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ようこそ! ゴルフ同好会へ!


「もー遅いよ葵! 何かあったんじゃないかって心配で心配で仕方なかったんだから! あーでも無事に戻ってきてよかったぁ! ほらほら抵抗しないで! これはボクを心配させた罰なんだからね!」


 止める間もないマシンガントーク。ミサイルの正体は人間だった。


 金髪でポニーテールの少女である。そのポニーテールをぶんぶん振り回しながら、少女は俺の腰に飛びついたままぐりぐりと顔をこすりつけてくる。


「くそっこのっ、おいやめろ!」


「あーもー葵ってば恥ずかしがっちゃってぇ! でもでも、ボクの手から逃げようなんて百年早いよ! ほぉら、ここだろう? ここがいいんだろう? いやぁそれにしても相変わらず柔らかくて触り心地のいい身体を――身体……柔らか……ん? んんん? あれ? 葵、筋トレでもした? なんかいつもよりゴツゴツしてない?」


 遠慮なく人の身体をまさぐっていた金髪ポニテは、ようやく自分が押し倒しているのが宮野ではないことに気づいたようで、俺の腹部にうずめていた顔をゆっくりと持ち上げた。


 そして至近距離で目が合うと、ピタッと動きを止める。


「……………………」


「……………………」


 気まずい沈黙。


 宮野の瞳がエメラルドなら、こっちはさしずめサファイアと言ったところか。金髪ポニテは沈黙したまま、ただジッ……と透き通るような青色の瞳を俺に向けていた。


「…………誰だ君は!」


「こっちのセリフだ!」


 というか、本来ならこいつはこんなセクハラまがいなことを宮野にやろうとしてたってことだよな……宮野の交友関係が不安になってきたぞ。


「あ、あいちゃん危ないよぉ。遠野君大丈夫?」


「おおっ、そんなところにいたのか葵! ボクはてっきり君が男の子になっちゃったのかと思ったよ!」


「……心配するなら、早くこいつをどけてくれ。重い」


「んなっ!? ちょっと君! こんな可愛いボクに向かって重いだなんて失礼すぎるぞ!」


「出会い頭に人を突き飛ばして馬乗りする奴の方が失礼だ!」


 ゴルフ部の部室から出てきたってことは、こいつもゴルフ部の部員なんだよな? こんな変な奴と同じ部活で宮野は大丈夫なのか?


「ボクみたいな可愛い女の子に馬乗りになってもらったんだから、むしろ喜んでほしいくらいだね! ……ところで、結局君は誰なんだい?」


「あ、あのね、あいちゃん。この人は遠野琉希君って言って、今日はゴルフ部の見学に来てくれたの」


「へぇーっ! なんとなんと、そうかうちの見学か! つまりお客さんだね! そういうことなら大歓迎だよ遠野君とやら! そのまま入部していってくれるともっと大歓迎だ!」


 見学と聞くなり金髪ポニテは目を光らせてぐぐいと詰め寄ってくる。まるで獲物を狙う肉食獣のような目だ。ぶんぶんと左右に揺れるポニーテールも、そのテールの名の通り、犬や狼の尻尾に見えてきた。


「い、いや、俺は見学するだけだ。それも今日だけ。だから悪いが入部するつもりはない」


「そうつれないこと言わないでさ! ね? ほら、試しに入っちゃおうって! 今ならなんと! 可愛い女の子が二人もついてきます! ハーレムだよっ、プチハーレム! 男の子ってそーゆーの好きなんでしょ?」


「随分失礼な決めつけをしてくれるな、金髪ポニテ」


 まあそれが好きだと言う男は大多数存在するだろうが、それを餌に入部を迫ってくるのもどうなんだ。


「金髪ポニテって! ボクにはちゃんと姫川ひめかわ愛奈あいなって名前があるんだからね! ふふん、どうだい、いいだろう? 『姫』と『愛』だ。名前も可愛いだろう? 君の『琉希』って名前もなかなかカッコいいけど、ボクほどじゃあないね! だから入部しようか!」


「なにがどうなってその『だから』は出てきたんだ。大体なんでそんな無理矢理入部させようとしてくるんだよ。別に俺が入らなくてもいいだろ? ……いや待てよ、お前さっき『二人』って言ったか? 二人って? 他にも部員はいるだろ?」


 ふと浮かんだ疑問を指摘すると、宮野と金髪ポニテ……姫川は気まずそうに目を逸らしてごにょごにょと口を動かし始めた。


「あー、あはは……気づいちゃった?」


「あ、あの……遠野君、あのね? 実はね? その……」


「いやぁ、実は部員はボクと葵の二人しかいなくってねぇ……だからゴルフ部って言うのは勝手に名乗っているだけで、本当は部じゃなくて同好会、ゴルフ同好会なんだよ」


 ばつが悪そうに頬を掻きながら白状する姫川。すぐそばでは宮野も申し訳なさそうな顔をしていた。


「な、内緒にしててごめんね遠野君。ちゃんとした部じゃないって分かったら来てくれないと思って……」


「いや、そんな謝ることでも……俺が勝手に勘違いしてただけだし、部活じゃなくて同好会だったからって、別にそれが悪いってこともないしな」


 それに、部活だろうが同好会だろうが、俺に入部するつもりがないのは変わらない。


「でも今は二人だけだけど、遠野君が入部すれば部員は三人! 部活設立に必要な部員数は四人だから、そうすればあとたったの一人! つまり君が入部してくれれば、ボク達同好会が部に昇格するのも目前になるんだよ!」


「……なるほど、俺を入部させたい理由は分かった」


 ゴルフは金のかかるスポーツだ。

 クラブやボール、キャディバッグなどと言った道具はもちろん、練習するためのゴルフ場だって無料で使用できるわけじゃない。高校生からしたらどれも高い出費だ。同好会のままじゃ部費が支給されないからな。


「それにゴルフ仲間は多いほうがいいし! だから今日の見学で、遠野君にはボク達の仲間になりたいって言わせて見せるからね!」


「あ、あいちゃん、無理やりはダメだからね?」


「分かってるって! ボクに任せてよ、葵! ……っと、お喋りもいいけど。そろそろ活動の方も始めよっか。さて、それじゃあ遠野君!」


「……なんだ?」


 名前を呼ばれたので返事をすれば、姫川は満面の笑みでサファイアの瞳を輝かせていた。



「ようこそ! ゴルフ同好会へ! ボク達は君を歓迎するよ!」



「…………はぁ。取り敢えず、早くそこからどいてくれ」


 俺の上に跨ったまま、という締まらない状態で、姫川は高らかに宣言したのだった。



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