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32話 再び目覚める水龍

 

 ──それから少しして。

 涙を拭い、落ち着きを取り戻して抱擁を解いた二人の様子を確認したテティスは、クロエに話しかけた。


「クロエ様、祠のことを皆に話し、早急に対処いたしましょう」


 クロエの事情や思いを知り、テティスなりに彼女を理解できたように思う。

 けれど、このままでは何も解決しない。

 水龍が暴れ始めた原因が分かった以上、解決策を講じなければとテティスは思ったのだ。


「土砂を退け、祠を修復すれば、水龍は活動を止めるかもしれません。ノア様のような被害者をもう出さないために、クロエ様にもご協力をお願いしたいんです」

「……っ、でも」

「不安な気持ちは分かります。秘密にしていたことを打ち明けるのが怖いことも。けれど、このままではいずれ領民の方々や、アーシャ様が取り返しのつかない事態にもなりかねません」

「……!」


 クロエはハッとした表情を見せてから、アーシャを心配そうに見つめた。


「アーシャ……」


 母を失い、大変な役目を一人で背負わされたクロエにとって、アーシャは役立たずではなく心の支えだったのだろう。

 クロエは少し考えてから、決意の眼差しを見せた。


「分かりました。まずは私の罪──事の顛末を父に報告致します。そして、この場所に特定の人間以外が来られるように話してみます」

「本当ですか……!?」

「ええ。古くから、マーレリア家の人間以外が祠に近付くと災いが起きると言われていますが、すでに水龍様が暴れて被害が出ている以上、父も赦してくれるでしょう。それからは早急に土砂を取り除き、祠の修復に取り掛かれるよう手配します」


 クロエの決断に、テティスは深く頭を下げた。


「よろしくお願いします……!」

「……テティス様がお礼を言うことじゃないのに、本当に甘くて……変な人ですね」


 口元に笑みを浮かべるクロエにつられて、テティスも頬を綻ばせた。


(良かったぁ……。後は祠が修復されるまで、水龍の警戒を続ければ──)


 問題は無事に解決するとテティスが胸を撫で下ろした、そんな時だった。


「グォォォォォォォォ!!」

「「「……っ!?」」」


 ヴァイゼル湖から少し離れているというように、耳を劈くような水龍の咆哮が轟いた。

 三人は咄嗟に両手で耳を塞ぎ、音が鳴り響いたと同時に皆が目を合わせる。


「テティス様、今の咆哮は水龍様の……!」

「っ、そのようですね。再び水龍が暴れ始めたんだと思います」

「お姉様……っ、怖いよぉ……」

「大丈夫、大丈夫よ、アーシャ」


 よほど恐ろしいのだろう。アーシャは体を小刻みに震わせながら、クロエにしがみついていた。

 クロエも眼差しに恐怖を滲ませながらも、必死にアーシャを励ましている。


 そんな中、テティスは恐怖よりも不安が勝っていた。


(皆さん、大丈夫かしら……)


 昨晩の水龍は、一度目の戦闘の時よりも強くなっていたと聞いた。セドリックの結界魔術が破られ、ノアが怪我を負ったのもそのせいだ。

 そして、そのノアは今屋敷で療養中。

 魔術師たちが束になってもノアの力には及ばず、セドリックは昨晩から現在にかけて睡眠を取っていないため、集中力を欠きやすく、結界魔術の精度が落ちる可能性もある。


(早く行かなきゃ)


 考えていても何も変わらない。早く自分も仲間たちのもとへ行き、水龍との交戦に加わらなければ。


「クロエ様、私は今からヴァイゼル湖へ参ります! クロエ様はアーシャ様とともにここで待機していてください!」


 これだけ伝えて、テティスはヴァイゼル湖へ走り出そうとした、のだけれど。


「待ってください、テティス様! 私も行かせてください!」

「……なっ」


 思いもよらぬクロエの発言に、テティスは眉を寄せて、首を横に振った。


「いけません! 危険だと分かっているところにクロエ様をお連れするわけには──」

「それでも行きたいのです……! 私、怪我人に肩をお貸したり、簡単な処置ならできますわ! 絶対に皆様の邪魔にならないようにしますから……!」

「……それでも」


 許可できません、とテティスが言おうとすると、その言葉はクロエによって掻き消された。


「だって、水龍様が今も暴れているのは、皆さんを危険に晒しているのは、私のせいだから……っ」

「クロエ様……」


 祠が壊れたのは自然の影響だ。全てがクロエに原因があるわけではない。

 けれど、クロエが罪悪感を抱える気持ちも、テティスには痛いほど理解できたから──。


「危険な行動は絶対にしないと、約束してくださいますか?」

「はい、約束いたします」


 声色から強い決意を感じられ、テティスは根負けする他なかった。


「……分かりました。では、一緒に行きましょう」


 それからすぐ、クロエはアーシャにここで待つよう言い聞かせた。


 テティスは不安を抱えながら、クロエとともにヴァイゼル湖に足を走らせたのだった。

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