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12話 アーシャ・マーレリア

 

 クロエのことをお姉様と呼ぶ少女を、テティスはじっと見つめる。

 少女の髪は美しいストロベリーブロンド。そよ風に靡く様子から、サラサラであることが窺える。

 淡い黄色の爽やかなワンピース姿はとても可愛らしく、顔付きはクロエとそっくりだ。陽に当たったことがないような真っ白な肌は、まるで人形のよう。


「アーシャ! 水龍様がいつ暴れ出すか分からないから、ここに来てはいけないとあれほど言ったでしょう!? それに貴女、こんなところまで来て体は大丈夫なの……!?」


 少女の名前はアーシャと言うらしい。 

 クロエは服が汚れることを厭わずに両膝を地面につけ、妹であるアーシェの肩を掴んだ。

 心配と怒りが混在するクロエの声や表情。

 アーシャは大きな瞳をギュッと閉じて、顔を伏せた。


「体は平気……。あのね、私、お姉様がここに来てるって屋敷の人たちに聞いて、お姉様のことが心配になって来たの……」


 アーシャはそう言うと、彼女が持っていた水色の花の茎に力が込められた。


「……心配してくれたことは、ありがとう。けれど、約束を破るのはいけないことだわ。それに、私だってアーシャのことが心配なの。……それは分かるわね?」

「うん……。ごめんなさい……」


 しゅん……と悲しげに謝るアーシャの背中をポンポンと優しく叩いたクロエは立ち上がり、テティスたちに向き直った。


「皆様、驚かせて申し訳ありません。この子はアーシャ。今年で七歳になる、私の妹です。さ、アーシャも自分で挨拶なさい」

「……っ」


 サッとクロエの背後に隠れたアーシャは、こちらをチラチラと見て首を横に振る。どうやら恥ずかしいそうだ。


(どうしてあげたら良いのかしら)


 少女と関わる機会なんてあまりないので、こういう場合どのように対応したら良いのだろう。

 テティスは先程のクロエの様子を思い出してハッとし、地面に膝をつけてアーシャと目線の高さを合わせた。


「アーシャ様、初めまして。私は結界魔術師のテティスと言います」

「は、初めまして……。わたし、は、アーシャ、です」


(か、可愛い……!)


 恥ずかしがりながらも、一生懸命挨拶をしてくれたアーシャにテティスの胸はキュンッと音を立てる。

 そんなテティスに続き、アーシャに挨拶をしたのはノアだ。彼もしゃがみ込み、アーシャに威圧感を与えないよう気を付けている。


「それにしても、妹さんがいたんだね」


 アーシャへの挨拶を終えたノアは立ち上がり、クロエに話しかけた。

 その間、セドリックや他の魔術師たちが皆できるだけ優しい声色でアーシャに挨拶している。


「はい。妹は体があまり強くないため、部屋で休んでいることが多いんです。昨夜は体調があまり芳しくなかったので、ご挨拶を遠慮させていただいておりました。申し訳ありません」

「謝る必要はないよ。それよりも、妹さんを早く休ませてやったほうがいいだろう。君は何人かの魔術師と妹さんとともに先に屋敷に戻っていてくれ」

「かしこまりました」


 クロエが差し出した手をアーシャがギュッと握り締めると、二人は何人かの魔術師たちと屋敷の方へ歩いていった。


 その際に見えた、クロエとアーシャの横顔。互いを慈しむようなその表情に、テティスは心がじんわりと温かくなる。


(きっと仲の良い姉妹なのね……)


 いつのまにか、テティスの心のもやもやは消えていた。



 ◇◇◇



 それからしばらく、ノアやテティス、セドリックや他の魔術師たちで、ヴァイゼル湖の周辺の警戒していた。

 三日程度、水龍は自由に体を動かせないだろうとノアは見立てたが、それは予想の範疇を超えないため、油断はできなかった。

 水龍などの幻獣はとても知能が高いと言われている。そのため、テティスたちを敵と認識し、先程よりも激しい攻撃を浴びせてくる可能性もあった。


「ノア、陽が落ちてきたけどどうする?」


 しかし、陽が沈んでも、警戒とは裏腹に水龍が再び暴れ出すことはなかった。

 ノアの攻撃により、まだ体が思うように動かないのか、それともその気がないのかは分からない。


 セドリックの問いかけに、ノアは考える素振りを見せ、テティスに対して窺うような表情を見せた。


「テティス、朝からずっと任務で疲れてると思うけど、体力は平気?」

「はい! 問題ありません」


 テティスの返答を聞いたノアは、周りの魔術師たちを見回した。


「……それなら、この場は一旦俺とテティスだけで警戒を続ける。水龍は動けないと思うけど、念の為ね。他の者は屋敷に戻り、休息を取れ」

「「「え?」」」

「何だ、揃って」


 夜だからといって水龍が大人しくしている保証はないので、二十四時間体制で警戒に当たるのは普通のことだ。

 昨夜だって行っていた。今日の夜は、それをノアとテティスが担当するだけだというのに、何故皆がこうも素っ頓狂な声を上げているのだろう。

 テティスには分からず、素早く目を瞬かせた。


「いやだって、絶対にテティス様と二人きりになりたいだけじゃないですか」

「そうですよ、そうですよ。婚約者と二人きりでいちゃつきたいのは分かりますけど、今は任務中なんですよ?」

「……お前らなぁ、俺を何だと思ってるんだ」


 ノアの凄んだ顔と声色に、魔術師たちは「ヒィ……!」と恐怖から声を上げた。


「俺は、この組み合わせが一番任務に支障が無いと思ったから割り振ったんだ。昼間の戦いで俺は一人でも水龍に致命傷を与えないように加減しながら闘えることが分かったし、テティスの結界魔術師があれば、周りに被害が出ないことも分かったからな。それに俺とテティスが警戒にあたっている間、お前らは全員休めるだろうが。全員のコンディションを良好に保つのも俺の仕事なんだよ」

「「な、なるほど……」」


 魔術師たちは納得すると、早速ヴァイゼル湖の周りに散らばっている他の魔術師たちに声をかけ、一旦屋敷に戻っていった。


「これは任務だからね」と念を押すセドリックの声に、ノアは気付いていないふりをした。

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