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14話 クロエとノアの違和感

 

 ◇◇◇



「まさか、初めてで成功するなんて思わなかったわ……」


 朝を迎え、魔術師たちと持ち場を交代したテティスは、湯浴みを終えてから屋敷の自室のベッドの上にいた。

 部屋のカーテンを閉めても、太陽の光によって室内はかなり明るい。しかし、一晩ずっと起きていたテティスには強烈な睡魔が襲ってきており、半分目を閉じながら夜の出来事に思いを馳せていた。


「……ふふ。ノア様、とっても喜んでくれてたな……。嬉しかったぁ……」


 術者の手が離れた上での結界の発動を初めて試した際、驚くことに結界は三時間も効果を維持した。

 しかも、三時間で結界が壊れた理由は、ノアの魔法攻撃によるものだ。


 結界が二時間ほど維持できたのを確認した頃に、強度を確認しようという話になり、ノアが少しずつ威力を高めた魔法攻撃を結界に放ったのだ。

 結果、ノアの全力に対して半分程度の魔法の威力まで、結界は耐えうることができた。おそらくこれならば、一般の魔術師が持ちえる最強の攻撃魔法を使用したとしても、結界が破られることはないだろう。


 つまり、テティスの手を離れてもかなり強力な結界の能力を維持しており、強度の話だけでいえば実践でも十分に役立つものだと言える。


「まさかセドリック様にあんなに称賛していただくなんて思わなかったわ……。それに、皆さんにもとても褒めてもらえて……嬉しかったなぁ……」


 ノアの魔法攻撃により一度破られた結界だったが、テティスはその後すぐに、同じ要領で結界を張った。


 その理由は二つ。


 一つ目は、再び術者の手が離れた結界を発動できるのかを確かめたかったからだ。結論だけ言うと、それは可能だった。


 二つ目は、攻撃を加えない場合に、どの程度の時間結界が維持できるかを検証するためだ。


 二度目の結界を張ったのが、だいたい日付を超える手前。

 そして、セドリックたちが交代しにやってくる頃まで結界に僅かな揺らぎもなかったため、おそらく七時間程度は維持できたことになる。


「初めてでこれなら上々の結果だけれど……欲を言えば数日、できれば数ヶ月……ううん、数年単位で結界が維持できれば、言うことがないのだけれど……。それにしても、疲れたぁ……っ」


 テティスはノアを愛したことによって膨大な魔力を手にしたけれど、やはり魔力をカラカラになるまで使うと疲労感が体を襲った。

 通常の結界魔術ならばよほどのことがない限り魔力がカラカラになることはないのだが、今回試した独立式の結界魔術には、相当な魔術が必要だったのだ。

 普段なら、魔力を十%出せば作れる結界が、独立式となると五十%ほど必要になるくらいか。


「私が練習すれば、消費魔力を抑えられるかもしれない……。結界の強度や……維持時間も変わってくるかもしれない……。頑張らなきゃ……なんだけど、今はもう、限界……」


 体と魔力量の回復には寝るのが一番だ。

 テティスは自分が少し成長できた喜びと、ノアや皆の役に立てるかもしれない期待、これからたくさん練習しようという気合を胸に、眠りについた。



 目覚めて時計を確認すると、既に昼の三時だった。

 相当疲れていたためか、一度も起きることなく眠ることができた。目覚めはスッキリ。魔力もほとんど回復したため、元気いっぱいだ。


「ノア様はもう起きているかしら?」 


 テティスは起き上がり、身支度を整えてから部屋を出てノアの部屋へと向かった。

 昨晩、街に聞き込みに行こうと約束したが、時間を取り決めていなかったのだ。ノアの部屋を軽くノックし、起きていないようなら少し待つつもりだった。


「テティス! おはよう。よく眠れたかい?」


 しかし、ノアの部屋まで目と鼻の先というところで、彼とばったり出会した。


「おはようございます。はい! 陽が高いうちに熟睡できるのか少し不安でしたが、心配いりませんでした! 目覚めもバッチリです!」

「そうか。それはとても良いことなんだけど、少し残念だな……」

「え?」


 ノアはテティスにずいと顔を近付けて、どこか蠱惑的とも取れる笑みを浮かべた。


「テティスがなかなか起きてこないようなら、俺がキスで起こしてあげようと思ったのに」

「……へっ!?」

「あははっ、戸惑ってるテティスも可愛い……けど、まずは食堂に行こうか。お腹空いてるでしょ?」

「そ、それはそうですけど……!」


 ノアは基本的に優しい。それに穏やかで、紳士的で、テティスを困らせるようなことはあまり言わない。

 いや、愛が重たすぎて困ることは多少あるけれど。

 ともかく、さっきみたいに意地悪だったり、色気を爆発させてくることは少ないので、こういう彼にテティスは未だに慣れなかった。


(……でも、こういうノア様も好き。私の婚約者様は、本当に格好良すぎて困るわ……)


 そんなことを思いながら、テティスはノアとともに食堂へと歩き始めた。



 食事を終えた二人は、早速聞き込み調査に行こうと、屋敷のエントランスへと向かった。


「そういえばテティスと合流する前、部下が一人伝達に来てくれてね。独立式の結界は未だに発動しているみたいだよ。セドリック曰く、乱れもないって」

「本当ですか……!? 良かったです!」


 水龍の動きもないそうで、現在ヴァイゼル湖では平和そのものらしい。

 そのため、セドリックと数名の魔術師以外はテティスたちと同様に領民に聞き込みに行ったり、屋敷の書庫を開放してもらい、水龍に関する文献を読み漁ったりしている。


「ノア様! お待ちくださいっ!」


 あれやこれやと話していると、背後から声をかけられたので、テティスたちは振り向いた。

 お相手は、エバーグリーンのワンピースに身を包んだクロエだ。


「……あ、テティス様もいらしたのですね。こんにちは」

「こ、こんにちは、クロエ様」


(なんだか、ノア様を呼ぶ時と少し声の感じが違う気が……)


 強いて言うなら、少し冷たいというか、ほんの僅かに悪意が含んでいるというか……。


(それに、クロエ様からなら絶対私の姿も見えていたはずなのに、どうして気が付かなかったみたいな言い方を……って、気にしない、気にしない! 声色は気の所為だし、きっと私のことは偶然視界に入らなかったよね)


 テティスはそう自身に言い聞かせてから、ノアたちの会話に耳を傾けた、のだけれど。


「……それで、なんのようだい? 悪いんだが、俺とテティスは忙しくてね。急用じゃないなら改めてくれないか」

「あっ……申し訳、ありません……。けれど、その……」


 ノアから僅かに感じる冷徹さに、テティスはどうしたのだろうと疑問に思った。


(確かに今から聞き込み調査に向かおうとしていたけれど、一分一秒を争っていたわけではないのに……)


 そもそも、ノアは急いでいるからといって相手に冷たくするような性格ではない。


(もしかして、クロエ様に心を許しているからとか……?)


 ノアはリュダンやセドリック、気を許した相手に対しては態度が辛辣になることがある。今のクロエに対しての対応も、それと同じことだろうか。


(あれ? でもクロエ様と再会してから、ノア様はずっと彼女に対して丁寧な話し方や対応をしていたような……)


 記憶を辿り、間違いないという結論に至った。

 しかし、それを敢えて口にすることは得策ではないと感じたテティスは、クロエに明るい声色で話しかけた。


「クロエ様、ノア様に何か用事がお有りなのですよね?」

「え、ええ……。ノア様たちが水龍様のことについて領民たちに話を聞きにいくという話を小耳に挟んだので、私も同行させていただけないかな、と」


 クロエは領主の娘だ。彼女を連れていけば、ノアとテティスのみで聞き込み調査を行うよりも、領民たちが抵抗感なく話してくれる可能性は高い。


「ノア様! 願ってもない話ではないですか!」

「…………それはそうだが」

「是非クロエ様に付いてきていただきましょう!」


 ノアは少し悩む素振りを見せたが、すぐさま柔和な表情にも戻り、クロエに向き直った。


「先程はすまなかったね。クロエ嬢、そういうことならお願いするよ」

「かしこまりましたわ」


 それから三人は屋敷を出て、領民に聞き込み調査を始めたのだった。

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