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第93話 水を操れ!

 『業火に焼かれるがいい』


 アミーの体から炎が燃え盛る。薄暗い空間の中で眩しいくらいに炎で輝いているアミーに思わずビビって身を引いた俺を庇うようにパイモン達が前に出る。


 『ヴォラク、ヴアル、できるだけ時間を稼げ。主のサポートを』

 『了解』



 93 水を操れ!



 『拓也、行きましょう』


 ストラスに促されて頷いた。パイモンたちのサポートをしないといけない。水の魔法を使えるのは俺だけなんだ。大丈夫、アミーを倒して……それからどうしていいかわからないけど。まずはこいつを倒すことだけを考えるんだ。

 そう心に決めて早速魔法を使おうと剣に水のイメージを吹き込む。


 『させない』


 しかしアミーは簡単には魔法を発動なんてさせてくれない。俺が何をしようとしているか分かっているんだろうか?アミーがこっちめがけて炎弾を打ってきた。


 「いっ!」


 急な展開に剣を引いて逃げる体勢をとる。その瞬間、ヴアルが向かってきた炎弾を爆発でかき消した。熱気と衝撃波のようなものが襲い、じっとりと嫌な汗が出る。


 『拓也、集中して!!』

 「わりい!」


 ヴアルに怒られて思わず謝ってしまう。

 でも今考えたら、そんなこと言われても自分のとこに炎弾飛んできたら中断するしかないじゃん。気にしないでなんて無理なんだけど。あー詠唱キャンセルしちまった。また初めからやり直しだ。


 『行くぞヴォラク!』

 『了解~』


 パイモンとヴォラクが一斉にアミーに斬りかかる。

 再び魔法を発動させるために剣にイメージを吹き込むけど、いつアミーがまた炎弾を飛ばしてくるか、目の前で音を立てて剣を振り回してるパイモンとヴォラクに気が気でない。そのせいで集中を欠いているせいか剣が反応せず中々発動できない俺をストラスが怒る。


 『拓也、集中しなさい。パイモンとヴォラクの方をチラチラ見ない』


 だってそんな事言われても……稽古の時にように絶対に邪魔が入らないなんて保証はないんだし。


 『あの二人は貴方が魔法の詠唱をしやすいように敢えてアミーから貴方を引き剥がしてるのです。それなのにあなたがその調子では困ります』


 悔しいけどまったく持って正論だ。集中しないといけない、集中しなきゃ魔法出せないんだから……

 目の前ではフォモスとディモスの炎を食らっても平然としてるアミーの姿。炎に包まれてる奴に炎をぶつけたところで確かに効かなそうだ。

 炎をまき散らしながらパイモンとヴォラクにアミーが襲い掛かる。そしてアミーの炎を身をもって受けているディモスがうめき声をあげた。


 『ぐっ……』

 『ディモス!平気か?』


 ディモスの声にヴォラクが心配そうな声を出す。大丈夫なんだろうか?ドラゴンの鱗ってすごい厚そうだけど、それでも炎に触れ続けてたら火傷するよな。

 あー!ますます気になって詠唱できねぇ!!


 『主、奴の炎を直接喰らえば我らとて長くは戦えぬ。実際我の鱗にも次第に熱が伝わってきている』

 『そうか、休んでろ。俺が出る』

 『しかし主!いくら主といえどあの炎をくらえば』

 『どっちでも同じだ。お前がやられれば必然的に俺が出ることになる。むしろ爪で攻撃するお前の方が直接あいつに触れるだけ分が悪い。休んでろ』


 なんかあっちもヤバい空気だ。ヴォラク一人で大丈夫なのか?大体身体全体に炎を纏うなんてありえねーだろ。そのせいでヴォラク達も戦いづらいみたいだし。集中できない、そのおかげで未だに魔法は発動されない。いい加減に発動してくれとでも言うようにパイモンが一瞬俺を睨みつける。怖い……

 その時、剣がうっすらと輝き始める。やった!ついに出せるぞ!

 そう思った俺は勢いよく剣をアミーに向けた。


 「よっしゃ!パイモン!ヴォラク!!行くぞ!」

 『拓也!お待ちなさい!』


 ストラスの制止も聞かずに俺は大声をあげてアミーに剣を向ける。


 バシャッ!


 「……あれ?」


 なんかバケツでぶっかけたくらいの水しか出ないんだけど。可笑しい。俺の予想ではもっとドバーって水が出るはずだったんだけど……練習ではもっと大量に出たのに……


 『主!何をしているのです!』


 一瞬こっちに気が向いたせいか、その隙にアミーに攻められてパイモンが苦しそうに距離をとる。

 え、でも……えぇ?

 思わず混乱している俺にストラスは苛立ちを隠せないように珍しく声を荒げた。


 『剣の輝きはイメージを吹き込んでいる証拠。その輝きが大きくなればなるほど魔法の威力も大きくなる。今のような微量な輝きではあの程度の魔法が精いっぱいとわかるでしょう!?』


 わかるかいそんなこと!初めて知ったし!!

 でも確かに使い慣れてる竜巻とかはもっと剣が光ってた様な気がする。うん、するだけだけど。やっぱり慣れない奴だと難しいのかな?大体何で竜巻使ったらいけないんだ?絶対ぶっ飛ばせるはずなのに……竜巻ぶつければ倒せるかな?

 そう思ったらすぐ行動。俺はすぐさま剣にイメージを吹き込んだ。一番使ってる魔法なのか、水の時とは違い、剣はすぐに輝きだした。

 あともうちょい輝けば……よし!

 十分な光を確認したところで俺は再びアミーに剣を向けた。


 「いっけぇ!!」


 剣から出た竜巻は真っすぐにアミーに向かっていく。


 『これは……なぜ竜巻なんて出したんだ……』

 『話全然違うだろ!!』


 パイモンとヴォラクが慌ててそれを避けて、竜巻はアミーを巻き込んだ。やっぱ一言忠告した方が良かったのかな?でも相手にあたったのは確認したし吹き飛んだし、やっぱ竜巻でいいじゃん!


 「よっしゃ来た!」


 アミーを吹き飛ばせた。これで倒せたはず!

 でも喜んでる俺とは裏腹に、ヴアルが怒声をあげる。


 『ちょっと拓也!なんで竜巻なんか出したのよ!?』


 へ?なんでヴアル怒ってんの?今の魔法結構うまくいかなかった?ストラスのため息が左から聞こえるし……何で?


 『拓也殿』


 呆れたような声のフォモスとディモスが俺の目の前に来て、話しかける。

 えーとどっちがどっちだっけ?


 「えーとお前がフォモス?ディモス?」

 『我がフォモスだ。いい加減見分けがつくように。それより自然の摂理を考えたことはあるか?』

 「せつり?」


 難しい単語に首をひねる。やっぱりと言うストラスのため息を俺は敢えて無視して、話を聞く。


 『それぞれの物にはそれぞれの弱点がある。炎の場合は水。それが相場であろう』

 「でもさ!吹き飛ばせた気がするぜ!?ダメージ与えれたんじゃない?」

 『何を言うか!風は炎にとって力を増す最大の要因であろう!』

 「え?何それ」


 それは化学で習ったかな?それとも一般常識?炎って風きかないの?でもボヤくらいの火事だと水かけるよりタオルとか服でバタンバタン扇いで消化してるし消せるんじゃねえの?


 『炎は酸素を消費して燃えている。そんな中、竜巻のような大量の風を与えたら大量の酸素を送り込むことが決まっておるではないか!?』


 ……あ―――――――――――!!!そうだった!そういや火事の時に窓を開けたら火がよく燃えるって話を聞いたことあるし!!あれだよな、バックドラフトだっけ?あ、それは密閉された場所だっけ?でも確かにそれ聞いたことある!

 思わず顔が青ざめていく。


 「じゃあ俺って今ミスった?」

 『それ以前の問題です』


 そんなあからさまに不機嫌そうに言わないでよストラス。


 『拓也!避けろ!!』

 「え?」


 フォモスとディモスに隠れて前があんま見えなかったから気付かなかった。目の前にはさっき自分が出した竜巻がこっちに逆流していた。しかもご丁寧に炎を含んで……


 「ぎゃああぁぁあああぁぁぁああ!!!」


 ってか明らかにあっちのほうが速度早くない!?今更気づいたところで避けれねーよ!!

 ヴアルが爆発の反動で竜巻の軌道を変えようとしてるけど、それをもろに跳ね返して真っ直ぐ俺の元に向かってくる。


 『もー!拓也イメージ吹き込みすぎじゃない!!?』


 剣は光った方がいいって言われたからめっちゃ光るまでイメージ吹き込んだ竜巻はかなりの威力らしい。

 墓穴掘った……絶対逃げれんし。


 『拓也殿!』

 「え?うわ!!」


 フォモスとディモスが俺を抱きしめてその場で身を固める。そのまま俺達は炎と竜巻に包まれた。


 『拓也!!』


 熱い!熱気が全身を覆ってる!目を開けたらきっと周りは炎で包まれてるんだろう。それを考えると怖くて目を開けれない。俺は必死になってフォモスとディモスにしがみついた。

 収まったのか?熱気が感じられなくなり、遅る恐る目を開けた。


 「フォモス、ディモス……」

 『拓也殿……無事で何より……』


 フォモスとディモスは大火傷を負っていた。背中や羽は焼け焦げ、煙が上がっている。

 その姿を見て、ヴォラクが悲鳴じみた声をあげた。


 『フォモス!ディモス!!』

 『ヴォラク様……我らは、ここまで……』

 『それはいいから休んでろ!一旦戻れ!』

 『すみませぬ……拓也殿、奴を必ず……』


 フォモスとディモスの体が透けて行く。それを見て何も言えなくなってしまった。自分のせいでこんなに傷つけてしまった。途方もない罪悪感が襲いかかる。放心して座り込んでいる俺の周りは静かで誰ひとり声をかけてこない。


 『愚かな継承者、自分の無知を思い知ったか』


 アミーの言葉に反論することができない。確かに俺が馬鹿すぎた。そんな俺にヴォラクが黙って近づいてくる。


 『拓也……』

 「ヴォラク、俺……」


 乾いた音が空間内に響いた。頭を思いきり殴られて痛みで蹲る。頭上から聞こえてきた声は怒りで震えていて、ヴォラクが本気で怒っていることを理解した。


 『なんでこの事が予想できなかった?』


 ヴォラクの声が震えてる。こんな声聞いたことない。思わず怖くなって俺の声も震えてしまう。


 「……ごめん」

 『パイモンがなんであれだけ水魔法を練習させてたのかわかんないのか!?お前がいつも使う竜巻が今回役に立たないからだろ!?なんでお前はいつもそうなんだよ!役立たず、愚図!!ふざけんなよ雑魚がしゃしゃってくるな!!』

 「ごめんなさい!!」


 謝ることしかできない。

 申し訳なさと恥ずかしさと、今まで言われたことのないヴォラクからの暴言にあまりにも情けなくて惨めで涙があふれた。俺はヴォラクにいつも役立たずの愚図って思われていたのかもしれない。


 『ヴォラク、何もそこまで……拓也は貴方と違って一般人なのですよ』

 『うるさいストラス。お前は甘いんだよ。こんな初歩的なミスが許されるもんか。言われたことだけしとけばいいのに、一般人もクソもあるか』


 顔をあげない俺を見て、咄嗟にストラスが助け船を出す。それを遮ってヴォラクに肩を強く捕まれ、痛みで顔が引きつる。


 『ふざけるなら余所でやれ。フォモスとディモスを巻き込むな』


 そんなつもりじゃないのに……でもそう思われても仕方ない気がする。

 だっていつも役に立たなくて、結果狙われて、その度にあいつ等が庇って傷ついて……今回は別に狙われているわけじゃなかった。全部自分自身で招いたことなんだ。


 『ヴォラク、話はそこまでにしろ』


 パイモンがヴォラクを俺から引きはがす。邪魔が入ったことに苛立ったヴォラクはパイモンを睨みつけた。しかしパイモンがヴォラクの顔を思いきり平手で殴り、あまりに綺麗な音が響いたことで俺もストラス達は目を丸くし、アミーはこの光景が面白いのか邪魔することなく笑ってみていた。


 『な、なんで俺を殴るんだよ!お前可笑しいだろ!?今の見てたら拓也が悪いのわかるだろ!?』

 『俺の契約者に手を出したからやり返しただけだ』

 『はあ!?ならサブナックとの時に中谷の頭殴ったとき、俺がやり返してよかったのかよ!?』


 『もちろん当然の権利だ。俺はお前に殴り返されることを覚悟で中谷を殴ったぞ。お前は状況を納得したからやり返さなかったんだろう。ただ、俺はやり返すぞ。目的を忘れるな、俺達はアミーと戦っているんだぞ。今、仲間割れをしたところで仕方ないだろう。まあ、お前には気の毒だとは思っている。今回は全て主の不注意だが、その件に関しては俺からも謝罪を入れる。悪かった。しかし主は戦いの素人だ。若干パニックになっていたのはお前も気づいていただろう。主は俺達をただサポートするためにあの魔法を使ったんだ。主はあの魔法が一番得意みたいだからな。それを頭ごなしに否定するな』


 『……納得いかねえよ』


 歯を食いしばったヴォラクが背中を向ける。驚いて涙が止まった俺に舌打ちをして去っていったヴォラクに再度謝罪を入れると、返事が返ってきた。


 『……次はねえからな。まずはあいつをぶっ殺してからだ』


 ヴォラクはため息をついた後、再び剣を持ってアミーの方に向かっていく。

 そんなヴォラクを呆然と見ていると、パイモンが俺に近づいてきた。思わず肩が震えた俺にパイモンは苦笑いだ。


 『そのように身がまえなくてもいいですよ。落ち込むのならアミーを倒す事でヴォラク達に伝えましょう。まだチャンスはある』

 「……俺、頑張る」


 そうしたらヴォラクは許してくれるんだろうか?今度こそちゃんと……

 俺が立ち上がったのを見てパイモンは目を細めて笑い、そしてアミーの元に向かった。


 『待たせて悪かったなアミー』

 『面白かったから良しとするか。コントのようなやり取りだったな。契約者が馬鹿だとお互い苦労するな』

 『……先ほどのやり取りを見ての言葉だとしたらお前も相当の馬鹿だな。俺は自分の契約者に対する侮辱や暴力は全てやり返すぞ』


 パイモンとヴォラクが斬りかかって時間を稼いでくれている。再び剣に集中しようとした俺をヴアルとストラスが励ました。


 『拓也大丈夫?ヴォラクの言う事気にしちゃ駄目だよ。頭に血がのぼってるだけだから……貴方に攻撃は通さないから、私たちを信じて魔法を使うことだけに集中して。大丈夫、拓也ならできるから』

 『私も貴方を急かしてしまい申し訳ない。多少時間がかかってもいい。私たちがカバーすればいいだけだ。だから焦らず、ゆっくりやりなさい』


 心配してくれる二人が有難い。でも本当に大丈夫なんだ。情けない姿を見せたけど、全部俺が悪いから。ヴォラクがフォモスたちを大事にしていたこと、知っていたはずなのに。軽率なことをしてしまった報いがあの程度なんてきっと温いくらいなんだろう。


 「あんがと。でも全部俺の責任なんだ。俺のせいであいつらはあんなになったんだ」

 『拓也は頑張ったよ。知らなかったんだもん。しょうがないよ』

 「そんなんじゃ済まされない。怪我負わせちまったんだ。そんな言葉で納得ができるはずがない。今度こそ……」


 イメージを剣に吹き込む。風を吸い込んだアミーの体はますます大きな炎に包まれており、あんなの並大抵の水じゃ消えないだろう。

 何を考えればいいんだ?パイモンとの練習じゃ高圧の水を直線上に飛ばす練習しかしなかった。でもそれはビームみたいな感じで水の量もそこまで多くない。


 『私の力をそんな風に使わないで』


 目を瞑ってる俺には声しか聞こえない。目を開けて辺りを見渡すが、俺たち以外に人はいない。いきなり何かを探すように首を振る俺にストラスは心配そうな視線を向けてくる。


 『拓也?』

 「ストラス、今声が聞こえなかったか?」


 ストラスが首を横に振った。気のせいなのか?俺は再び剣にイメージを吹き込む。


 『継承者、私の力を見せてあげましょうか』


 やっぱり何か聞こえる……多分天使だ。助けてくれようとしているんだろうな。返事をするように呟いた。


 「見せてやるって何をだよ」

 『私のイメージと貴方のイメージがシンクロしたら巨大な魔法が生まれる。水の中でもっとも恐ろしい力をイメージしなさい』


 イメージ?なんでその名前を教えてくれないんだよ。とりあえず何がある?

 集中しながらも必死で考える。集中豪雨?台風?いやこれは風があるな……何か……あ……

 思いついた一つの答えにこれだと確信した。声の主はクスクス笑いながら、俺に答えを催促する。


 『いけるの?』

 「いける。絶対これだ」


 あいつの炎を消すにはこれしか思い浮かばない。


 『そう。当たるといいわね』


 目を開けると、剣の光が大きく輝いており、それをアミーに向ける。

 きっとこれだ。この魔法さえ使えれば!


 「いけ!!」


 大声を出した瞬間、剣からは大量の水が噴射された。パイモンとの練習の時の非じゃない。ヤバいぐらいの量だ。


 『拓也それは!』


 でも水は一向にアミーに襲い掛からない。大量に噴き出た水はどんどん目の前にたまって行く。やっぱり合ってたんだ、あの女と同じイメージができたんだ。でも未だにあふれ出る水は止まる気配がない。


 『拓也、これ一体何なのよぉ!?』


 ヴアルが焦ってオロオロしてる。

 でも魔法に集中してる俺はその言葉に返事をする余裕がない。できるだけデカいのをお見舞いするんだ。あいつの炎全てを消し去るくらいの。

 剣から水が出なくなり、目の前に巨大な水の塊が浮いている。これを全部あいつぶつけるんだ。大丈夫、ヴォラク達は避けてくれるよな。


 「行け!!」


 俺の掛け声とともに水は一斉にアミーに向かってなだれ込んだ。


 『これは……津波!?』

 『すごい、こんな魔法……』


 ストラスとヴアルもあんぐりしてこの光景を見ている。ヴォラクは空中に浮かびパイモンの手を取る。


 『げっ!何だよあれ!津波じゃんか!拓也容赦なさすぎだろ!』

 『ヴォラク!避けれるか!?』

 『わかんない!でも行けるとこまで行くしか!』


 波はどんどん押し寄せてくる。流石の光景にアミーも驚きを隠せなかった。どうやっても避けられないくらいの量だからな。流されるところまで流されちまえ!!


 『これは……』


 ***


 『派手にやりましたね』

 「すげえな……」


 自分で出してしまって自分で驚く。まさかこんな大魔法が使えるなんて思わなかった。さっきまでこの場を満たしていた大量の水は時間が経つにつれて消えて行った。ストラスが言うには魔法の効果がきれたんじゃないかって。この剣と指輪は本当にやろうと思えば無限大に何でもできるのかもしれない。

 水か消えてクリアになった視界の先には倒れているアミーの姿があった。


 『拓也の奴、巻き込みやがって……』


 あ、ヴォラクとパイモン避けきらなかったんだ。アミーから少し離れた場所で二人もビショビショになって倒れていた。思わず駆け寄ろうとした俺を制して、ヴォラクが叫ぶ。


 『アミーが倒れている今だ!拓也、早く召喚紋を!!』

 「わ、わかった!」


 ストラスに教えてもらいながらアミーを召喚門で囲んでいく。

 アミーは口から水を吐き出して、咳をしながら起き上る。


 『くそ……まさか』

 『残念でしたねアミー。ここまでです』

 『チクショウガ!!』


 召喚門で囲んだ瞬間アミーが小さな炎の姿になった。炎には目と口がある。なんかこの顔どっかで見たことあるぞ。あ、ハウルの動く城で見たあの火にそっくりなんだ!!でもなぜ?

 凝視している俺にストラス先生が解説を加える。


 『アミーの本当の姿はこの炎です。人間界の姿を今までしていただけです』


 いやいやいや詐欺すぎるでしょ。なんか可愛いし、しかも言葉づかいも乱暴になってるし、さっきまでのボソボソ呟くような雰囲気は皆無だ。小さな炎になったアミーはピョコピョコ飛び跳ねながら「くそー」とか「死ねー」とか言っている。


 『アミーは他人からの目を気にしていて、人間の姿になると格好つけなんですよ。これが素です。餓鬼くさいでしょう?』

 『ウルセエ馬鹿!フクロウノクセニ!人間ナンカニヤラレテ!恥ズカシクテ地獄ニ戻レナイゼ!!』


 なんだこの減らず口は。頭からもう一発、水をかけてやろうか。

 そんな事を思っていると、起き上ったパイモンが俺たちに声をかけた。


 『主、一度部屋に戻って召喚石を持ってきてください』

 「あ、うん……」


 ストラスと俺はパイモンの空間から部屋に戻って、契約石をとりに行くことにした。


 ***


 「拓也!倒したのか!?」


 空間を出た俺を見るや否や、シトリーが俺に走り寄ってくる。シトリーは俺に外傷がないか確認して、特に大きなけがない事に安堵の息をついた。


 「うん。なんとか……契約石取りに来たんだ」

 「ああ、これか」


 シトリーの手には宝石が握られている。これって契約石だよな。探す手間が省けたのは有り難いけど、どこにあったんだろう。シトリーの持っているピアスをマヤはつけていなかったように思えるけど。


 「なんでシトリーが……」

 「あいつのカバンの中漁ったら出てきた。このカバンもすぐに処理しなきゃな」


 澪の姿が見えない。隣の部屋にでもいるのかな?

 会いに行きたいけど、先に悪魔を返してからだよな。契約石を持って俺は再び空間の中に飛び込んだ。


 「なあストラス、澪の姿がなかったけど大丈夫かな」

 『セーレが付いています。大丈夫でしょう』


 澪はセーレになついているから、そうだな。セーレが隣にいるのなら安心かも。でもきっと泣いていると思うから早く向かって励まして安心させたい。空間に再び戻った俺はパイモンに契約石を渡す。


 『アベンチュリンのピアス……これですね』


 パイモンはそれを召喚門の中に投げ入れた。

 アミーは投げられた契約石を慌ててキャッチした。お前大体どこに耳があるんだよ。それつけれんのか?


 『ワッワ!俺様ノ契約石!何スンダヨー!』

 『自業自得だ』


 なんて的確な突っ込み。パイモンはそう吐き捨てた後に呪文を唱えていくと、アミーの体が透けて行った。アミーは自分の体を見て、涙目になりながら大声で叫んだ。


 『クッソー!覚エテロヨー!!』


 まさに負け惜しみ……その言葉にふさわしい言葉を残してアミーは消えて行った。


 『終わりましたね』


 その言葉で全てが片付いたことを察して座り込む。どうなるかと思った。マンションに来られた時、本当に燃やされるんじゃないかって。良かった……でも俺、謝らなきゃ……

 隣に座り込んでるヴォラクに近づく。ヴォラクは俺が近づいたことに嫌そうな顔をする。それに少し傷ついたけど、ヴォラクの正面に座って土下座する勢いで頭を下げた。


 「ヴォラクごめん……」

 『……次からはちゃんと考えろよ馬鹿』


 ヴォラクはじっと俺を見た後、にこっといつものように笑ってくれた。ヴォラクの言葉に頷いた後、ヴアルから早く澪の所に行けと急かされて慌てて空間を出た。


 「澪!」


 空間を出た先には澪が待っており、俺を見て走り寄ってくる。


 「拓也!よかった……怪我はない?」


 俺が頷くと、安心したのか、澪は両手で口元を覆い、涙があふれ出した。


 「よかった。本当に良かった……」

 「澪……」


 不安にさせてごめんな、でももう大丈夫だから。そう言うと、澪は少しだけ笑った顔を見せてくれた。その顔に少しだけ安心した。でも澪はすぐに辛そうな顔をして、マヤの姿だったはずの砂をじっと見つめた。


 「でもなんでマヤはこんなひどい事を……」


 その答えを俺が知るはずもない。本当にただの嫉妬だったのか、あるいはもっと理由があったのか。

 セーレが砂をすくって、少しだけ悲しそうに瞳を揺らす。


 「ここしか世界がなかったんだろうね」

 「セーレさん?」

 「だからそれを奪ってしまう可能性があったエリカやシトリーに不快感を感じていた。全く不器用な子だな。そこまでして守りたかったのか……」


 ***


 澪side ―


 「アユミちょー可愛いよねー!!」

 「あたしやっぱりアカネかなぁ?」


 マヤがいなくなったことに誰も気づかない。マヤの代わりに新しいトップになったアカネやヨーコに集中が集まってる。その光景を見るたびに胸がズキズキ痛む。何も知らない人たちは何事もなかったように会話をしている。あれだけ凄惨な事件があったと言うのに。


 「わかってたけど辛いな」


 あたしと一緒に帰っていた裕香が不思議そうにあたしの顔を覗き込んだ。うっかり声に出てたみたい。


 「澪、なんか言った?」


 裕香に軽い笑みを向けて「何も言ってないよ」と答える。裕香はあたしの言葉を聞いた後、すぐに話題を変えてきた。


 「今度ねー雑誌の撮影が原宿であるんだってー!澪行かない!?」

 「ごめん。あたしはいいよ」


 あんなことがあって素直にファンを続けるなんてできない。モデルと言うものがすごく怖く感じる。本当は明るくて楽しい職場なのかもしれないけど、そう思えなくなってしまった。なんでこんなことになったのかな……マヤは本当に地位だけを守りたかったのかな。それはもう誰にも分らないんだろう。


 ***


 ?side ―


 天界、その世界から一人の女性が地上を眺めていた。その女性に一人の青年が近づいて行く。


 『お前勝手にあいつのとこに行っただろ。何やってんだよガブリエル、俺の仕事だぞ』


 ガブリエルと呼ばれた女性はため息をついて、振り返った。


 『いいじゃない上手くいったんだから。助けてあげたのに、なあに?その言い方は』

 『ったく……いろんな奴が首突っ込むと面倒なことになるんだよ』

 『貴方がさぼらなければ私だって何もしないわ』


 ああ言えばこう言う……ウリエルはため息を1つ。

 そんなウリエルを見てガブリエルは軽く笑ったあと、再び地上を見下ろす。


 『でもあの子頑張ってるじゃない。これならすべての悪魔を地獄にかえせそうね』


 そんな訳ねえだろ。とすかさず突っ込んだウリエルにガブリエルは目を丸くした。


 『パイモン達が戦ってるからだろ。現に実力で倒した奴なんてほとんどいねぇんじゃねぇか?』

 『そうなの?』

 『ああ。剣豪と言われたサブナックも実際は契約者が契約石を壊したことによって地獄に返してる。ネクロマンサーのビフロンも他者の力を借りて、今回もお前の力……駄目駄目だな』

 『いいじゃない。結果は倒せてるんだから』

 『まあそうなんだけどな』


 そしてガブリエルは美しい笑みを浮かべて呟く。


 『あの子が地獄に連れていかれるのだけは阻止しないとね』

 『あぁ。俺が出れたら問題ないんだけどな。力は温存だとよ』


 吐き捨てるように言い放ったウリエルにガブリエルは苦笑いを浮かべた。

 ウリエルはガブリエルの隣に座り、地上を見下ろし呟いた。


 『ちゃんと逃げ切れよ拓也。お前を心から待ってる糞ガキからな……』


登場人物

マヤ(篠崎 麻耶)…有名雑誌のトップモデル。

          自分に絶対の自信を持っており、プライドが高い。

          また嫉妬深く、自分より優れている人間がいるのが許せない。


アミー…ソロモン72柱序列58番目の悪魔。

    36の悪霊軍団を率いる地獄の大総督であり、燃え盛る炎の姿だが、魅力的な男性の姿をとるとも言われる。

    召喚者に占星術と教養学についての完璧な知識を授けるとされている。

    また相手が自分を必要とするように力を働かせてくれる。

    しかしその場合、代償に人間の魂を要求するのだが、その魂は召喚者本人のものではなくとも構わない。

    契約石はアベンチュリンのピアス。

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