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23話 眩い光をご覧あれ

 

 戦闘が始まって半刻ほど経った頃だろうか。


「凄い……!! これなら……!!」


 次々に魔物を殲滅する魔術師たち。すでに半分以上の魔物を倒し、士気は最大級に高い。


 特にノアの強さと言ったら段違いで、こんな状況だというのに、見惚れてしまうほどだ。

 以前、魔物の森に調査へ行ったときにも彼の魔法は目にしたが、それとは比べ物にならないほどの高威力の魔法を、次々に繰り出している。側近のリュダンもノアに負けじと魔物を攻撃しており、テティスの目から見ても勝利は間違いなさそうだった。


(けれど、問題は……)


 テティスは間近にいる結界魔術師たちに視線を移す。


 王都を囲うほどの巨大で、かつノアたちの魔法を防ぐほどの強固な結界を、三人で魔力を操作しながら作り出すのは至難の業だ。


 一人の時よりも格段に繊細な魔力コントロールと集中力が必要になることは、勉強をしてきたテティスには簡単に想像できた。そしてそれを成し遂げるためには、今までの努力が切っても切り離せない関係だということもまた、事実であった。


「まずいわ……」


 ──ゆらりと、結界が乱れ始める。


 ヒルダが流し込む魔力の乱れにより、結界が歪な形になり始めたことに気付いたのは、彼女の隣にいるセドリックも同じだった。


「ねぇ! 疲れたのだけれど! まだなの!?」

「っ、うるさいな! 喋ってないで結界に集中してよ!! 乱れてるでしょ!? 見て分かんないの!?」

「何よ……! 私に向かって偉そうに……!」


 苛々して声を上げるヒルダにセドリックは注意するものの、それはヒルダの自尊心を刺激したらしい。


 集中力を欠いたヒルダの手元から安定した魔力が供給されるはずもなく、程なく壊れてしまいそうな結界にテティスの額に汗が滲むと。


「もうやめたわ! 疲れたもの!!」

「「は!?」」

「ちょっ、お姉様……!! 何をしているの……!!」


 自身の才能にかまけて一切努力をせず、甘やかされるだけ甘やかされて育ったヒルダの辞書に、責任感や我慢などといった言葉はない。


 まるで、気に入らない玩具を躊躇することなく捨てていた幼少期の頃のように、ヒルダは結界を作るために供給していた魔力を、いとも簡単に止めた。


 すると、三人でようやく作り上げた結界はヒルダが抜けたことにより少しずつ薄くなり、魔力バランスが完全に崩れたことで、結界にムラができていく。


 そして同時に、ある魔術師の魔法が結界に当たったことにより、不安定な結界は薄いガラスのようにパリンと音を立てて瓦解したのだった。


「はあ!? ちょっとあんたたち何をしてんのよ!!」

「っ、元はと言えばヒルダ嬢が勝手に結界への魔力供給をやめるからでしょ!! 馬鹿なの!?」

「そうよそうよ!! けど今はそんな話をしてる暇ない……!!」


 我慢できなかったのか、もう一人の結界魔術師であるネムも、ヒルダに対して苦言を呈した。


 しかし、そんな結界魔術師のいざこざを魔物が待ってくれるはずもなく、結界が解けたことに気付いていない魔術師たちの容赦ない魔法攻撃が結界魔術師たちの近くへと次々と放たれる。


「きゃぁぁぁっ!!」


 そしてそのとき、攻撃魔法の一つがネムの腕を深く負傷させた。

 彼女が今すぐ、再び結界を張るのは厳しいというのは、テティスの目から見ても明らかだった。


(この状況は最悪だわ……!! こんなの──)


 結界魔術師にとって、一番きついのは、結界を作り始めるときだ。結界ができてしまえば一定量の魔力を供給するだけで構わないが、始めだけは大量の魔力を要する。


 見たところ、職務放棄したヒルダは元より、セドリックやネムにも、そんな力は残されていないようだった。


(どうしよう……このままじゃ街が! 人が……! けど攻撃の手を緩めれば、ノア様たちに被害が及ぶかもしれない……!)


 テティスの視界に、魔物と交戦中のノアの姿が映る。


 火と水の二つの属性を巧みに使い分け、指揮を取りながら魔物に攻撃し、かつ仲間を守って戦っているその姿をテティスは心の底から誇らしいと思う。そんなノアを心の底から守りたいと思う。そんなノアが守ろうとしているこの国を、テティスも共に守りたいと、強く思う。


(……ノア様、好きです。大好きです。どうか私に、もっと力を──)


 そう、テティスが祈った瞬間だった。


「この、光は……っ」


 今までとは比べ物にならないほどの光り。辺り一帯の暗闇を照らすほどの眩い光が、テティスのブレスレットから放たれている。


 その光りに、近くにいたヒルダやセドリック、ネムはもちろんのこと、戦闘中のノアたちも気付いた。


 そして、眩い光の中心にいるテティスに対して、誰かがこう言ったのだ。「まるで女神が現れたみたいだ」と。



「この魔力なら……出来る……!!」


 ブレスレットの光は魔力量を示すが、それがなくとも、テティスの体内には魔力が際限なく湧いてきているのが分かる。

 今まで修行をしていなければ魔力の暴走が恐ろしくて扱えないほどの膨大な魔力だが、テティスに恐怖も、不安もなかった。


 今までの努力の全てはこの日のためにやってきたのだと、テティスには本能的にそう感じられたから。



「ノア様──私、貴方のお役に立てそうです」



 テティスはそう呟いてから手に魔力を集め、それを薄く薄く伸ばしていく。広く、揺らぎなく、正確に、有り余るほどの魔力を込めて。


「──テティス、君はなんて子なんだ」



 一瞬だけ、テティスへ視線を寄せたノアがそう呟いた瞬間、それは訪れた。


 ヒルダたち三人がかりでもやっとだった広大な結界を、テティスは一人で、そしてより強固な結界を作り出したのである。

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