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4話 いざ、マーレリア領地へ!

 

 一週間後。

 出勤したテティスとノアは、マーレリアに向う魔術師たちとともに再度予定や役割を確認してから、数頭の馬に荷物を乗せ、魔術省を後にした。


 皆が馬に跨り、マーレリアに続く道を駆ける。

 マーレリアまでは細い道もあることから、今回の移動は馬のみだ。

 以前テティスは一人で馬に乗ることさえできなかったが、結界魔術師になってからの必死の練習のおかげで今や一人で馬を自由自在に乗りこなせるようになった。

 愛馬の名前はベリー。ショートケーキから連想して付けた名前である。ふわりとした白い毛がとても可愛らしい。


「ベリー、今日もよろしくね」

「ヒヒーン!」


 ベリーに跨りながら首の横を撫でると、嬉しそうな声が返ってくる。

 テティスが口元を綻ばせると、こちらをじっと見つめている視線に気が付いた。


「ノア様、どうかされました?」


 テティスの隣で馬を走らせるノアの顔を見ると、なんとも言えない表情をしている。テティスは小首を傾げた。


「テティスが一人でベリーに乗れるようになったのは本当に嬉しいけれど、二人乗りができないのは寂しいな……と思っていたんだ」

「! 今は任務中なので別々ですが、休日に乗馬する際に二人乗りをするのはいかがですか……?」

「くっ……! 抱き締められないこの状況が憎らしい!」

「……っ」


 今回はノアを含めた魔術師たち八人に、テティスとセドリック、二人の結界魔術師を加えた合計十人で任務に向う。


 皆がそれほど間隔を開けずに馬を走らせているため、魔術師たちにテティスとノアのやり取りが聞こえたらしく、皆は顔を赤くしたり、気まずそうな顔をしたり、遠い目をしたりと様々な反応を見せている。


 ノアとテティスは非常に仲が良い……というか、異常なほどにノアがテティスを溺愛していることは魔術省内では有名であるが、こうも目の前で繰り広げられるとどうしても反応してしまうのだろう。


「ちょっとノア、そのあまっあまな発言控えてくれない? 胸焼けしそうなんだけど」

「聞かなければ良いだろうが」


 我慢ならなかったのか、ノアとテティスの後方を走っていたセドリックが文句を垂れる。

 話を聞かれていたことを知ったテティスは、一瞬セドリックの方を振り返った。


「……っ」


 頬が赤らんだテティスの表情を見たセドリックは、堪らず息を呑む。

 彼女と頬の色が移ったみたいに、セドリックの頬も赤く染まった。


 ノアは振り返り、セドリックの表情を見て顔を歪めた。


「……おいセドリック、俺のテティスの可愛い顔を見るな。それ以上見たら、その馬みたいな尻尾燃やすぞ」

「は、ハァ!? 横暴過ぎでしょ! テティスが勝手に見てきただけで、僕が好きで見たわけじゃ……」


 気まずそうに目を逸らすセドリックの姿にノアは鋭い眼光を向けてから、すぐさま前に向き直った。



 ◇◇◇



 次の日。

 マーレリアに続く森の洞窟内で一晩過ごしたテティス一行は、薄暮が迫る頃に目的地に到着した。


「ここがマーレリア領地……」


 森を抜けたテティスたちが目にしたのは、沢山の窓がついた木造の建物だ。その周りには畑や色とりどりの花々が植えられた小さな庭園がある。


 外を歩く人たちはかなり軽装だ。ドレスらしきものを着た女性は見当たらず、風通しの良さそうなワンピースに袖を通している。

 男性たちも同様に、白の涼し気なシャツに装飾のないズボンを履いた軽装だ。

 男女どちらとも編み上げのブーツを履いている者が多い。

 畑から自宅へ戻る男性や、食材が入った籠を両腕に抱える女性、外で無邪気に遊ぶたち子どもたちの姿に、テティスは安らかな気持ちになると同時に違和感を覚えた。


「ノア様、皆さんの表情から不安や戸惑いはあまり見られないのですが、怖くはないのでしょうか。ここから水龍が棲むヴァイゼル湖までは、それほど距離はないはずなのに……」

「水龍が暴れているとはいえ、まだ湖から姿を出したのは一度だけで被害もないからね」

「なるほど」


 ノアの説明に納得したテティスだったが、ふと別の疑問が浮かんだ。


「あの、領民の方々は私たちのことをどう思っているのでしょう? いざという時は、領民の方々が崇めている水龍を討伐する可能性もあるわけですから、やはり私たちのことを好ましく思っていないのでしょうか」


 しかし、それだと水龍の調査に支障が出るかもしれず、それは避けたい。


「それは大丈夫だよ。領主からの手紙には、領民たちをしっかり説得したと書かれてあったから」


 更に手紙には、結果的に魔術師が水龍を討伐することになって、一部の領民が批判の声を上げても、魔術師たちに一切の責任はないという旨が記された書類が同封されていた。


「そうまでして私たちに調査を願いたいということは、領主様は領民の方々と違って、今回の件をかなり重たく受け止めているということでしょうか……」

「ああ。この地を預かる領主として、正しい判断だと俺は思うよ」 


 暴れている水龍を放置して何かあってからでは遅い。

 テティスがうんうんと頷いていると、後方から馬に乗ったセドリックが近付いて来た。


「話の腰を折るようで悪いけどさ、とりあえず早く領主の屋敷にいかない? 領主への挨拶もしなくていいの?」

「あっ……」


 セドリックは小さな丘の上を指さす。そこには、この一体にある木造の家とはかなり大きな屋敷があった。


 あの屋敷は、マーレリア領主のものだ。

 この地に滞在する間は、あの屋敷を拠点にさせてもらえることになっている。

 食事や寝床に困らないのは大変嬉しい上に、あの屋敷の裏手にある森からヴァイゼル湖までは徒歩でも移動可能なほどに近いという。

 何かあっても迅速に対応ができる場所に拠点があるのは、かなり有り難いことだ。


 テティスは屋敷からセドリックに視線を移し、申し訳なさげに眉尻を下げた。


「私が質問したせいで申し訳ありません……! ノア様、参りましょう!」

「おいセドリック、テティスにこんな顔をさせてただで済むと思っているのか。やはりその鬱陶しい髪の毛はさっさと燃やして──」

「横暴にもほどがあるからね!? というか見てよ、こいつらの顔。疲労困憊」


 セドリックは後ろ側を指さし、テティスとノアはつられるように魔術師たちを視界に映す。

 昨日と比べ、皆はかなり頬がげっそりしているように見えた。


(うっ、嘘! そんなに疲れて……!?)


 ノアが定期的に休憩を挟んでくれたおかげで、乗馬初心者のテティスでさえそれほど疲れていないというのに、一体どうしてだろう。


「お前たち、軟弱過ぎるだろ」


 ノアも似たようなことを思ったのか、呆れ顔でそう告げる。

 すると、セドリックの額には青筋ブチブチと立った。


「あのねぇ、皆三時間くらいしか眠れてないんだからしょうがないでしょ! テティスが眠ったあと、ノアが魔術の実践訓練をするとか言うから!」

「え!? も、もしかして私の寝言やいびきなどが原因ですか!? 煩すぎて皆様の睡眠を妨害してしまい、それなら訓練でもしようかという流れになったのですか!?」


 幼い頃から一人で眠っていたテティスは、自身の睡眠中に関して無知だ。

 顔を真っ青にして慌てふためくテティスに、ノアは勢いよく口を開いた。


「それは違うよテティス! テティスの寝息はまるで小鳥のさえずりのようだったし、寝顔は見た者を天に召すくらいに尋常ならざる可愛さだった」

「は、はい……!? も、もし、そうだとして、それなら何故ノア様は突然魔術の訓練などをされたのですか……!?」

「それは……初めて見るテティスの寝顔があまりに愛おしくて……それに夜ということもあって、俺の体が勝手に、その──」


 ノアが言葉を選んでいると、セドリックはハァと溜め息をついてから、彼の言葉を遮った。


「はいはい、これ以上こんなのに付き合ってられないから、お前たち行くよ」

「「「は、はい……!」」」 


 セドリックは馬に乗った仲間たちを引き連れ、屋敷に向い始める。


「セドリック様お待ちください! ノア様! 置いていかれてしまいますから、私たちも行きましょう!」

「あ、ああ」


 結局、何故ノアが眠らずに魔術の訓練をしていたかテティスは分からなかったけれど、まあ良いかと気持ちを切り替えた。

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