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18話 桃色の思い

 

「…………」


 もちろんだと答えたいのに、うまく言葉が出てこなかった。

『水神祭』にノアと行くことを、テティスはとても楽しみにしていたから。


(でも)


 ──幼い頃、クロエが何故ノアを避けたのか。

 その説明と謝罪をすることで、クロエはようやく長年の最悪感から開放される。

 それに、もしも幼かったノアがクロエに避けられたことで心を痛めていたとしたら、彼女の説明と謝罪により、心の傷が癒やされるかもしれない。


(今は自分の気持よりも、クロエ様やノア様のお気持ちを第一に考えないと)


 テティスは自分に言い聞かせ、こう答えた。


「……分かりました。『水神祭』の会場に到着したら、私はノア様のもとから離れます。クロエ様はノア様としっかりとお話をされてください」

「ありがとうございます、テティス様……! 私、頑張りますわ!」

「はい、応援しております」


 できる限りの笑顔を浮かべたテティスはその後、軽い足取りで屋敷に戻るクロエを見送る。


 しかし、クロエが見えなくなると、自身の表情が途端に暗くなったことに気付いた。鏡を見なくたって、簡単に想像ができてしまったのだ。


「だめだめ、笑顔よ、テティス!」


 このままノアたちのもとに帰ったら、何かあったと思われる。

 それを避けたいテティスは、おかしなくらいに顔に笑顔を貼り付けて来た道を戻るために振り向いた、のだけれど。


「何なの、さっきの会話。それと何なの、その顔」

「……! セドリック様がどうしてここに……」


 驚くテティスに、セドリックは間髪を容れずに口を開いた。


「勘違いしないでよ。別にテティスたちを追いかけてきたわけじゃないから。ノアが、明日テティスと『水神祭』に行くのが楽しみだって気持ち悪いくらいに惚気だしたから、聞くに耐えなくて抜け出してきただけだから! 話が聞こえたのも偶然だから!」

「な、なるほど! そういうことでしたか!」


 なんともセドリックらしい理由だ。

 おそらく、セドリック(的確にツッコミを入れる役)がいないヴァイゼル湖では、ノアの惚気の独壇場となっていることだろう。


「……って、そんなことは良いの。さっきの、あの女との話はどういうこと? 何で『水神祭』でテティスがノアから離れてあの女がノアと話すのさ」


 セドリックの疑問に、テティスは口を噤んだ。

 クロエがノアに罪悪感を抱いている事実。誰にも言わないでとクロエに頼まれたわけではなかったけれど、他人にベラベラと喋って良いことでもなかったからだ。


「それは……私の口からはあまり言えません。ただ、必要なことだから、とだけ……」

「ふぅん。まあ、何かしらの事情があることは分かったけど、良いの? いくら『水神祭』にいけるとは言っても、多分そんなに長くはいられない。あの女とノアの話が長引いたら、テティスはノアと一緒に周れないかもしれないよ」

「……それは、致し方ありません。お二人が話されることのほうが大事ですから」


 きっとそう違いない。自分の望みや気持ちを抑え込むために、テティスは敢えて断定的に話した。

 セドリックに強がりがバレてしまわないよう、べったりと笑顔を貼り付ければ、彼は眉間に皺を寄せた。


「……さあ。それはどうか分かんないけど。とりあえず、その作り笑いやめたら? ブサイク。変。見てらんない」


 すると、突然セドリックの手が伸ばされ、テティスの頬をぐいと摘んだ。


「ふえっ!?」


 痛みはさほどないが、驚きのあまり、テティスから素っ頓狂な声が漏れる。


(それにしてもセドリック様、あまりに酷い言いようでは!?)


『ブサイク』『変』『見てらんない』


 最近はかなり優しく接してくれると思っていたのだが、セドリックの毒舌は健在だったらしい。 

 けれど、不思議だ。酷い言葉を言われたのに、こちらを見て「変な顔」と微笑んでいるセドリックを見たら、心が少しだけ軽くなっているように感じた。


(本当に不思議。セドリック様はあまり笑顔を見せてくださらないけれど、もしかしたらこの方の笑顔には癒やしの効果があるのかもしれないわ)


 頭の端でそんなことを考えていると、「もう少し嫌がれば!?」とセドリックが何故か怒り始め、テティスの頬から手を離した。

 笑ったり、怒ったり、セドリックにしては珍しく表情が忙しない。


(さっき、セドリック様がノア様に対して情緒が不安定なのではと話していたけれど、それはセドリック様にも当てはまるのでは?)


 けれど、それを言ったら怒られるだろうから、思うだけに留めておこう。テティスは一人クスクスと笑みを零し、セドリックとともにヴァイゼル湖の方へと歩き出した。


 その道中、セドリックの独立式の結界を作る際にどのようなイメージを浮かべているのか、という質問から、二人の会話は盛り上がった。


「魔力が循環して──その時に──」

「うん。それで、その次は?」

「そこまでできたら──をして──最後に──」


 結界魔術のことを楽しげに話すテティスを横目に見ながら、セドリックはフッと僅かに口角を上げ、ポツリと呟いた。


「……やっぱりあんたは、作り笑いよりそっちの方がいいよ」

「え? 何か仰いましたか?」

「いや、別に」


 セドリックが何を言ったのかは気になったけれど、まぁいいかとテティスがそれ以上聞き返すことはなかった。

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