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16話 意味深な発言

 

 そこにいたのは、両手で籠を持ち、白いワンピースに身を包んだアーシャだった。その後ろには、メイドが二人いる。

 テティスとノアがキスをしようとしているところを見ていたからなのだろう。アーシャは顔を真っ赤にして、申し訳無さそうに眉尻を下げていた。


「あの……ごめんなさい、邪魔をしてしまって……」

「い、いえ! アーシャ様は何一つ悪くありませんから、謝らないでください……!」


 テティスは急いで立ち上がり、アーシャのもとに駆け寄る。そしてしゃがみこんで彼女と目線を合わせ、懇願した。

 齢七歳の少女にこんなことで謝られるなんて、あまりに居た堪れなかったのだ。


「けれど、他人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られるって、読んだ本には書いてあったから……」


 アーシャは少し体をもじもじさせながら答える。

 初対面の時よりも、幾分慣れてくれているようで、そこだけが救いだった。


「ま、まあ! もうそんなに難しいことが書いてある本が読めるのですね!? アーシャ様は凄いですね!? けれど、ぜっっったいに馬には蹴られませんからご安心くださいね……!」

「う、うん……。分かりました」


 とりあえず分かってくれたらしい。

 テティスがホッと胸をなでおろすと、ノアもテティスの隣でしゃがみ込んだ。


「アーシャ嬢、テティスの言う通り大丈夫だよ。君は俺たちがキスをしそうなところを見てしまっただけで、全く恋路の邪魔はしていないからね」

「ちょ、ノア様! せっかく話がずらせたと思いましたのに……!」


「やっぱり、キスしようとしてたんだぁ……」と呟いて、恥ずかしそうに目を泳がすアーシャと、そんな彼女を見て咳払いをするメイドたちの姿に、テティスはこれ以上ないくらいに恥ずかしかった。



「……それで、アーシャ嬢はどうしてここに?」


 メイドたちが話の邪魔にならないよう少し離れたところにいる中、テティスが冷静になったのを見計らい、ノアはアーシャに問いかけた。


 アーシャは尻を地面につけないようしゃがみ込み、花を手折りながら口を開いた。


「お花が欲しくて……。ここにはよく来るんです」

「アーシャ様はお花が好きなんですね! 美しいですものね」

「……好きというか、私にはこれくらいしかできないから……」


 自ら足を運び、花を手折るくらいだから相当花が好きなのだろうと思ったのだが、そうではないようだ。

 予想外の返答に、テティスとノアは目を合わせた。


「「……?」」


 好き以外に花を手折る理由があるのだろうか。

 なんとなく気になって頭を働かせると、テティスは一つ思い出した。


「もしかして、クロエ様のためですか? ほら、クロエ様ってドライフラワーを作っていらっしゃるから、そのためにアーシャ様がお花を持っていってあげているのかなと思ったんですが……」

「……え、あ、う、うん。そんなところ、です」

「「…………」」


 アーシャの明らかな動揺から、彼女が嘘をついているのはテティスにもノアにも丸わかりだ。

 けれど、七歳の少女に追求するようなことでもないからと、二人が言及することはなかった。


「そういえば、今日はお体の調子は良いのですか? 昨日、クロエ様がとても心配されていましたが……」

「大丈夫、です。実は、最近は体調の良い日が多くて」

「そうですか。それは、クロエ様もさぞ嬉しいでしょうね」


 テティスが微笑むと、アーシャもつられて笑みを浮かべた。

 ふにゃりとした笑い方がなんとも可愛らしい。


「あの、テティス様とノア様は魔術師なんですよね?」

「ええ、そうですよ」

「ヴァイゼル湖で水龍が暴れている原因を探るためにやってきたんだ。アーシャ嬢も不安だろうが、あまり心配しないで大丈夫だから」


 七歳の少女からしてみたら、守り神である水龍への信仰心よりも、現状の恐怖の方がまさるだろう。

 そう考えたテティスとノアは、アーシャの不安を軽くしてあげたいと考えていた。


「そのことなんだけど、あの、ね……」


 だが二人の思いに反し、アーシャの瞳には不安よりも罪悪感のようなものが滲んでいた。


「水龍様は多分、寂しくて、悲しくて……それで、誰かに来てほしくて、あんなふうに暴れて……」 

「え……」

「……っ、ううん、なんでもない……! お花も摘み終わったから、暗くなる前にお屋敷に戻らなきゃ……!」


 アーシャはキュッと口を結ぶと、ぴょこんと立ち上がり、鮮やかな花々でいっぱいになった籠を持って、メイドたちの方へと掛けていった。


 そんなアーシャを見ながら、テティスは口を小さく開いた。


「ノア様、さっきのアーシャ様の発言、どう思われますか?」

「……思いつきで話しているのか、もしくは何かを知っていて話しているのかは、分からないな。後者なら、本人がああやって話を切り上げた以上、自然と話してくれるのを待つか、根気強く関わって話してもらうしかないだろうね」

「そうですね……」


 アーシャが大人ならば、さっきの発言はどういうつもりなのかと詰め寄ることもてきたが、彼女はまだ七歳だ。

 それに、最近は比較的体調が良いらしいが、ストレスを与えて体調が悪化するようなことはあってはならなかった。


「また時間ができたらアーシャ様に話しかけて、それとなく水龍様のことについて聞いてみたいと思います。少し時間を置いたほうが話してくれるかもしれませんし、女性だけのほうが話しやすい可能性もありますから」

「そうだね。済まないが頼んだよ、テティス」

「はい! お任せください……!」


 それからテティスとノアは、アーシャたちとともに屋敷に戻った。

 花の入った籠をメイドに任せることなく、自身で大切そうに持つアーシャの姿がとても印象的だった。

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