↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

集落

作者: みくた
掲載日:2022/08/25

 俺はツーリングをしながら通信用のインカムでラジオを聞いていた。

 ・・・といってもだいぶ山奥に来てしまったようで、既にインカムは放送を受信していない。

 そして、道路もだいぶ狭くなっている。

「・・・の教えを遵守し・・・を繁栄させ・・・」

 通信状態はかなり悪いが放送を受信した。

 人里が近いのだろうか?

 そう思った俺はこの道がどこに繋がっているのか確かめてやろうと思い、廃道のような道をガンガン進んで行った。

 そして、しばらく進むと道が開け小さな集落に出た。

 ラジオ放送がクリアに聞こえる。しかし、流れている音声はかなり古い年代を思わせる歌謡曲だ。

 なんだこれは?

 不思議に思いながら現在地を調べるため、道路脇にバイクを止める。

「マジかよ・・・」

 スマホを取り出すと圏外だった。

「お兄さん、こんなとこで何やってんの?」

 突然、麦わら帽子を被った老人に声を掛けられる。

「道に迷ってしまったんですが、この道はどこに通じてますか?」

「ああ、この先は行き止まりだよ。」

 そう言って老人は首を振った。

「そうですか、ありがとうございます。」

 俺は礼を言ってバイクをUターンさせようとする。

「まあ、待ちなさい。ちょうど昼時だから飯でも食べていきなさい。」

 老人は笑顔で提案しながら、やんわりと俺の動きを制止した。

「え、いいんですか?」

「ああ、かまわん。是非来なさい。」

 ちょうど腹も減っていたので、老人のありがたい申し出を受けることにした。


「さあ、どうぞ。遠慮せずたくさん食べなさい。」

 よくある田舎の一軒家に案内された俺に出されたのは、山の幸がふんだんに使われた豪勢な料理だった。

「いただきます。」

 あまりにも豪華なもてなしに、いつも以上に感謝の気持ちを込める。


「おーい。」

 食事を始めて十分ほどして玄関から声が響く。来客のようだ。

「おーう。」

 老人が呼びかけると頭のハゲ上がった老人が家に上がりこんで来た。

「君が村に来た若者かね。」

「あ、どうも・・・」

 ハゲ頭がなぜか嬉しそうに俺を見る。

「こんにちはー。」

 また来客。

 そんな感じで来客が続き、気がついたら十人ほどが集まっていた。

 そして、全員が俺を見て嬉しそうに村の魅力を語る。

 そんなに余所者が珍しいのか?


「おじさん、夕飯まで村を案内してもいい?」

 一時間ほどわいわいやっていると、俺と同い年くらいの短髪で体格の良い男が老人に提案した。

 ・・・夕飯?

「ああ。行ってきなさい。若い人同士のほうが話が合うだろう。」

 老人は快く承諾する。

「じゃあ、行こうか。」

「ああ、はい。・・・ごちそうさまでした。」

 俺は頭を下げると男の後に続いて玄関に向かった。

 家の外に出てナダギと名乗った男は、辺りを見回すと口を開く。

「あんたここに住む気はないだろ?」

「え?ああ、はい。」

「訳がわからないって感じだな。まあ、当然か・・・」

 そう言ってナダギは歩き出し一人納得する。

「どういう事?」

 俺は慌ててナダギの横に並び質問した。

「ここは外との関わりを断った村だ。あのじいさん達はあんたをここの住民にしようと躍起になってる。」

 ナダギは衝撃的な事を言い放った。

「え?いや、まさかそんな・・・」

 反論しようとするが、思い返すと不自然な点がいくつもあり言葉が出ない。

「信じる信じないは任せるが、何もしなけりゃ村から一生出られなくなるぞ。」

「もっと詳しく説明してくれ。」

 俺はナダギがちらつかせる不穏な空気に説明を求めた。

「俺はガキの頃、親に連れられてここに移り住んだ。だから外の事はある程度知っていて洗脳はされてない。」

 ナダギは前置きをして話を続ける。

「この村は村長を中心とする有力者と役場が放送してるラジオで支配されてる。」

「あのラジオか・・・」

 俺はここに来るときインカムで聞いた妙なラジオを思い出した。

「聞いたのか?」

「ああ、古めかしい曲が流れてた。」

「ここの情報源は役場の古めかしい放送しか流れないラジオと、村限定の手回し電話と回覧板だけだ。」

「昭和初期かよ・・・」

 俺は信じられないような話に驚愕し声を漏らす。

「ああ、平成になって何十年も経つのにな。」

「ちょっと待った。今、何つった?」

 ナダギの発言に違和感を覚え聞き返す。

「ん?平成になって何十年も経つのにって言った。」

「ホントに外と関わりを断ってるんだな・・・平成はもう終わって今は令和だ。」

 俺は脱力しつつ真実を告げた。

「マジか・・・年号変わってたのか・・・」

「それで、脱出する方法はあるの?」

 呆然とするナダギに、脱力から立ち直った俺は最も重要な事を聞く。

「・・・ああ、どの道このまま行けば何らかの理由をつけて夜まで居させて、村に泊まることになる。」

「明日が休みで良かった。」

 俺は膨れ上がる不安を宥めるため軽口をたたくが、ナダギは続けた。

「その時に女をあてがう。」

「は?女ですか?」

 更に突拍子もない話を突きつけられた俺は間抜けな声を上げた。

「ああ、理由はどうあれ村の女と一夜を共にした以上、責任は取ってもらうっていうのが言い分だ。」

 ナダギは淡々と語る。

「強制移住に加えて強制結婚とは、とんでもなく強引だな・・・」

「その強引をじいさん連中は普通に通してくるんだ。」

 ナダギは真剣な顔をし語気を強めた。

「・・・で、どうすんの?」

「夜中に抜け出す。準備は全部俺がやる。」


 そして、そうこうしている間に夕食の時間になった。

 夕食は村の中心にある集会所と呼ばれる施設で村民全員を集めての宴会だった。

 俺の歓迎会という事らしい。

 全体を見ると三分の二が老人だ。

 ここで村のルールを村長と村の有力者たちから説明を受けた。

 まず、この村で一生を過ごす事。次にスマホ等の外部と連絡が取れる物は捨てる事。外の交友関係は一切断ち、家族も村に移住出来ないのであれば関係を断つ事。そして、村長、有力者、規則が絶対であり、逆らう事があってはならない。もし、ルールを破った場合は村にある教育施設で厳重な指導を受ける事になる。などなど他にも細かい事が色々あったのだが、主なものは以上だ。

 話を聞いていて目眩がした。完全なる独裁国家だ。ホントにここは日本か?


 宴は二時間ほどで終了し、ナダギの言った通り俺は集会所の一室に泊まる事になった。そして宴会中、積極的に話し掛けてきた若い女も一緒だ。

 どんな女が来るかと身構えたが、まさかこんな反則レベルで可愛い娘が来るとは・・・正直、ここで暮らしても良いのでは?と気持ちが揺らぐが、その先で慢性的に襲い来るであろう絶望の事を考えどうにか持ちこたえる。

 集会所に残された後、俺はシャワーを浴び一時間ほど娘と過ごすと、ツーリングの疲れもありすぐに寝てしまった。


「おい、起きろ。」

 熟睡していたところを俺は何者かにゆり起こされた。

 目を開くとまだ暗い。暗がりの中には俺を覗き込むナダギ。腕につけっぱなしの時計を確認すると時刻は午前二時。

「よし、行くぞ。横の女を起こすな。」

 俺は枕元に置いた服をまとめると、ナダギの後に続いて静かに部屋を出た。

 外に出ると月明かりが村の全体像をぼんやりと映し出している。

 俺はその場で寝間着用に渡された浴衣を脱ぎ捨て服を着た。

「こっちだ。」

 着替え終わるとナダギは歩き出した。


「ここだ。」

 畑に隣接する農機具小屋の前で立ち止まったナダギは、そう言って大きな木の扉を少しだけ開き中に入る。

 暗い小屋内をスマホのライトで照らすと、様々な農機具に混じって俺のバイクが隠されていた。

「忘れ物はないな?エンジンを掛けたら全力で村を出ろ。」

「ありがとう。助かったよ。」

 愛車を一通りチェックし可動状態である事を確認した俺は礼を言い、ミラーに掛けてあるヘルメットを被った。

「わかってると思うが、もうここには二度と戻って来るな。」

 そう言ってナダギはヘルメットを被った俺の背を叩く。

 俺は無言でキーを差し込むと、セルを回しエンジンをスタートさせる。それと同時にナダギは小屋の扉を全開にした。

 俺は外に飛び出し、元来た廃道のような道を夜中だというのにかなりのスピードで引き返す。

 そして、街頭とセンターラインのある道路に出たところで俺はアクセルを緩めた。


 まさか令和の世にあんな所が存在するとは・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。