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さあ、勝負よ!


 七海を同好会に勧誘することは、なんとか無事に成功した。


 部活に入ったことで、七海は実践経験を積む機会を得られた。

 部員が四人になったことで、宮野と姫川が望んでいたゴルフ同好会も部へと昇格させることも出来る。


 もともと宮野と姫川を小バカにした七海に、少し仕返ししてやろうというのが始まりだったわけだが、一緒に活動していくうちに、七海の二人に対する認識も改まって行ってくれることだろう。


 まさに、誰もが納得できる結果に収まったと言えるだろう。


 この結果に落ちつけたのも、入部を決めてくれた七海のおかげと言えなくもないし、新しい仲間への挨拶ついでに軽く礼でも言っておくか。


「あー、ありがとな、七海。入部してくれて。これからよろしく」


「はぁ…………まあよく考えたら、練習自体は今まで通り一人でやればいいだけだし、入部するだけなら特別問題があるわけでもないしね」


 ため息交じりにそんなことを言う七海。相変わらず、仲良くなる気がない奴だ。まあいきなりなれなれしい態度になられても困惑するだけなんだけど。


「いやお前、せっかく同じ部に入ったんだし……少しくらい、一緒に練習してもいいんじゃないか?」


「嫌に決まってるでしょ、そんなの。私とあんた達じゃ、ゴルフをする目的が違うんだから。目的意識が違うやつがいても邪魔なだけよ。それくらい分かるでしょ?」


「それは……まあ……」


 目的意識が違ければ、練習に対するモチベーションも違う。モチベーションが違う者同士で練習すれば、質を高めるどころか足をひっぱってしまうのは認めざるを得ない事実だ。


「そんな冷たいこと言わずにさぁ。くらげちゃんも一緒にゴルフしようよぉ」


「わ、私も、一緒にゴルフしたいな、って……」


「ふんっ! 入部してあげただけ感謝しなさい!」


 姫川と宮野の言葉にも七海は聞く耳を持たず、プイッとそっぽ向いてしまう。


「えぇーい、強情な奴め! こうなったら何としても『一緒にゴルフがしたいです』って言わせてやる! 葵、お菓子の準備だ! ボクはジュースを用意する!」


「は、はいっ、あいちゃん!」


「そんなので釣られるわけないでしょ! バカっ!」


「お前ら……姫川はともかく宮野まで……」


 何故真っ先に出て来る手段がそれなんだ。しかもお菓子とジュースって。小学生を相手にしてるんじゃないんだから。


 そんな呆れる俺をよそに、机の上には次々とお菓子とジュースが並べられていく。これだけ見ればちょっとしたお菓子パーティーをしてる最中みたいだ。


「ふっふっふ……さあくらげちゃん、食べたいかい? 食べたければ言うんだ。『一緒にゴルフがしたいです』って」


「なんか余計に言いたくなくなったわよ……」


 思いっきり呆れた様子で、七海はジト目で姫川をにらんだ。


「もうっ! くらげちゃんのわがまま!」


「私のどこがわがままよ! そっちのほうがよっぽどわがままじゃない!」


「一緒に練習するくらい別にいいじゃないか!」


「だからそれは私には損でしかないって言ってんのよ。せめて私にとって、何か得になることがないと一考する価値もないわ」


「むー……得かぁ……」


「じゃ、じゃあ七海さん、例えばどんなことがあれば、七海さんの得になるの?」


 宮野がそう聞くと、七海は少し考えるそぶりをして、


「そうね……やっぱり上手な人となら一緒に練習するのは身になるし、だからもし万が一、あんた達が私にゴルフで勝負して勝てたりなんかしたら、あんた達が言うことも考えてあげてもいいわね。ま、そんなの絶対にありえないけど」


 と、かなり余裕そうにそう言った。


 まったく、なんて性格の悪い。こっちに勝ち目なんてないことを分かり切ったうえで言ってやがる。絶対に一緒に練習なんかしないって宣言しているようなもんじゃないか。


 ここまで頑なに拒否されたら、普通は『じゃあもういいや』と早々に諦めるものだが……しかし、そこはゴルフ同好会、人を誘うことに関してはそう簡単には諦めないことを、俺は身をもって知っている。



「分かった! ボク達がゴルフで勝てばいいんだね!」


「わ、私も、精一杯! が、頑張りますっ!」



 ぐっとこぶしを握り、意気込んで見せる姫川と宮野。


 七海の言葉は、諦めさせるどころか、二人を余計にやる気にさせたのだった。


「は――はぁぁあ!? ちょ、自分で何言ってんのか分かってんの!?」


「だから、勝てばいいんでしょ? いやぁ、こーゆーいかにもって感じのあつ~い展開、ボク的には結構好きだよ! 燃えるねっ!」


「そうじゃなくて、あんた達が勝てるわけがないって言ってるの! 本当に分かってる!?」


「そんなの、実際にやってみないと分からないじゃん!」


「やらなくても分かり切ってるわよ! ゴルフはそんな甘いスポーツじゃないんだから!」


 頬を紅潮させながら、七海は言葉を叩きつけるように叫ぶ。


 宮野も姫川も決してそんなつもりはないだろうが、七海からしてみれば、本気で練習している自分が遊びでゴルフをやってる俺達より下手だと侮辱されているようなもんだ。頭に血が上るのも無理はない。


 本当なら、七海に一言弁明して落ち着かせるべきなのかもしれない。俺も宮野も七海も、プロを目指して頑張っている七海を、誤解とは言え侮辱するつもりはないんだし。


 だが、俺はあえてそれをしないことに決めた。


 七海には非常に申し訳ないが、この状況を利用させてもらおう。


「なんだよ七海。随分お優しいことだな。もしかして俺達のことを心配してくれてんのか?」


「はぁ? あんたまで何意味の分かんないこと言ってんのよ!」


 俺の言葉に、七海は怪訝そうに眉をしかめる。


「いやなに、勝つ自信があるなら勝負に乗ってくればいいだろ? そうしないのは、なんだかんだ言って俺達に気を回してるからだと思ったんだが……それともまさか――」


 ためを作り、これでもかと七海の気を引きつける。


 今の七海は、頭に血が上って冷静ではない状態だ。ならば、ちょっとした挑発で簡単に乗ってくるはず。


 たとえそれが、普通なら鼻で笑われるようなあまりに安っぽい挑発だったとしても……だ。


「――負けるのが、怖いのか?」


「……………………は?」


 お、おおぅ……なんて恐ろしい目で睨んでくるんだ……。


「ず……随分とまあ……舐めたこと言ってくれるじゃないの……ッ! 私が、負けるのを、怖がってる……ですってぇ……!」


 そう言って七海は机を勢いよく叩いて立ち上がると、ビシッと指を突きつけて早口でまくし立ててきた。



「……上等よ! そこまで言うならお望み通り勝負してあげるわ! その舐めた発言、後悔させてやるんだから! もし仮に私が負けるようなことがあれば、一緒に練習するどころか球拾いでも同組が気でもなんでもやってやろうじゃないの! ただし私が勝ったら、私のいいなりにしてやるから覚悟しなさい! 入部も取り消しに――いいえ、逆にあんた達に部から出てってもらうから!」



「なっ!?」


「えぇっ!?」


「うぇぇええええ!?」


 俺、宮野、姫川の驚いた声が部室に響き渡る。


 七海はそんな俺達にお構いもせず、宣戦布告を完了させるのであった。



「私は私自身を、あんた達は退部を賭けて…………さあ、勝負よ!」


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