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その2

「王様、朝ごはんでございます」


 給仕たちが豪華なテーブルに、様々な果物やハム、ヨーグルトにスープと、色とりどりの料理を並べていきました。しかし、王様はそれらには目もくれず、最後にエッガーさんが持ってきたお皿を、よだれをたらしながらじっと見つめるのでした。


「さてさて、今日はどのような香辛料を使ったのだろうか? あ、まだいうでないぞ。いつもいっておるが、わしが食べてから、なにを使ったのかいうんじゃぞ。ふむふむ、しかしこれは……」


 王様が月見コショウの、小さな黄色い粒をじっと見ながら、よだれをぬぐいもせずに、ナイフとフォークで目玉焼きを切り分けていきます。そしてまずは白身の部分を、あんぐりと口に運んだのです。


「ふむふむ、ほほう、この味、うーむ……」

「いかがでしょうか、王様。これは先日香辛料売りが持ってまいりました、非常に珍しい」

「もうよい」


 エッガーさんの表情が凍りつきました。それを少し離れたところで見ていた、イースターさんも同じでした。王様はわずかな悲しみと、大きな怒りに燃えたひとみで、エッガーさんをにらみつけたのです。


「月見コショウを使ったな? これで何度目じゃろうか? お前たちコックは、わしにずいぶんと月見コショウを食べさせたがるようだが、わしはこれを味わったことがある。しかも何度もじゃ!」

「そんな、しかし月見コショウは、巻物に書かれていなかったはずなのに!」

「巻物? あぁ、お前たちコックが作っていた、香辛料のリストか。おろか者め! 前のコックがいっておらんかったのか! あの虫食いは、『ショウユ』ではない! あれは『月見コショウ』じゃ! いつもいつも間違いおって、もう許さんぞ!」


 エッガーさんの顔が真っ青になり、ぶるぶるとふるえはじめました。イースターさんも驚きと恐怖で、歯がガチガチと鳴りだします。まさか虫食いになっていたのが、『ショウ』のあとではなく、前だったなんて……。しかし、王様の怒りはものすごいものでした。


「ええい、衛兵たちよ! この不届き者のコックをひっとらえい! いつも通り、『卵食らいのドラゴン』へとささげるのじゃ!」

「お待ちください!」


 気がつけば、イースターさんは王様の前に進み出ていました。エッガーさんが目をこれでもかとばかりに見開いていますが、イースターさんは構わずに王様に進言したのです。


「申し訳ございません、本日の料理は、このわたくしめの作品でございます。エッガーコック長が、なにを作るかお考えになっているところに、わたくしがしゃしゃり出てしまったのがいけなかったのです。どうかエッガーコック長を責めないでくださいませ」

「なに、おぬしが? おのれっ、コック長を差し置き、料理するだけでも許されんのに、このわしに同じものを作るとは、なんたる不届き! 衛兵ども、この者を捕らえよ!」

「イースター君! きみはなにを」


 驚き止めようとするエッガーさんに、イースターさんは激しく首をふりました。エッガーさんは言葉を飲みこみ、だまって連れていかれるすがたを見るしかありませんでした。




「しかしお前もバカなやつだな。王様がへまをしたコックに、どんな罰を与えるか、あのエッガーから聞いていただろうに。……だが、おれたちもこれが仕事だ。お前を逃がしたりすると、今度はおれたちが卵のカラに入れられちまう。……悪く思うなよ」


 兵士たちは、つらそうな顔でイースターさんを大きな卵のカラへ入れました。カラの継ぎ目にしっかりのりをつけて、イースターさんが出られないようにします。


「卵食らいのドラゴンは、卵を丸のみにするらしい。だから決して卵から出ようとなんてするんじゃないぞ。出たらきっと、卵食らいのドラゴンが怒って、お前を食べる前に八つ裂きにするだろうからな。……じゃあな」


 兵士たちの言葉を、青い顔になって聞きながらも、イースターさんは静かに耳をすませていました。兵士たちが乗った馬車が去ってから、いったいどのくらい時間が経ったのでしょうか。突然、卵のカラがグラグラグラッと、すごいゆれに襲われたのです。イースターさんはハッとして、それからすぐにカラを何度も何度もなぐってたたきまくったのです。カラはかなり硬く、割れるどころかひびが入ることすらありませんでしたが、それでもイースターさんは必死でなぐり続けました。すると……。


「わわっ!」


 突然卵のカラが砕けて、破片がイースターさんにふりかかってきました。急いで外に出ると、イースターさんは思わず悲鳴をあげそうになりました。


「むぐっ!」


 なんとか口をふさいで、イースターさんはふるえながら上を見あげました。卵食らいのドラゴンが、黄色く輝くひとみでじっとこちらを見つめていたのです。逃げ出したくなりそうになるのを必死でこらえて、イースターさんはドラゴンに大声で話しかけたのです。


「ドラゴンさん、卵料理はお好きですか?」


 恐怖をこらえて、イースターさんはドラゴンを見つめ返しました。驚くべきことに、ドラゴンは人間の言葉でイースターさんに問いかけたのです。


「まさかな、今まで卵のカラに包まれた人間たちは、何人も見てきたが、自分から卵を破って出てこようとするやつがいようとは。それどころか、このわしに話しかけてくるやつなど、今まで一人もいなかった。面白いやつだ」


 ドラゴンの言葉を聞いて、イースターさんはハッと口を押さえました。驚きとわずかな希望で目を輝かせて、ドラゴンに早口で問いかけたのです。


「それじゃあ、あなたは卵を丸のみにしていたんじゃないんですね! 他の人たちは……?」


 ごくりとつばを飲みこみ、祈るように見あげるイースターさんに、ドラゴンはクハハハッと豪快に笑ってうなずいたのです。


「安心しろ。そなたが思っているように、わしはそいつらを食ってなどおらぬ。それどころか、やつらは非常に有能なコックたちだ。特にその香辛料の知識は、わしの味気ない食卓をなんとも彩ってくれたものよ。して、おぬしもやつらと同じように、このわしに料理を作ってくれるということかの?」


 ドラゴンがにぃっと牙をむき出しにして、イースターさんに笑いかけました。イースターさんは何度も首をたてにふりました。


「よかろう。おぬしを我が厨房へ招き入れよう。じゃが、いっておくが、わしはかなりの大食いだ。しっかり料理せねば、おぬしを食らうから、気をつけるんじゃぞ」


 ドラゴンが再びクハハハッと吠えながら笑いました。ボウッと口から炎がふき出て、イースターさんはぶるるっと身ぶるいしましたが、それでも助かったことに喜びを感じるのでした。


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