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26話 騒動後の悩みとは

 

 ヒルダの断罪を食い入るように見つめていた一同だったが、本人が連行されたことで、ポツポツと散り始めた。

 魔物の後処理をするもの、住民たちの無事を確認するもの、負傷者を手当するものや、病院へ運ぶもの等々、皆が慌ただしく行動を始めたのである。


 それを感じ取ったのか、テティスも落ち込んでばかりはいられないと、ノアにありがとうございますとだけ告げると、その腕から抜け出した。その温もりや安心感からずっと抱き締められていたいと思ったけれど、そんなわけにはいかない。


 リーチは当初、テティスに話をするために足を運んでくれたようなので、真摯に対応しなければいけないと思ったのだ。


「これで落ち着いて話ができるな。テティス嬢、先ずは王都を救ってくれたこと、礼を言う。ありがとう」

「当然のことをしたまででございます。お礼を言われるようなことは、何も。むしろ、姉のことは大変申し訳ございません」

「いや、君が関与していないことは調べがついているから謝る必要はない。それにしても、なんて謙虚な……」


 ヒルダのこともあって、テティスのことが天使のように見えてならないリーチ。

 他意はなかったものの、リーチがテティスをじっと見つめると、そんなテティスの肩を力強く抱き寄せたのは、何やら不服そうな顔をするノアだった。


「テティスは俺の婚約者ですよ、殿下。いくら彼女が天使のように可愛らしく、結界魔術師としての才覚にも溢れ、弛まぬ努力もするような非の打ち所のない女性だとしても、絶対に殿下にはあげませんからね」

「ノ、ノア様何を仰ってるんですか……!! 殿下にそんなつもりはないに決まってるじゃありませんか……!!」

「いや、ノアの婚約者じゃなければ、私の婚約者にならないかと口説いていたかもしれないな」

「…………。はい!?」


 結界魔術師としての才覚は、この場にいる全員が知るところだ。全く申し分ない、どころか偉大な結界魔術師──エダーの再来ならば、これ以上の相手はない。

 ノア曰く弛まぬ努力をしているらしいし、性格も謙虚で、王族の妻になるに相応しい。


 けれど、それはテティスに婚約者がいないか、もしくはろくでもない男が婚約者だった場合の話である。


「安心してくれ、ノア。私は人のものをどうにかするような下衆ではないし。彼女に何かをして、お前に暴動でも起こされる方が恐ろしい。簡単にこの国は滅ぶだろうよ」

「……殿下が聡明であられて、心の底から嬉しく思いますよ」

「……ハッ、よく言う」


 そんなやり取りを遠くから聞いていたセドリックは「ほんとに男の嫉妬って醜いよね……」とボソリと呟いたという。



 ◇◇◇



 テティスとノアが屋敷に戻ってこれたのは、すっかり朝日が昇り切った頃だった。


「ご無事で何よりです……!」と駆け寄ってきてくれるルルとテティスが抱擁する中、テキパキと湯浴みや食事の準備の指示をするヴァンサン。

 他にもたくさんの使用人たちが、テティスとノアを出迎えてくれた。


(この屋敷に来たときは、こんなふうに出迎えてくれるのはお姉様の代わりとして丁重に扱ってくれてるからだと思っていたけれど……)


 それが間違いだったと分かったからだろうか。

 以前よりもサヴォイド邸に愛着が湧き、より一層使用人たちのことが大切に思えてくるのだ。


「皆、出迎えご苦労」

「「お帰りなさいませ! ノア様! テティス様!」」

「皆さん、ありがとう。……ただいま……!」



 それからテティスはノアに部屋で休むよう言われたので、湯浴みをしてから、髪の毛を粗方乾かすとベッドへと沈んだ。

 ルルからは食事はどうするかと聞かれたが、今身体は食欲よりも、睡眠を欲していたのだ。


(それにしても、昨日の夜から色々あったな……)


 ノアと昔に会っていたことを知り、彼がヒルダではなくテティスを愛していると言ったこと。

 魔物の襲来に、自分でも驚くほどの膨大な魔力による結界魔術。

 ヒルダは婚約破棄され、家族もろとも何かしらの罰を受けること。


 思い返せば、たった半日で処理できる情報量ではなかった。


「けれど……眠たい……」


 ヒルダを含めた家族のことは、テティスがどうこうできるレベルの話ではない。


 魔力の増加についてもこれといった確証はなく、今日発動したような結界魔術がいつでも使えるのか実験しなければと思うものの、流石に肉体的にも精神的にも疲労困憊で、結界魔術を発動する気力は残されていなかった。


 そんな状態だというのに、落ちてくる瞼に必死に抗いながら、テティスは愛しい人の名前をポツリと零す。


「ノア……様……」


 ゴロンと寝返りを打てば、ひんやりとしたシーツが肌に触れる。

 けれど、ノアのことを考えただけで熱を帯びる身体には、これくらいの冷たさがちょうど良かった。


「私も、ちゃんと好きって、伝え、なきゃ……」


 夜会の後、ノアから愛していると告げられたテティスは、自身の思いを口にすることが出来なかった。

 まあ、不可抗力な部分が大半ではあったが、ようやく冷静に考える時間が出来たテティスは、枕にボスッと顔を埋める。


 ノアの優しい声も、その声で名前を呼ばれることも。一緒に食事を摂ったり、他愛もない会話をしたり、身体が、触れたり。


「好き……ノア様……す、き…………」


 その言葉を最後に、テティスは夢へと誘われた。


 好きだと伝えたら嬉しそうにはにかんで、喜びの花を飛ばすノアの表情を薄っすらと脳裏に浮かべながら。

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