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3ホール勝負開始!


 朝起きて、学校に行って、放課後はゴルフの練習をする。そんなことを繰り返すうちに、一週間はあっという間に過ぎて行った。


 今日はゴルフ同好会と七海のゴルフ勝負当日である。やれるだけのことはやった……と言いたいところだが、それでもやはり不安というものは残る。


 特に、一度も実際にコースで練習することなく勝負の日を迎えてしまったのが痛い。


 雲一つない快晴の青空という、まさに絶好のゴルフ日和ではあるが、時折吹く強い風がその不安を大きく煽った。


「改めてルールを説明するわ。3ホールでの合計スコアで対決、ハンデとして私は最終スコアに+3、そしてあんた達のプレー形式はフォーサム形式」


 一番ホールのティーイングエリアにて、俺達同好会と対峙する七海が勝負内容を再確認していく。


「そして最も重要な、勝負に勝った時の要求! あんた達が勝ったら私自身を、そしてあんた達には……琉希をかけてもらうわ!」


「え、ええぇえっ!?」


「お前……やっぱり冗談じゃなかったのか……」


「ていうか今『琉希』って……遠野君、いつの間にくらげちゃんとそんな仲良くなったの?」


「それは聞かないでくれ……」


 七海の要求に驚く宮野の横で、姫川が意外そうな顔で聞いてくる。それに対して、俺はそっと目を逸らすことしかできなかった。


「あ、あのあのっ! ど、どうして遠野君を? な、七海さんは私たちを退部させたいんじゃなかったの?」


「もうそんなことはどうでもいいのよ。それくらいに、私は琉希が欲しいの」


 宮野と七海の間の空気が張り詰めていく。


「ひゅー、この色男ぉ」


「バカ、茶化すな」


 一方、緊張という言葉を知らないのか、姫川は俺をからかってくる始末だった。


「そのっ、と、遠野君は! だ、大事な、大事な、同好会の仲間なんです! だ、だから、その、ぜ、絶対に負けません!」


「……ふん、お喋りはこの辺にして、さっさと始めましょうか。私とあんた達、お互いに絶対譲れない戦いをね!」



 ○



 ついに始まった同好会と七海との3ホール対決。


 その一番ホールは、全長二百ヤードのパー3のコースである。グリーンの奥に池がある以外に障害物はなく、比較的優しいコースだ。


 俺はドライバーを手に取りティーショットに向かう。


 俺達同好会チームは一打目に俺、二打目に宮野、三打目に姫川という順番で挑むことになっている。


 宮野がより正確なアプローチが出来るように出来るだけグリーンに近づけたいが、しかしグリーンを越して池ポチャするのが一番まずい。ここはちょうどグリーン手前を狙って打つことにしよう。


「――――――シッ!」


《カキィ――――!》


 快音と共にボールは勢いよく飛んでいく。


 ぐんぐんと飛距離を伸ばすボールだったが、途中で失速し、狙いよりも三十ヤードも手前で落下してしまった。……くそ、池を意識しすぎて距離が足りなかったか……。


 結局ボールは、カップまで残り五十ヤードほどの距離で停止した。


「遠野君ナイスショット!」


「ああ、サンキュ。ほんとはもっと近づけるつもりだったんだけどな。宮野、次任せた」


「う、うんっ! 任されました!」


 宮野は手をキュッと握り、力強く頷く。変に気負った様子もないし、実に頼もしい限りだ。宮野も姫川も、最初の頃と比べるまでもないくらい上手くなってるし、この調子なら七海に勝つことだって――


《パキィ――――ッ!》


「……!」


 俺の思考を遮るように鳴り響いた音に、ハッと振り向く。

 そこには、すでにクラブを振り抜いた状態の七海の姿があった。


「……うん、まあまあね」


 そう言う七海の打球は、俺の打球よりも前方、グリーン手前のフェアウェイど真ん中。


 ……どこがまあまあだ。ベストショットじゃねぇか。


「……さすが、二代目精密射撃を目指してるだけあるな」


「こんなのまだまだよ。本当はグリーンに乗せるつもりだったんだから」


「は、言ってくれるな。それはグリーンを狙うことすら出来なかった俺への当てつけか?」


「まさか。ナイスショットだったわよ、琉希」


 余裕そうな顔で七海は薄く微笑む。しかし、余裕はあっても油断は全くしていないようだ。実力的にも精神的にも付け入るスキがない。本当に厄介な……。


 七海の強敵具合を確認したところで、第二打目へと向かう。ゴルフはカップから遠いものから打つ決まりがあるので、次に打つのは同好会側、宮野の番である。


《――コッ》


 軽い打球音。宮野の打ったボールがふわりと弧を描く。


 ボールはカップに向かって真っすぐ飛んでいき、見事グリーンに乗った。しかし力が弱かったのかいまいち飛距離が足らず、次の姫川は、カップまでそこそこ距離のあるパターをすることになる。


 一方で七海は、これまた宮野と同じく軽い打球音をかなで、同様にグリーンへと乗せる。しかもきっちりピンそばに寄せるナイスアプローチだ。弱点とかないのかこいつ。


「ナイスショット、宮野」


「あ、ありがとう。で、でも、あまりカップに近くないところに打っちゃったし……ご、ごめんね、あいちゃん」


「いやいや十分でしょ! ま、後はボクに任せなさいって! この一週間でパターの練習はいっぱいやったからね!」


 と、パター片手に意気揚々とボールに向かう姫川だが、さすがにパターマットではこの距離のパットは練習出来ていないだろう。


 そう思っていると、案の定、姫川はパターを外してしまった。しかしもう少し強く打ってれば入ってたと思えるくらいに、惜しいパットだった。


「ふぅん……なんだ、思ってたよりはいくらかマシね。まあ、そうこなくちゃ面白くないわ」


 あっさりとパターを決めた七海が、戻ってくるなりそんなことを言ってくる。


 舐められているようにも感じる発言だが、どうせ本人はそんなつもりはなく、素で言っているのだろう。それだけはっきりとした実力の違いが現時点ですでに表れてしまっているのだから。


 結局、その後俺も残りのパットを決めたが、パーで終わらせスコアが0の七海に対し、こちらはボギーでスコアは+1。


 早くもスコア差が生まれるスタートとなってしまったのだった。


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