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第99話 悪魔からの挑戦状

 ザガンside ―


 「Ich brachte es.(持ってきたぞ)」


 ダニエルが持ってきた物は人間を構成するH2O、NaCL、C、K、Fなどが混じった元素化合物。あとはDNAとして髪の毛、さらに息子のお気に入りの玩具、妻の結婚指輪……感情が深く入った物を持ってきた。



 99 悪魔からの挑戦状



 『Setzen Sie die Quantität, die es in Anbetracht des Gewichtes darin koordinierte.(それを体重を考慮して調整した量を中に入れろ)』


 俺の言葉に頷き、ダニエルは計算して算出した量の元素を魔方陣に入れていき、息子と妻の髪の毛も加え、更にその中に感情のこもった道具も入れた。魔法陣の中は人間二人分の生成物が入ったおかげで満杯だ。入れ方を聞かれたが、そんなもんはどうでもいい。魔法陣からはみ出なければ好きに入れていい。

 準備が整い、ダニエルが俺の後ろに下がる。さて、俺の力を初披露してあげますかね。


 『Nehmen Sie es gut und ist Daniel ein Eimer……Dies ist Macht der Alchemie.(よく見ておけよダニエル……これが錬金術の力だ)』


 持っていた杖を魔方陣に向けて詠唱する。火花を散らしながら、出てきたものは二人の人間の姿の入れ物と、魂に酷似した浮遊物だった。しかしダニエルは感極まって涙を流す。


 『Clare,Kenneth……(クレア、ケネス……)』


 ダニエルは涙を流しながら、二人の入れ物に近寄って行く。しかしこれはまだ容器だ。人格もない入れ物。これからが仕上げだ。


 『Daniel.(ダニエル)Die Alchemie ist noch nicht vorbei.(まだ錬金術は終わってない)Ich fange ein Produkt an, das darin gemacht wird, jetzt auf Feuer der Seele zu kneten.(今から魂を練成してこのホムンクルスに入れ込む)』


 続きの呪文を唱えると、人工の魂が二人の体に入って行き、容器たちの指がわずかに動く。これで完成だな。目をゆっくりと開ける二人にダニエルは破顔して駆け寄った。


 「Daniel……(ダニエル……)」

 「Bei letzt, Bei dauern Sie, ich erhielt es, Clare und Kenneth……(やっと、やっと手に入れた。クレアとケネスを……)」


 ダニエルは二人を抱きしめ涙を流している。まるですべてが終わったかのようなことを呟いているがこのままで終わらすわけがないだろう?感傷に浸ってるところ悪いんだけど、見返りをいただかないとな。


 『Daniel.(ダニエル)』

 「Danke schön.(ありがとうザガン。本当にありがとう)」


 なにお前これで終わりみたいなこと言ってんだよ。確かにお前の目的は果たしたが、俺の目的は果たしていない。まだ契約は終わっていないんだよ。


 『Ich erreiche den gleichwertigen Tausch nicht.(等価交換は果たしてない)』


 俺の言葉にダニエルはきょとんとした間抜け面をさらす。


 「Ach?(え?)Aber wie für die Bedingung ist es Anweisung durch eine klonende Technik……(しかし条件はクローン技術を伝授するはずじゃ……)」

 

 あー最初の契約条件は確かそうだった気がする。その技術に興味があったから、俺に知識を与えろと言ったんだよな。

 でも明らかにそれではお前に有利過ぎるじゃないか。それにどう考えても俺の錬金術の方が優れてるしな。あれだけの時間と金をかけてあの程度の物しか作ることのできないクローン技術なんて俺の錬金術のライバルにもなりやしない。技術を学んだところで、俺の錬金術のパフォーマンスをあげられる要素が全くなかったってことだ。


 『(死した者を生き返らせるんだぞ。お前のちっぽけな技術と等価交換できると思ってるのか?正直クローン技術は大したことなかったな。俺の錬金術の足元にも及ばない。お前だって思うだろ?あの程度の技術と俺の錬金術を同等には扱えないと。俺の方が優れていると)』


 捲し立てるように言うと、ダニエルは黙り込んでしまう。その反応が悔しいけど言い返せないと言っているようなもので、反論されるよりかだんまりの方が対処はしやすい。

 だから話を進めるために、奴に一方的に条件を押し付けた。どうせ奴は最後までだんまりなんてできやしないさ。だって、俺に全ての決定権があるのだから。


 『Ermorden Sie den Nachfolger vom Ring.(指輪の継承者を殺せ)』


 その言葉にダニエルは目を丸くする。どうせ人殺しがどうだとか分かりきった反論をしてくるんだろうな。でも指輪の継承者が俺達の天敵になることくらいは分かっているはずだ。以前こいつに話した事があるから……こいつが鶏頭で忘れていない限りは。

 だがどうやらダニエルは覚えていたようだ。何かを思い出したような顔をし、慌てて首を横に振る。


 「(俺に人殺しになれと言うのか?そんなことできるか!)」

 『(できなければ契約の不成立を確認し、お前の家族をまた元素単位でばらばらにする。それを成功させたら契約の成立をここで約束しよう)』

 「Ich bin wie es……(そんな……)」


 ダニエルは真っ青な顔で家族を強く抱きしめて体を震わせる。魂を入れたばかりの肉体はまだ慣れていないのか、ダニエルの妻も息子も意識がはっきりせず焦点もあっていない。

 そんな肉体にお前は全てをかけるのか。


 『(深く考えることはない。証拠は俺がすべて隠滅してやるし、お前の家族にもばれないようにしてやる)』


 まだ黙り込んで判断をしないこいつに苛ついて、俺は更に現実を見せるように捲し立てる。大体どっちが上か考えてないのか?俺が上だろう?

 いい加減、現実を見ろ。悪魔を使役していると言う自惚れを拭いされ。俺が、お前を使役するんだよ。


 『Haben Sie die Möglichkeit?(お前に選択権はあるのか?)』


 その言葉にダニエルはやっと決意を固めたようだ。


 「Sie sollten es machen.(やればいいんだろ)」

 『So bin ich gut.(それでいい)』


 ダニエルは妻と息子の額に口づけを送ると立ち上がった。


 「Wo ist der Nachfolger?(継承者はどこにいる?)」

 『(日本だ。心配するな。俺がこの場所におびき出してやる)』


 それはこいつを使ってな。もう一つの魔方陣から作られた奴は俺が知っている奴だった。


 『Sie wissen.(なぁ。セーレ)』


 俺の作り上げたセーレは光を宿すことのない目で俺を見つめる。クローンとはいえこいつを侍らせるっていうのは中々気分がいいもんだな。なるほど、こいつなら情に駆られてしたがっちまうのも無理はない。正直こいつの甘さは地獄でも有名で、話を聞くだけでは気に食わない奴だった。

 まあ、相棒のキメジェスがこいつを守ってやってたから今まで生きてこれたんだろうが。となると、キメジェスも裏切ってんのか?セーレの側を離れているのが想像できないんだが。まあ、それは会って確かめたらいいことだ。


 『Erzählen Sie, daß ich einen Nachfolger, und in die Schweiz zu kommen, rausfinde.(継承者を探し出してスイスに来るように伝えてこい)Und sammeln Sie Blut der Typen.(そして奴らの血液を採取してこい)』

 『ja.(御意)』


 俺はラスティを召喚してセーレを案内するように告げた。詳しい場所の特定にはもう少し時間がかかりそうだが、おそらくステリアが殺されたのは奴らの生活圏だろう。となると、あの近辺に使い魔を派遣して捜索すれば見つかるはずだ。

 上手くやれよセーレ。


 継承者をあぶりだしてこい……


 ***


 拓也side ―


 『……まだまだですね』


 パイモンがため息をついて腕を組み、その足元で俺は四つん這いになって肩で呼吸していた。

 今日も俺はパイモンの空間で稽古している。光太郎は塾だけど中谷は一緒に来ててディモスに乗ってはしゃいでいる。そしてその光景をストラスが少しあきれた表情で眺めていた。

 まだまだって言うのは俺の魔法の詠唱時間のことで……まあ一言でいえばまったく成長してないってことだ。

 セーレが悪魔に襲撃されて四日。今のところはなにも目立った事件は起きていない。でも油断は禁物だ、いつ襲われるか分かんないんだってさ。


 『風の魔法は詠唱時間が九秒台で定着していますが、水、火、雷になると時間は十秒をゆうにオーバーしますね。慣れていないせいかもしれませんが』

 「だってすぐ頭痛くなっちまうんだよ」

 『そうですね。連続して四回は魔法を使えるようにはなりましたが、それ以上になると詠唱時間は大幅に延長しますね。良くも悪くもこれはやり続けて慣れるしかありません』


 ですよねー。

 でもそれまで何年間かかるんだよって感じじゃん。結構頭痛いままやるのって端から見てるよりもかなりきつく、この痛みがなくなるとは思えない。こんな頭痛に苦しみながら、さらに戦えってきつすぎる。


 「少し空間から出てもいい?」

 『構いません。気分転換してくるといいでしょう』


 パイモンの許可を出て空間を出ようとした俺に気づき、ストラスが首を動かす。未だにグリンと体の向きを変えずに首だけ動かすストラスに軽くホラーを感じてしまう。フクロウだから首が回るのは分かるんだけど、急に来るもんだからビビる。


 『拓也、怪我でもしましたか?』

 「違う違う。ちょっと休憩な」


 ならば自分もとでも言うように、肩に乗ってきたストラスの頭をポンポンと叩き、未だにはしゃいでいる中谷の声を背中に受けて、空間を出た。


 「あ、拓也お疲れ様!大丈夫?」


 空間を出た俺にヴアルが飲み物をそそいだコップを差し出した。

 受け取って飲み干す姿を見てヴアルは不安そうな表情を浮かべている。空になったコップを片付けられて至れり尽くせりで少し苦笑いだ。


 「あんがと」

 「無茶しちゃ駄目だよ。いざってときは落ち着くまでマンションに居ればいいんだから」

 「わかってるよ」


 んーまあそれも一つの手ではあるんだけど、結局学校とか行かなきゃいけないわけだし、二十四時間一緒にいることもできないから、やっぱりそういう問題ではないんだろうな。

 とりあえずヴアルの頭をくしゃくしゃ撫でると唇を尖らせる。


 「ちょっとー女の子は髪の毛が命なのよー荒らさないで」

 「それはすいませんねーっと」


 部屋にはシトリーとセーレの姿がない。理由は今日の特売の荷物持ちにシトリーがセーレに連れ去られたからだ。大事なこととはいえ文句を言いながら連れていかれたシトリーに同情だ。


 「あいつら遅いな」

 「だって五人分よ、大量に買い込むんだから重いわよ。パイモンとヴォラクは拓也と中谷が来たおかげで稽古っていう口実が出来て断ることができたけど、シトリーはついてなかったわね」


 確かに。これ幸いと中谷に抱き着きながら買い物を断ったヴォラクには少し必死さが漂っていた。最初のころはそれで美味しいものを作ってくれるのならいくらでも使っていいって言っていたくせに、今ではお菓子を買ってくれないなら行かないと我儘の極みみたいなことを言っている。

 パイモンはハッキリと俺が来てラッキーだとすら告げていたし。少しは家事全般してくれているセーレの手伝いをしてやろうと思わんのかね。率先して手伝ってるのヴアルくらいしかいないぞ。

 お茶を飲み終わって休憩しているとインターホンの音が室内に響き、ヴアルがソファから立ち上がってインターホンに出た。


 「あ、噂をすれば帰ってきた……あれセーレ、シトリーは?それに荷物は?買い物に行ってたはずでしょ?」

 『開けてくれ』


 なんかセーレ少し違う?いや、そんなはずないか。気のせい気のせい。ヴアルが解錠ボタンを押してオートロックのドアが開き、五分後、セーレが部屋に入ってきた。

 帰ってきたセーレは手ぶらで、靴も脱がずにリビングに上がってきた。


 「シトリーは?買い物袋は?」


 ヴアルの問いかけにセーレは何も喋らず、何かを探しているように首を動かしている。いつもと違い無愛想な態度に不安になって再度ヴアルが声をかければ、今度は鬱陶しそうな顔でヴアルを睨みつけた。


 「ねえセーレ」

 「黙れ。お前に用はない」

 「お、おいセーレどうしたんだよ。ヴアル何も悪いことしてないじゃん」


 セーレのあまりの言い方につい俺まで口出ししてしまった。なんでそんな言い方を……ヴアルが何を言ったって言うんだよ。腹の虫が悪かったにしてもこれはない。いや、セーレがこんなことをするはずがない。何が起こってるんだ?


 『そろそろ稽古を再開したいのですが……セーレ?』


 あまりにも俺が空間に戻ってこないのが気になったのか、パイモンが空間から顔をのぞかせた。微妙な空気を察して空間から出てきたパイモンが俺の隣に来る。


 『主、何をしているのです?』

 「パイモン、セーレが酷いんだ。ヴアルに酷い事を……すごく機嫌が悪いのか、話もしてくれなくて」

 『おいセーレどうした?黙ってないで何とか言ったらどうだ?』


 怪訝そうな表情を浮かべて、パイモンがセーレに問いかける。そうだ可笑しいよ!セーレはあんな酷いこと言うはずないのに!

 その時再度、インターホンの音が聞こえて振り返ると画面にはセーレとシトリーの姿が映っていた。どういう事だ?インターホンの中のセーレは相変わらず人の良さそうな顔で、横にいるシトリーにどやされながらも困った顔で画面を見ている。


 『開けてー手が痛くてさー』

 『お前が言うな!俺なんか何袋持ってると思ってんだ!?』

 『だってシトリーの方が力あるじゃないかー』

 『そう言う問題じゃねえ!ったく人をこき使いやがって!』


 何で?画面の向こうにセーレとシトリーがいるんだ?じゃあこのセーレは誰?

 目の前にいるセーレは画面を見ると表情を急変し、ナイフを抜いてきたと思ったら俺たちに斬りかかってきた。


 「うあ!うわあ!!」

 『主!』


 思わず身を引いた俺をパイモンが突きとばし、それと同時にパイモンの腕をナイフが掠めた。


 「パイモン!」

 『平気です!それよりも奴に気を付けてください!』


 そんなこと言われても!ナイフ振り回されて、どう気をつけろって言うんだ!


 「血を手に入れた……次はお前」


 訳の分からないことを言って、セーレが今度はヴアルに向かって走り出す。人間の姿のヴアルは魔法を使えず、逃げようとしたが一瞬の間に腕をナイフで刺されてしまった。


 「おいどうした!?」


 中々解錠ボタンを開けないのが気になったのか、シトリー達がリビングに入ってきた。恐らく持っていたカギでドアを開けたんだろう。分が悪くなったのか、セーレがベランダの方に逃げていき慌てて追いかける俺を見て一言呟いた。


 「継承者、チューリッヒに来い。我らとの邂逅を……」

 「待てよ!」

 「はあ?え?セーレ?なに?お前分身したのか!?」

 「できるわけないだろ!俺の能力知ってるだろ!なんだよあいつは!」


 俺の叫びも空しくセーレの偽物は窓から飛び降りてしまった。飛び降りたセーレの偽物は別の悪魔に抱えられて、そのままどこかに消えてしまった。

 入ってきたシトリーとセーレは騒動の原因がセーレの姿をしていたことに目を丸くしている。


 「何がどうなってんだよ……」


 静まり返った空間で、セーレとシトリーが顔を見合わせてつぶやく。特にセーレは混乱しているようだ。


 『なあにー?パイモンと拓也稽古辞めちゃったの?』


 中々空間に戻ってこない俺達が気になったのか、中谷とヴォラクが顔をのぞかせた。


 「とりあえず状況を整理しましょうか」


 皆でリビングの中央のテーブルを囲んで今までのことを整理していく。


 「じゃあ今のはセーレじゃなくて悪魔の部下って訳で、チューリッヒに来いって言ったんだよね」


 俺が今までのことを述べるとパイモンは頷いた。

 その場にいなかった中谷とヴォラクは話しについて行けないらしく、少し雑談しながら話を聞いていた。確かに現場を見ていない二人からしたらよく分からない話だろう。セーレのそっくりさんが出てきて、スイスに来いって言ってきたなんて。


 『しかし気になりますね。なぜあそこまで完璧なセーレを作れたんでしょう』

 「わかんない。なんかセーレがしたんじゃねえのー?」

 「え!俺!?」


 だろ。こんな状況になっちまって笑えねえよ。

 そんなセーレの横でシトリーは何かを考え込んでいた。


 「セーレ、お前さ、前悪魔に襲撃された時、少し怪我したよな」

 「え?うん」


 それがなんの関係があんだよ。シトリーは勝手に自己完結して考え込む。


 「だとしたらザガンかハアゲンティかもな」

 「はあげんてぃ?ざがん?誰それ。ヴォラクわかる?」


 聞きなれない悪魔の名前に中谷が首をかしげる。俺も携帯でその悪魔のことを検索するとすぐに情報が出てきた。


 「ソロモン七十二柱の一角で錬金術師だよ。あいつ等の手にかかれば髪の毛一本からでもその人間を作り出すことができる」


 マジかよ……それってすごくない?中谷もあんぐりしている。あ、じゃあ、あのセーレってもしかしてセーレのクローン的な奴ってことなのか?


 「セーレから取った血を使ってあのセーレを作ったってこと?」

 「なるほど。だから俺たちの血を……」


 ちょっと待てよ。じゃあ整理すると……


 「パイモンとヴアルのクローンを作るってこと?」

 

 俺の考えは当たってたらしく、パイモン達は頷いた。


 「え、でも何で……」

 「理由は知りません。そのクローンが私たちの能力も使えるとなると厄介ですが、肉の器だけなら大した役には立たないはずですが、情報操作としては使えます」


 確かに情報攪乱とかには使えそうだけど……うわー。なんか厄介なの来たなー。てかなんでこの場所がわかったんだ。この場所が他の悪魔にも知られているとしたら、これからこんな風に襲撃されることが増えてくるんだろうか。


 『パイモン、悪魔達はこの場所を知っているものは今、どのくらいいるのですか』


 ストラスの問いかけに室内はピリッとした緊張感が走る。まさかパイモンが他の悪魔にリークしている、わけないよな。

 問いかけられたパイモンは表情を崩さず淡々と告げた。


 「知らん。バティンにも場所までは報告していない。都内だと言うことくらいは知られているがな。おそらく自力で探し出してきたんだろう。まあ、こんな手の込んだことをする錬金術師など、ザガンしかいないがな」

 『……彼は、そうですね。彼は非常に優秀な術師ですし頭も切れる。彼ならば、探し当てることはできるかもしれませんが、その言葉を信じても良いと?』

 「信じなければ話が進まないぞ。お前は火種を起こしたいのか?」


 ストラスは歯を食いしばって引き下がった。責め立てたのはストラスのはずなのに、パイモンは最後まで表情を崩すことなくストラスを言い負かした。二人の険悪な空気に他の奴らも息をのんで状況を見守っていた。


 「主、どうします?」

 「どうするって……」

 「これは向こうからの挑戦状です。自ら居場所を明かし貴方を誘っている。受けて立ちますか?」


 いきなり話を振られて動揺する。怖いけど、確かにこれは挑戦状なんだろう。向こうに行けばトラップとかいろいろ面倒な仕掛けが待ってるかもしれない。けど、早めに対処しないと普通の生活が送れないかもしれない。また、直哉たちに被害が出るかもしれない。


 「……スイスに行こう」


 俺の言葉に皆がいっせいに頷いた。中谷がいる今日はヴォラクはついていけるので早速立ち上がる。


 「じゃー今日はシトリーとヴアルが留守番だね。スイスじゃエネルギー届かないでしょ?」

 「まーな。それに光太郎にエネルギー送ったせいで、まだ契約石にエネルギー溜まってないしな」

 「澪がいないんじゃ私もね……」

 「決まりだね。ジェダイトを召喚するよ」


 セーレが立ち上がり、ベランダに向かう。でも今の時間にスイスに行っても問題ないんだろうか。


 「パイモン、スイスって時差何時間?」

 「ドイツの隣ですからね。-7時間くらいではないですか?」


 となると、今が昼の十五時だから……


 「朝の八時だな……そんな時間に行ってもいいのか?」

 「主、何も心配することはありません。向こうから叩きつけてきたのですからね」


 まぁそうだけど。俺はシトリーとヴアルに行ってくると告げてベランダに出た。

 中谷もバットを手に持って俺の後を付いて行く。


 『拓也』


 皆が準備をしているのを待っていると、今まで黙っていたストラスがポツリと呟いた。


 『今回は……少々過酷な事になるかもしれません』


 それが何を意味しているか俺には分からなかった。


 ***


 ザガンside ―


 『Es wurde vervollständigt.(完成)』


 俺の錬金術で出来上がったパイモンとヴアルのホムンクルス。

 セーレと同様、魂のこもっていない人形は虚ろな眼差しをしているが、こいつらを意のままに動かすなんて日が来るとは思わなかった。さいっこうの気分だよ。気に食わない奴らを俺の下僕にできるなんて。本人ではなくクローンだが、それでも気分がいい。


 『Rostig, Michelle.(ラスティ、ミッシェル)』

 『Was wird es sein?(はい)』

 『Machen Sie satanophany.(こいつらに憑依しろ)』

 『Ja.(御意)』


 ラスティとミッシェルは俺が作り上げたパイモンとヴアルに憑依する。魂の入ったホムンクルスは真っすぐに俺を見つめてくる。それでいい、魂が宿っている方が生気があるし、本物みたいだからな。後はセーレは囮に使うとして、これだけ揃えば完璧だな。


 『Rostig, Michelle, ein Nachfolger kommt bald zu dieser Stelle.Holen Sie den DNA vom Nachfolger.(ラスティ、ミッシェル、継承者がもうじきここに来る。継承者のDNAをとって来い)』


 案内はセーレにさせるか。それでこいつの出番はお終いだ。

 後は継承者に殺されるがいいさ。


 継承者はただの人間。当然、血や死に対する免疫はない。そんな中、クローンとはいえ、自分の仲間を自分の手で殺す状況が来たらどうなるか……継承者はその状況にきっと耐えられない。そして弱ってパニックになったところを狙えばいい。

 パイモン達は継承者が気になって力を出し切れない状況に陥るはずだ。なんて愉快なんだ。そして俺が継承者を地獄に案内してルシファー様から祝福を受ける。そうすれば……


 『楽しみだ。本当に楽しみだよ』

 『Zagan?(ザガン様?)』

 『ラスティ、ミッシェル、継承者の前では日本語話せよ。セーレの話じゃどうも日本語しか通じないみたいだからな』

 『御意』

 『……さぁ、ダニエルにも動いてもらおうかねぇ』


 人間を動かして、更に継承者の動きを封じてやろう。継承者がダニエルを殺せなくてもダニエルは継承者を殺せる。殺してしまってもいいさ、魂さえ俺の手にとどめときゃ肉体なんてすぐに練成できるんだから。隣の部屋で待機しているであろうダニエルの元に向かう。


 出番が来たぞってな。


 案の定ダニエルは包丁を握りしめて待機していた。そんなダニエルに俺は軽く笑いかける。


 『Daniel.Eine Drehung kommt.(ダニエル。出番が来るぜ)』



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