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27話 二度目のお茶会

 

「やっと……!! お休みだわ……!!」


 魔物の襲撃からちょうど二週間が経った頃。テティスの日々は、今までと明らかに変わっていた。

 ノアに思いを伝えようと決意したものの、それが未だに叶っていないのは、ひとえに激務に追われていたからである。


「お肌を調えてからお化粧をいたしますね」

「ルル……ありがとう〜癒やされる……」

「ドレスも、とびっきり可愛いものを選びましょう! 髪の毛も沢山いじらせてくださいませ!」

「ええ! ええ! もう好きにして!」


 ここ数日は常に帰りが遅かったため、朝の身支度にゆっくりと時間をかける暇がなかった。

 食事もノアと同じ時間に摂ることが叶わず、どころか互いに屋敷に帰れない日もあったくらいだ。


 そんな環境に多少の不満はあったものの、テティスとしては日々のワクワクの方が大きかった。


 もちろんあまりに多忙でノアにあまり会えないことも、彼との時間がゆっくり取れないせいで好きだと伝えられていないことも問題ではあったのだが──。


「よし、出来ました! 職場へ行かれるときのテティス様も素敵ですが、今はその数倍素敵ですわ!」

「ありがとう、ルル。魔法省から頂いたローブも良いけれど、久しぶりにノア様とゆっくりお茶を飲める今日は、可愛いドレスが着たかったの! さて、行ってくるわね!」


 ルルと共に選んだお気に入りのドレス。髪の毛も普段と変えてアップスタイルにすれば、なんだか不思議と気分も高揚してくる。


 淡いオレンジのドレスをくるりと翻し、ノアが待つ中庭へとテティスは向かう。


 正式に結界魔術師になったテティスの足は、これから愛おしいノアに会えるのだと思うと、まるで羽が生えたように軽かった。



「ノア様……! お待たせして申し訳ありません……!」


 中庭に着くと、既にノアの姿があった。

 茶会のための準備をしていたヴァンサンは、テティスの登場によりささっと姿を消す。流石ヴァンサンという他ならない。


 ノアは待ち人の来訪に、ガタリと勢い良く立ち上がってテティスへ駆け寄った。 


「テティス! ああ、テティス……! 屋敷ではほとんど会えず、書類の処理を早く済ませろとリュダンが口酸っぱく言うせいで魔法省では遠目で見ることしかできなかったこの二週間は本当に長かった……! 会いたかった……!」

「は、はい! 私も会いたかったです、ノア様……」


 顔を赤らめてテティスがそう言うと、「俺はまだ夢を見ているのか……? 夢なら醒めないでほしい……」とノアは髪の毛を掻きながら悶えている。喜びの花が見えそうなほどだ。


 そんなノアの姿に胸がきゅっと音を立てたテティスは、なんだか恥ずかしくなってノアに着席してもらうよう促した。 


 小さなテラスの席。心地よい風が吹いて、周りには数え切れないほどの花々が咲き誇っている。


 テティスはヴァンサンが用意してくれていたティーポットを使って紅茶を準備をしてから、ノアの向かいの席に腰を下ろした。


「テティス。改めて、結界魔術師になれたこと本当におめでとう。自分のことのように嬉しいよ」 

「ありがとうございます……! なんだかまだ夢みたいですが、ここ最近の多忙が現実なんだって教えてくれているみたいです」 


 テティスの嬉しそうな様子は何よりなのだが、それにしても多忙過ぎるがな、とポツリと呟いたのはやや不服そうなノアである。


 ──魔物の襲撃があった二日後、テティスは王宮からの呼び出しがあった。内容といえば、国王直々にテティスに対して感謝の言葉を述べられたことと、正式に結界魔術師として国のために働いてほしいという打診だった。


 もちろん、テティスは念願の夢だった結界魔術師になることを受け入れた。

 幼少期からの念願の夢なのだから、それ自体は迷うことはなかったのだけれど。それにしたって。


 早速結界魔術師として働くことになったのだが、まさかここまで多忙だとはテティスは夢にも思っていなかったのである。 


「結界魔術師としての通常任務だけでも大変だというのに、魔力増加の研究への協力──確かにテティスにしか出来ないことではあるが、流石にこん詰め過ぎじゃないか?」 

「けれど、とりあえず一段落しましたので、明日からは夕方には帰れそうです。それに、ノア様も多忙の中研究に協力してくださったと聞いています。ありがとうございます……!」


 ふんわりとした笑みを浮かべれば、ノアもふわふわと花を飛ばすようにして、穏やかに笑う。

 テティスはそんな大好きなノアの笑顔に、つられて微笑んだ。


「あ、そうだテティス」


 何か思い出したのだろう。

 ティーポットなどが用意されているワゴンに手を伸ばしたノアは、中段に置かれていた白い箱を丁寧に掴んで、テラステーブルへと置く。


(一体何でしょう……?)


 興味津々といった様子のテティスが覗き込むと、ノアは彼女の喜ぶ顔が目に浮かんだのか、「あはは」と声が漏れてしまう。

 そんなノアがテティスに見えるようテーブルの真ん中にずらしてから開封すると、まるでルビーのようないちごがたくさん乗った、キラキラとしたケーキが姿を現したのだった。


「こ、これは……!! なんて美しいのでしょう! まるで宝石みたいです……!! それにとっても美味しそうです……!! 」

「街で有名なパティスリーのケーキなんだ。今日が楽しみすぎて、準備しておいたんだが、喜んでもらえたかい?」

「も、もちろんです……!! ありがとうございます……!!」


 人生で一度は食べてみたいと思っていたパティスリーのケーキだったので、テティスは興奮が抑えられないのか「わぁ〜」「ひゃ〜」などと少し間の抜けた声を出していたものの。


(ここって、開店前から何時間も並ばないと買えないんじゃなかったかしら!?)


 以前、そんな話を聞いたことがあったテティスは、こちらをニコニコと見つけてくるノアに視線を寄せる。


 至極楽しそうに笑っているが、よく見れば目の下には疲れがあった。ノアには公爵として仕事もあるので、本当は誰よりも忙しく、休みたいはずだというのに。


 (それでもノア様は、こうやって私のために……)


 ──嬉しい、嬉し過ぎる。


「ノア様、本当にありがとうございます……ケーキもですが、お気持ちが、嬉しいです」

「君に喜んでもらえるならこれくらいなんてことはないさ。さあ、食べよう?」 

「っ、はい……!」


 テティスはゴクリと生唾を飲んでから、柔らかなスポンジへとフォークを通す。ふんわりと軽く、食べなくとも美味しいことが分かるそれを一口、口に入れると。


「んんん!! もう……ちょっとこれは……美味しすぎて……言葉にならないというか……蕩けるというか……凄いというか……美味し過ぎると語彙力が無くなってしまいます……」

「はは。それは良かった。確かに美味しいね、これ」


 甘味と酸味のバランスがあまりにも良すぎるせいで、フォークが勝手に動くようだ。


 テティスがもぐもぐと美味しそうに頬張っていると、何とも幸せそうな笑みを浮かべたノアが、カチャリとフォークを置いてから口を開いた。


「それにしても、仕事はもう慣れたかい? 嫌なこと言ってくるやつは居ない?」

「はい! 自分でも驚いているのですが、皆さん大変良くしてくださって……」


 もちろん、ときおり訝しげな表情をしてくる者や、何やら意味ありげな目でじっと見てくる者もいるが、今まで無能無能と罵られてきたテティスからすれば、そんなのなんてことない。

 殆どの者が王都を救ったテティスに対して友好的であり、ノアの婚約者というのもあって、直接喧嘩を売ってくる者などはいなかった。


「そうか。それは良かった。もしも何かあったら、一人で抱え込まずにすぐに言うようにね」

「はい、ありがとうございます」

「いや、何にもなくても出来るだけ話してくれ。……悪い虫が付いてからじゃ遅いから」

「虫……? 魔法省で虫は見たことがありませんが……」


 ぽかんとしながらも、とりあえず心配をしてくれていることだけは理解したテティスは、改めて頑張らなければと胸に刻む。


 そんな中で、ノアは「一つ言わなきゃいけないことがあるんだ」と、やや言いづらそうに口を開いた。



「これはまだ公になっていないんだが、リーチ殿下が話してくれてね。家族であるテティスにも、事前に話す許可はもらったよ」

「…………!」

「君の家族に、どういう罰が下るのか──」


 固唾を呑むテティスに対して、ノアはゆっくりと語り出した。

明日最終話です!

最後までよろしくお願いします……!

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