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第2話

 スマホのアラーム音で、いつも通りの時間に目を覚ます。そのままベッドから這い出て押し入れの中を調べ、ゲーム機がないのを確認する。

 机の上には昨日の領収書が置いてあり、あの出来事はどうやら夢ではなく紛れもない現実。どうやら、お色気泥棒に遭遇してしまったようだ。

 証拠としてはこの領収書だが、警察に提出したら逆に怒られそう。第一律儀に領収書を残す泥棒なんて、聞いた事がない。

「これ、金額が書いてないんだよな」 

 使っていないゲーム機だったので困りはしないが、あれでも売ればマンガの数冊分にはなったはず。それとも昨日彼女の体に触れたのが対価なのだろうか。

「そう考えると、貰いすぎ?」

 おおよそ朝には似つかわしくない悩み。とはいえそれはそれで、ありといえばありか。


 我ながらどうかとは思うが若干気分を良くしつつ、学校へ登校。小難しい授業をこなして、昼休みを迎える。

 教室でいつも通りに弁当を食べ終えると、少し手持ちぶさたになってしまった。時間もあるし、ジュースでも買ってくるか。

 パンやおにぎりを買い求める生徒で賑わう購買の前にある自販機で、炭酸がきつそうなジュースを購入する。後はルーレットが電子音を立てながら回り、何となくそれを眺める。

 この自販機で何度か買った事はあるが、当たった経験は全くない。自分以外でもその光景は1度も見ておらず、生徒の間では人生の虚しさを知らしめる自販機だと言われている。

「ぱっぱぱー」

 間抜けな事がして、ボタンが全て点灯。故障ではなく、どうやら当たりを引いた様子。まさかと思いつつボタンを押すと、缶コーヒーがきちんと落ちてきた。

「うわ、あいつ当てたよ」

「ラッキーじゃない?」

「いや。むしろ怖くないか」

「呪われてるのかな」

 何やらひどい言われよう。とはいえそれは俺が一番思ってる事だ。もしかしてこの自販機で、一生分の運を使い果たしたんじゃないだろうか。

 ただ1つの予感というか推測が脳裏にちらついた。

 だからそれを裏付けるべく、放課後になったところでコンビニへ立ち寄る。雑誌コーナーをちらりと眺め、そこを素通り。

 店内を一通り見て回り、最後に目的の場所であるレジ前に辿り着き、アニメのフィギュアが当たるくじの引換券を1枚手に取る。

 高校生にとっては結構高額だが、今はこれを引くだけの理由がある。

「これ、お願いします」

「はい。1枚取ってください」

 店員が差し出した箱に手を入れ、くじを1つ手に取る。

 慎重にめくる? いや。全然気にせず、軽い気持ちでだ。

 結論から言えば、俺が引き当てたのは特賞。精巧な作りの、かなり大きなフィギュアを入手出来た。

 ジュース。そして、くじ。両方とも、明らかに幸運な結果を引き寄せた。

 ではどうして急に運気が向いてきたかと言えば、昨日の風俗嬢。ではなく、サンタコスのお姉さんか思い当たらない。

 つまり彼女が持っていったゲーム機の対価が、ジュースやくじの当たりとなって現れたんだろう。


 家に帰り、昨日の領収書を確認してみる。すると金額の欄に、「ジュース、くじ特賞」といつの間にか文字が記載されていた。

 突っ込みどころはいくらでもあるが、ジュースとフィギュアが当たったのは紛れもない事実。

 今までそれ程運が良い方ではなかったのに、昨日の今日でこれ。理由をそこに見いだすのは、むしろ自然な流れだろう。

「でもあの子は、どうして俺の家に来たのかな」

 領収書とフィギュアを机の上へ並べて置き、腕を組む。

 さらに言うなら、何故見えたのか。仮に彼女みたいな立場が存在するとしても、おそらくは不可視のはず。そうでなければ不審者以外の何者ではなく、この世の常識がとっくの昔に覆っている。

 勿論、彼女の存在自体が常識の範囲外だが。 

 

 そして昨日と同じくらいの時間を迎え、ゲームをプレイしつつ窓の様子を時折窺う。

 予感というより期待。多少よこしまな気持ちもなくはないが、それよりも純粋な興奮。自分の身に特別な出来事が起きた喜びの方が大きい。

「あら、待ちきれなかった?」

 そんな俺の期待に応えるかのように、どこかの宅配業者みたいな作業着で昨日のお姉さんが窓から飛び込んで来た。

 名前は確か、乾瞳さん。サンタコスでない事に少し肩すかしを食らったが、ボディーラインにフィットしたこの制服もありといえばありか。

「多分分かってるだろうけど、今日のジュースとフィギュアはゲームの対価ね。普通は物が無くなった事に気付かないし、その後の幸運とも関連づけないの。普通は」

 そう前置きを置く乾さん。やはり今回は特例と言いたいようだ。

「ゲームの対価としては多少払い過ぎたみたいだから、その分は働いてもらわないとね」

「はい?」 

 俺の予想とは少し違う展開。

 君の力が必要だとか、君でないと駄目なんだとか。俺だけの、俺にしか出来ない何かを求めて彼女はやってきた。そういう事を想像していたんだけど、雲行きがどうにも怪しい。

 俺は部屋のドアまで下がり、彼女に向かってぎこちなく微笑んでみせた。

「手伝いは良いんですが、俺の自主的な意志とかそういうのは?」

「無い無い。手付けは払ったし、第一フィギュアを手に入れた時は薄々気付いてたでしょ。これはもう、未必の故意。本当、悪い事は出来ないわよね」

「いや。悪い事は何もしてないから」

「大丈夫大丈夫。魂を取るとか、地獄で永遠に釜ゆでとか、そういう話ではないから。繁忙期だけ少し手伝ってくれれば、それで十分」

「はぁ」

 いまいち納得は出来ないが、相手はナイスバディなお姉さん。例え無給でも、一緒にいられるだけで十分報われる。

「かもーん」

 突然窓の外へ声を掛ける乾さん。

 すると、シャベルカーみたいなサイズの腕が、部屋の中まで入ってきた。

「お彼岸で三途の川が少し混んでるから、ちょっと行ってきて」

「え、俺1人?」

「先輩がいるから大丈夫。じゃ、後はよろしく」

 何がと思う間もなく体が掴まれ、気付くと窓の外へと飛び出ていた。 

 俺の部屋の窓が外から見え、1階のリビングが見え、塀が見え。アスファルトが真上に見える。

 おかしいな。この話の流れで行くと、俺は地獄行きじゃないのかな。


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