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遠野真希


 早く早くと急かす姫川に引っ張られるようにしてやって来た打ちっぱなし。

 そこの受付カウンターには、揃って頭を下げる俺達ゴルフ同好会の姿があった。


「――そう言うわけで、もう他のお客様に迷惑かけちゃだめだからね?」


「はーい! ごめんなさーい!」


「ご、ごめんなさい……です」


「……すいませんでした」


「うん、みんな素直でよろしいっ!」


 そう言って満足そうな顔をするのは、前回俺達が注意を受けた店員さん。


 ……一応言っておくが、また何かやらかして謝っているわけではない。ただ改めてこの前のことを謝罪しているだけだ。今後もここは練習で頻繁に使わせてもらうことになるだろうし、少しでも印象を良くしておいても損はないだろう、と考えての行動である。


 そんな打算あっての謝罪だが、店員さんは『ちゃんと謝ってえらい!』と褒めるように俺達の謝罪を受け入れてくれた。


「まあ、お姉さんは君達みたいに元気な子は好きだけどね。これでも私、君達のこと応援してるんだよ?」


「応援……ですか?」


 宮野が聞き返すと、店員さんはにっこりとした顔で宮野が来ているジャージに指さした。


「それ、すぐそこの、川越北高校のジャージでしょ? 実はお姉さん、そこの卒業生なんだ」


「へー! あっ、もしかしてさ、お姉さんもゴルフやってたとか?」


「正解! こう見えて、君たちと同じゴルフ部だったの」


「やっぱり! あ、でもボク達ゴルフ部じゃないよ。まだ同好会なんだ」


「えっうそっ!? じゃあゴルフ部無くなったの!?」


 あっけらかんと言い放った姫川の言葉に、店員さんはひどく驚いた様子で声をあげた。


「そっかー……無くなっちゃったんだ……。私がいたころは『プロ出身のゴルフ部』ってことで結構人気があったんだよ?」


 プロ出身? ……もしかして。


「ほんとっ!? だれだれ!? ボクも知ってる人?」


「うーん、君たちは知らないかなぁ。怪我をしてもう引退しちゃったし。でも私、その人にすっごい憧れてたの! その人の影響でゴルフ始めたくらいなんだから。元女子プロの、遠野真希まきさんっていうんだけど」


「怪我で引退した……」


「遠野真希さん……?」


 まさか、という視線が二つ送られてくる。

 うんまあ……そのまさかだ。


「ねぇ遠野君、もしかして……」


「ああ、俺の母さんだな」


「そう、君のお母さん……お母さん!? え、真希さんがお母さん!?」


 自分の母親が名前+さん付けで呼ばれていると変な気分だな。


「き、ききき、君! なな、名前は!?」


「あーえー……遠野琉希です」


「琉希君っ!」


 かなり緊張した声で名前を呼んできた。

 しかも何かすがるような、期待するような目だ。。


 なんとなく店員さんの言いたいことが分かった俺は、真正面から向けられるおねだりするような目に耐え切れなくなって仕方なく聞いてみる。


「……その、今度サイン貰ってきましょうか?」


「ぜひっ! 『七海ななみ星香せいかちゃんへ』って入れてください!」


 興奮のあまりカウンターから身を乗り出してお願いしてくる店員さん。しかしまあ、母さんが引退してから結構経つのに、まだこんなにも熱心なファンがいたのか。


「うはぁ~……夢にまで見た真希さんの直筆サイン……! しかも真希さんの子供にも会えるかと超レアやばい超感激……!」


 ……熱心というか、どちらかというと熱狂的って感じだけど。ちょっと引くくらいの。


「あの、そろそろ始めたいんで受け付けして貰ってもいいですか?」


「え? ――あ、ああごめんごめん! 受け付けね! えーと……それじゃあ、一番端になっちゃうけど、この三つ連続で開いてる席がいいかな?」


 一瞬自分の世界にトリップしていた店員さんだったが、気を取り直すとテキパキと手を進めていく。

 宮野と姫川は一番端の席でも大丈夫なようで、それを確認した店員さんはホワイトボードの打席見取り図に使用中のマグネットを張った。偶然にも前回来た時と同じ場所だ。


「でも、なおさら君達には頑張ってもらわないとね。ゴルフ部復活の為に」


 受け付けも終わり、最後に使用する打席の番号が書かれた札をこちらに渡しながら店員さんはそう言う。それに自信満々と言わんばかりに姫川が胸を張って答える。


「任せてよ! ボクにかかれば簡単なことさ! 部になるのに必要な部員は四人だから、あとはたった一人増やすだけだもん!」


「そのたった一人増やすのが大変なんだけどね……」


 よく言えば前向き、悪く言えばお気楽な姫川の発言に、宮野は苦笑いを浮かべた。


 そんな二人を楽しそうに見ていた店員さんは、しかし何かが気になったのか、ふと疑問そうに口を開いた。


「あれ? 君達って四人いないの? 三人だけ?」


「んもーおねーさんたら何言ってるのさ。見ての通り、ボク達は三人だけじゃないか」


 姫川がそう言うも、店員さんは疑問符を浮かべたままだ。そしてそのまま、顎に手をやり、考え込むようにぶつぶつと呟き始めた。


「あれー……? じゃああの子ったら何やってるのかしら。せっかくゴルフの部活があるっていのに……まったくもう」


「あ、あの……『あの子』って言うのは……?」


「ん? ああ、えっとね? 実は君達以外にもいるんだよ。ゴルフやってる子が」


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