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22話 ジッとしてなんていられません




 

(それは大変だわ……! 早く対策を打たないと、王都が……!)


 思い出されるのは、約百年前の魔物の王都襲撃事件だ。

 あのときはヒルダの曾祖母──今でも語り継がれるほどの偉大な結界魔術師のエダーがいたため事なきを得たが、今は違う。

 結界魔術師が三人力を合わせても、エダーには遠く及ばないだろう。 


 魔術師たちが魔物を迎撃することに成功したとしても、魔術師たちの魔法が結界を貫通した場合、被害は小さくないことは想像に容易かった。


「分かった。夜だと魔物の移動速度は極めて早いから、今から準備をするとなると……王都の外れで迎え撃つことになるか。支度が済み次第直ぐに発つから、馬の準備をしておいてくれ」

「かしこまりました!」


 緊急事態にも慣れているのだろう。

 焦った様子はなく、的確にルルに指示を出したノアだったが、バタンと扉が閉まると、そんな彼の表情が青ざめていることに、テティスは気づいてしまったのだ。


 こんなノアの顔を見たことがなかったテティスは、震える声で彼の名を呼ぶことしか出来なかった。


「ノア様……?」

「ああ、済まないテティス。俺がこんな顔をしていたら、君を不安にさせてしまうな」

「そんな……」


 こんなときでも、ノアが心配してくれる。もう、ヒルダの代わりだなんて思わずに済むのだから、嬉しいに決まっているのに。

 嬉しいという感情よりも、テティスにふつふつと湧き上がってきたのは、どうにかノアの力になりたいという、そんな思いだった。


(どうしたら、どうしたらお役に立てる……?)


そんなふうに思考を働かせたテティスだったが、その結論は思いの外早くに出た。もう私は、無能ではないのだから、と。


「あの、ノア様、私も現場に付いて行くことは可能でしょうか?」

「…………! ダメだ。結界魔術が使えるようになったとはいえ、テティスは結界魔術師ではないし、危険過ぎる」

「分かっています……! けれど、ジッとしてなんていられませんわ!! 私のこの力は、少しくらいならお役に立てるかもしれないのです……!!」


 何も自身が、エダーのような偉大な結界魔術を発動できるだなんて思っていない。

 セドリックはおろか、ヒルダと比べても現場経験は少ないし、非常事態で、いつものように結界魔術が発動するとも限らない。


 けれどテティスは、誰かを助けられるかもしれない、誰かを守れるかもしれない能力が芽生えた今、自分は安全な場所にいてノアの帰りを待っているなんて、そんなこと出来なかったのだ。


「どうか、お願いします……! ノア様の、ノア様のお役に立ちたいんです…………!!」

「………………っ」


 すると、しばしの沈黙の後、ノアはふぅ、と小さく息を吐いた。呆れたというよりは、根負けした、というのが表情の細部に現れていた。


「分かった。だが、基本的に無茶はしないこと。自分の身を一番に考えること。これだけは守ってくれ。分かったかい?」

「はい! ありがとうございます……! 必ず……!!」


テティスの言葉に、深く頷くノア。


 そうして、部屋から出ていったノアの背中を見つめてから、テティスも直ぐに行動に移る。


 ノアに指示をされたのか、すぐに手伝いに来てくれたルルに手伝ってもらいながら動きやすい格好へと着替えたテティスは、正門の前で待ってくれていたノアと共に馬に乗って現場へと走り出した。



 ◇◇◇



 現在、王都の外れでは、魔物を迎え撃つために迎撃体制がなされている。


 その中心にはノアの姿、そしてこの場の管理責任者である第二王子のリーチの姿があった。

 その他にもリュダン、セドリック、もちろんヒルダの姿もあり、全員で陣形を確認しているのを、テティスは遠目から見ていた。


(今の私は部外者なんだもの。とにかく、邪魔だけはしないようにしないと)


 夜目があまり効かない人間に、暗闇はそれだけで不利だ。


 そのせいで陣形の確認もスムーズにできず、王都に暮らす人々の避難も順調にはいっていないという声がちらほら聞こえてくる中、テティスは飲み込まれてしまいそうな暗闇を見つめる。


(ノア様たち魔術師の魔法は強力。魔物に負けることはないでしょうけど、強固な結界を使わないと魔術師の魔法によって王都に被害が出てしまう。つまり、重要なのは結界魔術師たちの連携と、その結界の精度なのよね)


 そのため、結界魔術師たちは三人で王都の中心を囲うように結界を張るのだ。

 そうすることで、魔術師たちは被害を考えることなく力いっぱい戦える。というのが、今回の作戦なのだけれど。


 もちろんこれは、三人の力を合わせた結界が、かなり強固なものになるという前提の話である。



「──あら、何でここに無能がいるの?」


 結界魔術について考えていると、聞き慣れた声と聞き飽きるほど言われてきた『無能』という言葉に、テティスは視線を彼女に寄越した。

相変わらず見た目は美しいが、前までのように羨ましいと思うことはなかった。


「お姉様……」


 どうやらヒルダが抜け出してきたわけではなく、作戦会議は終わったらしい。

ノアはテティスに声を掛ける余裕もないほど忙しいらしく、リーチと共に現場の指揮をしながら、少し離れたところへと歩いていったのが、テティスの視界の端に映った。


「あらまあ可哀想に……。ノア様ってば、いくら愛していないとしても、こんな状況のときくらい、屋敷で匿ってくれれば良いのにねぇ」


 ヒルダは、テティスが結界魔術を使えるようになったことを知らない。

 それに、未だにヒルダこそがノアに愛されていると疑っておらず、どうやらテティスのことは酷い目に遭わせるために連れてこられたのだと思っているらしい。


「無能のあんたがここにいたって、魔物の餌になるだけなんだから。あ、もしかしてノア様はそれが狙いかしら? まあまあ可哀想な妹だこと!」

「いえ、それは違い──」


 しかし、否定しようとしたテティスの声は、聞き慣れない夥しい声に掻き消された。


「あれは……魔物の集団……!」


 魔物が現れると、ヒルダはテティスに「無能は邪魔よ!」と吐き捨ててから、他の結界魔術師と共に王都の中心へ向かって結界を張る。


 この結界は魔法や魔物は通さないが、人間は通れるようになっているため、テティスは事前にノアに言われていた通り、先ずは自身の身の安全を守るため、結界の中に入って動向を見守ることにした。

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