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第91話 居場所のために

 セーレside ―


 「うっざい」


 携帯をいじっていた女のシトリーが嫌そうな顔をして画面を睨みつけている。最近シトリーはこんな感じで携帯にかじりついている。そういえばずっと女のままだけど、男に戻ってないな。


 「シトリーどうしたんだ?」

 「だってあの編集長、何回も何回も電話掛けてくんのよ。見学しかしないっつってんのに」


 編集長?ああ雑誌のね。そんなの力を使ってしまったのならしょうがないんじゃないのか?毎日のように連絡が来ているとは言っていたな。もう無視すればいいじゃないかと言いたいけど、契約者探しのためにそうはいかないのは少し可哀想だ。

 頼んでいるのは俺達で、シトリーは協力してくれているから悪いことをした。


 「君の力を使ったからじゃないか」

 「そうなんだけど少しだけよ。なのにこんなにしつこいなんて」



 91 居場所のために



 シトリーが内容見せるために携帯を俺によこしてくる。その画面に映っていた着信履歴やメッセージを見て、これは顔をしかめるしかなかった。だって彼女の履歴はもうほとんど編集長のもので埋まっていたから。

 一時間おきに何かしらのアプローチをされている状況だ。確かに男のシトリーだったら面倒くさいって相手をブロックしてしまいそうだ。それをしない辺り、女のシトリーの方が我慢強いんだろうな。


 「なんで番号教えたんだ?」

 「だって……調べるには教えるしかないでしょ?あんた何言ってんのよ」


 確かにそうか。あほなこと聞いたのは俺の方か。

 納得している俺を横にシトリーは面倒くさそうに立ち上がる。


 「どこに?」

 「撮影現場。来てくれってうるさいから。セーレ、あんたも来なさいよ」


 いきなりのご指名に驚くしかない。だって今回はただの撮影見学であって俺には関係ないだろう?俺全く関係ないじゃないか。でもシトリーは意地の悪い笑みを浮かべて腰に手を当てる。


 「なんで俺が……」

 「ボディーガードよ。あんたなら私と歩いても見劣りすることないからね。あんた聞こえてなかったの?モデルたちがあんた見てざわついてたわよ。海外のモデルかな~って」


 シトリーの言葉に苦笑いしか出ない。もう少し言葉はオブラートに包んでほしいものだ。

 でも頼まれたら俺も断れない性格なので、渋々だけど了承することにした。


 「相変わらず高飛車だなぁ。一人は心配だし、いいよ。行こうか」

 「いやーん素敵!セーレのそういうとこ王子様みたーい」


 シトリーがウィンクをしてくるのを軽く受け流し、ゲームをしているヴォラクと応援しているヴアルに声をかけた。


 「ヴアル、ヴォラクどっちか来てくれ。俺はもしもの時に戦えないから」

 

 ヴォラクは面倒そうに「嫌だよ」とバッサリ切り捨てて再びゲームに視線を戻したが、ヴアルは嬉しそうに立ち上がった。


 「じゃあ私が行く!ヴォラクはパイモンと留守番でいいよね?だってこないだ行ったもんね」

 「勝手にすれば」


 ヴアルが来るのか。なんかすごくウキウキしてるけど大丈夫かなぁ?

 とりあえずマンションの近くに迎えの車も来てるみたいだし、俺達はその撮影現場に向かった。


 ***


 「きゃ――!マヤだ!本物だ!」


 思わず声を出したヴアルの口を慌てて塞ぐ。


 「ヴアル、騒いじゃダメだって」


 ヴアルは確かこの雑誌を澪といつも一緒に読んでたから、そのモデルに会えるのは嬉しいだろうけど、あっちは仕事な訳で、何も関係のない俺たちが騒ぐのはあまりよろしくない。それに子供の見た目のヴアルが相手を呼び捨ては多分心象的によろしくない。日本はそういうのきっと厳しい国だから。

 そう思ったのは俺だけではなかったようだ。シトリーは馬鹿にしたように笑い、ヴアルの鼻を指でつついた。


 「あんた何か勘違いしてない?悪魔探しにきてんのよ」


 シトリーの突っ込みにヴアルは「わかってるわよー」と唇を尖らせる。しかし憧れのモデルを目の前にちょっとくらいはしゃいでもいいだろうと言う表情に苦笑い。そんなヴアルをなだめていると、一人の女性が近づいてきた。女性はシトリーの手を握って笑顔を向ける。あ、もしかしてこの人が……


 「来てくれたのね。今日こそ撮影を」

 「しないっつってんでしょ。しつこいわね」


 なんかシトリーばっさり切り捨てたけど、どうやら俺の予想通りらしい。断られたというのに編集長のこの女性はニコニコ笑ったまま。シトリーの力が効いているとしたら、本当に恐ろしい能力だ。対人に置いては最強クラスだろうな。

 シトリーと編集長が歩いて行き、俺とヴアルはその後をついて行く。


「セーレ、あの人誰?」


 そうか、ヴアルは確かこの人の話は聞いてなかったはずだ。俺は自分の憶測だけど、ヴアルに説明した。


 「この雑誌の編集長だよ多分ね。シトリーはあんまり力使ってないって言ってるけど、彼女にベタ惚れらしいんだよ」


 ヴアルは「ふーん」と呟いてまたキョロキョロと辺りを物珍しそうに眺めていたのに急に俺の腕にしがみついてきた。体を半分以上俺の後ろに隠し、首から頭だけを斜めにずらし、小声でつぶやく。


 「ヴアル?」

 「セーレェ……なんか怖いよぉ」


 怖い?何があったのかと思い、ヴアルが向けていた視線の方に目を動かす。そこにはこっちをものすごい形相で睨んでいるモデル達がいた。

 その目は「早く消えろ」と物語っており、歓迎されていないことがすぐに分かった。やっぱり競争率の高い職場は色々と大変そうだ。それにしてもここまで敵意をむき出しな視線を向けられて正直いい気はしない。向こうだって他人に見せる仕事なんだから一般人の俺とヴアルを敵対視しなくても……

 そんな話をしている間にスタッフなのかな?ラフな格好をした人たちが椅子を置いてきた。座っていいんだろうなと思い、俺とヴアルは椅子に腰かける。こっちを見ていた編集長は再度シトリーに話しかけた。


 「あの子は貴方の妹?彼はどなた?上背もあるし、是非メンズモデルとして起用したいくらいだわ」

 「この子は妹、あいつは私のボーイフレンドよ。あいつにモデルとか務まんないわよ。いいのは顔だけで優柔で人見知り激しいんだから」

 「あいつって……」


 俺のことそう思ってるのか?全くこの女王様は……その言い方はあんまりじゃないか?苦笑いしか出てこない。そんな俺の反応を指さして「ほら、ああやって誤魔化すの。ハングリー精神ないから無理無理」と再度馬鹿にしてくる。なんだか悲しくなってきた……

 シトリーは俺の隣に腰かけて、足を組んで撮影現場を眺めている。そのシトリーの前にモデルの一人がやってきた。


 「マヤだ!」

 「ヴアル、さんをつけて。マヤさん」


 でもヴアルの言葉にピンとくる。この人がそうなのか……澪とヴアルが特にあこがれているモデルさんだっけ?近くで見ると確かに美人さんだな。日本人特有の童顔だけど目鼻立ちがはっきりしていて身長は高く体系もスリムだ。こういうの海外でKAWAIIって言われてるやつなのかな。

 マヤは俺達の前に立ち止まり、俺とヴアルには視線もよこさずシトリーの前に仁王立ちした。


 「……撮影しないの?」

 「別に?撮影なんて興味ないし。それよりあんたは撮影しなくていいの?」


 おい止めろって。あんまり場を乱すようなこと言うなって。マヤの表情が変わり、目つきが鋭くなっていく。シトリーの態度もあれだけど、そんなに嫌そうな顔する事ないじゃないか。


 「撮影終わったら話があるからちょっといい?」

 「構わないわ」


 マヤはそれを聞いて軽く笑うと撮影場所に戻って行った。一体何なんだ……


 「ねえねえシトリー」

 「あいつ嫉妬してんのよ。醜い女の象徴ね。セーレ、ちゃんと待っててよ。勝手に帰ったらぶっ飛ばすわよ」


 シトリーに釘を刺されて頷くしかない。この撮影さえ終われば、我儘なこの女王様のお付きを終えられると思ってたけど、そんなに世の中甘くないものだ。


 「やれやれ……」


 ***


 「おつかれさまでしたぁー!」


 スタッフの一人がそう告げれば、緊迫していた空間が少しずつ和やかになっていき、撮影が終了してモデルの皆が各々更衣室に向かっていった。ピリピリしていたけど、仕事中だけだったのかな。終わった後はカメラマンは撮った写真の確認をして、他のスタッフは雑談をしながら片づけをしていく。

 俺達も椅子を回収に来たスタッフの一人に頭を下げて立ち上がって帰宅準備をする。結局シトリーは最後まで一枚も撮影をすることなく、暇そうに待機しているだけだった。


 「すごかったねーすごかったねー!!」

 「良かったねヴアル」


 嬉しそうに話すヴアルを見て、連れてきてよかったなと感じる。

 遊びではないけれど、ヴアルにとっては自分の憧れの人を間近で見れて楽しかっただろう。


 「おい」


 その声で現実に戻される。シトリーの目の前には不機嫌そうに佇むマヤの姿。さっきまでは綺麗な笑顔を見せていたのが嘘みたいだ。シトリーはかったるそうにあくびをして立ち上がる。


 「今行くわよ。うっさいわねぇ……じゃあ行ってくるわ」

 「うん。どこで待ってればいい?」

 「そうねービルの前で待ってて」

 「わかった」


 ヴアルの手を引いて撮影場所を出て行く。

 シトリーは大丈夫なのかなぁ。


 ***


 シトリーside ―

 

 「で、なんな訳?なんで呼び出すのよ」


 マヤに連れてこられた場所は倉庫。そんな部屋に誰かがいるはずなく、勿論あたしとマヤの二人きり。私って一応部外者だから、ここに入っていいのかしら。まあこのブスに連れてこられただけだし~何かあったらブスのせいってことで!

 でもこれは狙われてると考えちゃっていいわよねえ。マヤは険しい表情で睨みつけてくる。おお怖い。嫉妬する女っていやよねー


 「お前枕でもした?それとも金つんだ?いきなり現れてなんだあの態度は?調子乗ってんじゃねえぞ」


 はいきたー典型的なパターン。この私が枕なんて笑っちゃう!そんなものなくても私にはこの美貌と力で全て思い通りだっつの。あんたと違うんです~


 「何が?私は別にモデルする気ないもの。あっちが頼み込んでくるだけで」

 「それが調子こいてるっつってんだよ!!」


 マヤは近くにあったセットを思い切り蹴飛ばした。どうやら地雷を踏んでしまったみたい。

 っていうか思いっきり道具を蹴り飛ばして、壊れたらどうすんのよ。危ないわね。


 「てめえウゼぇんだよ。編集長のお気に入りかなんだか知んねえけどよ。なに当たり前のように居座ってんだよ。あ?」

 「やばこわ。うける。ちょっと携帯の動画とっていい?これネットにあげるわ。もっかい同じのやって!」

 「人の質問に答えろよ!!」


 こいつとことんを問い詰める気ね。あんた私に何を言ってほしいのよ。私からしたらそんなにまでして、あんな雑誌の表紙を守りたいっていうことが不思議だけどね。別に世界に通用するモデルでもないくせに。

 でもだからと言ってこんなに切れられる理由はない。そっちがその気ならこっちだって言ってやろうじゃないの。


 「あんたに答えることなんて何もない。何喧嘩売ってきてんの?ああ怖いんだ。私が気に入られてるからってヤキモキしてんでしょ」


 あたしの言葉にマヤが詰まるのがわかる。


 「そうよねえ。私を表紙に使うって言ってたしモデルするって言えばもう私がトップ決定だものね。あ、実力でも絶対に私が上よ?だってあんた可愛くないもの。てか私と同じ土俵に立てるとか思ってる?そっちこそ喧嘩売らないでよ。なにあんた必死でたっかいヒールはいて身長高くして~寸胴チビが無理すんなって~!おっぱいも小さいくせに強調するような服着てダサいってそれ。私服のセンスないの壊滅的。あと化粧似合ってない。元々化粧映えしない顔なんじゃない?」


 少し言いすぎたかしら?黙っちゃったわね。でも言いたいこと言ってすっきり!さーってセーレとヴアル待たせてるしかーえろっと!


 「遺言はそれだけか……?」


 背を向けた私にマヤがそう告げた途端、寒気がした。嫌な予感がする。何かわからないけど、すっごい嫌な予感……


 「入って来い」


 マヤが呟いた途端、倉庫の扉が開く。

 そこには一人の青年の姿。この男に見覚えがある。だってこいつは……


 「……アミー?マジで?」

 「お前誰だ?俺と会った事あるか?」


 あ、こいつ男のシトリーしか知らないのか。ならしらばっくれたらよかったのに、私の馬鹿ー!

 アミーは私が悪魔だってことは絶対にこれで見抜いていると思う。しかし誰かまでは分からないらしい。


 「良くわからんが、本来の姿から化けられる悪魔はどこにでもいる。俺の邪魔をする悪魔だとしたら……ここで始末できるから好都合だ」


 私たちのやり取りにマヤが目を丸くする。


 「知り合いか?」

 「俺は知らんが向こうは俺を知っているらしい。悪魔であることに間違いはないだろう」

 「ふん、まあいい。アミー命令だ。また編集長に力をかけろ。その代償はこの女の魂だ」


 こいつが契約してたのね!?つーことは、エリカを殺してエリカの魂を代償に編集長にアミーの能力をかけてたのか。こいつの能力って魂と引き換えに相手の好意を自分に寄せるって奴よね。正直私の能力の方が上だから下位互換だけど、ただ……こいつの場合は、それがメインの武器ではない。


 「主の仰せのままに」


 アミーの体が炎に包まれる。そうだ、こいつは火炎術師として有名なんだ。自らを炎にして戦う悪魔。

 流石にやばい!逃げなきゃ!!

 走って倉庫を逃げ出そうとする私の前にアミーが出てくる。


 『逃がすか』


 アミーが投げてきた炎弾を近くにあった道具を盾にしてそれを避ける。道具には見事に炎がうつり燃え上がっていく。


 「あちゃー火事になるわね。まあしょうがないか!」


 そんなこと言ってらんないし?私はその道具を思いっきりアミーに投げつけ、その隙になんとか倉庫から逃げることに成功した。倉庫のドア、あいつが閉めてなくてよかったわ。あいにく本来の姿が豹なだけに足には自信がある。捕まるもんですか!とりあえずこの事を拓也達に報告しないと!


 マヤを見てあんなにはしゃいでたヴアルには少々酷だけど。

 しっかし面倒なことになったわね。あの執念深そうな女、絶対に私を追いかけてきそうね。エレベーターに飛び乗って一階で待機していたセーレとヴアルの元に走って向う。二人は走ってきた私に目を丸くしていた。


 「どうしたんだ?そんなに慌てて……」

 「早く帰るわよ!悪魔を見つけた!火炎術師のアミーよ。マヤが契約してた。おそらくマヤがエリカを殺したのよ」

 「う、そ……」


 ヴアルの目が見開かれて悲しそうに揺れる。その表情を見て、可哀想だと思ったのはセーレだけじゃない、私だって可哀想だなって思うのよ。ヴアルの体を抱きしめてあやす。あんた憧れてたのにね、本当に見る目がない子。


 「そんな顔しないで。私まで悲しくなっちゃうでしょ」


 ビルを出て足早にマンションに向かう。奴隷に送ってもらうのも危険だし、あいつはそろそろ私の能力から開放しておこう。私のことを漏らされても面倒だし、良かった。住所とかは一切教えてなくて名前だって勿論偽名だしね。帰りの電車の中でセーレがポツリと呟く。


 「でもどうして彼女が……」

 「あいつは雑誌のトップを奪われることを恐れていた。だから自分を引きずり下ろしたエリカを殺そうとしたんじゃない」

 「それで、ね……急いでマンションに戻ろう。シトリー、拓也に連絡入れて」

 「わかった」


 ***


 拓也side ―


 「電話で聞いたんだけどマヤが悪魔と契約してたってマジか!?」


 シトリーからの電話で俺と澪とストラスは急いでマンションに向かった。シトリー達の空気は重く、ヴアルに至っては明らかに落ち込んでいて、その光景を見て澪も表情を曇らせる。状況を伺うと、現状を知っているセーレが俺の質問に答えてくれた。


 「ああ、シトリーは彼女の命令で悪魔に襲い掛かられたそうだ」

 「大丈夫だったのか!?」


 俺の心配をシトリーは笑って平気だと伝えてくれた。怪我はしていないみたいだけど分からない、セーレに治してもらっただけかもしれないし。でも無事ってことに一安心だ。


 「平気平気。でもあっちは今度はマジで殺しに来るでしょうね。私にたいしての執着心すごかったし、何が何でも見つけ出してくると思うわ」


 そんな……じゃあ俺もいま探されてるってこと?思わず落ち込んでしまった俺を余所に、澪がヴアルに近づいて行く。


 「ヴアルちゃん……」

 「澪……マヤね、すっごく怖かった。すっごく睨んできた。あんなにキラキラしてたのに」


 澪はヴアルを優しく抱きしめる。

 その光景を見ていたヴォラクがポツリと俺に呟いた。


 「拓也、早く討ち入りにいこ」

 「ヴォラク?」

 「……むかつく」


 何をこいつは苛々してるんだ?

 俺が頭に?を浮かべているとセーレが耳打ちしてきた。


 「ヴォラクはなんだかんだ言っても、ヴアルの事心配してるから、ね」


 ああ成るほど。ヴォラクはヴアルがこんなに悲しんでるのが許せないんだ。ヴアルをスカウトしたのはヴォラクだし、見た目年齢近いこともあって二人で行動することも多い。思うところがあるんだろう。

 だからと言っていますぐ討ち入りはしたくない。


 『待ちなさいヴォラク。アミーといえば炎を操る火炎術師として有名。フォモスとディモスの炎もアミーには通用しませんよ』

 「だからってさぁ!」

 『アミーは自分の体を炎に包んで攻撃します。あなたの剣も彼の炎をくらえば熱を持ち、持つこともできなくなりますよ』


 何それ怖い。消防車の出動が必須だな。

 状況がグダグダしてきたのを今まで黙ってたパイモンが口を開いてその場をまとめた。


 「お前たち落ち着け。とりあえず、あいつはシトリーを狙ってくるはずです。シトリー、お前はもう男に戻っとけ」

 「そうするわ。マネージャーや編集者も男の顔は知らないはずだしね」

 「でもどうすんだよ」

 「そこは考えておきましょう。おそらく向こうから仕掛けてくるはずです。こちらから仕留めに行くかどうするか……」


 パイモンはコーヒーを飲みほして立ち上がる。


 「主、さっそくで悪いですが、今日は泊りがけで特訓してもらいます」

 「え!?」


 何その急展開!しかも何で俺!?しかも泊りがけ!?


 「今回アミーは近距離、遠距離両方での攻撃が可能です。そして奴は炎を使います。剣技の俺とヴォラク、体術のシトリーでは明らかに不利です。主の魔法が必要です。魔法の詠唱の短縮が絶対に必要不可欠です。主に水魔法を習得していただきたい。アミーの力に対抗できるのはそれしかありません」


 確かに水を出せる可能性あるのは俺しかいないけど……相手は悪魔だぞ。俺の魔法が通用するとも思えない。でも返事をしないのを肯定ととらえたのか、パイモンはカップをシンクに置いて、俺に近づく。


 「理解できたのならば早速始めましょう。今までの主の魔法の詠唱時間は平均十秒。それを半分の五秒に縮めます。」

 「もう!しかもそんなに!?」

 「最終的には一秒台で詠唱ができるようにする予定です。それに敵がいつ攻めてくるかわかりません。時間が惜しい」

 「はい……」


 ***


 マヤside ―


 「マヤ、ちょうどよかった」

 「編集長」


 アミーと別れた後、私は編集長に呼びとめられた。アミーは炎を好きに出したり消したりできるお陰で燃やした部分をすぐに消化して、何食わぬ顔ですごしていた。今は一刻も早くあの女を始末しないといけない。早く探し出さないと……


 「来なさい」


 何なんだ?アミーの力は働いたはず……なのにこの女の敵意に満ちている視線は何なんだ?まだ、力が足りないのか?

 編集長の部屋に連れて行かれ椅子に座らされた。


 「これは何?」


 出された雑誌はゴシップ誌。そこには私とアミーの姿。タイトルには人気モデルが一般人男性と同棲!と書かれている。ああ、友達が言ってたのはこの事だったのか。


 「これは彼氏じゃないですよ」


 本当のことだ。こいつと私は恋人ではない。しかし私の返事に編集長は険しい表情を崩さないまま。なんだよ、彼氏じゃないんだからいいじゃんか。


 「そんな事はどうでもいいの。いい加減にしなさい」

 「編集長、これは彼氏じゃないってば。ただの友達」

 「あなたわかってるの?モデルは客商売……好感度が大事なの。それなのにこんな写真撮られて……どれだけイメージを崩すと思ってるの!?」


 まあ確かにそういうの通用しない世界だってことは分かっているけど、私の交友関係に口出しされる謂れもない。だから何だと言うのだ。私の撮影になんの障害もない。清純派で売っている訳でもないのにばかばかしい。


 「面倒くさい。どうだっていいでしょう」

 「あなた自分がいまどう思われてるかわからないの?」


 どう思われてるか?呆けてる私を見て、編集長がパソコンの画面を見せてくる。

 そこには書かれていたのはすべて中傷だった。


 『マヤうぜえ。ブスのくせにいばんな』

 『てかあいつヤンキーだろ?雑誌でだけいいかっこしてよ』

 『化粧品のCMとかすんなよ。価値が下がる』

 『雑誌に取り上げられたらお終いだなww後は消えるのを待つだけwwww』

 『よっしゃー次のトップはアカネだー!!』


 これだからエゴサはしたくないんだよ。万人受けする人間だとは思っていないし、支持層は女子高生から二十代の女性だ。そのほかの年代の支持など今はどうだっていい。ターゲット層を考えてから見せてほしいものだ。

 この程度の中傷は他のモデルにだって書かれているはずだ。


 「わかった?貴方のファンも確かに多いわ。でもその反面アンチも多いのよ。私達もアンチが多い人間をメインで起用することはできない。理解して頂戴、出すぎた行動はしないと」


 は?こいつマジで言ってる?品行方正にしたって苦情かかれるのが芸能人やモデルだぞ。何したって叩く奴は一定層いるっていうのに、そんな奴の意見が優先されるのか?あまりに面倒くさいが、アミーの存在でこんなことになったのも事実。そろそろ潮時かもしれない。

 アミーも私とっては邪魔な存在なんだ……あいつがあの女を殺したら編集量に再度力をかけて契約を破棄する。決意はそこまで固まった。


 「マヤわかったの?」


 うるせえ、ばばあ黙ってろ。問題にさえならなかったらお前なんか今すぐこの場で焼き殺してやるのに。ため息をついて低い声で返事をした。


 「わかってます」

 「ならいいわ」


 ばばあの部屋から出て一目散にマンションに向かう。早くアミーに命令して奴らを殺さなければ、そしてアミーとの契約をなくさなければ。


 「失ってたまるか。私のいるべき場所はトップだけなんだ」


 失くすものか、あれだけが全てなんだ。その為に今まで努力してきた。

 好きな甘いものも食べないようにしてるし、太らないように毎日筋トレもしてる。


 全部、全部このため。


 それを奪われてなるものか。何をしてでも守り通してやる。


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