22話 真打ち、登場!
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今回もイラストが超絶美麗ですよ……!加筆ももりもり、番外編もあります……!
「ノア様……!」
ノアはいつでも魔法が発動できるよう手に魔力をためながら、テティスのもとへと歩いていく。
そして、未だにテティスの手を掴んでいる男を見て、スッと目を細めた。
「……お前、聞こえなかったのか。テティスに──俺の恋人に触れるなと言ったんだ。すぐに離さなければ、その手を……いや、全身跡形もなく燃やしてやる」
「ヒィ……!」
(ノア様、目が本気だわ……!)
男にもそれは伝わったのだろう。
足を氷漬けされている状況にパニックになりながらも、すぐに手を離してくれた。
「ちょっとノア、僕もいるんだけど!」
「分かってる。おい、そこのお前」
ノアは次に、セドリックを抱えている男を冷ややかな目を向けた。
「そいつは俺の仲間なんだ。さっさと降ろせ。さもなくばお前も燃やす。ああ、全身氷漬けなんてのもいいかもな」
「すすすすす、すみません、すみません、すみません……!!」
それから男はすぐにセドリックを降ろし、仲間には目もくれずに逃げていった。
足が氷漬けされているため逃げることができなかったもう一人の男は、ノアを目の前にして顔面蒼白の状態で体をプルプルと震わせている。
……寒さからか、それとも恐怖からか。考えるまでもなく後者だろう。少なくとも、酔いが醒めているのは間違いなかった。
「本当にすみませんでしたぁ……! どうか命だけは助けてくださいぃぃ……!」
ノアに命乞いをする男に対して、テティスは同情の目を向ける。
絡まれたり、無理矢理手を掴まれたりしたことは怖かったけれど、彼の目にはもう恐怖しか映っていなかったからだ。
何より、ノアに人を傷付けさせたくない。
「ノア様、私は大丈夫ですから。この人を解放してあげてください。もう十分反省していると思いますし……」
「……テティスがそう言うなら、分かった」
ノアはテティスに対して穏やかな笑顔を向けると、再び冷ややかな目を男に向けた。
「お前、一言彼女に謝罪しろ。それと、酒を飲んで二度と女性に絡むな。……いや、男にも絡むな」
「はぃぃ! 約束します! 本当にすみませんでしたぁぁ……!」
──パリン。男の謝罪が終わると同時に、ノアは氷を解いた。
そして、脱兎の如くこの場から立ち去った男に人目もくれず、ノアはテティスの前で片膝を吐き、彼女の手を取った。
「怪我はない? 手以外に触られたりしなかったかい?」
「はい……っ」
「助けるのが遅くなって……本当に済まない。怖かっただろう?」
テティスはふるふると首を縦に振った。
「い、いえ! ノア様が助けてくださいましたから大丈夫です……! それに、セドリック様も助けようとしてくださいましたし……。と、というより、私はセドリック様に謝らないといけないのです! 私のせいであのようなことに巻き込んでしまったので……」
申し訳なさげにテティスがそう言うと、ノアは立ち上がって背後にいるセドリックに視線を向ける。
セドリックは男たちが走っていった方向を見ながら、「何なのあいつら!」と怒りを露わにしていた。
「セドリック」
ノアに呼ばれたセドリックは、未だに怒りが収まらないのか、「何なの!?」と興奮した様子で二人の方を振り向いた。
しかし、ノアの真剣な表情とピリ……と張り付いた空気感に、セドリックは無意識に背筋を正した。
「テティスを助けようとしてくれたこと、礼を言う。ありがとう」
「……別に、ノアに礼を言われるようなことじゃないよ」
全てを見透かしたようなノアの菫色の瞳から、セドリックは気まずそうに目を逸らす。
しかし、テティスに「あの!」と声をかけられ、視線を二人に戻した。
「セドリック様、助けようとしてくださってありがとうございました! それと申し訳ありません……! 私のせいであのような目に遭わせてしまって……」
「テティスのせいじゃないでしょ。悪いのはさっきの奴ら……と、僕が美しすぎるせいだから」
「た、確かにセドリック様の美しさにはいつも驚かされ──」
「冗談だからね!? 本気で返すのやめてくれる!?」
焦るセドリックに対し、まさか冗談だったのかとテティスは驚いた。
(で、でも、お礼も謝罪も伝えられて良かった……!)
ホッと胸を撫で下ろしたテティスだったが、突然ノアに肩を抱き寄せられてまたもや驚く。
ノアを窺うように見つめれば、彼の視線はこちらにはなく、セドリックを見つめていた。
「セドリック、俺たちはもう行く。何故お前がここにいるか今は聞かないが……早くヴァイゼル湖に戻れ」
「……分かってる。じゃあね、テティス」
「は、はい! セドリック様、お気を付けて!」
それからテティスはノアに肩を抱かれたまま、その場を後にした。いつものように優しく微笑んでくれるノアの姿に、テティスは自然と顔が綻ぶ。
「……あの状況でノアに助けられるとか、かっこわる」
『水神祭』で賑わう人たちの声が直ぐそこから聞こえる中、セドリックは切なげにそう呟いた。




