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11話 水龍と交戦

 

「あれが、水龍……っ」


 人間よりも遥かに大きな体は、深い青色の硬そうな鱗にびっしりと覆われている。

 蛇のような瞳に、鋭い爪。水中を泳ぐためなのか、胴体からは魚のヒレのようなものが出ており、少し体を動かすだけでも湖の水が豪快に地面へと溢れた。


「……っ、クロエ嬢、下がって!」

「は、はい……!」


 非戦闘員のクロエは湖から溢れ出る水に足を取られつつも、できるだけ湖から離れる。

 その間、ノアは水龍に対して警戒を怠らないようしながら、近くにいた魔術師にクロエの護衛を命じた。


「グォォォォォォン……!」

「ノア様! 水龍の動きが激しくなっています……!」


 再び咆哮を上げた水龍が胴体をうねらせれば、その尾が魔術師たちの体を跳ね飛さんとばかりに振り回される。


「もう! 急に何なのさ!」


 戦闘経験の差から、先に魔術師たちを守るように結界を張ったのはセドリックだった。

 セドリックが作り出した結界により尾が弾かれた水龍は、より一層目つきを鋭くし、テティスたちを見下ろす。


(あれ……? なんだか、水龍の表情が……)


 とある疑問が脳裏を過ったが、その答えを探る術はない。

 それに、今は考えことをしている場合ではないからと、テティスはノアに指示を仰いだ。


「ノア様……! 水龍は完全に私たちに標的を定めたように見えます! どうされますか……!」

「姿を見せるだけなら何もする気はなかったが、仕方がないな──」


 水龍は水を使った技が得意なことに加え、鋭い爪は殺傷能力が高く、硬い鱗は触れるだけでも怪我をする危険がある、とても強力な生き物だ。

 その水龍に攻撃対象だと認識された可能性がある以上、守りに徹するだけでは仲間たちの命が危うい。


「テティス! 俺と水龍を囲うように結界を張って!」

「分かりました! 私が出せる最も強固な結界を張りますから、周りのことは気にせず戦ってください……!」

「ああ! 頼むよ……!」


 水龍の攻撃と、ノアの魔法により周りに被害が及ぶのを防ぐため、テティスはノアと水龍を囲む。

 周りの魔術師たちもその意図は理解しているため、皆が固唾を呑んでノアを見守った。


「水龍、君が何故暴れるかが分かるまで、少しおとなしくしていてくれ」


 ノアは持ち前の膨大な魔力をもとに、水魔法の応用の氷魔法を展開する。

 そして、結界内で暴れる水龍の攻撃を避けながら、どうにか氷魔法をぶつけた。


「グァァァァ!!」


 攻撃を受けたことにより先程よりも一層暴れる水龍だったが、すぐさま力なく倒れる。

 意識はあるようだが、体が思うように動かないようだった。


「テティス! 結界を解いてくれ! 水龍には一旦湖の奥深くで眠ってもらう!」

「はい!」


 テティスが結界を解くと、水龍は倒れたまま静かに湖の奥へと沈んでいく。

 反撃がないことを確認してから、テティスはノアのもとに駆け寄った。


「ノア様! ご無事で良かったです……!」

「テティスも無事で良かった。一応確認だけど、怪我はない?」

「はい! 問題ありません!」

「良かった……っ」


 安堵の表情を浮かべたノアの両腕に誘われ、彼に包みこまれる。


(鼓動が激しい……)


 いとも簡単に水龍を戦闘不能にしたように見えるが、ノアも必死だったのだろう。

 素早い鼓動と頭上に感じる乱れた吐息に、テティスは彼の背中をそっと撫でる。そして、彼が解放してくれたのを機に顔を上げた。


「ノア様、本当にお疲れ様でした。……あの、どのようにして水龍の動きを止めたのかお聞きしても良いですか? 致命傷を負わせたようには見えなくて」

「氷柱状の氷魔法で、水龍が動くのに必要な箇所だけを傷付けたんだ。できるだけ致命傷は負わせたくなかったから。とはいえ、水龍は回復力がとても高いからしばらくすれば全快すると思うが……」

「なるほど……。そういうことだったんですね」


 あの激しい戦闘の中、しっかりと戦略を実行していたノアには頭が下がる。

 テティスが尊敬の眼差しを向けていると、セドリックや他の魔術師がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

 皆、怪我をした様子はなく、テティスはホッと胸を撫で下ろした、のだけれど。


「ノア様……!」

「「……!」」


 突然ノアの腕に絡みつくように抱き着いたクロエに、テティスとノアは目を丸くした。

 いや、おそらくこの場にいたクロエ以外が、皆驚愕した。


「ご無事で良かったですわ……! 私、とっても心配で……」

「クロエ嬢、俺は大丈夫だから、離し──」

「ああ、安心したら力が抜けて……」

「…………」


 涙ぐむクロエは、ノアに全体重を預けるようにもたれかかった。

 ノアは一度クロエと距離を取ろうとしたが、この状況で女性を拒否するわけにもいかず、彼女を支えた。


「申し訳ありません、ノア様……」

「…………いや」


 傍から見れば、ノアが友人であるクロエを支えているだけ。ただそれだけ、なのに。


(なんだか、胸のあたりがもやもやする……)


 その光景を一番近くで見ていたテティスは、これまでに覚えのない感覚に困惑した。


(これは一体……)


 ノアに対して好意を抱いた時は、まだ彼がヒルダのことを好いているのだと勘違いをしていたから、胸が苦しくなった。

 その時と今の感覚は似ている。けれど、同じものではなかった。


 あの時テティスは、ヒルダを羨んだのだ。ノアに好かれているヒルダになりたいと、ヒルダならばノアに愛してもらえるのに、と。


(このもやもやは、クロエ様に対する羨望……ではない気がする。でも、何かが分からない)


 理解できない感情を胸に抱えたテティスがジッとノアたちを見つめたままでいると、そんな彼女のもとにセドリックが足早に近付いてきていた。


「テティ──」


 だが、セドリックが名前を呼ぼうとしたその声は、ノアによって掻き消された。


「お前たち、クロエ嬢を休ませるため、彼女を連れて先に屋敷に戻っていろ」


 魔術師たちに目配せを送りながら、ノアは淡々とした声で言い放つ。


「「ハッ!」」

「えっ、ノア様……っ、待っ──」


 クロエはノアに向かって手を伸ばすが、その手は空を切る。

 一切振り返る素振りも見せず、テティスのもとに歩いていくノアの背中に、クロエは奥歯をギリッと噛み締めた。


「──あ、あの……」


 そんな時だった。

 屋敷からヴァイゼル湖に続く小道から突如幼い少女が現れたのは。


「お姉様……っ」

「何故貴女がここに……!」


 皆が困惑する中、クロエだけは急いで少女のもとに駆走り寄った。

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