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25話 眠り王子

 

 早朝、目覚めたテティスは、ノアやセドリックと任務を交代するため、身支度を整えていた。

 窓の外は快晴。昼間よりも日差しは穏やかで、過ごしやすい気温だ。


(二人とも、お疲れではないかしら)  


 夜から朝にかけての任務は体力を奪う。集中力も切れやすく、何なら眠気だって襲ってくる。

 少しでも早く交代してあげたいという思いから、テティスは素早く服を着替えた。


 そして、髪の毛を整え終わったので、部屋を出ようとドアノブに手をかけた、のだけれど。


「テティス様……! 急ぎお伝えしたいことがございます……!」


 激しいノックの音と切羽詰まった声に、テティスは急いで扉を開いた。

 そこにいたのは、仲間の魔術師の一人だった。

 彼はいつも笑顔を浮かべていて、これまで焦っているところなんて見たことがなかった。

 テティスは手のひらに、じんわりと汗が滲むのを感じた。


「どうしました?」

「その、実は──……」

「えっ……」


 報告を受けたテティスは、急ぎ屋敷の西側へ──ノアの部屋と向かった。

 その際、顔を青ざめさせたクロエの姿を横目に捉えたけれど、気に掛ける余裕なんてなかった。



「ノア様……!」


 部屋の前に到着したテティスは、ノックをすることも忘れて入室した。

 部屋の一番奥にあるベッドには、ノアが横たわっている。ここからは表情までは見えない。

 そんなノアを見下ろすようにして、ベッドサイドにはセドリックが立ち尽くしており、テティスはベッドに駆け寄った。


「ノア様、お怪我をされたと聞きましたが、大丈夫ですか……!?」

「…………」


 ノアは真っ青な顔で目を閉じており、返答はなかった。

 一瞬最悪の事態を考えたけれど、彼から聴こえる呼吸音に、テティスはホッと胸を撫で下ろす。


「今は鎮静剤の効果で眠ってるだけだから大丈夫だよ。ただ……」


 セドリックはノアの肩まで掛けられている布を少しずらす。


「……っ」


 ノアの左肩を目にした瞬間、テティスはバッと自身の口元に手をやった。

 何重にも巻かれた包帯。そこから滲む血に、傷がそう浅くないことを理解したからである。


「水龍の攻撃で、ノアは左肩に深手を負ったんだ。医師の話では骨には影響がないみたいだけど、かなり傷が深くて出血が多かったから、止血してから縫合で処置をしたらしい。後遺症は残らないだろうけど、しばらくは激痛だろうって」

「そう、なんですね……」


 鎮痛剤のおかげで今はぐっすり眠っているが、鎮痛剤が切れれば、また痛みに襲われるのは想像に容易かった。


「セドリック様、一体何があったのですか……?」


 仲間から、ノアが怪我をしたことは聞いたが、詳しい状況についてはまだ知らされていない。

 ノアと同時間に任務に当たっていたセドリックならば知っているのだろうと、テティスは問いかけた。


「……ごめん、テティス。ノアは俺を庇って、怪我を……」


 セドリックは頭を下げ、震えそうになる声で話し始める。


「実は、突然水龍が暴れて──」


 それからテティスは、セドリックからノアが怪我をするに至った詳細を聞いた。


 水龍が暴れ出し、テティスの独立式の結界が破られたこと。数日前よりも、水龍が強くなっているように感じたこと。水龍の攻撃によりセドリックが作った結界が壊されたこと。その際、水龍がセドリックに向かって攻撃を繰り出し、それを庇うためにノアが左肩を負傷したことなど。


 セドリックは自身の結界魔術が水龍の攻撃に耐えられなかったため、ノアに怪我をさせてしまったのだと自身を責めているようだった。


「セドリック様、話してくださってありがとうございます。ですが、そんなに自分を責めないでください。水龍が強くなるなんて、誰も想像できなかったんですから……。それに、独立式の結界が破られてしまったのは、私の能力が至らなかったせいです」

「テティスは悪くないよ。全部僕が悪い。……ごめん」

「そんなこと……」


 セドリックは再び深く頭を下げてから、申し訳なさげな顔でテティスを見つめた。


「またいつ水龍が暴れるか分からないから、僕はヴァイゼル湖に戻るよ」

「……! それはいけません! セドリック様は昨夜からずっと活動されていたのですから、早くお部屋で休んでください。ヴァイゼル湖には予定通り私が参りますから……!」

「いや、医師の話では鎮痛剤の効果は長く続かないそうだから、テティスはここにいて」

「いえ、でも」


 確かに、ノアの側にいたい。彼が目覚めた時に、声をかけてあげたい。

 テティスにはそんな思いがあったけれど、セドリックに負担をかけるのは大変申し訳なかったため、すぐに提案を受け入れることはできなかった。


「良いから。ノアだって、目覚めた時にテティスが側にいてくれた方が嬉しいだろうし。じゃあ、僕は行くね」

「あっ、セドリック様……!」


 それからセドリックは振り返ることなく、部屋を出ていった。

 セドリックを追いかけようともテティスは考えたけれど、ノアを一人にするのも憚られたため、部屋に留まった。


 部屋にあった椅子をベッドの横にまで運んだテティスは、ゆっくりと腰掛ける。

 布から出ているノアの右手を、ぎゅっと握り締めた。


「ノア様……」


 命に別状はないとはいえ、こんなに深手を負ったノアを見るのは初めてだった。

 おそらく、身を挺してセドリックを庇わなくてはならないくらいに、緊迫した状況だったのだろう。水龍の力に押され、ノアが本来の魔術を発動できなかった可能性も十分に有り得た。


(心配だわ……)


 深手を負った際、菌が傷口に入りでもしたら、高熱が出る可能性がある。

 そうでなくとも、しばらく左肩激痛で自由に動かせないだろう。 

 任務に出られないのはもちろんのこと、日常生活にも不便を感じることがあるのは明白だ。


(婚約者の私が、ノア様をお支えしなくちゃ)


 しかし、問題は他にもある。

 ノアが任務にでられず、魔術師の戦力が大幅に落ちてしまうことだ。

 次に水龍が暴れた場合、ノアが不在の状態では水龍を抑えられないかもしれない。


(それに、水龍が何故暴れるのかということついて、未だにこれと言った情報がないわ……。いつ領民たちに不安が広がるか分からないから、早急に対処しないと……)


 色々と考えなければいけないことがあるけれど、やはりノアへの心配が先立って、うまく頭が働かない。

 テティスの胸には不安が渦巻いた。

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