に一つ、テティス様にお伝えしたいことがあるのですが……」


 クロエはそう言って、ノアの顔を伺う素振りを見せた。


「少しだけテティス様と二人で話してもよろしいですか? 絶対に傷付けることはないとお約束いたします」

「……良いだろう。テティス、俺は正門を出たところで皆と待っているから、話が終わったらおいで」

「はい、分かりました」


 話とは何だろう。

 ノアの背中を見送ったテティスは、クロエの方を向き直った。


「もう帰らなくては行けないのに、引き止めてしまって申し訳ありません」

「いえ……! 頭を上げてください……!それで、お話って、何でしょう?」


 テティスが問いかけると、クロエは頭を上げた。


「ノア様のことですわ。私が自分勝手に運命に縋り付き、テティス様とノア様を引き離そうとしたこと……本当に、申し訳ありません」

「……! それはもう良いんです! 事情は分かりましたし……」


 水龍のことで頭がいっぱいで、すっかりそのことが頭から抜けていたテティスは、かなり慌ててしまう。

 そんなテティスの姿にクロエはふふっと穏やかな笑みを浮かべた。


「テティス様は正々堂々勝負しようと仰ってくれましたが……辞退させていただきますわ。ノア様はテティス様しか見えていないんですもの。こんなの勝負になりませんわ」

「……!」

「……それに、仲間のため、誰かのために必死になるテティス様とノア様は、悔しいけれどお似合いなんですもの。私が言えたことではありませんが、幸せになってくださいね」

「クロエ様……」


 悲しい気持ちを堪え、相手を祝福できるようになるまで、一体どれほどの葛藤があっただろう。

 テティスはクロエの手を取ると、両手でギュッと握り締めた。


「はい、必ず」

「ふふ、では、そろそろお別れにしましょう。本当はアーシェが来るのを待ちたかったんですけど、これ以上お引き止めするのは悪いですから」

「そういえば、アーシェ様はどちらに? もしかしてお加減が悪いのですか?」

「いえ、そうではないのですが……」


 クロエが悩ましい顔をすると、正門の扉が勢いよく開いた。


「良かった……! テティス様まだいた……!」

「アーシェ! 体調が万全というわけではないのだから走ってはだめよ」


 急ぎこちらに来ようとするアーシェだったが、クロエに注意されたことで速度を弱める。

 おそらく自分に用があるのだろうと、テティスはアーシェのもとに駆け寄り、目線の高さを合わせるために腰を曲げた。


「もしかして、お別れの挨拶をするために急いでくださったのですか?」

「それもありますけど、これを渡したくて……」


 そう言ってアーシェが渡してくれたのは、花で作った指輪だった。二つあり、どちらもこぶりな紫の花が可愛らしい。


「これは、アーシェ様が?」

「お姉様に教えてもらって作りました! お姉様を笑顔にしてくれた、テティス様とノア様にお礼をしたくて……。お二人はラブラブだから、花の指輪が良いんじゃないかって、お姉様が!」

「……っ」


 もちろん、アーシェが花の指輪を作ってくれたことは心から、嬉しい。

 けれど、クロエの気持ちが何より嬉しくて、テティスは涙腺が緩みそうになるのを必死に堪えた。


「ありがとうございます、アーシェ様。一生大切にします」

「本当ですか? 嬉しいです……! ふふっ、お姉様、喜んでもらえたよ〜!」


 アーシェは頬を緩めながらクロエのもとに行き、ぎゅっと抱き着いている。

 仲睦まじい姉妹の姿を見て、テティスからは笑顔が溢れた。



 それから、テティスはノアとともに馬車に乗り込むと、クロエたちに別れを告げ、マーレリア領をあとにした。


 僅かに揺れる馬車の中。

 アーシェが作ってくれた花指輪を互いの指にそっと嵌めたテティスとノアは、幸せそうに微笑み、どちらからともなく唇を重ねたのだった。

最後までお読みいただきありがとうございました(*^^*)

筆頭魔術師様の第2章、完結です……!

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