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精密射撃


 三番ホールは、林に沿って大きくカーブした、パー4のコースだった。


 ティーショットからカップまでは直線だと百五十ヤードほどしかないが、その間にある林がそれを遮ってしまっているのだ。


 しかも林の中はOBゾーンのため、細かく打数を刻んでいかなければならないコースとなっている。


「……またバンカー、か……」


 林の奥に見える、グリーンの周囲にあるバンカーを見て呟く。


 ……いけるか? 分の悪い賭けになるが……だが、勝つにはもうこれしか……。


《パキィ――――!》


 考え込んでいるうちに、七海が早速第一打目を打っていた。打球はまたもフェアウェイ真ん中。コースに逆らわず、きちんと確実にスコアを狙いに行っているのが分かる一打だ。


「ね、ねえ遠野君。どうするの? このままじゃ、くらげちゃんがミスしない限りボク達負けちゃうんじゃ……」


「あ、うぅ……ごめんなさい、私のせいで……」


「あぁ違う違う! 葵を攻めてるわけじゃないんだよぅ!」


「そうだぞ、宮野。何度も言うけど、お前のせいなんかじゃ決してない。さっき言っただろ? 絶対に勝たせてみせるって」


「――へぇ? 随分カッコいいこと言うじゃないの、琉希」


 俺の言葉が聞こえていたようで、七海が面白そうに目を細めて話に入って来る。


「言っておくけど、ここに来て私はミスなんてしないわよ? それでも、まだ私に勝てるつもりでいるのかしら?」


「……ああ、俺はまだ、勝つ可能性なら十分にあると思ってる」


 俺がそう言うと、姫川はおおっ! と期待するような声をあげた。


「さすが遠野君! いいこと言うねぇ! そうだよね、諦めちゃだめだよね! ここはパー4なんだから、三回で入れればバーディーだし、それなら――」



「いや、それじゃ無理だ」


「ええ、無理ね」



「――ってええぇ!? くらげちゃんはともかく遠野君まで!?」


 七海だけでなく俺も否定したことに、姫川は驚きの声をあげた。


 期待している姫川には悪いが、バーディーじゃ足りないんだ。


「七海は確実に四打以内でこのホールを終わらせる。俺達が勝つには、三打じゃダメなんだ」


「あら、私のことよく分かってるじゃない。ま、つまりそう言うことよ。でも、このホールはどうあがいても三打以上はかかる……それなのに、琉希、あんた本当に勝つつもりなの?」


 もちろん、そんなことは理解している。理解したうえで勝つと言ったのだ。


 七海のようにフェアウェイに沿って打てば、言われた通り三打以上かかってしまう。


 だが……ゴルフは、必ずフェアウェイに向かって撃たなければいけないわけではない。


 そして、OBというのは、そのエリアに落ちたらOBになるのであって、そこに向かって打ってはいけないわけではない。


「あるだろ、一つだけ。このホールを二打で終わらせる方法が」


 俺は、クラブを林に向けながらそう言った。

 その言葉に真っ先に反応したのが、他でもない、七海である。


「あ――あんたっ、正気なの!?」


「え、え? 何、どういうこと?」


 目を見開く七海のそばで、姫川は訳も分からなそうに疑問符を浮かべている。


 しかし隣の宮野は俺が何をしようとしているのかに気づいてようで、しかしその思いつきにまさかと戸惑いながら口を開いた。


「ま、まさか、遠野君……」


「ああ、そのまさかだ…………この林を、ぶち抜く」


「――不可能よッ!」


 七海が声を張り上げた。


「あんた、それ本気で言ってんの!? 林の中に落ちたらOBなのよ!? 林を抜くって、それってつまり木の幹にも枝にも当てない、少しのずれも許されない精密なショットをしなきゃいけないのよ!? ミスしたら負けが確定するって分かってるの!?」


「だからと言って、確実にフェアウェイに打っても負けは決まってるようなもんだろ。どっちにしろ同じなら、勝つ可能性のある方を選ぶさ」


「……あんた、後悔するわよ。仮に上手く林を抜けても、間違いなくそのままグリーンを超えて奥の林まで飛んでくわ」


「しないさ。されにな……七海。一ついいことを教えてやる」


「……いいこと?」


「ああ」と頷きながら、俺は打席に立つ。もちろん、林に向かって。


 足は肩幅より少し狭く。手首は緩く。身体全体の力は程よく抜いて、打球の軌道をイメージする。


 使用するクラブは母、『精密射撃』遠野真希の代名詞――七番アイアン。


「……っ、あんた、まさかっ!」



「――精密射撃に憧れたのは、お前だけじゃないんだぜ?」



『精密射撃』は母、遠野真希が現役時代に呼ばれていた異名である。


 母さんの総合的な実力は、プロの中では実はそんなに高くない。ドライバーの飛距離も、アプローチ技術も、パターの腕も言ってしまえば並だ。



 しかし、ただ一つだけ。

 ショットの正確さは、他の追随を許さない程に上手かった。



 そしてついたあだ名が『精密射撃』であり、よく七番アイアンを愛用していたことで有名だった。


 そして――その『精密射撃』は、俺が一番最初に憧れたゴルファーだ。その正確なショットの真似がしたくて、最も練習を費やしたのが七番アイアンのショットである。


《パキィ――――――――ッッ!》


 高い音が響き、ボールは空気を裂く弾丸のように勢いよく飛んでいく。木と木の間を、枝と枝の隙間を、縫うようにギリギリをかすめ、イメージ通りの軌道で飛んでいき――



 ――ダァンッ!



 ボールは林を突き抜け、グリーンの手前……バンカーへと突き刺さった。


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