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13話 美少年セドリック

 

 魔物の森には何箇所か人工的に作られた入り口がある。


 魔術師等が入るために整備されたその入り口の前で馬を止めたノアは、抱き抱えるようにしてテティスを下ろすと、先に着いていた男に声をかけた。


「セドリック、えらく早いな」


 ──セドリック・レインバーグ。

 女性のようなまん丸の瞳に、陶器のような肌。ピンク混じりの長いブロンドヘアを一つに纏めた、結界魔術師の中で最年少の十五歳の少年である。


 ノア曰く、両親同士が知り合いだったことから、割と昔から付き合いがあるらしい。


 初めてその姿を目にしたテティスは、内心で美少年……と思いつつ、ノアの斜め後ろで無意識に姿勢を正した。


「仕事なんだから早めに来るのは常識でしょ。……で、その後ろのパッとしない女がノアの婚約者?」

「お前のその尻尾みたいな髪の毛、今すぐ燃やしてやろうか」

「実力行使反対! 僕の美しい髪の毛をチリチリにしたら、結界張ってやらないからね!!」


 ノアが右手からブワッと炎を出すものだから、テティスは慌ててノアのローブを掴む。


 振り向いて「冗談だよ」と穏やかに笑うノアに安堵したテティスは、ツンケンした雰囲気のセドリックの前にまで行くと、ローブを摘んでゆっくりと頭を下げた。


「テティス・アルデンツィと申します。ご存知の通り、ノア様と婚約させて頂いております。本日はよろしくお願いいたします」

「……僕はセドリック・レインバーグ。セドリックで良いよ。ノアから話は聞いてるから一緒に来るのは構わないけど、せいぜい邪魔はしないでよね。あんた魔力が少なくて、結界魔術はおろか、普通の魔法もまともに使えないんでしょ? 完全に足手まといなこと自覚して」


 ふんっと鼻を鳴らすセドリックに、ノアはスタスタと近づくと至近距離で彼を睨みつけた。


「セドリックお前な──」

「何さ、事実でしょ」

「は? テティスのことを良く知らないで知ったふうなことを言うな。それにテティスを連れてきたのは俺の判断だ。お前は昔から──」


 バチバチと、ノアとセドリックの間に火花が見えたテティスは、おろおろと目を瞬かせた。


(ま、まずいわ! 今から調査だというのに喧嘩だなんて……!)


 昨日の段階から、セドリックは口が悪く、思ったことをずけずけという性格だということは聞いていたので、テティスはセドリックに対して驚きはなかった。


 最近ではノアを含め周りが優しすぎたため、貶されたことは多少ショックだったが、事実ではあるし、今まで言われ慣れてきているので、別に構わない。けれど。


(でも、口論なんてだめ!! でしょ!!)


 調査の前に喧嘩をするだなんて、言語道断だ。


 魔術師でもないテティスが口を挟むのはどうかと思ったものの、口論になった原因も自分が付いてきたことにあるのだからと、大きく息を吸い込んだ。


「あの!!!!」

「「!」」


 睨み合っていたノアたちが一斉にテティスを見る。


 テティスは、両手でローブの腰辺りの布をギュッと握り締めながら、大きく口を開いた。


「私! お二人の邪魔は絶対にいたしませんからご安心ください!! お邪魔にならないところで、セドリック様の高度な結界魔術が見たいだけなのです!! 是非この私に、お勉強をさせてください!! お願い致します!!!!」


 ガバッと、テティスは深く頭を下げる。 


 そんなテティスにノアはかけ寄って頭を上げるよう言う中、一方でセドリックはどこかバツが悪そうに眉間にしわを寄せた。


「もう良いや。なんか馬鹿らしいし」


 セドリックはそう言うと、どこか意味有りげな視線をノアに送る。会ったばかりのテティスにはその意図は読めなかったけれど、どうやら口論は一旦落ち着いたらしかった。


「…………仕方がない。夜になると魔物も活性化するだろうから、調査を始めよう。テティス。悪いが、それで良いだろうか?」

「はい! 勿論です」


 ノアの表情から、まだ少し納得行かない様子は窺えたものの、テティスはそんな彼の背後に回ると「早く、早く行きましょう」と焦ったように呟く。


(うう、多分今、顔が赤くなってる……)


 ノアの考えはどうあれ、セドリックの言葉からノアが庇ってくれたことが嬉しくて、それが顔に出てしまったテティスは、顔の火照りが取れるまで俯いたままだった。



 森の中に入ると、しばらくは物音一つないほどの静寂さに包まれていた。

 ノアとセドリックは慣れっこなようで平然としているが、テティスはこの異様な静けさが嵐の前を想像させ、本能的に背筋が粟立った。


 そんな様子のテティスの隣を歩くノアは、数メートル前を歩くセドリックには聞こえないように、彼女の耳元に顔を近づけると吐息混じりの低い声で囁く。


「テティス、少しだけ手を握っても良い?」

「……えっ」

「ほら、不安なときでも誰かの手を握ると安心できるだろう? 今日は少し緊張しているから、テティスに緊張をほぐす手伝いをしてほしいんだ。だめか?」


 柔らかな表情に、落ち着いた声色。緊張している様子には見えないノアに、テティスは彼の要求の意図を悟ることができた。


(ノア様……私が緊張していると分かって……それで……)


 しかし、テティスに対して緊張しているかを問えば、テティスは帯同させてもらっている手前、迷惑は掛けられないと首を縦に振ることはしなかっただろう。

 ノアがそこまで見越して、手を繋ぐことを申し出てくれたのだと思うと、テティスの胸はきゅうっと締め付けられた。


「はい。手を繋いでください、ノア様」

「ああ。ありがとうテティス」


 ノアの気遣いに対する感謝と、自身の汗ばんでいるかもしれない手が彼の手に包まれる緊張。

 これら全てはヒルダの代わりだから与えられている現実なのだと思うと、胸が苦しくなるけれど、テティスは小さく頭を振った。


(もう、良いや。しばらくお姉様のことを考えるのは止めましょう。テティス()ではヒルダ(お姉様)の代わりは務まらないって、ノア様がはっきり仰るまでは。それまでは、この幸せな気持ちに、浸っていたい。感情に、素直でありたい)


 そう決めたテティスは、ノアに包まれた左手にキュッと力を込める。

 頭一つ分以上高いノアの顔を、上目遣いでじっと見上げて、自身の素直な感情を伝えることにした。


「ノア様と手を繋げて、嬉しいです。大きな手に包まれて、とても安心します」

「…………!」


 驚いたノアの表情は一瞬で、すぐさま彼は普段通りの穏やかな表情へと戻る。


「不意打ちは狡いな……」とボソリと呟いて、明後日の方向に顔を向けたノアの顔が真っ赤に染まっていたことを、テティスは知らなかった。



 しかし、そんな穏やかな時間は長く続かなかった。


「ちょっとノア。何体か魔物が出て来たから、さっさとその緩んだ顔引き締めなよ。今日の目的はこの森に住む魔物が異常な繁殖をしていないかの調査で、出来るだけ広範囲を見なきゃいけないんだから、さっさと始末してよね」

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