その6
「王様、この三日間、卵はお召し上がりになりませんでしたよね? でも、ぼくの作るスープや、硬いパンでさえも、おいしく感じられませんでしたか?」
「そういえば……」
イースターさんとの旅を思い出しながら、王様はうなずきました。イースターさんはにこりと笑って続けました。
「王様は、三食いつも目玉焼きを召しあがっていました。贅沢なお城で、代わりばえのない食卓。変わるのはただ調味料だけ。それではいくら好きなものでも、おいしく感じられないでしょう。それに比べて、この三日間、王様はずいぶんとお歩きになったと思います。いつもは旅をされるときも、お供の人たちとともに、馬車での移動でしょう? ……王様、料理とは生きることと同じです。この三日間、王様はおいしい目玉焼きが食べられると思って、生き生きと過ごされてきたでしょう? 生きているという実感は、なによりも尊い香辛料となるのです」
そこで言葉を切ると、イースターさんはいたずらっぽく笑いました。
「……ですが、ここまで王様はぼくについてきてくださいました。そのごほうびが、塩で味つけしただけの目玉焼きでは、ちょっと味気ないですよね」
イースターさんに呼応するかのように、わきに並んでいた他の料理人たちが、いっせいに王様に目玉焼きを差し出したのです。それらには、見たこともないような、様々な香辛料がふりかけられていたのでした。
「このドラゴンさんは、王様以上にグルメなんです。香辛料もたくさん、それこそ海の向こうの国からだって、集めてきていたんです。もちろん『ショウユ』だってあります。王様、どうぞ召しあがって……王様?」
イースターさんは息を飲みました。王様が肩をふるわせて泣いていたからです。他の料理人たちも、驚き顔を見合わせています。
「……わしには、こんなに優しくしてもらう資格などない。わしはそなたたちを、処刑しようとしたのに、そなたたちはわしに、これほどおいしそうな目玉焼きを……」
それ以上は、なにも言葉が出てきませんでした。料理人たちが王様を、そしてイースターさんに目をやりました。イースターさんはうなずいて、それから王様のそばへひざまずいたのです。
「ぼくたちは料理人です。でも、誰一人として、王様がどうして満足しないのか、それに気づくことができませんでした。料理人にとって一番大切なことは、その人が料理を食べて、幸せになることのはずです。それなのに、いつしかぼくたちは、王様の不評を買わないように、それだけを考えていたのです。これでは料理人失格です。本当はぼくたちは、王様がなにを食べていないかを考えるのではなく、王様がなにを食べたら、そしてどう食べたら幸せになるか、それを考えないといけなかったのに……」
イースターさんに続いて、他の料理人たちも口を開きました。
「わたくしたちも同感です。王様に処刑されないようにと、そればかりを考えて、料理の本質を見失っていました。イースターさんが王様をここに招待するといいだしたときも、なにをバカなことをと思っていたのですが、イースターさんの言葉を聞いて目が覚めたのです。わたくしたちはただ作業として料理を作っていたのだと、そう思い知らされたのです。……王様、どうかお召しあがりください。わたくしたちが心をこめて作った目玉焼きです」
王様は、ぽろぽろと涙をこぼしておえつしながらも、何度も何度もうなずきました。料理人たちは顔を見合わせ、一人、また一人と、王様の前に目玉焼きを差し出します。王様は涙をぽろぽろこぼしながら目玉焼きをバクバクと食べ、「うまい、うまい」と、また何度も何度もうなずくのです。料理人たちも、卵食らいのドラゴンも、そしてイースターさんももちろん、その様子を幸せな気持ちで見守るのでした。
スクランブル王国の王様は、どんな豪華な料理よりも目玉焼きが大好きな王様がいました。そしてその国民たちも、誰もが目玉焼きが大好きでした。その理由は……。
「まったく、まさかこのわしをかまど代わりに使うとは、おぬしも人使い、いや、ドラゴン使いが荒いのう」
卵食らいのドラゴンが、ぐちっぽく厨房でいいました。イースターさんがアハハと楽しげに笑います。
「でもいいじゃないですか。そのおかげでドラゴンさんは、おいしい卵をたくさん食べられるようになったんでしょう? しかも今までみたいに盗んでくるんじゃなくて、王国中のニワトリ小屋から送られてくるじゃないですか。それにほら、国民みんなも感謝してくれて、みんなの人気者ですよ」
厨房でボワッと火をはく卵食らいのドラゴンを見て、子供たちが歓声をあげています。卵食らいのドラゴンはふんっと鼻を鳴らしてイースターさんと、エッガーさんにいいました。
「それよりおぬしら、ちゃんと焼けておるじゃろうな? まだまだたくさん行列ができておるから、どんどん料理を出していかないと、日が暮れてしまうぞ」
「もちろんですよ。さぁ、エッガーさん、一気に片付けちゃいましょう」
「わかったよ、イースターコック長。『レストランマウンテン』、今日もフル稼働だぜ!」
二人は一気に、フライパンに卵を割り入れていくのでした。




