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第97話 君と約束を

 セーレside ―


 「見て見て!これちょー可愛いでしょ!?」

 「可愛い!真央ちゃんに似合いそう」


 澪とヴアルは洋服やアクセサリーを見て、キャッキャとはしゃいでいるが、そんな二人と対照的に真央はおどおどしている。二人はこういったこと好きそうだもんな……でも二人ばかりが盛り上がっていて肝心の本人が会話についていけていないんだけど。

 恐る恐る一歩前に出てはしゃいでいる澪とヴアルに真央が小声で話しかけた。


 「そんな可愛い服は俺には……」

 「「着るの」」



 97 君と約束を



 「澪すっごい手慣れてんのねー」


 澪の手伝いをしながらヴアルが感心したように呟く。マンションに戻った澪は化粧道具を手に持ち真央に一つ一つやり方を教えながら化粧を施していった。本当にいつの時代も女の子って言うのはお洒落に敏感でこういったことを器用にこなす。

 マンションには俺達しかおらず、シトリーとヴォラクはいなくなっていた。置き手紙に遊びに行ってくるって書いてたから、二人で出かけたみたいだ。

 

 「真央ちゃん。もしすっごい可愛くなったらどうする?真央ちゃんは元が可愛いんだから。すごく可愛くなると思うよ」


 澪が楽しそうに化粧をしながらも問いかけ、真央は顔を真っ赤にしながらもじもじと呟いた。拓也には掴みかかってたけど、澪には随分態度が違うんだな。どこで区分けをしているんだろうか、俺には分からない。

 パイモンは拓也に掴みかかった真央にいまだに苛立っているらしく、不機嫌な表情をしながら俺が淹れたコーヒーを飲んでいる。あ、でもパイモンはもともと不機嫌そうな顔だから今は不機嫌じゃないのかもしれない。でも子供相手に刺々しい空気を隠そうとしない所は、案外パイモンも子供っぽいのかもしれない。慣れているヴアルや澪と違って真央は怖いだろうな。


 「もし可愛くなったら……翔に話しかけたい」


 グイソンから話を聞いているから知っているけど、澪は知らないふりをしていた。二人の契約関係は本当に良好だったんだろう。グイソン自体が能力的にも他人に害をなす能力じゃないしなあ。


 「学年の王子。俺が男みてーだから……今は男友達みたいな感じだけど」

 「真央ちゃん喋り方。女の子らしく」

 「あ、はい」


 ヴアルは笑いながら真央の髪の毛にワックスを絡めて髪の毛をふわふわにしていく。すごいな、どんどん変わっていく。世の女性たちもこんな風に化粧をして全く別人になっているとしたら、俺は逆に女性不信になりそうだ。


 「いーい真央?真央今髪の毛ぺったんこだからワックスでふわふわにするの。それだけでショートでもすっごい可愛くなるんだから」

 「……初めて知った」


 ヴアルはどこでそんな知識を手に入れてくるんだろうか。なんだかこっちが尊敬してしまう。

 髪の毛が整ったのか、立ち上がったヴアルはパイモンの腕を引く。これ以上なにかすることがあるんだろうか。しかもパイモンを巻き込んで。


 「さて、次は服だよね!!パイモン行こう!」


 ああ、フルコーディネートをするのか。確かに道場着で帰すわけにはいかないもんなあ。パイモンは嫌だとばっさり切り捨てたけど、真央が変わらないとグイソンを返せないと愚図ったヴアルに最終的にはパイモンが折れた。

 真央がいる前で不機嫌全開で文句までつけるパイモンに若干大人げないと思うのは俺だけだろうか。でもお金まで全額払わされるから言いたくなるだろうな。俺は何もしてないからそう思うだけで。


 「なぜ俺がこんなことをしないといけないんだ。いいか、全額で二万までだ。服もアクセサリーも小物も靴も鞄も全てだ。それ以上は出さん」

 「任せて!行ってくるね澪!」

 「はーい」


 部屋を出て行こうとする二人を真央が慌てて止めた。


 「あの……すんません!」


 勇気を出して声をあげてくれたのに振り返ったパイモンは舌打ちで返事を返す。子供相手に流石にやりすぎでは……?


 「……うるさい話しかけるな。お前のためではない、主のためだ」


 パイモンはどうして拓也以外にはこんな言葉を浴びせるのだろうか。いや、拓也にも大概酷いこと言ってるから誰にでもなんだろうな。神経が太くないとパイモンとはやっていけないと思う。なんだかんだで優しいのは知ってるけど、話し方で損してるよなあ。服とかも買ってあげるのに暴言吐くんだから、いいことしても台無しだ。

 案の定パイモンのきつい一言に真央は押し黙ってしまった。ヴアルはそんなパイモンに軽く蹴りを入れて、先にマンションを出て行った。


 「つっ……あの爆発女!碌なことをしない。ロシアで殺しておけばよかった」

 「まあまあパイモン、女の子ってこういう時のパワーがすごいよね」

 「笑ってないで俺のフォローをしろ」


 ***


 暫くしてヴアルと一緒に帰ってきたパイモンは少しだけフラフラしていた。それとは逆で意気揚々と帰ったヴアルは洋服を持ってさっさと奥の部屋に向かって行ってしまう。流石に着替えを俺達の前でするはずもなく、奥の部屋で着替えるらしい。

 ソファにどかっと音を立てて身を沈めたパイモンに労りの言葉を贈ると、パイモンは思い出したのか舌打ちをして苛立ちを露にする。何が起こったのかは想像に難くなく、俺は改めて彼に労りの言葉を贈った。


 「……本当にお疲れ様」


 パイモンは軽く頷いて奥の部屋に視線を送る。

 扉は固く閉ざされており、まだ開かれる雰囲気はなさそうだ。そんなパイモンにお茶を出すために俺はキッチンに向かう。お茶をついでいると、パイモンは俺に状況を教えてくれと言ってきた。

 

 「まだ化粧してるのか?」

 「いや、もう終わったよ。あとは着替えるだけだね」


 俺がお茶を出すとパイモンは一気にそれを飲みきり、やっとか……と呟いた。


 「俺は今日ほどヴアルを斬ってやろうと思った日はない。あの女、どういう神経をしているんだ。結局三万も使われたぞ。カードをきれなど偉そうに言いやがって。これは鈴木のだ、何でも使えるわけないだろうが」

 「ま、まあ許してあげて。あの子も真央を助けようって必死なんだよ。俺からも注意しておくから」


 扉の奥からは服を見て興奮しているのか楽しそうな声が聞こえてくる。あれを聞いてしまうと怒るに怒れないよ。真央の為じゃなく、もう完全に自分達が楽しんでないか?そう思えるほど二人ははしゃいでいる。

 一体どうなる事やら……


 ***


 真央side ―


 制服以外でスカートをはくなんて何年振りだろう。いや制服だって始業式、終業式の日以外は下にジャージのズボンをはいてるんだから殆ど着てない様なもんだ。それがこんな事になって……似合うだろうか?出たら笑われないだろうか?筋肉がついているからタイツで隠してはいるけれど、不格好ではないだろうか。


 今着ている服はTシャツの途中からワンピースに切り替わっている物だ。はたから見たらチューブのワンピースの上にTシャツを合わせてきているように見える。柄はピンクの花柄でそれこそ可愛い子が着てそうな服だ。上にジャケットを羽織れば着替えは終わる。

 でも今までの経験上、素直に褒められたことなんてない。その事から少し卑屈になってしまっている。正直扉の外に出る勇気がない。


 「真央ちゃーん。着替えれたぁ?」


 後ろを向いていた澪さんが呼んでる。鏡は最後のお楽しみって言われてまだ自分がどうなったかはわからない。

 どうしよう……すっごいブスのままだったら。扉の外にはセーレさんとパイモンさんが待ってる。特にパイモンさんには金まで払わせてるのに……しかもあの人は男のくせにそこら辺の女よりも綺麗だ。笑われたら立ち直れない。

 ギュッとワンピースの袖を握りしめる。でももう逃げられない!!俺は思い切って澪さんとヴアルに振り向いていいと声を出した。


 「……可愛い」


 予想外の言葉に耳を疑った。

 澪さんとヴアルは目を輝かせて俺を見ている。


 「可愛い可愛い!!可愛いよ真央ちゃん!」

 「やっぱ私が選んだ服だけあるわ!真央似合ってる!!」

 「うんうん!ヴアルちゃんセンスあるね!すごく素敵!」


 澪さんとヴアルに抱きつかれて少しだけよろめいた。

 可愛い?俺が?そんなの初めて言われた。そして二人はそのまま俺の腕を引っ張ってドアを開けた。ドアを開けた先では驚いているセーレさん達の姿。


 「すごいな……真央ちゃん本当に可愛くなったよ」

 「大して変わらないだろう。どんな服着ても同じだ」

 「こらパイモン」

 「ふん」

 「もー大人げない……気にしないでね。彼は今拗ねてるんだ」


 パイモンさんは機嫌が悪いままでそっぽを向いてしまったけれど、隣にいたセーレさんは可愛いと言ってくれた。男に初めて言われた言葉。可愛いなんて今まで一回も……


 「真央ちゃん泣いちゃ駄目!化粧落ちちゃう!」


 そうは言われても涙は零れ落ちる。

 澪さんがティッシュで軽く俺の涙を拭いていった。


 「だって俺……こんなの初めてで」

 「真央ちゃん」

 「あ……」


 そうだ、澪さんは使っちゃ駄目だって言ってた。

 何年この単語使ってないかな?でももう使っていいんだよな。


 「あ、たし……嬉しい……」


 俺、じゃない。あたしの言葉で澪さんもヴアルも満足したみたいだ。少しまだ外に出るのは恥ずかしいけど、でもこれで一歩は翔に近づいたかな?泣いているあたしの肩をぽんと叩いて、パイモンさんがベランダに向かって歩き出した。


 「準備もできたようだし広島に向かうか。真央、契約石を持っているな」

 「え?家になら……」

 「そうか。もう満足だろう」


 満足?確かに綺麗な恰好させてもらえたのは嬉しいけれど……


 「グイソンを地獄に戻す」


 ああそうか、その時が来てしまったんだ。考えたくなくて先送りにしていた事についにぶつかってしまった。もういなくなっちゃうんだ……


 「泣くな。鬱陶しいうえに迷惑だ。帰って一人で泣け」

 「こらパイモン」


 パイモンさんに言われても涙が止まるはずがない。いなくなっちゃうんだ。大切な大切なグイソンが……あたしを誰よりも励ましてくれて、誰よりも理解してくれたグイソンが……


 「いずれは来るものなんだ。覚悟を決めろ」


 パイモンさんはそれだけを告げてセーレさんに広島に向かう事を告げる。

 行きたくない、でも行かなきゃいけない。


 後ろ髪ひかれる思いで広島に向かった。


 ***


 拓也side ―


 「ああうん。わかった……グイソン、真央ちゃんくるって」

 「そっか」


 グイソンも気づいている。真央ちゃんが帰って来た時、自分は地獄に戻されるんだと。思わず少しだけ罪悪感で胸が痛い。さっきの話を聞いてしまったら、そう思うのは仕方のない事だ。

 そんな気持ちが表情に出ていたんだろう。グイソンはおかしそうに笑った。


 「気にしなくてもいいよ継承者。そんな顔しないでよ」

 「でも……」

 「真央に俺はもう必要ない」


 その顔は酷く寂しそうだ。グイソンはさっさと一人で歩いて行ってしまい、慌てて後ろを追いかける。もしかして逃げるのかな?とか少しでも思った自分が恥ずかしい。グイソンは真っすぐ真央ちゃんの家に向かっていく。


 「なんか可哀想だな……」

 『……そうですね』


 真央ちゃんの家の前には既にセーレ達がいた。その中には別人のように変わった真央ちゃん。あまりの変化に最初は別の人を連れてきたのかと思ったくらいだ。なんつーか可愛い。うん、普通に可愛い。澪スゲーな、マジで変わり過ぎだろこれ。オガちゃんも今度真央ちゃんに会った時ビックリすんだろうな。

 真央ちゃんの姿を確認してグイソンは目を細めた。


 「真央、すっごく可愛いよ」


 何も答えない真央ちゃんに気を悪くすることなく、グイソンは言いたい事を告げていく。


 「もう俺居なくても平気だよね。男みたいって言われても泣かないよね、頑張れるよね。翔にも自分から話しかけれるよね」


 真央ちゃんは涙を流しながらもゆっくりと頷く。

 それを見てグイソンは真央ちゃんの手をとった。


 「俺、真央と契約できてよかったよ。久しぶりの人間の世界も楽しかった。できれば、欲を言えば日本一周したかったけどね。まあ岡山と広島で十分楽しんだよ」

 「グイソン……」

 「今日でおしまい。明日が来れば君は普通の女の子。うん、それでいい。あるべき場所に帰るだけだ」

 「お前だって寂しいくせに」

 「あはは。そうかも」


 グイソンと真央ちゃんは手を握ったまま泣きだした。それを見てすごく複雑な心境になってしまう。セーレと沙織の時以来だ。こんな風に泣かれたの。セーレに関しては俺と契約してるから、まだ沙織とは会える環境だけど、二人はそうはいかない。そう思うと、この選択が正しいのに後悔をしてしまいそうだ。


 「本当にこれでいいのかな」

 『仕方がありません。最後の審判を止める為には悪魔を地獄に戻さなければならないのですから』


 そうだけど、でもこんなに悲しそうにする二人を引き離すのはやっぱり気が引ける。

 真央ちゃんは泣きながらグイソンに話しかけた。


 「あたし頑張るよ。一人で今度こそ……もう羨んだり卑屈になったりしない。約束する」

 「……そっか」

 「……ありがとう」

 「うん」


 真央ちゃんはゆっくり手を離し、家の中に入って行く。


 「真央ちゃん?」

 「主、心配いりません。契約石を取りに行っただけです」


 そっか。それならいいんだけど……


 真央ちゃんが契約石を取ってきたので、俺達はグイソンを地獄に戻すための準備を始めた。流石に道路で召喚紋なんて描けないから真央ちゃんの家の庭でやることにした。ちょうど母親は留守で、父親も道場にこもりっきりだからばれないらしい。ストラスに手伝ってもらいながら描いた召喚紋にグイソンは入って行く。


 「グイソン」


 真央ちゃんはグイソンに契約石を手渡した。宝石がついているネックレスを受け取ったグイソンは自らの首にかけた。


 「ストラス、あれなのか?」

 『ブラックスターのネックレス。間違いありません』


 準備が整い、真央ちゃんはグイソンに頑張って笑みを向けて、ストラスが書き写した呪文を書いた紙を読み上げる。


 「ああ、我が霊グイソンよ、汝わが求めに答えたれば……われはここに人や獣を傷つける事無く 、立ち去る許可を与えよう。行け、しかし神聖なる魔術の儀式によって呼び出された時は、いつでも時を移さず現われるよう用意を調えておけ。……われは、汝が平穏に立ち去ることを願う。神の平和が汝とわれの間に永久にあらん事を……」


 しかし真央ちゃんは最後の言葉を言わずに黙ってしまった。数秒の沈黙の中にしゃくりあげる声が聞こえ、泣いていることがわかる。どうしていいか分からずに声をかけられないでいると真央ちゃんは振り返って澪に縋りついた。


 「真央ちゃん……」

 「澪さん、やっぱ戻さなきゃダメなんか?このままじゃダメなんか?」


 その言葉に胸が締め付けられる。返答に困っている澪の腕を真央ちゃんは掴んで縋りついた。


 「どうして?拓也さんは悪魔と今も契約しとるじゃろ?なんであたしはダメなん?」

 「真央ちゃん。拓也は悪魔を倒すために力が必要だから……」

 「あたしにもグイソンは必要だ。どうして……」

 「いい加減にしろ。往生際が悪いぞ」


 パイモンの言葉に真央ちゃんが肩を震わせる。

 その様子を見てたグイソンがパイモンに声を荒げた。


 「パイモン!」

 「黙ってろグイソン。お前は本当に変わりたいのか?」


 一喝されたグイソンは悔しそうに召喚紋の中から睨みつけている。


 「他人に頼るな。お前はもうやっていけるだろう」

 「でもなんで拓也さんだけ……」

 「勘違いするな。俺達も目的を果たせば地獄に戻る。遅かれ早かれ結末は一緒だ」


 考えたことなかった……そっか、いなくなっちゃんだ。最後の審判をとめたら、ストラス達も返さなきゃいけないんだ。その時が来たら俺も真央ちゃんみたいに嫌だって言うのかな?だって、ストラスともセーレともパイモンともお別れなんて寂しいし嫌だ。真央ちゃんから見たら確かに理不尽だろうな……

 そう思うと、更に罪悪感は募って行く。


 「真央」

 「グイソン」

 「これでいいんだよ。ね?だから……最後を言って」


 グイソンに言われたらどうしようもないんだろう、真央ちゃんはまた涙をボロボロ流しながら紙に目をやった。そして何回も言うことを迷うかのように口を震わせた。


 「ありがとうグイソン……アーメン」


 真央ちゃんがそう告げた瞬間、グイソンの体は光に包まれて消えていった。


 「真央、ありがとう!」


 グイソンが消えた後には何も残ってなかった。

 真央ちゃんは涙をこらえるように顔を上に向ける。


 「真央ちゃん……」

 「大丈夫」

 「え?」


 「頑張れるから……だから拓也さんも頑張って」


 真央ちゃんの精一杯の言葉に俺は頷いた。


 「真央ちゃん、何かあったら連絡してね。何でもいいから」

 「ありがとう澪さん」


 澪は軽く笑い、真央ちゃんの頭を撫でた。

 大丈夫だよな、きっと頑張れるよな。俺も頑張るから一緒に頑張ろう。声に出すことはできなかったけど、心の中で真央ちゃんにエールを送った。


 ***


 真央side ―


 「行ってきます」


 次の日、俺じゃない。あたしは澪さんに習ったとおり化粧をして学校に向かう。恥ずかしいし緊張もしてる。でもそれ以上に嬉しくてしょうがない。親父もお袋もグイソンのことを完全に忘れていた。どうやら力が切れたんだろう。そして俺の姿にものすごく驚いていた。それが少し気持ち良かったり……

 登校しながら携帯の画面を開く。待ち受けはグイソンと一緒に撮ったもの。もうこれだけが、あいつがいた証だから。この写真は一生の宝物。


 大丈夫だよ、頑張るから。


 呪文のように言い聞かせて携帯の画面を落とす。すると向かい角から見慣れた姿を見つけた。話しかけるか悩んだけど、変わった自分を彼に見てもらいたくて、三十秒間言葉を考えたり息を整えたり準備をして声をかけた。


 「翔!」

 「……真央君?え?」


 あ、驚いてる。大丈夫かな。引かれてないかな?


 「ちょーっとイメチェンしてみたんじゃけどさー」


 適当な言い訳をしてその場の空気を取り繕う。できるだけフランクな感じで返したけど心臓はバクバク騒がしい。

 すると驚いた顔をしていた翔がふっとほほ笑んだ。


 「可愛くなってる。ビックリした」


 その言葉とともに思考がストップした。

 だってずっとずっと片思いしてた人から可愛いなんて言葉を言われる日が来るなんて……


 「真央君?学校行かんの?」

 「へ?」

 「へ?じゃないよ。学校、なんで立ち止まっとんの?」


 翔は待ってくれてる……ってことは一緒に登校していいってこと!?夢みたいだ、こんな日が来るなんて!


 「あ、あああ……うん!今行く!」


 あたしは勢いよく頷いて翔の元に早足で向かう。こんな他愛無い話をして登校出来るなんて……勇気を出して話しかけてよかった。本当にそう実感した。


 ありがとう拓也さん、澪さん、ヴアル、セーレさん、パイモンさん……グイソン。


 もう少し、もう少しゆっくり時間が流れたらいいのに。

 あたしはそう思いながら翔の話しに相槌をうって学校に向かった。


 ***


 ?side ―


 『あーぁ、また一つ火が消えちゃった』


 クスクスと笑い声をあげながら、消えてしまった蝋燭の火を眺める。


 『誰の?』

 『十一番目の火』

 『あぁグイソンか。ははっあんな奴消えた所でどうなるって言うんだよ』


 一人が笑えば残りも笑う。

 クスクスクスクス……笑い声が不気味に響き渡る。


 『でも俺がここに来たってことはお前たちも同じだろ?』

 『そりゃそうさ。俺たち四匹はワンセットって考えられてるんだから』


 迷惑だ。等と口ずさむ者もいるが、本心ではなさそうだ。

 四人はさも愉快そうに蝋燭の火を眺める。


 『あといくつ消えると思う?』

 『さあ。かなりの数消えるんじゃない?サブナックもかえされた事だし』

 『つかパイモンがうぜぇんだよな。後は何とかなりそうだけど』

 『いやいや、ヴォラクも侮れねぇぜ。それ以外はそこまで脅威じゃないかもしんねえけど』

 『とは言え、俺らに直接命令が来るほどルシファー様は待ち焦がれてるのかねぇ』


 まだまだ時間はあるはずじゃないのか?

 それなのになぜあの御方はそこまで急ぐ。


 『時間がかかるからさ。それに……寵愛したいんだよ。我らがお子を』

 『はは。我らがお子、ねぇ』


 四人はまた軽く笑いあい立ちあがった。


 『俺たちの火は消えない。覚悟しておくんだな。継承者』


登場人物


グイソン…40の軍団を統率する公爵であり、過去から未来にわたる全ての質問に答えるとされる。

     また召還者に敵意を抱く者を友好的にする力もあるという。

     その力を借りれば、壊れてしまった友人関係や恋人との中を修復、更に深めることも可能である。

     契約石はブラックスターのネックレス。


賀来真央…広島の中学に通う中学3年生。

     空手で全国優勝を成し遂げており、かなりの実力の持ち主。

     男勝りな自分の容姿と性格にコンプレックスを抱いていた。

     ちなみにオガちゃんの母方の従兄。

     仲はいいらしいが、切れたら手を上げてくるのでオガちゃんはあまり強気に出れないらしい。

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