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第95話 男友達?女友達?

 「おはよー」


 新たなクラスになって一週間。授業は面倒臭いけど、今回のクラスも雰囲気は良く、新しい友人もできて確実に俺はクラスになじんでいっていた。



 95 男友達?女友達?



 教室に入ると今回同じクラスになった小笠原の席に何人かが集まっていた。皆で小笠原の携帯を覗き込み、楽しそうに談笑している。


 「なになに?何かあんのオガちゃん」


 桜井と藤森の間に割り込むと、小笠原ことオガちゃんが携帯を手渡してきたため、中を覗き込むと二人の男の子が写っている写真が出ていた。写真は普段の様子をとらえていて、芸能人とかの写真ではない。この写真のどこに盛り上がる要素があるんだ?


 「おーイケメン(オガちゃんがつけた変な俺のあだ名。池上のイケに男のメンをつけたんだとか)俺の従妹を見せてたんだよ」


 あーオガちゃんの従弟か。確かになんだか言われてみれば少し似てる気もしない事もない。短い髪の毛と綺麗についた筋肉は男の自分から見ても憧れるような少年だ。男らしいと言うよりかは中性的な顔立ちをしていて、これは学校でもモテるだろうな。


 「オガちゃんになんか似てんな。モテそう。格好いいな」

 「ブハッ!」


 え、何?俺なんか変なこと言った?

 吹きだした桜井を皮切りに皆が笑い声をあげている。首をかしげた俺にオガちゃんは笑いながら画像の男の子に指をさす。


 「イケメン、そいつ男と思ってるっしょ?実はこいつ女なんだな~」

 「……え!!?」


 なんか理解するのに三秒くらいかかったぞ!女!?これが!!?こんなイケメンなのに!?俺が女子だったら憧れの男子に入りそうな子だぞ!?

 まじまじと写真を見てみると、言われてみれば女の子にも見える。中性的だと思っていたけど、まさか女の子だったとは……学校では王子様的な扱いを受けているんだろうか。女子高とかに通ってたら最強だな。

 呆けてる俺を見て、オガちゃんは更に可笑しそうに笑い声をあげた。


 「こいつ去年空手の全国大会でも優勝してっからね。俺も前、空手習ってたけどこいつにコテンパンにやられて、それが原因で空手辞めたもん」


 えええ、空手で全国優勝!?オガちゃん超すげえ従妹いたんだな!オガちゃん曰く年下の、しかも女の子に負けたことでプライドがバキバキに折られて空手の熱意を無くしてしまったらしい。まあ本人の言うことだから、どこまで本当かは知らないけど。


 「オガ、名前何だったっけ?」

 「真央ってんだ。賀来真央」


 賀来さんね。オガちゃんと名字が違うんだな。

 そう思ったのは桜井も一緒だったらしく、俺の疑問をそのまま代弁してくれた。


 「お前と名字違うんだな」

 「母方の従妹だからな。チェリー笑いすぎ」

 「チェリーとか言うなよ。童貞みてーだろ。でもさぁ……ひゃはは!これじゃ彼氏できねえわ!」


 失礼なことを口にする桜井を咎める事もなく、オガちゃんは頷きながら、軽くため息をついて携帯を眺めた。


 「こいつも今年中三だからなぁ。空手ばっかやってねえで少しは青春してほしいもんだぜ」

 「いや、帰宅部の俺から見たら空手も十分青春だわ。それよりオガちゃん隣の子は?弟?」


 真央ちゃんの隣にはヴォラクぐらいの外見の小さい男の子も写っており、二人で仲良くピースサインして写ってるとこから、仲のいい兄弟のように思える。しかしその少年に関してはオガちゃんは首をかしげて分からないと返事をした。


 「あー……よくわかんねえんだよな」

 「ああ、近所の子的なやつかね」

 「多分そうじゃね?真央には弟いないし、親戚の集まりでも見たことないし。真央の家って空手の道場やってるし、そこの生徒かもな」

 「アバウトだなぁオガちゃん」


 オガちゃん的には知らない少年に関しては興味がないようで別に誰でもいいと言う感じだった。そういうところオガちゃんらしいけど。まあ、確かに従妹の交友関係なんて危ない友人じゃない限り興味ないよな。

 俺たちがそのまま話していると、突然勢いよく教室の扉が開いた。


 「皆さんGOOD MORNING!いい朝ですねぇ!」


 やべ!先生きた!

 しかし慌てて席に着こうと思ったが、周りのクラスメイトは動かずクスクス笑っており、なんでみんな席に行かないんだ?と思って教卓の方を振り返ったら中谷だった。こいつわざと吉良の物まねして入りやがって……しかも何で何気にうめーんだよ。


 「中谷!てめえビビらすんじゃねー!!」


 オガちゃんと仲が良く、今回一緒のクラスになった長戸(ながと)(オガちゃん命名ジャスト)が中谷に向かってタックルをかます。ちなみにジャストのあだ名の理由は長戸は「ちょうど」って呼び方もできる。ちょうど→丁度→ジャストっていう経緯らしい。オガちゃんの命名能力は半端ない。


 「何すんだよジャスト!いてえじゃん!!」

 「俺の心臓の一旦停止に比べりゃ軽いもんだろ!」


 じゃれあってる二人を見て、軽くため息をつく。

 面白いけど今年のクラスは偉く個性的なメンツが集まっているようだ。


 ***


 「ってわけなんだストラス。これがすげえマジで男でさ」


 学校が終わった俺は家に帰り、ストラスに今日のことを告げた。なんでだろうな、母さんにも話さないのに、毎日何が起こったかをストラスには話せるんだから。ストラスも話を興味津々に聞いてくれるから話しがいがあるのかもしれない。

 直哉もストラスに学校での出来事を報告しているもんだから、ストラスは俺と直哉のクラスメイトの名前を全員覚えているレベルになっていた。


 『それは是非とも顔を見てみたいですね。拓也、パソコンを開きなさい』

 「えー命令すんなよー携帯でいいだろ」

 『あれは画面が小さいからどうしても好きになれないんですよね。一緒に見ると手狭ですし』


 携帯の画面は小さいからストラスはパソコンがお気に入りだ。面倒くさいけど、なんだかんだ言ってもやっちゃう俺って優しい。パソコンをつけて検索サイトを開く。

 えーっと確か賀来真央で、空手で検索すりゃ出るよな……全国優勝しているくらいだし。案の定、どっかの新聞の記事が一発で出てきて、そのサイトを開き写真をアップする。写真は二枚あり、一つは空手をしている写真、もう一つは賞状を持って家族と写っている写真。黙ってしまったストラスを見て、俺はストラスの羽毛を荒らす。もしかして空手を初めて見たストラスはこの写真を喧嘩をしていると思ったのかな?


 「ストラスーお前もびびってんだろ?心配すんなよ。これは空手っていうスポーツなんだから」

 『……グイソン』


 は?グイソン?誰それ。空手の有名な選手?いや、ストラスがそんなの知ってるわけないよな……じゃあ、この反応は悪魔ってこと?


 『拓也、真央という少女の隣に写っているこの子供、悪魔グイソンに酷似している』

 「うそぉ……え?じゃあこいつの力で優勝したってこと?」

 『グイソンの力を使えば審判の買収も可能……可能性はありますね。しかし大会の時期が去年の六月です。それは違うと思いますが』

 「でも……俺オガちゃんに聞いてみる!」


 慌ててオガちゃんに電話をかけるけどオガちゃんは出てくれない。しかしいくら電話をしても繋がらず、メッセージを送ってみるが既読にはならない。オガちゃんって携帯を常に持ってるイメージなのに、見てねえのかよ!と、心の中で文句を言っていると、あることを思い出した。


 「オガちゃんテニス部だった……」


 多分今は部活だよな。

 慌ててる俺を余所にストラスは涼しそうな顔だ。俺とは違い全然焦っておらず、もはや通販サイトを開いている。お前は通販サイトで何を買うつもりだ。


 『連絡が取れたらでいいですよ。グイソンは特に危険な悪魔ではありませんからね』

 「そうなのか?」

 『ええ。彼の力は契約者が望む相手が自分に好意をもつようになる力。彼自身も温厚な性格なので害を加えたりはしませんよ。明日でも構いません。ところで拓也、今通販でポテトチップスの箱入りが半額で売っていましてね。私としては貴方が定価で買うよりもコストが安いと思い、案内したのですよ。いや、悪魔の件を調べていてたまたま広告が表示されましてね。私は別に構わないのですが、貴方もできれば値段の安いものを購入したいでしょう?』

 「買ってほしいって素直に言えよ。通販とか母さんに相談な」


 その言葉に悲壮感が漂った。母さん厳しいもんな。ストラスのポテトチップス管理を最近やってるし。こいつ隙見てお菓子食ってるからな。ポテトチップス食べて、クッキー食べて、せんべい食べて……と、食べたい放題のストラスの体重や体調を母さんは心配しており、自分が見ている場所ではストラスに好きにお菓子を食べさせないのだ。

 そのせいで俺の部屋にお菓子を少しずつ隠してコソコソ食ってるけどなこいつは。


 『は、母上は……ちょっと。その、せめて父上に』

 「荷物受け取るの、ほぼ百パー母さんだからばれるって。今日母さんに相談しろ」

 『ぐ、ぐううう……母上、絶対買ってくれない』


 笑ってしまった。お菓子を買ってもらえない子供か!

 しかし、これだけのんびりしているんだ。本当に大した悪魔じゃないんだろう、なんだか安心した。

 とりあえずオガちゃんからの返信待ちってことで動画サイトを開いてストラスと一緒に見ることにした。


 ***


 「イケメンこれどういうこと?」


 次の日、オガちゃんが少し不審そうな顔で話しかけてきた。昨日結局返信をくれなかったけど、なんでだろうと思っていたんだけど、見せてきた携帯には俺からのメッセージが表示されている。それが何か?と首を傾げた俺にオガちゃんは眉間にしわを寄せて問いかけてきた。


 「なんで真央の住所知りたがるん?」

 「え、えーっと……」


 やばい、言い方ストレートすぎたか?悪魔って言われて慌てて送ったから、真央ちゃんってどこに住んでるの?住所分かる?って聞いてしまったんだ。確かに今思えば、なぜ?って感じだよな。だからオガちゃん返事をくれなかったのか!

 オガちゃんは少し顔を青ざめさせて俺に視線を送る。


 「イケメンまさか真央のこと好きになってストーカーとかする気か?」

 「断じて違う」


 でも住所は知りたいんだよ。何か言い訳考えないと。

 

 「拓也の近所の空手やってる子が真央ちゃんのファンなんだよな。拓也の友達が知り合いって聞いてファンレター送りたいんだってさ」


 え?光太郎?

 急に助け船を出してくれた光太郎にオガちゃんは納得したみたいだ。安心したように笑って携帯で何かを検索しだした。


 「そっか、そういうの先に言えよ。とりあえず真央の空手教室の住所これだから」


 オガちゃんが見せてくれた画面の写真を撮る。光太郎のおかげで何とか情報ゲットだ。


 「イケメン、その子に宜しくな」

 「あ、うん」


 オガちゃんが行ってしまった席で光太郎はニヤリと笑った。助かったけど、なんで光太郎が知ってるんだよ。


 「お前もう少し頭使えよ。いきなりあんな連絡来たらオガもビビるだろ」

 「助かった。でも何で知ってんだ?」

 「昨日シトリーから連絡きたんだ。ストラスから聞いたんだってさ。中谷にも送ってんじゃない?」


 ストラス、いつの間に伝えたんだ?昨日そういえば一瞬だけ外に出てたな。その時にマンションに行ってたのかもしれない。フクロウは空飛べるから移動楽で羨ましいわ。窓からぴゅ~って行けばいいんだもんな。

 でもこれで行けるな。


 「拓也、今日行く気?俺も今日は行ける」

 「おう、一緒に行こうぜ」


 学校が終わった後、俺達は広島県に向かう事にした。


 ***


 一度家に帰った俺はストラスを連れて再びマンションに来ていた。


 「とゆー訳で広島県に行くぞ!セーレ、馬の用意!」

 「ジェダイトだよ。名前で呼んであげてよ」


 セーレは少しガックリしながら、ジェダイトを召喚すべくベランダに向かった。そんなセーレを横にシトリーとヴォラクとヴアルが真央ちゃんの写真をしげしげと眺めており、シトリーは真央ちゃんの写真を見てため息ばかりついている。


 「はぁー勿体ねえ……もう少しくらい色気出せばいいのによ。折角の素材が……」

 「シトリーそればっかね」

 「俺知ってるぜ!こういう事言う奴を色基地外って言うんだって!」

 「あぁ?ヴォラク君聞こえなかったな~もっぺん言ってみな」


 シトリーがヴォラクにヘッドロックをかまし、慌てて光太郎がシトリーを引きはがす。

 喧嘩してる場合じゃないだろ!


 「早く悪魔返さないと……取りあえず広島に行こう!」


 俺がせかしたのを見て、パイモンが立ち上がる。珍しくやる気に満ちている俺になんだか少し押されているような感じだったが、善は急げって言うのは同じなんだろう。


 「そうですね、考えても仕方ありませんね。しかし主、住所は割れているのですか?」

 「うん、大丈夫」

 「なら行きましょうか。ヴォラク、ヴアル、お前達は留守番だ」


 ヴォラクとヴアルは相変わらず不満顔だけど、澪と中谷がいないんじゃしょうがない。最近連戦続きだったし、とくにヴォラクは休ませてやらないとな。

 しかし、いざ行こうとした時に黙っていたシトリーが顔をあげた。


 「わりい、俺も夕方からバイトだ」

 「お前も除外か。仕方ないな、俺とセーレとストラスか。グイソンならばなんとかなるだろうが、対人ではお前がいると手っ取り早いんだがな」

 「大丈夫パイモン。お前いれば言い負かせるって」

 「口論をしたいわけではない。俺の能力は少々角が立つ。お前の方が穏便に事を運べるんだが、仕方がない」


 パイモンがこう言ってるってことは確かに危険な奴じゃなさそうだけど、確かにシトリーがいればすぐに相手を見つけたり、捕まえたりできるから便利なんだけどな。呑気にカメラの電池残量を確認してる光太郎を蹴っ飛ばして、ジェダイトに飛び乗った。


 ***


 「広島ー久しぶりに来たなー!」


 久々の景色に俺はあたりを見渡した。広島とか久しぶりに来たなー!駅前のホテルに泊まったんだよね。あの時は宮島とか原爆ドームいったなあ。懐かしい。


 「主は来たことがおありで?」

 「うん、小学校の修学旅行でね」


 パイモンは興味深そうに「ふうん」と頷いた後、光太郎たちにも同じ質問を繰り返した。


 「光太郎は?」

 「俺んとこは大阪だった」


 なんかそっちのが羨ましい気もするんですけど。大阪ってことはUSJ行ったってことじゃん。俺らそんなとこ行けてないよ。多分宮島がUSJの代わり的な扱いだったのかもしれないけど。俺はUSJの方がよかったわ。気を取り直してオガちゃんから教えてもらった住所を確認する。


 「広島駅から電車で一駅隣みたい」

 「場所は?」

 「天神川だってさ。呉線?ってので行けるらしいけど、駅前からバスも出てるって」

 「天神川、ですか。とりあえず行ってみましょう」


 俺達は電車に乗るために広島駅に入った。

 電車で一駅だったため、すぐに到着し、住宅街に出てきた。広島は都会だけど、一駅隣は住宅街なんだな。オガちゃんに教えてもらった住所をナビで検索し、場所を確認する。ここからだと歩いて二十五分くらいらしい。


 「歩いたら二十五分って。俺は行けるけど大丈夫か?」

 「問題ありません。行きましょう」


 ナビを頼りに目的の場所に向かう。駅の近くにかなりでかいショッピングモールがあるが、そこから先はまた住宅街だ。実際は三十分程度かかり、それらしき建物を見つけた。


 「ここか?」


 ナビの場所は間違えてはないっぽいし、看板もあるから大丈夫だろう。看板には賀来道場と書かれている。


 「生徒募集!来たれ!!……なんか怖そうな道場だな」

 「格闘ゲームに出てくるようなおっさんだったらどうしよう」


 そんな人だったら逃げる。ってか無理。看板を眺めていると一人の少年が俺たちの横を通り過ぎ、こっちに怪訝そうな視線を投げかけて道場に入って行く。

 あれ?あの子って……あ、あぁ!!


 「賀来真央!!」


 やべえ!つい大声が!!しかも大声出しちゃったー!!真央ちゃんは肩を震わせて俺たちに振り返る。


 「馬鹿拓也!何やってんだよ!?」

 「相変わらず拓也は無鉄砲だな」

 「セーレ、感心してる場合じゃない」


 それぞれからの痛い視線を浴びて縮こまってしまう。でも真央ちゃんは俺たちから視線を外さなかった。固まっている真央ちゃんはこっちに攻撃を仕掛けるわけでもなく、小さな声で問いかけてきた。


 「……誰?」


 少しおびえたような声だったけど、声は結構女の子っぽいんだ。写真で見ても男みたいだけど、生で見るとまた男っぽい。てかイケメンだ。でも中性的だから女の子にも見える。てか格好いいけど、実物は可愛らしい。


 「あ、えーっと……ちょっと話したいことが」


 あ、明らかに怖がってる。不審者に話しかけられたって思ってんだろうな。それは間違いない。俺ら初対面なのに話したいことってなんだよ。俺ストーカーかよ。

 しかし真央ちゃんは少し後ずさったと思ったら走って家の中に入ってしまった。


 「あっ!ちょっと待って!!」

 『逃げられてしまいましたね』


 あちゃーどうしようか。

 そのまま固まる事数分、道場からすげえ声を出して竹刀を持ったおっさんがドカドカと出てきた。


 「どこじゃ!?不審者がぁ!!!」


 怖い!何この人!?

 筋肉なのか脂肪なのかわからないふくよかな体にあごひげを蓄えて頭は少し剥げている。キングオブファイターズに出演してませんでした?

 思わぬ展開にパニックになっている俺の後ろには真央ちゃんの姿。まさか真央ちゃんがちくったんじゃ……つか絶対にそうだよな。おっさんは俺の前に立って顔をしかめる。


 「なんじゃおめえは。うちの倅に手ぇ出してただで帰れるとおもっとんのか?あ?」


 やばい怖い!怖すぎる!!倅って初めて聞いたんですけど!どう見ても堅気の顔じゃない!話し方からして威嚇しているのがわかる。広島弁そんな感じじゃないだろ!?知らんけど!!明らかに俺を怖がらせようとわざと怖い話方してるだろ!!

 思わぬ展開に固まってしまった俺にため息をついてセーレが前に出る。


 「そう言う訳ではないです。唯少し話したいことがあっただけです」

 「わしにはねえ」

 「俺たちにはあるんです」


 セーレの凛とした声を聞いて、おっさんは今にも振り回してきそうな竹刀を杖代わりにして話を聞く体制をとってくれた。


 「何が言いたいんじゃ」

 「拓也」


 そこで俺に振るのかよ。こんなおっさんの前に出たくないんですけど……


 「なんで俺の服ひっぱんだよ。放せよ」

 「いいじゃん俺ら親友だろぉ?」


 一人で出るのは恐いから光太郎を引きずって俺はおっさんの前に出た。


 「その……悪魔の事を聞きたいんですけど」

 「あぁ?」

 「え……」


 何今の反応、怖くて声裏返っちゃったよ。

 おっさんは何を馬鹿なこと言ってんだって顔で俺を見てる。


 「ふざけとんのか。下らん悪戯しに来たんか」

 「悪戯なんて……」

 「じゃあ言うが、悪魔などおらん。そんなもんはこの世のどこにもな。行くぞ真央。次に娘にちょっかい出したら、ただじゃ置かんぞ」


 おっさんがそれだけ吐き捨てるように言って真央ちゃんの腕を引っ張り家の中に入って行く。

 真央ちゃんは少しだけ俺たちに目を向けていたが、家に入ってしまった今じゃその視線も感じない。全てが終わって静まり返った空間でパイモンは冷静に切り込んできた。


 「なぜあのような聞き方を?どう考えても正直に話すとは思えませんが」

 『まあ仕方ないですよパイモン』


 だからなんで俺が出ないといけなかったんだよお。絶対に俺出て行かない方がうまくいっただろ。お前が行ってくれたらいいのに、俺に話振るからじゃん!しかも助けてくれる感じじゃなかったし!終わった後に俺に文句言うの違うだろ!!


 「主、少し考えてみましょう。あの少女がグイソンと契約しているのはもうわかってることですからね。問題は私たちの存在を真央がグイソンに間違いなく報告するでしょう。そうなると捕まえるのが難しくなる」


 なんの収穫も得られず、扉は固く閉ざされ、開けてくれる気配はない。今日は何しても無駄と言われ、俺達は家に帰ることにした。

 流石に失敗してしまった手前、宮島に行きたいなんて言い出せなかった。


 ***


 真央side ―


 「真央最近どうしたん?」

 「は?」


 学校で椅子に胡坐をかいて食べ損ねてしまったため持参した朝飯のパンを食ってたところを佳代に指摘された。どうしたって……何がどうしたんだろう。首をかしげた俺を見て、佳代は少し気まずそうにボソボソと呟いた。


 「なんか最近男に磨きがかかっとるって言うか……」

 「そ、そうか!!」


 そうか、磨きがかかってるか!そりゃいい!!

 喜んでいる俺に佳代は不思議そうにしている。佳代にはわからないだろう。でも、今はこれでいいんだ。だって女と思われてないおかげで、あいつと仲良くなれたんだから。


 「おはよう真央君」

 「あ、翔おっす!!」


 そう、翔と会話できるようになった。女子の誰かが翔と話そうもんなら、ものすごい集中攻撃に遭うが、俺が男みたいという理由でそんな心配は一つもない。これなら男と思われたっていいや!!


 「なんか賀来の奴開き直っとらん?前までは男って言うとブチ切れてたんによ」

 「やっと自分のことが分かったんじゃね?家に鏡つけたんかもな」

 「ぎゃはは!そうかも!」


 いつも俺に喧嘩を売ってくるクラスの男子を佳代が睨みつける。


 「あいつらまたあんなこと言って!真央も黙っとらんでビシッと言いんさい!お前の家も鏡つけえよ。ぶっさいくな面を自覚するわあ」

 「お前には言ってねえやろ!うっせえよ佳代!」

 「お前はうっさいわ!」


 佳代が男子と喧嘩しているのを止めると、佳代は納得がいかないようで、眉間にしわを寄せて怒っている。それに関しては有り難いが、今は本当に平気なんだ。確かに前は憎たらしかったが、敢えて男らしくふるまってるんだから何も気にすることはない。


 「いいじゃねえか、言わせとけって。俺全然気にしとらんし、あんな奴ら相手にするだけたいぎいしな」

 「たいぎいって……もー真央は女の子じゃろ?少しは女の子らしくしんさい」

 「じゃけ俺はもうこのままでいいんやって。今のままで満足しとるし」


 だってこのおかげであいつと話せるんだから。

 俺の言葉が本気だとわかった佳代は不満そうに唇を尖らせる。


 「真央お洒落したらわや可愛くなると思うんになぁ……もったいない」

 「妄想妄想」

 「妄想やないわ!失礼やなぁ!」


 いいんだ、今のままで変に色気出して逆に嫌なイメージ付きたくないし。

 このままでいい。


 少しずつ上手くいっていく。そう思っていたはずなのに ― どうして、今、このタイミングで現れたんだろう。


 ***


 「グイソン」


 名前を呼ぶと、ちょこちょこ俺の前に走ってくる可愛らしい子供。こいつが悪魔だと言うことを未だに信じられない自分がいる。悪魔ってもっと危なくて見た目もおっかないと思っていたのに、目の前の少年はそんなイメージとはかけ離れている存在だった。誰にも危害を加えずに、いつも笑顔を絶やさない。もはや天使と呼べるような少年だった。


 「あ、真央だー!どしたの?」

 「……お前が言ってた継承者、来たぞ。冠つけたフクロウが側にいたからきっとそうだ」


 話だけは聞いていた。悪魔を倒して回っている奴がいるって。グイソンが言うにはソロモン七十二柱は以前ソロモン王ってのに使役されていて、そのソロモン王の再来ではないかと言っていた。そんなバカなって思ってたけど、ソロモンの指輪?って言う奴?の話を聞いていたから、もしかしたらって思ったんだ。


 自分が関与して初めて興味を持って悪魔についてネットで調べた。人間になれる悪魔は流石に分からないが、王冠つけたフクロウとか、そんな特徴的な悪魔くらいはピンとくる。だから分かってしまった。指輪をつけている少年の肩に王冠をつけたフクロウ - グイソンの天敵なんだって。

 でも否定してほしくて話をした。グイソンは何も言わずにじっと俺を見つめてきて、何も答えてくれない事に焦った声が出た。


 「いなくならないよな?お前はもう俺たちの家族だぞ」


 居なくなったら皆悲しむ。親父もお袋も……でもグイソンは小さく笑った。


 「家族じゃないよ。真央もわかってるでしょ?」


 それを言われたら何も言い返せない。家族と言ってもグイソンが親父とお袋の記憶を操ってるから出来る事で……実際は家族でも何でもない。グイソンの力によって親父はグイソンが自分の子供のようにかわいがっている。

 名前がおかしいだろとか、そんなことも気付かない。グイソンの能力である友愛のお陰で親父にとってはグイソンは大切な息子のようなもので名前とかそんなものを気にすることはない。そうやって、グイソンは我が家に居ついたのだ。

 でもそうまでしてでもこいつと契約したかったんだ。でないと俺の居場所がなくなってしまうから。


 「真央、真央はどうしてそんなに自分が嫌いなの?」


 嫌い、そんなの決まってる。この顔から何から全て嫌いだ。何をしてもダメだった。

 俺は空手がなくなったら秀でるものが何もない。だから、だからあの事件を親父とお袋の頭から無くす必要があった。


 その為にグイソンと契約した。


 でもグイソンが出してきた契約条件を未だに俺は満たせてない。グイソンはずっとずっと待っててくれている、俺が変わるのを。


 「真央いっつも考えてる。どうして自分に素直にならないの?」


 なれるもんならとっくになってる。でもこの容姿が邪魔をする。

 俺は結局変えられないんだ……



小笠原龍一オガちゃん…拓也の2年のクラスメイト。他人に妙なあだ名をつける。

本人からしてみれば、名前よりもあだ名の方が仲良くなれそうな気がする。と言う持論を持っている。

1年の時に同じクラスだった長戸亮と仲がいい。


長戸亮ジャスト…オガちゃんにつけられたあだ名によって1年の時から本名で呼ばれることがほとんどなくなってしまった。

最初は嫌だと思っていたが今は気にしなくなっている。

オガちゃんと仲が良く、また個人的には中谷とも結構親しいらしい。

頭がいい。

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