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言語武装

作者: ダイナマイト山村

 設定を考えるのは好き。

文章でアクションするのが苦手。

 「っし」

男は静寂を要請する。

「原初の言葉以外を使ってはいけない」

言葉というのは生命体で、人間は言葉に寄生されている。

しかし、寄生生命である言語を逆に利用し、戦う者たちがいる。

人は彼らを『言語戦士』と呼ぶ。


 だせぇ。

就職に失敗した俺に残された最後の道だった。

家柄を使うことも俺の主義に反する『だせぇ』ことだが。

もっと『だせぇ』のは

「言・語・戦・士ってなんだ?」

父親は静かに言う。

「気を付けろ。言葉は意味をつかさどり、意味はひとりでに動く」

「聞いてる?じじぃ?」

「負のイメージをもって言葉を使えば、負のイメージが動き出す」

分からんでもない。

「ガンダムじゃねーんだから。この平和な時代に戦士ってのも」

「企業戦士ということばだってあるだろう」

それも古いだろ。

思う。


 言葉として存在するものは言葉だけで、現実と言葉は本来干渉しあわない。

目の前に『ハゲのおっさん』がるという事実が存在し、そこに対して『かわいい女の子』という言葉を使っても本来そこには交わることのない平行線が続くだけだ。

ハゲのおっさんがいて、かわいい女の子という言葉がある、ただそれだけ。

このように現実と言葉は無縁。当たり前のように思われる。

しかし実際にはどうだろう。


『ハゲのおっさん』じゃねえか。というツッコミが起こったり、自分が見ているものではないものを見ているんだ、という勝手な解釈が入ったりする。

或いは、これ(ハゲのおっさん)が『かわいい女の子』なんだと理解しようとさえする場合もある。

例えが例えだと『んなわけねぇ』となるが、外国語を学習する際をイメージすればよく分かる。

本当のニュアンスは分からないが、訳本に書かれた訳語を理解しようとする。そう思おうとする。

その本来の性質もわからずに。

それが、言葉が寄生生命体であるという証拠らしい。

だが人間は考えた。

寄生しなければ生きていけない何かがあるはずだから、逆に言葉の力を利用することもできるはずだ、と。


その力を持った職業が

「言語戦士の心得を言ってみろ」父親が言う。

だせぇ。

まだ、武士とか陰陽師とか魔術師とかのが恰好良かった。

「概念の共有・内的な反芻・言語の無視を旨とせよ…だろ」


概念の共有。

存在しないものや感じ、雰囲気等に言葉をあてはめ存在させる。

創造の技術。

時間は存在物質ではなく概念である。

肩こりも、夏目漱石が創造したとされている。

無意識に支配されているこの効用を意識的に利用するのが言語戦士。


内的な反芻。

存在しないものを精神空間内で繰り返し呼び起こす。

精神世界の構築を可能としたが、同時に物理世界への干渉も可能にした技術。

不安や期待など、概念だけの言葉を内的に繰り返すことによって、物理的な生体機能の向上や低下が起こる。

言語戦士はこれも意識的に利用する。


言語の無視。

先の2つと一見矛盾するが、それらを『それ、ただの言葉だから(笑)』

と断罪する防御術。

言葉は言葉であり、現実世界に一切影響を及ぼさせないためにはどうすべきか。

無視。以上。

これも言語戦士の秘技である。


 この3つを駆使し、言語戦士は生きてゆく。

言語戦士には属名を持った下部組織が存在する。

詐欺師や教祖、セールスマンなどがそれにあたる。

言葉を操る職業は、たどればすべて言語戦士に行き着く。

言語戦士側はそれを理解しているが、下部組織の人間はそれを知らないことがほとんどだと言われている。戦争で科学技術が発達して、日用家電などに使われているようなものらしい。

知らんけど。


 肝心の言語戦士そのものは何をするのか。

ライトサイドとダークサイドのようなものがあって小競り合いをするらしい。

お金はどこからか。

政府だとか公的機関から出るらしい。

つまり公務員じゃねーか。

本当に『だせぇ』。


 言語戦士はそれぞれ自分で鍛え上げた言葉を持つ。

それが内的にも外的にも影響を及ぼす武器となる。

攻防一体のものもあれば、どちらかに極端に振っているものもある。


 「忠。初戦がこんなに早く来るとはな」

父親が構える。

目の前のシルクハットの『だせぇ』男がどうやらダークサイドらしい。

俺たちがライトサイドであれば、だが。

「『青春の源次郎』とはあなたですね。我々の収入源を奪った責任を取ってもらいましょうか」

父親とシルクハットが同時に叫ぶ。

「言語武装!」

相変わらず『だせぇ』と思う。

言語武装とはそれぞれが鍛え上げた言語を何らかの方法で力にするときの合言葉のようなものだ。


「青春っ!」

「天才っ!」


  ほぼ同時に叫ぶ。

両者ともに、装備タイプというのか、自分に暗示をかけるタイプの言語武装だ。

「お前が、あの『天才の純一』」


 何だこの職業。

忠は思う。しかし、忠は勝利を確信していた。

「おやじ、すまねぇ。俺は領域展開型だから敵味方の分別がつかねぇ」

領域展開型。自分に暗示をかける装備タイプとは逆に、自他共に効果を及ぼすタイプである。

「言語武装!」

「若造も言語戦士か」

「もうおせぇよ。だせぇ!!!!」


言葉を認識したすべての存在に影響する領域展開型。

一般人ではなく、専門に鍛えた言語戦士が放つ言葉。

『だせぇ』

心なしか敵よりも父親の方がダメージを負っているように見えたが、忠は勝利を手にした。

この瞬間から通り名は『だせぇの忠』だ。いじめだ。きっと『の』を省いて呼ぶ奴も出てくる。

そんなことを考えていた。





 「閣下。『天才の純一』がやられたと報告がありました」

「ほう、あの純一がな」

「それも、新手の言語戦士だったという報告も」

「面白い。こちら側に引き入れる準備を」

「はっ」

「フッフッフッフ。ハッハッハッハッハ!」








 







ありがとうございました。

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