漫才「引越し」
ありえない点が多々見受けられる内容になっておりますが、漫才の台本だということで、大目に見ていただけると有難いです。
この作品は、youtubeにも投稿しております。
青年が友人の家を訪ねていった。
青年「明日からしばらく留守にするからさ」
友人「どこ行くんだい?」
青年「アンドロメダ銀河、里帰りだ」
友人「実家は久しぶりだろ」
青年「うん・・・」
友人「なんだよ、うかない顔しちゃって。うれしくないのか?」
青年「今回が故郷の見納めになりそうなんだよね」
友人「ん? どういうこと?」
青年「実家の近くに、ブラックホールができちゃったんだってさ・・・近いうちに星ごと飲み込まれちゃうんだって」
友人「そりゃ大変だ。ブラックホールっていうのは銀河の中心にできやすいっていうけどどうなんだ?」
青年「実家はまさにそういう場所なんだよ。アンドロメダの中心からちょっと脇に入ったところにある星でね。風光明媚ないいところなんだけどなあ、残念だよ」
友人「そうかあ」
青年「それで引越しの手伝いに行くっていうわけさ」
友人「で、引っ越すっていったって、いったいどこへ? 星ごと移動するんだろ」
青年「住民個々で逃げ出してくださいってことなんだ。みんな散り散りさ」
友人「星ごと引っ越すわけにはいかないのかよ。赤道のあたりをワイヤーで巻いて、ひっぱるとかさ」
青年「やってみたらしいんだけど・・・」
友人「だめだったのか」
青年「ブラックホールの引力が思いのほか強くてさ、引っ張ったとたんにワイヤーが地面にめり込んじゃって。危うく星が輪切りになっちゃうところだったんだってさ、あわてて中止にしたらしい」
友人「大きなプロペラを回して、ヘリみたいに飛んでいくというのはどうだろう?」
青年「それは最初に試みたんだって。プロペラ風の力ってすごいらしくてさ、地上も海も大嵐になっちゃって中止」
友人「そうかあ」
青年「強い力で上に引っ張られたんで、星の形が縦長になっちゃうしで、大変だったんだってさ」
友人「ロケットエンジンを一か所に集めて一気に噴射させれば星ごと飛んでいけるだろ」
青年「大地震が発生して、立っているのもままならなかったって言ってた」
友人「そうかあ、難しいもんだなあ」
青年「そんなわけで、星ごと引っ越すのはあきらめるしかなかったんだよ」
友人「ちょっと待った、引越し屋はどうした。広い宇宙なんだから、星ごと運んでくれるところもあるんじゃないのかな」
青年「あるにはあったんだけど、あっという間にどこも予約でいっぱいになっちゃったんだって」
友人「そうだったのかあ」
青年「タイムリミットがあることだから、いつまでも順番を待ってられないだろ」
友人「そりゃそうだ」
青年「だから今回は自力で乗り切らなきゃならないんだ」
友人「でもなあ、個人で引越し先を探すにしたって、どこか当てがあるのかよ」
青年「こっちに来るように勧めたんだけどさ」
友人「おお、それでいいじゃないか」
青年「父親がアンドロメダからは離れたくないっていうんだよ」
友人「なんで?」
青年「故郷だからなあ」
友人「なんだか都道府県レベルの話になってないか?」
青年「なつかしい山や川があるからなあ」
友人「肝心のその星はなくなっちゃうんだろ・・・」
青年「親父まで三代続いてアンドロメダだったし」
友人「そうかあ、親父さんアンドロメダッ子だったのか、じゃあしょうがないか」
青年「うん。僕は飛び出しちゃったけどね。家出同然で銀河系に来ちゃったから、こんな時くらいは手伝いしないと」
友人「親孝行か」
青年「手広くやっている不動産屋に相談して、ブラックホールになりそうな星のないところを探してもらうかな」
友人「今度は銀河の端っこのほうがいいだろう」
青年「そうだね、中心付近は避けるよ」
友人「物価が安いから助かるぞ」
青年「交通がちょっと不便になるだろうけどね」
友人「それくらいは我慢してもらわなきゃ」
青年「うん、やっぱり安全が第一だからね」
友人「考えてみたら、宇宙っていうのは案外物騒なこと、あるんだよなあ」
青年「そうそう。ガンマ線バーストだとか、超新星爆発だとか」
友人「隕石だらけだしな」
青年「この銀河系だって同じなんだろうけど」
憂鬱な表情の二人。目が合って気まずい雰囲気になりかける。
友人「ま、夜空はきれいだし、いいところもいっぱいあるからさ」
青年「そうだよね、宇宙って捨てたもんじゃないよね」
友人「そうだ、これ持ってけよ」
引き出しから冊子を出して手渡す。
青年「なに?」
友人「引越し手続き一覧だ。住所変更とか、手続きが必要なところが載ってる」
青年「いけね、忘れるところだったよ」
友人「郵便局とか、年金とか、住所変更はきちっとやっとかないと」
青年「そうだ、銀行にも連絡しなきゃ。家、建て替えたばかりだったんだよね。いずれは僕のものになるんだからって、僕名義でローン組んだのに・・・どうなるんだろう」
友人「ついてなかったなあ」
青年「ブラックホールは天変地異の部類に入るんだろうか」
友人「星のほうから突っ込んでいくようにも映るだろうしなあ・・・どうなんだろう」
青年「保険、おりるのかなあ」
読んでいただき、ありがとうございました。