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一話 「冒険者ギルドと志願者の案山子(上)」

まだまだ初心者ですが頑張ります!

よければ、感想、アドバイス、誤字報告お願いします!

 都から離れた辺境の村。

 受付嬢として採用され、冒険者ギルドで働けることになったエリンは、その村の小さなギルドに配属された。

 夢にまでみた受付嬢になり、エリンは天に昇るような気分で支度をした。

 

 (これでやっと……冒険者さん達をサポートできる……!)

 

 と、思っていたが……。

 

 現実は甘くなかった。

 

 「……はぁ……今日も……“今日も”!来ない!」

 

 カウンターに押し付けていた頭を勢いよく上げて、エリンは天井に向かって叫んだ。

 身だしなみを整え、美しい金色の髪を結び、笑顔の練習を繰り返し、カウンターを掃除し、テーブルや椅子を拭き、ロビー前の掃き掃除をし、窓を拭き、ギルド内の掃除を徹底し……。

 ……かなり時間が経ったが、一向に依頼人、志願者が現れない。

 

 (本当にどうなってるのこれ?こんなに人が少ないんて聞いてないよ!少ないって程の人もいないしっ!)

 

 声に出したくなるのを必死に堪え、また、カウンターに突っ伏した。

 過疎化が進む小さな村。その中心にある教会の隣の隣に、エリンのいる冒険者ギルドがある。

 三階建ての酒場程の大きさで、冒険者ギルドにしては小さい。

 人口約五十人になりかけのこの村は、冒険者に憧れる若者が多いのだが……大抵は都に出稼ぎするために登録する程度で、他は畑と家畜の世話をしている。

 しかも、周辺の魔物は他と比べて比較的安全であるため、ますます志願者は来ない、依頼人も来ない。

 そのため、今現在、このギルドで活動する冒険者は三名のみ。これでは、ギルドの意味がない。

 

 「はぁ……退屈ぅ……これからどうしよう?ねえ、アニー?」

 「そうですね。人がいないと、私たちも仕事がありませんからね」

 

 数日も人が来ないにも関わらず、文句の一つも言わずにじっと待って、エリンの愚痴に付き合っている彼女は、同じくギルドの職員の一人、アニーである。

 茶色のローブのフードをしっかりと被り、黒い髪を肩まで伸ばしており、暗い印象がある。だが、フードに隠れた顔はとても美しいことを知っているのは、ごくわずかだ。

 彼女の役割は、志願者の素性を知るために過去を視る『過去視』。その能力故に『過去視屋』と呼ばれる。聖職者ではない彼女は、これにより、信用できる者かどうか見定めている。

 普段からギルド内の掃除を率先してやっているのは、彼女であり、その真面目な性格を買われてギルド職員として雇われている。

 

 「ギルドマスターも、まだお帰りになられていないですから……ますます、やるべきことがなくなりますね」

 「本当にそうね……まあ、マスコットのようなものだし、きっと人を呼んでいるんだと信じているわ」

 「エリンさん。いくらなんでも、ギルドマスターにそんな言い方は……」

 「いーの!今はいないし、だってマスターは……」

 

 そこまで言いかけたその時、扉の隣にある小さな窓から、白いふわふわが飛び込んできた。

 

 「あ……ギルドマスター、お帰りなさいませ」

 「おお、お帰り、コットン様」

 「ちょっと、エリンさん!敬語を……」

 「一応、“様”をつけているからいいでしょ?」

 

 ため息混じりにアニーに言って席を立ち、エリンはギルドマスターを持ち上げた。

 

 「……にゃあ?」

 「相変わらず、かわいい……」

 

 エリンがジト目で、ギルドマスターであるそのふわふわを見つめていると、ギルドマスターは温かく優しい目をして、尻尾を振り、少し首をかしげた。

 そう、このギルドマスター、猫である。魔獣でも魔物でも精霊でもなく、ただの猫。

 だが、冒険者ギルドの本部も認定している正真正銘のギルドマスターだ。一体何が彼をそこまで評価させたのかは謎だが、このギルド内の最大の権力者だ。

 

 「でもまあ……巡視と村の人との交流を率先してやっているから、それなりに偉いとは思うけど……猫だよ?ねーこッ!」

 「ナ~?」

 「ですが、本部が認められた方ですよ?ギルドマスターである以上、私たちのギルドの最高責任者であることは変わりません!」

 

 そう答えたアニーに、エリンは半目になって詰め寄った。

 

 「じゃあ、重要書類の管理はこのギルドマスターがしてくださるの?まだそんな事態になっていないとしても、暴れる冒険者や強盗、押し入ってきた魔物の対応は?」

 「う、そ……それ、は……」

 「ほら、出来ないじゃない。こうも言いたくなるよ!」

 「で、ですが……今現時点、ギルドマスターである以上は……」

 「分かってる、分かってるよ……でも、その……ごめんね、何だかイライラしていて……」

 

 エリンはしょんぼりとして、また、カウンター前の席に座った。

 まだ腕の中にいるコットンは、キョトンとしていたが、しばらくすると前足でエリンの頭をよしよしと撫でた。

 

 「もう……こういうところが、ギルドマスターの悪いところですよ……」

 

 本日何度目かのため息をついて、エリンもコットンの頭を撫でた。

 アニーは「ギルドマスターに飲み物をお持ちしますね」と言って、カウンターの奥にある部屋に行った。

 それを見たエリンはコットンをおろして、紙を出し、何かを書いた。

 コットンはそんなエリンに興味を持って、カウンターに飛び乗り、その紙に書かれている文字をじっと見つめた。

 

 「気になるんですか?これは、宣伝用ですよ。通りかかった人が、少しでも気に止めてくれるように、こうやって紙に書いて外に貼るんですよ」

 「にゃん、にゃあ~」

 「ちょっと、席をはずしますね……すぐに終わります」

 

 エリンは、その紙を持って外に出て、ギルドの小窓付きの扉に張り出した。

 その紙には……。

 

 『冒険者求む。年齢、種族問いません。誰でもいいので来てください!』

 

 と、書かれていた。

 誰が見ても、やけくそで書いていることが分かる文であった。

 

 「あ、性別も問わないって書くべきだったか……まあ、いいか」

 

 エリンはそう呟き、「いいよね?面倒だし」と、またギルドの中に入っていった。

 

************************

 

 エリンがギルド内に戻った時、暗がりから一つの人影がゆっくりと動きだし、張り紙の貼られた扉の前に立った。

 それは、張り紙をしばらくじぃっと見つめて、頷いた。

 彼は冒険者に憧れていた。

 それが彼の夢だった。

 彼にとっては、この張り紙は救いでもあったのだ。

 扉に手をかけ、ゆっくりと、開いた。

 

************************

 

 「コットン様、ただいま戻りました」

 「ムゥ……にゃあ?」

 

 カウンターの上に丸まっているギルドマスターは、眠たそうにエリンを見た。

 そんな姿に、エリンは悶えそうになるのを堪えて続けた。

 

 「あの紙を張り出しましたが……本当に来るとは思わないな。だって、数日間ずっと人が来ないじゃないですか。冒険者さん達は依頼でまだ帰ってきていないですし……」

 

 はぁとため息をついて、席に戻ると、扉の小窓に何かが映っていることに気づいた。

 ひょろくて、背が高く、大きな帽子を被っている何かを。

 

 (あれ?何だ……人か……人ッ!?)

 

 慌てて身だしなみを整え、姿勢を整えた。

 何せ数日ぶりの客人だ。飛び上がりたい気持ちを抑えて、ニコニコと営業スマイルを作り、今か今かと扉を開けるのを待つ。

 隣のエリンがバタバタしていたので、何事かと眠気が覚めたコットンも、何だか嬉しそうな顔をして扉の方を見つめ、また眠りについた。

 

 (やった!人だ!人!張り紙はやっておくもんだなぁ……何だろう?依頼かな?冒険者志願かなぁ?)

 

 そう考えていると、遂にその時が来た。

 ガシャと、音が鳴り、扉がゆっくりと開かれた。

 槍を持った冒険者も楽に通れるように、ある程度高く作られている扉を狭そうに、帽子を被った何かが入って、早歩きでカウンターまで近づいてきた。

 

 「……え?」

 

 それは、明らかに人ではなかった。リザードマンやエルフ、ドワーフなどの種族的な意味ではなく。

 それは、大きな帽子を被り、薄汚れたぼろぼろのローブを身につけ、丸い顔にボタンの目、笑顔の形に縫われ、少し解れた口の……案山子だった。

 

 これが、受付嬢と案山子の出会いであった。

 

************************

 

 ギルドに配属が決まって、数十日。同僚のアニー、猫のギルドマスターにも慣れてきて、人が来ないこと以外は慣れてきてきたエリン。

 彼女にピンチが訪れた。

 

 「……あ……ああ……あ……」

 

 エリンの目の前に、案山子が立っているのだ。

 

 (震えが止まらない……これ明らかに人じゃない!待って!よく考えるの、エリン!ここには魔物は来ないはずよ、だとしたら……)

 

 

 「そ、それ、被り物ですか?」

 「……(カクカク)」

 

 案山子は首を横に振った。被り物ではないということだ。

 

 「で、ですよねあはは……冒険者登録でしょうか?それとも……」

 「……(カクカクカクカク!)」

 

 冒険者登録という言葉を聞いた瞬間、案山子は「そう!それだ!」と言わんばかりに首を上下に振った。

 泡を吹きそうな気分になって、エリンは倒れそうになるが、それを堪えて、カウンターの下の収納から書類を取り出した。

 それは……。

 

 「さあ、こちらの書類に名前、種族、旅で使う装備を書いてください。これは貴方の情報となります。より的確なサポートをするためにも必要ですので、ご記入を」

 

 冒険者登録書。冒険者の情報を記す書類で、この書類が記載されていないと冒険者として行動することが許されない。

 この書類を出したということは、つまり、この案山子を採用するということだ。

 普通なら、カウンターの下にある道具を用いて警報を鳴らし、冒険者やギルドマスター等が“処理”するという流れになるはずだ。

 彼女の判断は、マニュアルからかなり逸れている。

 しかし彼女は、人だろうと魔の者であろうと誰であろうと関係なかった。

 

 「貴方を、冒険者見習いとして登録します。もちろん、合格すれば一人前の冒険者として行動を許されます。そのための手続きですので、嘘偽りなく、ご記入ください」

 

 冒険者になってくれれば。

 

 「……(!!)」

 

 案山子は飛び上がりそうになった。

 自分の夢が叶うのである。

 人の言葉が話せるなら「ありがとうございます!この恩は一生涯忘れません!」などと言っていただろう。

 だが、物事はそう簡単に上手くいかないものである。

 

 「すみません、遅れました。溢してしまって掃除をしていたのですが……」

 

 奥の部屋から、お盆と牛乳の入った皿を持ってアニーが謝りながら向かってきた。

 

 「あ」

 「……(?)」

 「すぅ……すぅ……」

 

 カウンターの上で寝ているギルドマスターの傍に、皿を置いてエリンの方を向いた。

 アニーは、その時初めてカウンター前にいる人影に気づいた。

 

 「あれ、お客様がいらっしゃるのですか!」

 

 そう言って喜び、その人影に視線を向けた。

 

 「ようこそっ冒険者ギ、ル、ド……へ……?」

 

 アニーが凍りついた。もちろん比喩だが。

 あちゃーというような顔をしたエリン、眠るギルドマスター、固まるアニー、冒険者になりたい案山子。

 一瞬の静寂。

 そして……。

 

 「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 全てを引き裂くような悲鳴。

 

 辺境の村、超小規模ギルド、修羅場の始まりである。

スランプになりました……。

次話投稿遅れてすみません。

まだまだ頑張ります!

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