表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

その1

 スクランブル王国には、どんな豪華な料理よりも、目玉焼きが大好きな王様がいました。

 

 どのくらい好きかというと、朝も、昼も、夜も、おやつの時間も、目玉焼きを必ず三つ、ぺろりと平らげてしまうくらいでした。


 そんな王様だから、お城のコックはさぞや楽な仕事だろうと、国民たちは思っているのですが、実際はそうではありませんでした。


 それでは、長年王様のコックをしている、コック長のエッガーさんの調理現場を見てみましょう。




 エッガーさんの一日は、まず、とてつもなく長い巻物を読むことから始まります。その巻物には、これまでのコック長たちが、王様の食事で出した、目玉焼きにかける香辛料が書かれていたのです。


「ふうむ、虹色塩はどうだろうか? 三日前に香辛料売りが持ってきてくれた、珍しい香辛料だが……。あぁ、ダメだ。三年前の夏に出している。なら、ブルーバターはどうだろうか? ブルーチーズとバターを混ぜ合わせたバターだ。塩っ気も強くて人気だが……。やはりだめか。七年前の二月に出している」

「でも、エッガーさん。七年前だったら、さすがの王様も覚えていらっしゃらないのではないですか?」


 最近となりの、ソイソース国からコックとしてやとわれた、イースターさんがいいました。しかし、エッガーさんは苦々しい顔で首をふったのです。


「そうか、君はソイソース国から来たばかりだから、知らないんだろうな。いいか、これはここだけの話だぞ。けっして他の者たちにはしゃべってはならん。……それを守れるか?」

「はい、もちろんです。しかし、いったいどういうことなんですか?」


 イースターさんが不思議そうに目をぱちくりさせました。エッガーさんは声をひそめて続けたのです。


「王様の舌は、とてつもなく記憶力がいいのだよ。舌に記憶力などあるのかと思うかもしれないが、あの舌は、一度食べた味は決して忘れないのだ。そして、王様はとんでもなく新しもの好きで、一度食べたものは、どんなにおいしかったとしても、決して口にはしないのだよ。……そして、一度食べた香辛料で、味付けした目玉焼きを出したコックは……」


 エッガーさんが、ぶるるっと身ぶるいしてしまいました。イースターさんもごくりとつばを飲みこみます。


「いったい、どうされてしまうんですか?」

「とんでもなく大きな卵のカラに入れられて、『卵食らいのドラゴン』の住む、山のふもとへ置き去りにされてしまうんだ」

「ひぃぃっ! そんな!」


 イースターさんが、ショックを受けたようにぶるぶるとふるえだしました。


 『卵食らいのドラゴン』とは、スクランブル王国の東にある、温泉卵山に住んでいるドラゴンでした。卵が大の好物で、ニワトリはもちろん、ガチョウや遠い南に住むフェニックスの卵ですら、盗んで食べてしまうという、恐ろしいドラゴンなのです。そんなドラゴンに、卵のカラに入れられたコックが見つかったら……。


「これは、国民たちも知らない、この王国のコックに代々伝わる伝統なのだ。だから決して、王様に同じ味つけの目玉焼きを出してはならん。幸いスクランブル王国は、他の国と仲もよく、様々な香辛料が手に入る。香辛料売りたちもたくさん来るから、そのたびに珍しい香辛料を買っておくのだぞ」

「……わかりました」


 とんでもない国のコックになってしまったなぁと、イースターさんは心の中で後悔しながらも、エッガーさんにわたされた、長い長い巻物に目を通していきました。


「わたしも先ほど全部読みかえしたが、どうやら月見コショウをかけた目玉焼きは、王様も食べたことがないようだ。今日はそれをお召しあがりいただこう。さいわいなことに、さすがの王様も三食すべて別の香辛料にしろとはいわないから、朝の目玉焼きさえ乗りこえれば、その日一日は安心できる。さぁ、それじゃあ調理を開始しよう」


 エッガーさんにいわれて、イースターさんもしっかりうなずきました。最後にもう一度よく確認しておこうと、イースターさんは巻物をくるくる巻きながら見ていきます。と、不思議なことに気がついたのです。


「エッガーさん、ここだけ虫食いになっていますけど、これはなんなんですか?」


 イースターさんが、『ショウ』とだけ書かれたところを指さしました。その左右が、虫食いにあって巻物に穴が開いていたのです。エッガーさんは懐かしそうに笑いました。


「あぁ、そこはずっと昔から、虫食いになっているそうで、わたしも先代のコック長から教えてもらったんだが、なんでも『ショウユ』というものらしい」

「『ショウユ』って、ぼくの故郷である、ソイソース国に伝わる伝説の調味料の、あの『ショウユ』ですか?」

「そうか、君はソイソース国出身だったな。そうだよ。わたしも実物は見たことないが、『ショウユ』を食べて、王様はたいそうお喜びになられたらしい。……だが、それから悲劇は始まったのだ。『ショウユ』を超える調味料を探そうと、王様の新しもの好きはひどくなっていき、コックたちにもあんな過酷な罰を与えるようになったのだ」

「そうだったんですね……」


 すまなそうにうつむくイースターさんの背中を、エッガーさんがポンポンッとたたきました。


「さ、おしゃべりはここまでにして、早く調理にとりかかろう。『月見コショウ』を仕入れていて正解だったな」


 エッガーさんの言葉に、イースターさんもホッとしたようにうなずきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ