コンセント
ある日、とある少年が、公園の広場で"それ"を見つけたことが始まりだった。
"それ"は見たところ、2つの縦長の小さな穴が空いていて、周囲は半径3センチほどに、円上に黒く塗られていた。
「……コンセント?」
しかし、なぜこんなところにあるのだろう。公園のど真ん中に普通あるようなものじゃない。第一、雨が降ったらどうするのだろう。
「あ、ちゃんとしてら」
穴が空いている、と思ったが、よく見れば蓋がしてあった。なるほど、土埃や雨水はこれで入らないで済むのか。
変に凝ったいたずらだなと少年は思った。なら冗談とわかっていても乗ってやろうじゃないかと思い、少年はカバンから充電ケーブルを取り出し、その怪しいコンセントに挿し、携帯を充電してみることにした。
「いやできんのかよ」
携帯の充電マークは確かに「充電中」の表示になっている。一体どこからこれは電力を引っ張っているのだろう。
少年は帰宅したあと、親に聞いてみたがそんなコンセントは知らないという。
インターネットで検索をかけたが、地面にあるコンセントなんてあるわけないだろと馬鹿にされて終わった。
市役所に問い合わせてもみたが、何も知らないという。
ならばと思って、そういった変な施設を紹介するテレビ番組に投稿をしてみた。即日回答が来た。翌日には撮影するという。
翌日、テレビの取材ということで公園には人だかりができていた。
ゲストの芸能人がいろいろなものをコンセントに挿して、通電することに盛り上がっている。
それを最初に見つけた人物として少年も取材を受けた。偉い学者などもきて、地質調査なども行われたが、結局この正体はわからなかった。
ただ、学者曰く、「このコンセントの元は非常に奥深くまで伸びている」とのことだった。どこまで伸びているのだろう。
テレビの放送が終わった翌日には凄まじい人だかりができていた。最初のうちは物珍しさで人が集まっていたが、ある日、突然、とある団体がそのコンセントをもっと広く使おうということで、タコ足プラグを用意した。
市販の8口くらいあるものではなく、無数の口数がついているものだった。
充電したい人はこちらまでと、公園のど真ん中で電気の供給屋ができた。
そこに電気を取ればいくらでも電気が取れるのだから、ついには電気会社を解約して、家の電気を公園のコンセントで賄おうとする人が、一人、また一人と増えていった。
そうなって一ヶ月もした頃には、街全体の電力はその公園から供給されるようになっていた。半年もすれば市全体が。もはや公園は公園の形を留めず無数のタコ足配線のケーブルが行き交う施設となっていた。
一年がたった。この地方一体の電力は全て公園が担っている。神の恵みだ、とその地方の人たちは思った。電気代を払わなくて済むどころか、企業も電気というコストがないことで利益を追求しやすく、労働者への賃金にも換算されていった。その地方はあのコンセントのおかげで豊かになっていった。
ある日、温泉旅館の主人があることに気づいた。湯の温度がいつもより低かった。原因はわからなかった。
同時刻、ある天体観測所では奇妙な発見をしていた。
月面の至るところに、縦長の二つで一組の穴が見つかった。最近になって現れたものではなく、今まで気づけなかっただけで、この穴自体は遥か昔からこの月面にあったのだという。
もうすぐ冬がくる。
少年は凍える手をポケットに入れて、自宅に帰るのであった。