お出かけにて
人ごみの多い駅。待ち合わせするのも一苦労だ。でもどんな人込みでも好きな人のことはすぐに見つけてしまうものなのだな、とこういうときに思う。
「こっちこっち」
そう手をすればすぐに目が合う。
「やほー! またせちゃったかな」
ふわふわのシフォンワンピースが良く似合う。胸のあたりできゅっと絞りがあるので豊満な体が強調されてちょっとひやひやした。
「ううん、私もちょうどついた」
嘘だ。30分くらい前にはついていた。
「あ、なんかデートっぽくない? 今の」
「何言ってんのよ」
とかいいつつ同じことを思っていたりして。
「ふふふーいこいこ」
そういって里奈は雪の腕に絡みつく。思いっきり当たってますお姉さん。
「こ、こら、人込みで腕組んだら危ないでしょ」
主に自分の心臓も危ない。
「大丈夫大丈夫」
そんなことを言うものだから、冗談交じりに
雪:乳あたって役得ではある
と本音を言えば
里奈:おやじくさ
と返されてしまった。本性はおやじらしい。
「どこいこっか」
特に今日の予定は決まっていない。偶然平日に休みが合う日があったのでじゃあ会うかってことになって今に至る。
「ぶらぶらしよ。ウィンドウショッピングってやつ?」
「おっけー」
里奈の案に頷くと、早速
「あの服かわゆ」
とお目当ての服を見つけている。福屋が並びすぎていてどの服なのかがわからない。
「え、どれ?」
「こっちこっち」
子供が母親の手を引くようだ。
「あ、これか。にあいそう」
やわらかい生地のその服は里奈に良く似合いそうなデザインだった。
「んーでも胸がなぁ」
胸のとこに切り返しがないと太って見えるからワンピースは大敵なのだ、とよくなげいている。
「乳があるのも大変だねぇ」
その辺人波でよかった、と雪は思う。
「そうなんだよーサイズがなくてね。ブラも可愛いのないしぃ」
これをぜいたくな悩みだという人もいるが本人にとっては結構な悩みらしい。
「言ってたね。お店においてないって」
「そそ。服もきてみないとわからないし。だからウィンドウショッピングしかできないんだよねぇ」
それならば、と雪は店内を見渡す。
「えーっと、あった。里奈、あっち」
「へ? 何が?」
「試着室。これ、きてみなよ。胸元空いてるからセクシーでいいじゃん」
「いいよいいよ。見てるだけでも楽しいし」
「いいじゃん。きて見せてよ」
「入るかなぁ」
そういいながら試着室に消えていく。
「いつもどうしてんの? 私とは買い物あんまり行かないじゃん?」
「んー隆一に付き合ってもらって試着しまくってサイズが合う店の服をまとめがいしちゃうかな」
あとは通販でイチかバチかって感じ、と服をもってため息をつく里奈に口をとがらせる。
「よんでくれたら私だって買い物の付き添い位するのに」
「だって結構待たせちゃうでしょ?」
「それくらい待つわよ」
「あ、やっぱ胸んとこちょっときついかも」
カーテンの向こうの声に想像してしまう。こういう所がおやじたる所以なのだろうか。
「え、みせて」
「いや、だからサイズが」
もたもたする里奈にしびれを切らした雪はひょこんと顔だけカーテンに滑り込ませた。
「しっついれいしまーす」
「えっ、あっ、もう。顔だけ女」
「こうすればほかの人には見えないでしょ。いやぁ眼福眼福。えへへ」
確かにこれは目に毒である。というか他の誰かに見せたくない。
「こんな風になるから着れないの」
よく分かりました、と雪は頷く。
「いいものみせてもらったわぁ。たまに試着してよ」
「やだよー買えないのわかってるのに、悲しくなるじゃん」
「私得でしかない」
「ん、お待たせ。ということでサイズは合いませんでしたー」
「残念でしたが満足です」
と本音を言えば、頭をこつんとされた。
「んじゃ行きますか」
雪が踵を返した時だった。
「あっ」
何かに気づいたような里奈の声にまた振り返る。
「どした?」
「んーこのタイピンいいなとおもって」
「隆一君に?」
「なんかさ、こないだ昇進できそうみたいなこと言ってたんだよね」
「あら、おめでと。んじゃそのお祝いか」
「そそ。スーツ着てるからさ。紺と紫かぁ…迷う。んーどっちがいいとおもう?」
そう聞かれて、思い出したくもない顔を思い浮かべる。
「今度隆一君ときたら?」
「そだね。本人に合わせてみないとね。いこっか。あ、あれかわいー」
「あ、里奈ったら、待ってよ」
また敵に塩を送るなんて。私の馬鹿。




