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第94話 男の子?女の子?

 「拓也行ってらっしゃい。今日から新学期ね。クラス替え、広瀬君たちと一緒になるといいわね」


 アミーを倒して二日。気持ちの整理がつかないまま新学期を迎えた。あんなことがあった後でも時間は流れて一日は終わっていく。その後、あの雑誌のモデルたちがどうなっているかなんてことは知らない。調べても不快にしかならなそうだし、もう終わったことだと自分に言い聞かせた。

 そうやって流れるままに時間が経ち、春休みが終了した。母さんに見送られて家をでた。新学期早々のビッグイベントであるクラス替えに心臓をどきどきさせながら学校に向かう。

 今日からついに俺も高校二年生だ。



 94 男の子?女の子?



 「あーどうしよう。仲いい奴と一緒のクラスになれるかな」


 ついに春休みも終わって、きてしまった始業式、登校途中でバッタリ会ったことから藤森と一緒に登校していた。学校について生徒が溢れかえっている場所に向かう。皆の目的は一つ、新しいクラスが書かれたクラス表。それが貼られた掲示板の前には生徒がごった返していた。

 この雰囲気じゃ、見られるまでにかなりの時間がかかりそうだ。その中に入る勇気もなく、俺と藤森は少し外れた所で人が少なくなるのを待つことにした。少し早く家を出たからまだ時間には多少の余裕がある。


 「あ、藤森ー池上ー」

 「あれ?桜井、立川」


 藤森と話しながら待っていると桜井と立川がこっちに近寄って来た。

 二人が出てきたのは、あの生徒がごった返す掲示板の所だ。と言う事は……


 「お前らクラスのやつ見た?」


 俺の問いかけに二人は頷いた。つまり、二人が俺たちの分も見てくれていたのなら、同じクラスか確かめられる!考えていたことは同じで俺と藤森は二人に詰め寄った。


 「「俺達は!?俺達のも見てくれた!?」」


 切羽詰まった表情の俺と藤森に、桜井と立川は顔を見合せて笑っている。必死すぎでしょって笑う二人に悲壮感はなく、二人にとってクラス替えは悪くない内容だったみたいだ。


 「なんだよ笑うなよ」

 「いやだってさぁ、心配しなくても藤森は俺らと一緒だからよ」

 「マジかコラ!よっし!」


 藤森は握りこぶしを作って喜びをアピールする。え、ちょっと待て。「藤森は」って何だ。「は」って。俺の分は見てくれてないってこと?えー……そりゃあ桜井はグループで言えば上野と立川と藤森の四人グループだけどさ、俺と光太郎と中谷の七人でよくクラスで過ごしてるじゃん……

 俺がどこのクラスだったかは見てくれてないの?俺に興味なさすぎじゃん酷い。逆の立場なら俺は皆のチェックするのに。


 「上野も一緒!広瀬も中谷も!」


 ちょっと待って待って。今の言い方って何?それって俺だけが……


 「桜井、俺は?」


 思わず少し泣きそうな声になってしまう。そんな俺に桜井は残念そうに顔を俯かせた。嘘……冗談だろ?


 「池上……残念だったな」

 「嘘!!??」


 それって俺だけクラス違うってこと?光太郎も中谷も皆も同じクラスなのに、俺だけクラス違うの?それってあんまりじゃない!?

 高校二年生になって友達作りからスタートしなければならない現実にマジで目に涙が溜まりだした俺を見て、桜井と立川は思いっきり吹き出した。

 ひどい!笑うなんてあんまりだ!高校生にとっちゃクラス替えは一年間の全てがかかってるっつーのに!


 「うっそー♪一緒一緒」


 桜井のその言葉を聞いて、安堵と共に訪れたのは怒り。

 こ、このやろ~~~~~!!

 怒りが収まらない俺は桜井に掴みかかった。


 「ふざけんなよ!心臓止まるかと思ったじゃねぇか!!」

 「いや、お前って反応面白いからつい。まあよかったじゃん、一緒のクラスでよ」


 桜井と立川はゲラゲラ笑ってるけど、騙されたこっちは本当に新学期早々泣くとこだったんだぞ!

 俺と桜井がじゃれあってるのを見て、藤森がポツリ呟いた。


 「でも面白いくらい皆一緒なんだな」


 その言葉に掴みあっていた俺と桜井は顔を見合わせて確かにと頷いた。確かに藤森の言う事にも一理ある。理系に進んだ俺たち七人がまさか全員一緒のクラスなんて奇跡以外の何物でもない。新しいクラスの男子の四割くらいがうちのクラスだぞ。

 立川は何か知ってるのか、藤森の呟きに返事をした。


 「なんか先生の計らいらしいよ」

 「先生の?」


 あいつらが俺らに何の計らいをするって言うんだ。でも立川は理由を知ってるらしく教えてくれた。


 「二年って修学旅行とかのイベントあんじゃん。だから一年の時のクラスの様子見て、文系理系に分かれて同じ系に進んだできるだけ仲いい奴と一緒にしてんだって。先輩達が言ってた」


 それを聞いて、なんだか少し教師陣を見直したぜ。先生的にはあぶれる生徒がいない様に配慮してくれているらしい。


 「だからか……あいつらいいとこあるな」

 「確かに!とりあえずクラス行こうぜ!俺ら2-7だってよ」


 そっか、そういえば澪は何組なんだろ?文系は2-5までだからなぁ。2-1~2-5組の間なんだろうけど。澪のクラスをチェックしたかったが、桜井たちが教室に歩いて行ってしまい、慌てて追いかけたため確認できず、俺達は四人で教室に移動した。


 ***


 「お、お前ら春休みぶり!これお土産な!」


 教室に入った途端、先についていた光太郎がオーストラリアの土産を渡してきた。中身はお菓子と明らかにネタで買ったであろうカンガルーのジャーキーが入っていた。隣の藤森はワニのジャーキーだ。なんだこれ、美味しいのか?

 土産をもらった立川が袋をしげしげと眺めながら光太郎に話しかけた。


 「お前今度はどこに行ったんだ?」

 「土産見てわかれよ立川。オーストラリアだよ。カンガルーの肉とかオーストラリアしか食わねえだろ」

 「知らねえよ!可哀想だわカンガルー!海外ばっか行きやがって広瀬うぜえ!」


 海外に行ったことのない立川が土産を受け取りながらも悔しそうに声をあげる。

 まあ気持ちはわかるよ、俺もセーレに出会うまで海外に行った事なんてなかったし。それに比べて高校一年の間に何カ国に行った事か。五カ国くらい行ったかな?悪魔探しだから、あんまいい思い出はないんだけど。


 「でも確かに同じクラスの奴けっこういるよな」


 俺たちと桜井達が一緒だから男子だけで七人か。女子は……あ、水野さんと平井さんがいるな。あとあの子等と仲がいい楠田さんと深川さんもいる。

 新しいクラスメイトを観察していると、一人だけ負のオーラをまき散らしている奴を見つけ、同じく発見した藤森が指をさした。


 「上野何であんなにへこんでんだ?」


 上野は机に突っ伏しており、その隣では中谷が爆笑しながら頭を撫でてやっている。その光景を見て、光太郎は苦笑いを漏らした。


 「あー、あいつ霧立さんと付き合いだしたじゃん。クラス離れたんだよ」

 「でも霧立さんは文系だろ?最初からわかってたじゃん」

 「そうなんだけど、やっぱクラスにいないのはショックなんだって。恋だねぇ」


 本当にねえ。上野から告白しただけあって上野ベタ惚れだからなぁ。上野って結構乙女なんだよな。姉ちゃんがいるおかげか、女子が喜ぶイベントにも結構詳しいし、霧立さんが喜ぶなら何でもします!って感じで走り回ってるし。

 桜井とか霧立さんの誕生日プレゼントを探すのに三日付き合わされたとか言ってたもんな。俺達からしたら面倒な男だけど、彼氏としてはいいんだろうな。


 「隆」


 噂をしたら何とやら……霧立さんがクラスに来た。霧立さんは上野の机の前にしゃがみこみ、頭をつつく。完全に二人の雰囲気になったことを察して、中谷がこっちに移動してきた。俺たちもとりあえず上野たちを見守ってみる。


 「隆、大丈夫?」

 「大丈夫じゃない。なんで沙耶理系に来てくんないんだよ。沙耶がいない教室とか俺、授業中にどこに癒し求めればいいの?」

 「そんなこと言われても……授業普通に受ければいいじゃん。時間があいそうな日は一緒に帰ろうよ」


 その一言で上野の顔が明るくなる。なんて単純な奴なんだ。でも、俺も澪から言われたら多分同じ反応すると思うから気持ちわかるぜ上野。上野は目を輝かせて霧立さんの手を握っている。


 「う、うん!そうしような絶対に!!」

 「隆喜びすぎ。なんか恥ずかしくなるよー。じゃあもうすぐ集会あるから戻るね」


 上野の頭をなでて教室を出ようとした霧立さんを引き止める。もしかしたら澪のクラスのこと知ってるかもしれない。


 「霧立さん」

 「あ、池上君おはよう。このクラスだったんだね」

 「おはよー。霧立さん澪がどこのクラスかわかる?」


 霧立さんは一瞬首をかしげたが、思い出したのか俺に確認をしてきた。


 「澪……松本さんの事?」

 「そうそう」

 「あの子確かあたしと一緒だよ。2-3だけど松本さんも確かいたよ」


 マジか!澪2-3なのか。去年は隣のクラスだったから移動楽だったけど、2-3と2-7って結構離れてるよなぁ……参ったな。できれば最も近い2-5が良かった。いやまあ授業とか全く違うからクラス近くても交流ないけどさ。


 『全校集会を行います。全員体育館に集合して下さい』

 「あ、集会か。行かなきゃな」


 放送がかかり、ざわついていた教室が一瞬静かになり、俺達は体育館に移動した。


 ***


 「おー山田ー国崎ー!!」

 「よお池上!」


 山田と国崎はどうやら隣のクラスの2-8らしい。よかったー遊びに行ける。澪も橘さんと一緒のクラスみたいだ、二人で仲良く話してる姿が見えた。あーいいなあ。もう俺と澪がクラス一緒になる可能性ゼロじゃん。澪に悪い虫付かないか心配だな。

 校長の話は相変わらず長くて、こんな話をまともに聞いてる奴なんかいないだろう。

 俺達は小声でひそひそ話して校長の話なんて全く耳を傾けてなかった。


 「長かったー」

 「でも今日はもうこれで後はHRだよな?」


 俺と光太郎と中谷は三人でダラダラ教室に向かっていた。

 確か担任は吉良って奴だった。熱血だけど話しやすい気さくな先生だ。なぜか中谷と仲がいいんだよな……


 「でも二年になっちまったな。俺まだ一年の感覚抜けないんだけど。もうあの教室に入ることないんだよなー」


 中谷がしみじみとつぶやいた言葉に光太郎が頷いた。確かに一年の教室がある一階にはもう行かないんだろうな、それはそれで少し切ないかもしれない。

 一階では入学したての一年が真面目に席に座ってる。やっぱり新しい学校で友達もまだできてないのか、皆大人しくしてる。それに比べて俺ら二年は馬鹿騒ぎ。一年でこんなにも変わるんだな。こうやってみるとまだ中学生ぽいんだよな。入学したての頃、大人になったって感動してたけど。


 今年はどんな一年になるのやら……


 ***


 ?side ―


 「真央ー!一緒のクラスじゃねー!よかった!」


 広島県私立中学。ここでも始業式は行われており、真央と呼ばれた少女は自分に走り寄ってくる少女に笑みを浮かべた。


 「おう佳代!また一年宜しくな!」

 「ねー知ってる真央。今回王子が同じクラスらしいんよ!じゃけ女子が皆わや喜んでねー。まああたしも人のこと言えんのやけどー」


 佳代と呼ばれた少女は嬉しそうにぴょこぴょこ飛び跳ねる。中学三年の教室はそれなりに友達同士が話しあっていて賑やかだ。


 「でもついに今年受験じゃ。勉強せんといけんわぁ」

 「そうやなー」

 「真央はいいじゃろ。去年空手で全国制覇したし、もう高校受験は推薦で一発やね」


 真央はその言葉に顔を俯かせる。

 真央。名前は女の子の名前だが、見た目は完全な少年だった。短く切られたショートの髪の毛に、空手で鍛えた筋肉は佳代よりも遥かに逞しい。佳代は真央とは逆でセミロングの栗毛色の髪にくりくりの二重の目。ふっくらした唇にピンク色のほっぺ。色白の肌、誰から見てもかわいらしい女の子だった。

 スカートから出た足はほっそりとしており、それこそ筋肉質の足の真央とは大違いだ。真央は眉毛もあまり整えてなく、女子の制服はそれこそ完全に女装のようだった。


 「おー賀来じゃー!相変わらずごついな――!」


 男子の一人が真央を笑いながら大声で呼びかけ、その言葉に真央は過敏に反応した。


 「うるせえ!お前がヒョロヒョロしすぎなんじゃ!!」

 「こわ!逃げろー!賀来相手にしたら殺されるぞー!」

 「ブチこえー!!」


 男子達はゲラゲラ笑って学校を走って出て行き、その光景を見て、周りの生徒も笑っている。それが馬鹿にされているようで、皆が自分を笑っているような被害妄想にかられ、どうしても学校が好きに離れなかった。

 小学生のころまでは皆が一緒に遊んでいたのに、いつの間にか取り残され周りはどんどん可愛らしくなっていた。空手で全国制覇という偉業を成し遂げた真央に対する評価が、今は自分を苦しめている。


 「早く帰ってジャージに着替えてえ。こんなんただの女装じゃ」

 「あいつらの言うことなんか気にせんでいいんよ?」

 「気にはしとらん。けど本当に俺似合わんもん」


 真央が元気を失くしてしまった事に、佳代は困ったように眉を下げた。


 「翔くん!」

 「翔君!一緒に帰ろう」


 しばらく沈黙が続いていた二人の間に女子の黄色い声が聞こえてきた。

 その声に真央と佳代が振り返ると、そこには三年の王子と言われている竹内 翔が歩いていた。翔の周りには数人の少女が翔にぴったりとくっついて校門を出て行く。あまりの光景に真央も佳代も開いた口が塞がらず数秒固まった。


 「あれは本当に王子やねーなんか親衛隊みたいなんおるし……わやじゃ」


 流石にミーハーの佳代もあの取り巻きたちの間に入る気はないようで呆れたように呟き、その様子を見ていた真央もため息をついた。


 「佳代、帰ろうや」

 「真央は今日も空手の稽古?」

 「親父がうるさいけぇのー」

 「そっか。真央と一緒に買い物行きたいわぁ。真央を可愛くコーディネートしてあげるんに」

 「そんなんしたって俺は変わらんって」

 「真央ーもー……」


 真央がさっさと歩いて行く後ろを佳代は複雑そうに眺めていた。


 ***


 「遅いわ!真央!何しとったんじゃ!?」

 「うるせえな!今から稽古するんじゃ!!」

 「親に向かってなんじゃ!?その言い方はぁ!?」


 家に帰って父親に怒られた真央は大声で言い返す。

 その言葉が逆鱗に触れたのか、さらに怒鳴ってくる父親を無視して真央は空手の稽古を始めだす。暫くは不機嫌そうな顔をしていた父親も、真央の稽古を見ている内に表情が満足そうなものに変わる。


 真央の父親も過去に空手で全国制覇をしており、勿論子供にもさせる気満々だった。


 男には。


 真央の母親が子供を身ごもった時には生まれてくる子が男だと信じて疑わなかった。無駄な確信を持っていたので、病院で性別は聞かなかった。分からないうちが楽しみだから。そう思いながらも男だと勝手に確信していたのだが。男物の服やおもちゃを買い続け、生まれてくるのを楽しみにしていた。

 自分の次に全国制覇をしてほしかった。


 でも生まれてきたのは女の子だった。


 父親は一瞬その事を悲しんだが、すぐに考えを切り換えた。どちらにせよ自分の可愛い子供なのだ。空手をさせよう。強い女の子にしよう。そう思った父は人形やままごとのセットなどは一切買い与えずに、元々買っていた男物の玩具ばかり真央に遊ばせ続けた。

 その結果は今の真央を見れば十分だ。男よりも逞しく成長した。中学二年の時には三年を押しのけて全国優勝を果たした。父親はとても満足していたが、真央はそうでもなかった。


 「すっげー真央頑張ってる」


 道場のドアから顔を覗かせたのは一人の子供。

 その子供を見つけた父親は手招きをした。


 「おおグイソン。そんなとこおらんでこっちにきんさい」

 「うん。真央すごいねぇ」

 「なんたって俺の子供じゃけんな!!」


 父親は豪快に笑う。

 でもグイソンはただまっすぐに真央を見つめていた。


 ***


 夜の二十時、夕飯も食べ終わり自分の部屋でくつろいでいた真央は人がいないことを確認し、鞄を漁り二冊の雑誌を取り出した。それはファッション雑誌と化粧品の雑誌だった。

 真央の密かな楽しみ……それはこの雑誌を読んでいる時。


 「綺麗やなぁ」


 モデルや化粧品を見て真央はしみじみと呟き、机の引き出しを開けた。

 引き出しの中には物が乱雑に入っており、その奥の蓋をされた箱に真央は手を伸ばした。


 箱の中には沢山の化粧品。


 お小遣いをためて少しずつ揃えていったものだ。自分には似合わない、そう思いながらも憧れて買い揃えてしまうのだ。


 「不毛じゃ……」


 自分が使えば、綺麗な化粧品もただの絵の具の様になってしまう。


 「まーお!」


 その時、ノックもせずにドアを開けてきたグイソンに、真央は慌てて化粧品を机の引出しにしまい込んだ。


 「ばっ!勝手に入んなよ!」


 真央の怒声にもグイソンは何食わぬ顔をして読んでいた雑誌を覗き込んだ。


 「真央また雑誌読んでるー」

 「声出すな!親父にばれたら……」


 父親は真央がこのような雑誌を読んでいたらどう思うだろう。軟弱者とか空手に集中しろとか言ってくるんだろうか。母親からは可愛い服を買いなさい。と、時々お金をくれて買い物に連れていこうとするが、それを拒んでいたのも真央本人だ。そのくせ、雑誌を読んでいると言うあべこべな構図は今に始まったことではない。

 グイソンはベッドに腰かけている真央の隣に腰かけた。


 「真央化粧しないの?この人が着てる服着ないの?」


 その目は本当に疑問に思っている目だ。

 何度も言ってるのに……そう思いながら、真央は何回も繰り返した同じ言葉を言った。


 「俺なんか着ても似合わんし」

 「そうなのかなぁ?真央はもっと自信もっていいと思うよ。あれつけてきなよ!きっと真央似合うよ!」


 あれ……グイソンが使った代名詞をすぐに理解した真央は顔をしかめた。あんなもの中学生の自分がつけれるわけがない。

 

 「あれはお前の契約石やろ?そんな高そうで大事なもんつけれんし。第一似合わん」

 「真央卑屈ー」

 

 卑屈にもなるさ、毎日男女って言われれば。今更化粧したところで恥ずかしすぎる。

 それこそ女装だと言ってからかわれるのが関の山だ。


 翔の前でこれ以上恥をさらしたくない。


 「真央って本当に翔が好きだねぇー」

 「は!?」


 いきなり出てきたグイソンの言葉に動揺するしかない。その反応にグイソンは笑って真央の頬をつついた。


 「顔に出てたよー。そっかそっか」


 グイソンはベッドから立ち上がって部屋を出ていった。


 「なんでわかった!?」


 出さないようにしてきたのに!なんでなんで!?恥ずかしすぎる!自分が恋してるのがばれるなんて!!

 自分の手で自分の頬を覆い、恥ずかしさで項垂れるしかなかった。


 「真央がその子と仲良くなれるように俺がおまじないかけてあげるね」


 グイソンがドアの前でそう呟いたのは聞こえなかった。



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