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24話 ヒルダ、絶望への入り口

◆【連載版】聖女の妹の尻拭いを仰せつかった、ただの侍女でございます〜謝罪先の獣人国で無自覚に才腕をふるったら、何故か冷酷黒狼陛下に見初められました!?〜◆


投稿開始しました!

思慮深い黒狼陛下✕自身の才能に気付いていない売れ残り侍女とのハピエンラブストーリーです。 短編版よりも溺愛&もふもふ増々にザマァもありですので、よろしくお願いします!

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「凄い……」と呆然としながら口にしたのは、セドリックだっただろうか。


 テティスの結界が続く限り、王都には傷一つ付かないことが確信できるほどの、圧倒的な精度の結界に、全員が目を瞠った。


「お前たち! 結界が張られている間にさっさと終わらせるぞ……!!」

「「お、おおおおお!!!」」


 しかし、悠長にしている暇はない。テティスの結界がいつまでも続くなんて保証はない以上、短期決戦をするべきだと、ノアは各魔術師たちに指示を出していく。

 魔術師ではないものの、この場の現場責任者であるリーチも同じ考えのようだった。



「何よ……その力……何であんたが……無能のはずなのに」


 まるで奇跡が起こったのだと、エダーの再来だと皆が胸を高鳴らせる中で、幽霊でも見るかのような眼差しをテティスに向けたのはヒルダだ。


 ──信じられない、あの女は誰? 私の知っているテティスは、才能のかけらもなくて、無駄な努力だけをしている愚かで、無能な、そんな、そんな子だったはずなのに。


 間違いなく、この場を救ったのはテティスだった。無能だと言われ続け、肩身の狭い思いをし続け、夢や努力を否定され、それでもなお。

 夢を諦められず、弛まぬ努力をし続けてきたテティスこそが、この場にいる全員の──否、この国の希望だった。



 ◇◇◇



 それから半刻もしない内に魔物は殲滅されると、その場にいる全員がテティスの結界魔術により王都が守られたことを知ることとなった。


 その広大な結界と強力さに舌を巻く者や、テティスに対して無能だという印象を持っていたことに罪悪感を抱く者が多い中、ノアはテティスに駆け寄ると、自身の腕の中に彼女を引き寄せる。


「テティス! ありがとう……! 君のお陰で王都の中心に被害はなかった!!」

「ノア様!! 人前です……! 人前ですよ……!!」

「そんなの構うものか。こんな奇跡──いや、奇跡じゃないな。こうも素晴らしい結界を張れたのは、魔力だけじゃなくて、テティスのこれまでの努力の成果だから」

「ノア様…………」


 そんなふうに言われたら、恥ずかしさよりも嬉しさが勝ってしまう。

 おずおずとテティスもノアの背中に腕を回すと、周りから拍手が沸き起こった。


 やれやれといった表情で見てくるセドリック、「あっついなーお二人さん」と言いながら楽しそうなリュダン、他の殆どの者は、これ以上ないくらいに興奮し、歓喜していた。


 そんな中、ドタドタと近付いて来る足音に、テティスは目を見開く。


「ちょっとテティス……! 何なのよさっきの!! 説明しなさいよ!! 何で無能のあんたが、あんな……あんな結界を……!! 無能のくせにぃ!!」


 今にも手を出しそうな形相のヒルダに、テティスはせっかくのノアの腕の中から出ると、力強い眼差しで見つめ返す。


 いつも余裕な笑みを浮かべて馬鹿にしてくるヒルダの姿は、そこにはなかった。


「実は少し前から、急激に魔力が増えて、私も結界を張れるようになっていたのです。私はもう無能ではありませんわ、お姉様」

「はあ? 何を偉そうに!!!!」

「それに、この場にいる全員と、民たちを危険に晒したお姉様には、不満を呈するよりも先にすることがあるのではないですか? 誠心誠意謝罪すれば気持ちは伝わるはずですから、どうか」

「私が謝罪ぃ? あんた頭湧いてるんじゃあ──」 


 そこでヒルダは、自身を見ている人たちの視線に気が付く。

 セドリックやネムはヒルダを間近で見ていたのでもちろんのこと、魔術師たちの何人かもヒルダの暴挙を目にしており、それは既に現場中に広まっていた。


 集中を欠いて結界を乱れさせたことから始まり、仲間の至極真っ当な発言に勝手に苛立ち、あまつさえ身勝手な理由で結界への魔力供給を独断で停止。


 そのせいで仲間を危険な目に遭わせ、王都も危険に晒し、それを救ったテティス──救世主に詰め寄るヒルダへの視線は、過去に彼女が一度も向けられたことがないようなゾッとするほど冷たくて、ゴミを見るようなものだった。


「何よ……っ、何で私にそんな目を……! 私は凄いのよ!? 私はねぇ! ……あっ、そうだわ! ノア様! ノア様ならば、私の味方になってくださいますよね!?」


 テティスに寄り添うノアに、ヒルダは縋るような視線を送る。


 自身のことを好いていると疑わない哀れな女──ヒルダ。


 テティスを今まで傷付け続け、婚約の件でも余計なことを言い、仲間や民たちをも危険に晒したヒルダは、ノアならば助けてくれると疑っていないらしい。


 ノアは「ハッ」と嘲笑うように息を吐いて、並々ならぬ怒りを孕んだ視線をヒルダに向けた。


「俺は君に名前で呼ぶことを許可した覚えはないし、天地がひっくり返っても、俺の愛するテティスを無能だと言い続けた君の味方になることなんてない」

「ノ、ノア様……? 今は冗談を言っている場合では……」

「は? 君は結界魔術師として未熟なだけではなく、おつむも弱いらしいな。なんとも愚かで、可哀想に」


 ノアの言葉に、ヒルダはピシャリと固まる。


「未熟……? 愚か……? 可哀想……? この私が……?」


 てんで理解できないというように、瞳の奥をゆらゆらと揺らすヒルダは、未だ現実を受け入れられないようだった。

 そんなヒルダに対して一切同情を持たないノアは、もう一度自らの腕の中に愛おしい人を迎え入れてから、ヒルダに視線を寄せた。


「ああ、それと、俺は君のことがこの世で一番嫌いだ。テティスの身内でなければ今すぐ魔物の餌にしてやりたいくらいにな」

「はあ? 何なのこれ、何なのよ、これ、夢……?」


 両親に甘やかされ続けたヒルダには、こんな状況は到底受け入れられないだろう。

 テティスが愛されて、自身は大嫌いだと言われる未来なんて、一生来るはずないと思っていたから。



「ノア、今回の立役者である君の婚約者を紹介してくれ」

「リーチ殿下」


 信じがたい現実、ヒルダにふつふつと湧いてきたのは怒りであり、これでもかと拳を握りしめていると、聞き慣れた声に心臓が跳ねた。


「っ、リーチ様……!! 助けてくださいリーチ様ぁ!!」


 現場の最高責任者であり、自身の婚約者であるリーチの登場に、ヒルダは息を吹き返す。


 テティスやノア、その周りからの叱責や悪意ある視線など、婚約者であるリーチに罰してもらえば良いのだから、と。


 ──見ていなさいよ。テティスにノア様、それに周りの雑魚たちも!


 ヒルダは、ノアに話しかけたリーチの元へと小走りで近付いて行く。とっておきの上目遣いを見せ、リーチの腕へと絡み付いた。


「リーチ様聞いてください! ノア様も妹も酷いのです……! まるで私が全て悪いみたいに言うんですよ? 謝罪しろとか、愚かとまで! 結界魔術師であり、リーチ様の婚約者である私になんて言い草だと思いません? いっそのこと、この場にいる者たちを皆不敬罪で──」


 リーチの視線が、そろりとヒルダへ向かう。最近は冷たかったとはいえ、婚約者なのだからいざというときは守ってくれると、そう思っていたというのに。



「不敬は貴様だ、ヒルダ・アルデンツィ。()()()()の分際で、何様のつもりだ」


「もと、こんやく、しゃ?」

読了ありがとうございました!


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