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【連載版】気づいた時には大賢者の娘になっていた 〜最強の魔法使いの父に溺愛されながら、大賢者を目指します!〜  作者: 高八木レイナ
第三話 過去との決別

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二十七 謎解き


 ラインハルトが協力を申し出てくれたことで、ずいぶん捜査が楽になった。

 彼が捜査資料を見せてくれたのだ。

 クラウスは顎に手を当てて、唸った。


「やっぱりフィーの言うように身内か、顔見知りの犯行かな?」


 すでに被害者の周辺の人物に聞き込みが行われたらしく、彼らの当時の発言なども記されていた。

 被害者三人に共通した友人はいないようだ。


「う〜ん……もし知り合い程度だったら、犯人像は分からないよね。知人レベルまで捜査を広げるなら、三人の共通した知り合いもそれなりにいそうだし」


 私はつい、ぼやいてしまう。

 クラウスは軽く伸びをして言った。


「そもそも、オーリンは色持ちの魔法使いなのか? いつもフードをかぶっていたなら、誰も素顔を見たことがないから分からないだろうに」


「オーリンは確かに色持ちだったよ。彼の顔を見たことがあるんだ。ぼくが保証する」


 ラインハルトはそう言った。

 私は目を見開く。


「オーリンの顔を見たことがあるのですか?」


「ああ。一瞬のことだったけどね。オーリンはいつもローブで顔を半分隠しているけど……ある日、偶然見てしまったんだ」


 ラインハルトはミルクを飲みながら、思い出すように言った。

 ──彼がそう言うなら事実なのかもしれない。


「殿下はオーリンの遺体を見ました? それは本人でしたか?」


 私の問いかけに、ラインハルトは表情をくもらせる。


「それが……ぼくは報告を聞いただけで、直接は見ていないんだ。ただ、両目はくり抜かれていて、顔面も殴られたのか……見るも無残な状態だったらしい。オーリンが普段は人に顔を見せていないこともあって、おそらく本人と断定することはできないだろう」


「えっ。じゃあ、その遺体がオーリンだとは限らないんじゃ……?」


 私が勢いにまかせて言うと、ラインハルトは困ったような顔をする。


「まあ、そうだね。オーリンの家で、オーリンの服を着た男が発見されたから、捜査員達もオーリンだと考えただけだ」


 そう聞くと、やはり彼が死んだと考えるのは怪しく思えてしまう。

 無関係の一般人をさらって殺し、その死体を偽装して、父を犯人に見せかけたのではないだろうか?

 私はラインハルトに尋ねた。


「殿下、オーリンの顔を見たことがある人物って、他にはいませんか?」


 さすがに、そこまでは分からないと言われるかもしれないと思ったが、ラインハルトは真剣に考えてくれた。


「う〜ん……おそらく、ぼく以外にはいないと思うけど……。ああ。でも、もしかしたら、オーリンの従者が見たことがあるかもしれないな。彼はいつもオーリンと行動を共にしていたし。オーリンの遺体発見者でもあるからね。話を聞いてみるかい?」


 ラインハルトはそう軽い調子で言った。


「えっ、直接話を聞けるのですか?」


 私が尋ねると、ラインハルトは笑みを浮かべてうなずく。


「ああ、構わないよ。王宮内で働いているからね。呼びつけよう」






 そして、やってきたのは男にしては小柄で、そばかすの浮いた、おどおどした十六、七歳くらいの少年だった。


「で、でで殿下! およ、およびで! ございますかぁ……!?」


 少年の声は裏返っていた。

 もしかして犯人か、と疑ってしまいそうなほど、彼は不自然に青ざめて震えている。


「ルーカス、きみにオーリンの発見時の話を聞きたい。彼女達に聞かせてやってくれ」


 ラインハルトがそう淡々と言うと、ルーカスさんは瞠目した。


「でっ、でで殿下が、僕なんかの名前を覚えてくださっているぅ……!?」


 そのルーカスさんの言葉に、ラインハルトは不思議そうに片眉を上げた。


「ぼくは王太子なんだから、王宮にいる者全員の顔と名前を覚えるのは当然のことだよ」


 クラウスは驚きに目を剥いていた。


「お前すごいな……フィーのことになるとヤベーやつなのに、その他のことでは完璧王子なのか!?」


 クラウスのツッコミが鋭すぎる。相手は王太子なのだから、抑えてほしい……。

 ラインハルトはクラウスにお前呼ばわりされて、不快そうに片眉を上げた。


「きみは何を言ってるんだ。ぼくは何もおかしくないだろうに。……さぁ、ルーカス。話してくれ」


 ラインハルトにうながされ、ルーカスと呼ばれた少年は恐縮した様子で話し始めた。


「ぼ、僕は……王宮内で、オーリンさんの身の周りのお世話をさせてもらっていました。主に書類仕事や、雑用ですね。オーリンさんは占い師という立場ですが、陛下から王宮内に執務室を与えられており、政治の場で発言することもありましたので……」


 落ち着きなく指を組みかえながら、視線を伏せて、ルーカスさんは話す。


「い、いつもはオーリンさんと朝の五時頃に王宮の執務室でお会いするんですけど……今朝はなかなかいらっしゃらなかったので、六時頃に家までお迎えに行ったのです。朝早くから会議があったので、それについての話もしたくて……幸い、オーリンさんの住まいは王宮から近い場所でしたから、そんなに負担でもありませんでしたし……。けれど、行ってみたら玄関の鍵も開いていて……中を覗いたら、玄関に血しぶきががありまして……嫌な予感がして、声をかけながら中に入ったんです。そしたら、居間でオーリンさんが倒れていました。そばに刃物を持った男が立っていて……」


 ルーカスさんはぶるりと震え、私を気にするようにチラリと見てきた。

 私は拳を握りしめる。ルーカスさんは私を犯人の娘だと思っているのだろう。

 押し黙ったルーカスさんに、ラインハルトは声をかけた。


「……続きを」


「は、はいっ! その……虹眼の男はこちらを一瞥すると、僕をつき飛ばして玄関から飛び出て行きました。彼のマントには返り血らしいものがついていたと思います。……僕はその金髪の男の顔を見たことがあったので、すぐに大賢者アガルト・リッターだと……分かりました」


 チラチラとルーカスさんは怯えた様子で、私とラインハルトを見ている。

 私は感情を押し殺して、ルーカスさんに尋ねた。


「あなたはオーリンの顔を見たことがありますか?」


「い、いえ……」


 ルーカスさんは首を振る。


「オーリンの素顔を知る人物に心当たりはありませんか?」


 私の問いかけに、ルーカスさんは少し黙り込んだ後、頭を振った。


「オーリンさんは、誰とも親しくありませんでした……醜いヤケドがあるからと、顔をいつも隠していて……絶対に誰にもフードの下を見せなかったのです。それを陛下も許していらっしゃいました」


「実際は、ヤケドはなかったんだけどね。ぼくは一瞬だけ見たから知ってるけど」


 ラインハルトはそう言って、肩をすくめた。

 それからニ、三言話して、ルーカスさんは去って行った。

 事件が暗礁に乗り上げた気がする。

 私達三人は腕を組んで唸った。

 オーリンが王宮で働いていてこともあり、遺体は王宮の侍医が検分したのだという。

 ラインハルトは捜査記録をめくりながら言った。


「オーリンの遺体は朝にルーカスによって発見された……。王宮の侍医によると、遺体の検分をしたのが朝の八時頃。遺体の硬直時間から、推定して死後八時間から十時間ほど経っているようだと」


「つまり、死亡したのは夜の十時から日付を越えるあたりってことか……」


 クラウスは眉をひそめて言った。

 つまり犯人は殺害現場に長いこと滞在していたことになる。

 考えれば考えるほど奇妙な話だ。


「犯人は被害者を殺した後、六時間以上そこにじっとしていたってこと?」


 私はつぶやいた。

 クラウスが顔をしかめて、吐き捨てる。


「うげっ、死体と一緒にいるなんて、頭がおかしいとしか思えないな……」


 これまでの色持ち魔法使いの変死事件では犯人らしき者は目撃されていなかった。

 やっぱりオーリンの事件だけは異質な印象を受ける。

 私は眉根をよせて、つぶやいた。


「……もし犯人なら、夜中のうちにさっさと逃げたほうが誰にも目撃されずに安全なはずなのに……そうしなかったのは、犯行現場にいる自分を誰かに発見されたかったようにしか思えない」


 犯行現場に父そっくりの人間が目撃されたということは、やっぱりオーリンは父に濡れ衣を着せようとしているのだろう。

 それほど長い時間でないなら、今いる他人の振りをしても疑われてないはずだ。

 ──だったら、何のために?

 ラインハルトは魔塔の事件の資料も見せてくれた。


『事件当時、大きな爆発音がして、その直後に魔塔が崩れ落ちて火事がおきた』

『火の燃え広がり方からすると、塔の内部、あらゆる所に油を撒かれていた可能性が高い』

『燃えた魔導具の大半が原型をなくしており、焼失物については現在調査中。ほとんどはまだ瓦礫の中』

『発火場所にアガルト・リッターの姿があり、複数人が彼の姿を目撃している』


 私は魔塔についての資料を食い入るように見つめる。


「おい、フィー。そろそろ日も落ちてきたし、帰らないか?」


 そうクラウスに言われて顔を上げると、思ったより近くに彼の顔があった。

 途端にクラウスの顔が赤く染まっていく。


「なっ、なんだよ! びっくりしたなぁ」


 クラウスは何か呪文のようなものをブツブツと唱えていた。

 そういえば、うちにきた時も廊下で同じような呪文を彼が口にしていたことを思い出す。


「クラウス、それは何の魔法?」


「えっ……それは……」


 彼はもごもごと口を動かした後、白状した。


「心を穏やかにする呪文だよ。師匠の研究室で見つけたんだ。興奮を抑える作用があるらしいから……」


「きみは、なぜ興奮しているんだ」


 至極当然のラインハルトの突っ込みに、クラウスは「べっ別に良いだろっ!?」と狼狽していた。


 私は二人をよそに、これまでのことを振り返って考えていた。

 そしてあることに気づき、私は呆然として、つぶやく。


「……犯人が分かったかもしれない」


 クラウスとラインハルトが驚いたような表情で、こちらを見つめてくる。


「お父さんが、危ないっ!!」


 私はそう叫んでいた。

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